- 更新日 : 2025年2月25日
事業主貸と事業主借を正しく使い分けるには?仕訳例でわかりやすく解説!
事業主勘定とは、個人事業主が事業とプライベートなお金のやり取りを区分するために用いられる勘定科目の総称です。個人事業主は事業のお金と生活費などの個人的なお金が混在しやすい傾向にあるため、「事業主貸」や「事業主借」などの勘定科目を使用します。この記事では、事業主勘定の仕訳例や確定申告時のポイント、期首の処理方法など、日々の帳簿付けや税務対応に役立つ情報を詳しくまとめました。
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目次
事業主勘定とは
法人の場合は「経営者=個人」「事業=法人」というように事業とプライベートを明確に区分できます。
しかし、個人事業の場合は「経営者=個人」「事業=個人」です。経営者も事業も同一の個人のため、事業とプライベートを区別するのが困難な場合があります。例えば、個人名義の車両を事業とプライベート両方で使用するような場合です。また、個人事業には報酬や給料といった概念がありません。
したがって、個人事業主の生活費が必要な場合、事業用口座からお金を引き出すことになります。逆に、事業資金が足りなくなってプライベートの口座から事業用口座に入金することもあります。このように、事業と関係のない預貯金等の引き出しが発生した場合に使われるのが「事業主勘定」です。
「事業主貸」と「事業主借」は名前を混同しやすく、仕訳の貸方借方との違いに戸惑うなど、理解に時間がかかるといわれています。具体例をもとに、「事業主勘定」について理解を深めていきましょう。
事業主貸とは
事業主貸とは、個人的な支出を事業用口座から支払った場合や、生活費を事業用口座から引き出した場合などに使用する勘定科目です。事業の収支を正確に把握するためにも、いつ・どのような目的で事業主貸が発生したのかを明確にしておく必要があります。
事業主貸の仕訳例
では、事業主貸を使った仕訳処理をみてみましょう。
<3月1日 自身が使う生活費として80,000円を事業用現金から引き出した>
生活費などの家計費は「事業主貸」によって事業用からプライベートのお金に移します。
<3月3日 国民健康保険料として10,000円を事業用口座から支払った>
国民健康保険料、国民年金保険料は個人が負担する費用のため、事業用口座から引き出した場合には「事業主貸」となります。
ただし、確定申告では「社会保険料控除」として所得金額から控除できます。帳簿上は「事業主貸」に含まれているので、控除し忘れないよう注意しましょう。
<3月15日 所得税45,000円を事業用現金で支払った>
所得税は事業所得に対する税金ですが「事業主貸」となるため注意が必要です。
<3月20日 事業用と自宅を兼ねている家屋(按分は事業:自宅=4:6)の家賃10万円が事業用口座から引き落とされた>
事業主貸 | 40,000円 |
「事業主貸」を使用する場合は、支出の中に一部必要経費にできるものがないかを必ず確認しましょう。必要経費として計上することで節税対策につながります。
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事業主借とは
事業主借とは、プライベートのお金を事業に投資したり、事業の必要経費を個人が立て替えたりしたときに使用する勘定科目です。事業主貸と対になる形で理解しておくとスムーズです。
事業主借の仕訳例
では「事業主借」を使った仕訳処理をみてみましょう。
<4月1日 事業用口座の資金が足りなくなったので、個人事業主のプライベート口座から70,000円を移した>
<4月2日 事業に使うプリンターのインク代4,000円を個人事業主の財布から支払った>
<4月3日 事業所への通勤定期代65,000円をプライベート用のクレジットカードで支払った>
<4月10日 事業用口座に利息が150円ついた>
事業用口座の利息は、事業に関する収益のように見えますが、所得税上の区分は「利子所得」です。「事業所得」ではないため、個人事業主自身のお金とみなされます。したがって勘定科目は「事業主借勘定」を使います。
<4月25日 サラリーマンと個人事業主を兼業しているため、給料の手取り18万円が事業用の口座に振り込まれた>
給料は「給与所得」であり「事業所得」ではありません。したがって、事業用口座に入金された場合には「事業主借勘定」で処理します。
確定申告での事業主勘定の取り扱い
個人事業主は、1年間の事業の収益や経費を集計し、確定申告で税金の計算を行います。その際、事業主貸や事業主借がどのように処理されるのかを正しく理解しておくことが大切です。ここでは、確定申告時に押さえておきたい事業主勘定の取り扱いについて解説します。
損益計算書には影響しない
確定申告で提出する決算書類のうち、損益計算書(白色申告の場合は収支内訳書)に計上されるのは、事業の収益と経費のみです。事業主貸や事業主借は「事業主と個人の間のお金のやり取り」を記録する勘定科目のため、損益計算書の利益(所得)には直接影響しません。したがって、事業主貸・事業主借で記帳した金額は、売上や必要経費にも計上されないと覚えておきましょう。
貸借対照表での取り扱い
青色申告の場合、事業主貸や事業主借は貸借対照表に反映されます。具体的には、以下のような取り扱いになります。
- 事業主貸:貸借対照表の資産の部に含まれ、個人への貸付金のような扱いとなります
- 事業主借:貸借対照表の負債の部として記録され、個人からの借入金とみなされます
ただし、個人事業の場合は事業と個人の区別が法人ほど厳密ではありません。そのため、事業主貸や事業主借が元入金と同じ自己資金として整理されることも多く、決算書を作成する段階でまとめて処理を行います。
