• 更新日 : 2025年11月4日

損益通算とは?対象となる所得から確定申告のやり方までわかりやすく解説

損益通算とは、複数の所得がある場合に、特定の所得で生じた赤字(損失)を他の所得の黒字(利益)から差し引くことができる制度です。損益通算の仕組みを確定申告で正しく活用することで、課税対象となる所得金額が減り、結果的に所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。

この記事では、損益通算の基本的な仕組みから、対象となる所得の種類、具体的な計算方法、そして確定申告での手続きまで、初心者の方にも分かりやすく解説します。損失の通算を理解し、賢い税金対策に繋げましょう。

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損益通算とは?

損益通算とは、赤字の所得を他の黒字の所得と相殺することで、全体の所得金額を圧縮し、税金の負担を軽くする制度です。複数の所得がある個人が、特定の所得で損失を出した場合に適用できます。

例えば、給与所得で500万円の黒字がある一方、副業の事業所得で100万円の赤字が出たとします。この場合、損益通算をしなければ、給与所得の500万円に対して税金が課されます。しかし、損益通算を適用すると、給与所得の500万円から事業所得の赤字100万円を差し引いた400万円が課税対象の所得となります。

このように、全体の所得が圧縮されるため、課税額を大きく引き下げられる可能性があるのです。

参考:No.2250 損益通算|国税庁

損益通算で所得税・住民税が大幅に安くなる可能性がある理由

損益通算が大幅な節税につながるのは、日本の所得税が累進課税を採用しているためです。

累進課税は、所得金額が大きくなるほど税率も高くなる仕組みです。損益通算で課税所得が下がれば、適用される所得税率が一段階下がる可能性があります。

参考:No.2260 所得税の税率|国税庁

また、所得税額を基準に計算される住民税や国民健康保険料などの負担も連動して軽減されます。すでに源泉徴収で税金を納めている会社員の場合、確定申告で損益通算を行うことで、納めすぎた税金が還付されるケースもあります。

損益通算と内部通算の違い

内部通算とは、同じ所得区分の中で発生した利益と損失を相殺することです。

一方、損益通算は、内部通算を行った後に赤字が残る場合に、異なる所得区分の間で損益を合算することを指します。

項目内部通算損益通算
相殺の範囲同一の所得区分内異なる所得区分間
計算の順序損益通算よりも先に行う内部通算の後に行う
具体例A不動産の利益とB不動産の損失を合算不動産所得全体の赤字と給与所得の黒字を合算

例えば、A不動産からの利益が200万円、B不動産からの損失が50万円あった場合、これらを合算して不動産所得を150万円と計算します。これは不動産所得という一つのカテゴリ内での計算であり、これを内部通算と呼びます。

損益通算できる所得・できない所得

損益通算の対象となる所得は法律で決められており、すべての赤字が他の所得と相殺できるわけではありません。どの所得で生じた損失なのかによって、取り扱いが大きく異なります。

損益通算できる所得

損益通算の対象となるのは、「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「山林所得」の4種類で生じた損失に限られます。

損益通算できる所得
  • 不動産所得:アパートやマンションの家賃収入、駐車場の賃貸料などから得られる所得
  • 事業所得:農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生じる所得
  • 譲渡所得:土地、建物、ゴルフ会員権などの資産を売却して得られる所得
  • 山林所得:山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡したりすることによって生じる所得

これらの所得は、景気変動や災害など、本人の責によらない要因で損失が生じやすい性質があるためです。

損益通算できない所得

給与所得や一時所得雑所得などで生じた赤字は、原則として他の所得と損益通算できません。

損益通算できない所得

特に、近年増加している副業が雑所得に分類される場合、そこで赤字が出ても給与所得などとは相殺できないため注意が必要です。

投資信託・株式投資の損益通算

投資信託や株式投資で生じた損失は、給与所得や事業所得などとは損益通算できませんが、同じグループの金融商品の利益とは通算が可能です。これは、株式などの利益が申告分離課税という特別な方式で税金が計算されるためです。例えば、ある上場株式の売却で出た損失は、同じ年の別の投資信託の利益と相殺することができます。

