- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主でも賃金台帳の作成は義務?作り方や活用方法を解説
個人事業主であっても、従業員を雇っている場合には「賃金台帳」の作成が法律で義務づけられています。アルバイトやパートを1名雇用しているだけでも対象となるため、知らずに放置していると労基法違反に問われるリスクもあります。
本記事では、賃金台帳の役割や記載すべき項目、よくある質問に関する回答などを解説します。
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目次
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賃金台帳とは?個人事業主にも作成義務がある?
個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には「賃金台帳」の作成が労働基準法により義務づけられています。ここでは、賃金台帳の基本的な役割と、個人事業主が従業員を雇う場合に負う義務の有無について解説します。
賃金台帳は労働者を雇用していれば必須
賃金台帳は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条に基づき、すべての事業主に作成が義務づけられた法定帳簿です。個人事業主であっても例外ではなく、アルバイトやパートを含む雇用契約に基づく労働者を使用する場合には、その労働者ごとに賃金台帳を整備する必要があります。ただし、同居の親族のみを使用する事業や家事使用人を雇う場合には適用除外とされています(労基法116条2項)。
賃金台帳には、労働者の氏名・性別・賃金の計算期間・労働日数・労働時間数・基本給・手当・控除内容などを、給与の支払のたびに遅滞なく記載することが求められています。これは、単なる給与明細とは異なり、労務管理や監督官庁による確認のための法定記録としての役割を果たすものです。
作成義務は「事業場単位」で判断される
賃金台帳の作成義務は、法人・個人を問わず、「事業場ごと」に適用される点が重要です。したがって、同一の個人事業主が複数の店舗や事務所を運営している場合には、事業場ごとに従業員単位で賃金台帳を整備・保存する必要があります。
この仕組みは、事業場単位での労働条件の把握や労働基準監督署による監督・調査を円滑に行うことを目的とするものです。たとえば、本店と支店がある場合には、それぞれの従業員に対応する賃金台帳を作成・保存する必要があります。
個人事業主自身の報酬や外部委託は対象外
個人事業主本人は、労働基準法上の「使用者」であり、「労働者」には該当しないため、自身に対して賃金台帳を作成する必要はありません。また、外部のフリーランスや業務委託契約による支払は、原則として賃金台帳の対象外です。ただし、形式上は業務委託であっても、指揮命令下で労務を提供し、労基法上の「労働者」と判断される実態がある場合には、賃金台帳の整備義務が生じます。
これは、賃金台帳があくまで「雇用契約に基づく給与支払い」を記録する法定帳簿であるためです。したがって、報酬や請負代金などの給与所得以外の支払いについては、賃金台帳ではなく、経理処理や契約書による管理で対応すれば足ります。
賃金台帳の記載項目と作成方法
賃金台帳は、従業員一人ひとりの賃金支払状況を明らかにする法定帳簿です。記載すべき項目は法律で明確に定められていますが、作成方法や様式には柔軟性があります。ここでは、必須の記載項目と現実的な作成方法、ツールの選択肢までを詳しく紹介します。
記載が義務づけられている10の項目(労働基準法第108条に基づく)
- 労働者の氏名
台帳の対象者を特定するための基本情報です。 - 性別
統計処理や社内制度の適用などに用いられる場合があります。 - 賃金計算期間
たとえば「2025年9月1日〜9月30日」など、給与計算の対象となる期間を明記します。 - 労働日数
その計算期間内に実際に労働した日数を記録します。 - 労働時間数
実労働時間の合計を時間単位で記録します。 - 時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数
割増賃金の算定根拠となるため、区分して記録します。 - 基本給
所定労働時間に対応する基本的な給与額を記載します。 - 手当の種類と額
通勤手当・職務手当・残業手当など、手当ごとに内訳と金額を明示します。 - 控除項目とその額
社会保険料、所得税、住民税などの控除額とその根拠を記載します。 - 支給額の合計
総支給額および控除後の差引支給額を明確に示します。
これらの情報が欠落している場合、法定帳簿としての要件を満たさず、労働基準監督署から是正指導を受ける可能性があります。また、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、日雇い労働者なども対象です。なお、日々雇用される労働者については「賃金計算期間」の概念がないため、その項目は記載不要とされています。