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確定申告での事業主勘定の注意点
確定申告時で失敗しないためには、下記のポイントを踏まえて「事業主貸や事業主借がどこに、どう仕訳されるか」を確認する必要があります。そうすることで、余計なミスや修正を最小限に抑え、スムーズに確定申告を進めることができます。
確定申告について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
事業主貸と必要経費を混同しない
事業で収益を得るための支出は、個人事業主の必要経費として認められます。ただし、個人事業主の生活費は事業の収益と無関係のため、必要経費に計上することはできません。事業主貸として、事業と個人の区分を明確にしておく必要があります。
個人が立て替えた経費をそのままにしない
個人が立て替えた経費を返金せずに事業主借として処理したままだと、事業の負債を増やすことになります。余計なトラブルを防ぐためにも、速やかに立て替え分を事業用口座から清算するか、何がどの程度残っているかをきちんと把握しておきましょう。
帳簿の整合性を保つ
事業主貸・事業主借の残高がどう変動しているかを定期的にチェックし、貸借対照表との整合性を図ります。勘定科目の残高が合わないと、確定申告の際に修正が必要になったり、税務調査で疑義を招く可能性があります。
試算表をよく確認する
確定申告直前になってから事業主勘定を慌てて修正すると、ほかの取引科目にも影響を及ぼすおそれがあります。定期的に試算表を確認し、事業主貸・事業主借がどのように動いているかを把握しておくと、スムーズに決算を迎えられます。
期首における事業主勘定と元入金
新しい会計年度が始まると、前期の事業主貸・事業主借の残高や、元入金の金額をどのように扱うかが気になるところです。ここでは、期首の段階で事業主勘定をどのように処理し、元入金をどのように整理すればよいかをわかりやすく解説します。
期首で確認すべきポイント
期首の帳簿を作成するときには、以下のような項目を確認しておくとスムーズです。
前期末の事業主貸・事業主借の残高
前期末の貸借対照表を確認し、事業主貸・事業主借の残高を正確に把握しておきます。これらの残高がそのまま翌期首へ繰り越される形になるため、金額の整合性を確認することが大切です。
元入金の金額
元入金とは、個人事業主の資本を表す勘定科目で、前期末から繰り越される残高が期首の開帳時に反映されます。追加投資や資本金の増減などがあった場合は、その内容をしっかりと反映させておきましょう。
仕訳の整合性
期首においては、帳簿の貸借が一致しているか、元入金を含めた各勘定科目の繰越残高が適切に反映されているかを改めてチェックします。万が一ここで誤りがあると、以降の帳簿付けに影響が及びます。
事業主貸・事業主借と元入金の関係
期首における事業主貸・事業主借の繰越残高は、基本的にはそのまま新しい会計年度に持ち越されます。しかし、必要に応じて元入金に振り替える場合もあります。
事業主貸の繰越残高が多い場合
事業主貸の残高は「事業主が事業からお金を借りている状態」を示すものです。状況によっては、実際には返済義務がなく資本とみなせる部分について、会計上まとめて元入金として処理することもあります。ただし、資金繰りの観点で事業主貸を利用しているのであれば、あえて繰越して状況を把握するほうが分かりやすいケースもあります。
事業主借の繰越残高が多い場合
事業主借の残高は「個人の資金を事業に貸している状態」です。返金の予定がなく、実質的に資本に組み入れるべき場合には、元入金に振り替えて整理する方法があります。帳簿上での混乱を避けるためにも、振り替えるタイミングや金額を明確にしておくことが重要です。
元入金の調整方法
元入金の具体的な調整方法は、下記の通りです。
1. 事業主勘定を確定させる
前期の決算処理が終わった段階で、事業主貸・事業主借の最終残高を確定させます。もし誤った仕訳が混在している場合は、期首に修正仕訳を行いましょう。
2. 資本として計上すべき金額を見極める
個人事業主が返済を要しない形で事業に投入した資金や、すでに実質的に返済が終了した事業主貸・事業主借があれば、元入金へ振り替えておくことを検討します。
3. 振り替え仕訳を行う
元入金を増減させる場合、下記のような仕訳例が考えられます。
<事業主貸を元入金へ振り替える場合>
事業主貸の残高を減らし、その分を資本として扱うようにします。
<事業主借を元入金へ振り替える場合>
個人が事業に貸していた形を解消し、元入金(資本)を増やします。
4. 貸借対照表を最終確認する
振り替え仕訳を行った後、貸借対照表(特に元入金や事業主勘定)に不自然な数値の変動がないかを確認します。ここで誤りがあるまま先へ進むと、その後の帳簿付けや申告にも影響が及ぶので要注意です。
事業主勘定の重要性を正しく理解しましょう
事業主勘定は、個人事業主が事業とプライベートのお金を区別し、正確な会計処理を行う上で欠かせない仕組みです。事業主勘定をきちんと整理し、日々の帳簿を正しくつけておくことで、確定申告での税務上のリスクも大幅に削減できます。特に、事業主貸には必要経費や所得控除に該当するものが隠れている可能性があるため、日々の仕訳を注意して見直すことをおすすめします。
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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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