この計算を便利にしてくれるのが、証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」です。「特定口座(源泉徴収あり)」を利用していれば、年間の利益と損失が自動的に相殺されて税金が計算されるため、原則として確定申告は不要です。複数の証券会社に特定口座がある場合でも、確定申告をすれば全ての口座の損益を通算でき、納めすぎた税金の還付を受けられます。

ただし、税法上の区分が異なる株式投資の損失とFX(外国為替証拠金取引)の利益は通算できません。また、NISA(少額投資非課税制度)口座は利益が非課税になる代わりに、損失も税務上ないものとして扱われます。そのため、NISA口座の損失を特定口座や一般口座の利益と相殺することは一切できないと覚えておきましょう。

参考:No.1476 特定口座制度|国税庁No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁

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損益通算を活用できる具体的なケース

損益通算がどのような場面で活用できるのか、具体的なケースをもとに解説します。

副業の事業所得や不動産所得で赤字が出た場合

個人事業や不動産経営(アパート経営など)で生じた赤字は、給与所得など他の黒字所得と損益通算が可能です。これは損益通算の最も典型的な活用例です。

例えば、会社員が副業として始めた事業で、初年度に経費が収入を上回り赤字になった場合、その赤字を給与所得から差し引くことで、源泉徴収された税金の還付を受けられる可能性があります。同様に、アパート経営で空室が続き、家賃収入よりも経費(管理費、修繕費減価償却費など)が大きくなった場合も対象となります。

不動産(マイホーム)を売却して損失が出た場合

不動産売却による損失は原則として他の譲渡所得とのみ損益通算が可能です。ただし、居住用財産の譲渡損失には住宅ローン残高など一定要件を満たす場合に特例が設けられています。

通常の土地建物の売却損は、他の譲渡所得の利益とは通算できますが、給与所得など他の所得との損益通算は原則できません。しかし、自分が住んでいた家(マイホーム)を売却して損失が出た場合は、「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を適用できる可能性があります。この特例を使えば、給与所得や事業所得など、他の所得との損益通算が認められ、さらに控除しきれない損失は翌年以降3年間繰り越すことができます。適用にはマイホームを買い替えることや、売却額以上の住宅ローンの残高があることなど、一定の要件を満たす必要があります。

参考:No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁

損益通算を適用するための確定申告のやり方は?

損益通算を適用するには、会社員であっても必ず自分で確定申告を行う必要があります。年末調整では損益通算の処理はできないため、対象となる所得で赤字が生じた場合は、所定の手続きに従って申告書類を作成し、税務署に提出しなければなりません。

1. 必要書類を準備する

確定申告で損益通算を行うためには、まず以下の書類を準備する必要があります。

2. 確定申告書を作成する

書類が準備できたら、確定申告書に必要事項を記入していきます。

  1. 各所得の計算
    まず、不動産所得や事業所得などの決算書・内訳書を作成し、所得金額(または損失額)を確定させます。
  2. 確定申告書への転記
    確定申告書の「収入金額等」「所得金額等」の各欄に、源泉徴収票や決算書の内容を転記します。この際、損失額はマイナス(△)で記入します。
  3. 損益通算の計算
    確定申告書第一表の「所得金額等」の合計欄で、黒字の所得と赤字の所得が自動的に相殺(損益通算)されます。
  4. 税額の計算
    損益通算後の合計所得金額を基に、所得控除を差し引き、課税される所得金額を算出します。その後、所得税率を乗じて最終的な所得税額を計算します。

3. 期限内に申告・納税する

作成した確定申告書は、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に、所轄の税務署に提出します。提出方法は以下の3つです。

  • e-Tax(電子申告):自宅のパソコンやスマートフォンからオンラインで提出する方法
  • 郵送:信書として税務署に郵送する方法
  • 窓口持参:税務署の受付に直接持参する方法

期限を過ぎるとペナルティが発生する場合があるため、早めに準備を進めましょう。

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損益通算で税金はいくら戻る?