さらに、台帳には、基本給・手当・控除額とその根拠を明記することで、年末調整や源泉徴収簿の作成に必要な情報を整理しやすくなります。源泉徴収簿は賃金台帳とは目的が異なる独立書類ですが、必要事項をすべて満たしている場合は兼用することも可能です。
フォーマットは自由、エクセルなどで自作可能
賃金台帳の様式については、労働基準法やその施行規則上の定めはなく、事業者が任意の形式で作成することが認められています。厚生労働省が公表している標準様式を利用しても良いですし、自社の実務に合わせてエクセルや給与ソフトなどで独自に作成することも可能です。重要なのは、前述の10項目(氏名・性別・労働日数・賃金額など)がすべて網羅されており、必要な情報が正確的かつ継続的に記録されていることです。
紙媒体での作成も認められていますが、現在はエクセルやGoogleスプレッドシート、給与計算ソフトによる電子管理が主流です。特に複数名の従業員を雇用する場合には、勤怠システムや社会保険料のデータと連動させることで、記録ミスや入力作業を大幅に軽減できます。
更新頻度と運用上のポイント
給与は、労働基準法第24条により毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことが義務付けられています。これに伴い、賃金台帳も支払いの都度、遅滞なく記録・更新することが求められます。したがって、月払いの給与体系であれば、賃金台帳の更新も通常は月1回以上となります。
また、過去の賃金記録を後から確認できるように、月ごとや従業員ごとに整理された形式で保管・管理することが望ましいとされています。さらに、賃金や控除の算出根拠が分かるように、勤怠記録や支給ルールなどの関連資料とあわせて保存しておくことで、税務調査や労務監査においても信頼性の高い証拠資料として活用できます。
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確定申告や税務上での賃金台帳の役割
賃金台帳は労務管理だけでなく、税務処理や確定申告にも密接に関わる帳簿です。ここでは、確定申告や青色申告、各種税制上の制度と賃金台帳の関連性を解説します。
賃金台帳は経費計上の基礎資料となる
賃金台帳そのものを税務署へ提出する義務はありませんが、従業員に支払った給与を経費(損金)として計上するためには、支払内容を客観的証明できる書類が必要です。確定申告書類のうち、「青色申告決算書」や「収支内訳書」には、「給料賃金」欄が設けられており、従業員への年間支給額を正確に記載する必要があります。
この金額は、日々の賃金台帳や給与明細を集計して算出するものであり、帳簿がなければ、支給額を正確に証明できません。結果として、税務調査で支払の根拠が示せず、経費として否認されるリスクが生じます。また、税理士に申告書の作成を依頼する場合でも、賃金台帳や給与明細、源泉徴収簿などの書類一式の提示が求められます。日頃からこれらの帳簿を正確かつ継続的に整備しておけば、申告時の集計作業がスムーズになり、税務署からの照会にも迅速に対応できるようになります。
青色申告の専従者給与にも台帳が必要
青色申告を行っている個人事業主が家族従業員に給与を支払う場合、所得税法第57条および所得税法施行令第164条に基づき、「青色事業専従者給与」として経費に算入することが認められています。ただし、この制度を適用するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に税務署へ提出し、実際の支給内容を裏付ける帳簿が整備されていることが整備されていることが要件です。
家族に支払う場合であっても、届出の提出と実際の支払記録の両方が確認できなければ、経費として認められない可能性があります。現金で渡すだけでは支給の実態が証明できず、税務調査で否認されるリスクがあります。したがって、賃金台帳などにより、「支給日・支給額_支払方法」を明確に記録しておくことが重要です。さらに、労働時間や支給水準、業務内容などを正社員と同様に管理することで、税務上の信頼性を高め、専従者給与が否認されるリスクを回避できます。
年末調整や各種届出にも重要な役割
賃金台帳は、年末調整や市区町村への「給与支払報告書」作成の基礎資料としても活用されます。特に、賃金台帳に源泉徴収簿としての機能を備えている場合には、記録された支給額や控除額、源泉徴収税額をそのまま年末調整に反映でき、源泉徴収票や給与支払報告書の作成を効率化することが可能です。
また、社会保険料控除や源泉徴収税額の記録を台帳上に整理しておくことで、税務申告や各種証明書の作成時にも迅速な対応が可能になります。確定申告においても、最終的に「給与支出額」欄へ正確な金額を記載する際の裏付け資料として、賃金台帳が重要な役割を果たします。帳簿が整備されていれば、申告内容の信頼性向上や税務署からの照会対応の迅速化にも繋がります。
個人事業主と賃金台帳に関するよくある質問(Q&A)
賃金台帳と給与明細は同じものですか?