損益通算を行うことで、実際に納税額がどれくらい変わるのか、給与所得者が副業の不動産投資で赤字を出した場合を例にシミュレーションしてみましょう。

前提条件

損益通算をしない場合

課税対象は給与所得のみとなります。

  • 課税所得:600万円 – 120万円 = 480万円
  • 所得税額:480万円 × 20% – 427,500円 = 532,500円

損益通算をする場合

給与所得の黒字から不動産所得の赤字を差し引きます。

  • 総所得金額:600万円 – 150万円 = 450万円
  • 課税所得:450万円 – 120万円 = 330万円
  • 所得税額:330万円 × 20% – 427,500円 = 232,500円

このケースでは、損益通算を行うことで、所得税額が 532,500円 – 232,500円 = 300,000円 も少なくなります。ただし、実際の計算では復興特別所得税、住民税、社会保険料なども影響するため、あくまで参考例です。

損益通算を適用する上での注意点は?

損益通算は節税に有効な手段ですが、適用にはいくつかのルールと注意点が存在します。ルールを正しく理解しないと、予期せぬ申告ミスに繋がる可能性があるため、事前に確認しておくことが重要です。

すべての赤字が対象ではない

不動産所得の赤字であっても、その赤字の原因によっては損益通算の対象外となるケースがあります。代表的な例は以下の通りです。

  • 土地取得にかかる借入金の利子
    不動産所得の損失のうち、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は、損益通算の対象になりません。
  • 別荘など生活に通常必要でない資産の損失
    別荘や趣味で所有する競走馬などから生じた損失は、損益通算できません。

損益通算しても赤字が残る場合は繰越控除を活用する

損益通算後も赤字が残る場合、所得区分に応じて繰越控除制度を利用できることがあります。例えば、株式等の譲渡損失は最長3年間、居住用財産の譲渡損失も特例で3年間、事業所得や不動産所得は青色申告要件を満たせば最長10年間繰り越せます。

繰越控除の適用を受けるためには、損失が発生した年だけでなく、その翌年以降も継続して確定申告を行う必要がある点に注意が必要です。

損益通算に関してよくある質問(FAQ)

最後に、損益通算に関してよくある質問とその回答をまとめました。

 副業の赤字は給与所得と損益通算できますか?

副業の所得区分によります。副業が「事業所得」に該当すれば、給与所得との損益通算が可能です。しかし、事業と呼べるほどの規模でない場合は「雑所得」と判断され、雑所得の赤字は給与所得と損益通算することはできません。

投資信託の損失は給与所得と通算できますか?

いいえ、できません。投資信託や株式の損失は「申告分離課税」の対象であり、給与所得などの「総合課税」の所得とは税金の計算体系が異なるため、損益を通算することはできません。ただし、他の株式や投資信託の利益とは通算可能です。

NISA口座の損失はなぜ損益通算できないのですか?

NISA口座は、年間投資枠内で得た利益が非課税になる制度です。税制上、利益がないものとして扱われるのと同様に、損失もないものとして扱われます。そのため、他の課税口座(特定口座や一般口座)の利益と相殺することはできません。

損益通算を正しく理解して賢く節税しよう

この記事では、損益通算の基本的な考え方から、対象となる所得、具体的な手続き、注意点までを詳しく解説しました。

複数の所得源がある方にとって、この制度は税負担を適正化するための重要なツールです。特に不動産所得や事業所得で損失が出た際には、忘れずに確定申告での損失申告を行いましょう。

もし不明な点があれば、国税庁のホームページを参照するか、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。税金について正しい知識を身につけ、上手に付き合っていきましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様

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