いいえ、同じものではありません。給与明細は、労働基準法第24条第2項および施行規則第56条に基づき、従業員へ賃金の支払内容を明示するために交付する書類です。個々の支払いごとに発行し、従業員への通知・説明を目的としています。
一方、賃金台帳は労働基準法第108条および施行規則第54条に基づき、事業主が自ら保管する法定帳簿です。これは、従業員ごとの賃金支払状況を一元的に管理し、労働基準監督署の調査や税務調査などに備えて保存するためのものです。両者は支給額・控除額など共通する情報を含みますが、給与明細は「通知義務」賃金台帳は「保存義務」という異なる性質を持っています。
賃金台帳を電子保存しても問題ありませんか?
はい、賃金台帳は紙・電子どちらの形式でも法的に認められています。
労働基準法施行規則第54条および第109条により、賃金台帳は5年間の保存義務がありますが、電子データによる保存も可能です。エクセルや給与ソフトなどで作成した賃金台帳を電子形式で保存しても問題ありません。ただし、保存期間中(原則5年、源泉徴収簿を兼ねる場合は7年)は、必要に応じて即時に閲覧・印刷できる状態を確保しておくことが求められます。また、クラウドサービス等を利用する場合には、データの消失防止やアクセス権限管理、バックアップ体制を整備し、電子帳簿保存法の要件を満たすよう注意が必要です。
従業員が短期・単発勤務の場合でも賃金台帳は必要ですか?
はい、短期や単発の勤務であっても、雇用契約が成立していれば賃金台帳の作成義務があります。
たとえ1日限りのアルバイトやイベントスタッフなどであっても、雇用契約に基づき賃金を支払う場合は労働者として扱われ、労働基準法第108条により賃金台帳の対象となります。また、労働基準法施行規則第54条第2項では、日々雇入れられる労働者については「賃金計算期間」の記載を省略できるとされていますが、それ以外の氏名・労働日数・労働時間・賃金額などの項目は他の従業員と同様に記録しなければなりません。したがって、勤務期間の長短にかかわらず、実際に雇用関係が成立した時点で賃金台帳を整備・保存することが法令上求められます。
労働者名簿と賃金台帳の違いは何ですか?
労働者名簿と賃金台帳は目的の異なる別の法定帳簿で、それぞれの目的は労働者名簿が「身元・雇用条件の記録」、賃金台帳が「給与支払いの記録」です。
労働者名簿は、労働基準法第107条および施行規則第53条に基づき、労働者ごとに氏名・住所・生年月日・性別・雇入年月日・業務の種類・雇用形態など、身元および雇用条件に関する事項を記録する帳簿です。両者はいずれも事業主に作成・保存義務がある法定帳簿ですが、労働者名簿は「身元・雇用条件の記録」、賃金台帳は「給与支払いの記録」ということなる目的を持っています。両方を正しく整備・保存することが、労働基準法上の法令遵守および労務管理の信頼性向上につながります。
助成金や補助金を申請する際にも賃金台帳は必要?
はい、多くの助成金・補助金の申請において、直近数か月分の賃金台帳の提出が求められます。特に、雇用関係の助成金(例:キャリアアップ助成金、雇用調整助成金など)では、雇用保険法および厚生労働省の実施要領(雇用関係助成金支給要領)に基づき、申請対象労働者の雇用状況や賃金支払実績を証明する資料として、賃金台帳の写しを提出することが原則とされています。賃金台帳は、労働基準法第108条および施行規則第54条に基づく法定帳簿でもあるため、記載内容が不備の場合、助成金審査で不支給・返還のリスクが生じることもあります。
したがって、日常的に正確な賃金台帳を整備・保管しておくことが、助成金・補助金を適正に活用するための前提条件となります。
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賃金台帳を整備して事業運営を安定させよう
賃金台帳は、従業員を雇う個人事業主にとって法的にも実務的にも欠かせない帳簿です。給与明細とは異なり、法定帳簿として正確な記録と保存が求められ、税務や年末調整、助成金申請でも重要な資料となります。フォーマットは自由ですが、法定10項目を網羅し、支払いの都度、遅れずに記入することが大切です。電子保存にも対応しており、業務効率化にもつながります。日々の労務記録を適切に残すことで、法令遵守と経営の信頼性を両立させ、将来の成長につなげていきましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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