- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主に現金出納帳は不要?記帳ルールや確定申告の対応を解説
個人事業主にとって日々の資金管理は、正確な帳簿付けから始まります。中でも現金取引がある場合、「現金出納帳」は欠かせない帳簿のひとつです。
本記事では、現金出納帳の役割や記載内容、青色・白色申告での必要性などを解説します。
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目次
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現金出納帳とは?
個人事業主の経理において、現金出納帳は現金の出入りを明確に記録し、日々の資金管理や確定申告の根拠資料として役立ちます。ここでは、現金出納帳の役割と記載内容を解説します。
現金の入出金を記録する基本帳簿
現金出納帳とは、事業用の現金収支を日付順に記録する帳簿です。売上の現金受取、仕入れや経費の支払い、預金口座との現金移動など、すべての現金取引を記録します。
この帳簿があれば、記録上の残高と実際の手元現金を照合し、ずれがあれば原因を確認できます。現金取引の多い事業者にとっては、日々の管理と証拠資料の両面で重要な役割を果たします。
記載内容は収支と残高が中心
現金出納帳には以下の情報を記載します。
- 日付(取引日)
- 内容(摘要):取引の目的、相手勘定科目
- 入金額と出金額
- 差引残高(その時点の現金残高)
これらを正確に記録することで、帳簿と現金有り高の整合性を保てます。
青色申告に現金出納帳は必要?
青色申告を行う場合、現金出納帳の必要性は選択する記帳方式によって異なります。複式簿記(65万円・55万円控除)の場合は原則不要ですが、簡易簿記(10万円控除)の場合は作成が求められます。それぞれの違いについて見ていきます。
複式簿記(青色申告55万円・65万円控除)の場合は現金出納帳は不要
複式簿記で青色申告を行う場合、基本的に現金出納帳を別途作成する必要はありません。複式簿記では、取引を「借方・貸方」の両面から仕訳帳と総勘定元帳に記録するため、現金の動きも「現金勘定」として管理されます。
この「現金勘定」の総勘定元帳は、実質的に現金出納帳と同じ内容を含んでおり、毎日の現金収支は元帳に反映されます。そのため、帳簿要件は仕訳帳と総勘定元帳で十分に満たされます。国税庁が示す必要帳簿の一覧でも、主要簿として必須とされるのは仕訳帳と総勘定元帳であり、現金出納帳は補助簿として例示されるにとどまります。
つまり、複式簿記によって正規の簿記による帳簿を具備している限り、現金出納帳を別途用意しなくても、青色申告特別控除(55万円、e-Tax提出や電子帳簿保存対応で65万円)の要件を満たせます。なお、例外的に不動産の貸付けが事業ではない場合の不動産所得においては、青色申告特別控除額は最大10万円となります。
簡易簿記(青色10万円控除)の場合は現金出納帳が推奨
簡易簿記(単式簿記)で青色申告特別控除10万円を受ける場合には、収入と支出を整然とかつ明瞭に記録できる帳簿を備える必要があります。取引を「入金」「出金」として記録する方式であるため、収支を把握するには現金出納帳のような帳簿が有効です。
国税庁の案内でも、簡易簿記では現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳などの帳簿を整備する例が示されています。これは法令で「必須」とされているわけではなく、業種や取引形態に応じて必要に応じて整えるものです。
現金出納帳を整備すれば、事業用現金の入出金を日付順に記録し、摘要・相手勘定科目・金額・残高を把握できます。これにより帳簿残高と実際の現金残高を照合しやすくなり、青色申告決算書を正確に作成するうえで有効な資料となります。なお、10万円控除の場合においては、青色申告においても「貸借対照表」の添付は不要となっています。10万円控除を受けるには、こうした帳簿をもとに収支を整理し、決算書類を整備することが欠かせません。
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白色申告に現金出納帳は必要?
白色申告では青色申告のような特別控除はありませんが、青色・白色を問わずすべての個人事業主に記帳・帳簿保存が法律で義務付けられています。現金取引がある場合には、現金出納帳を備えて日々の記録を行うことが適切です。
白色申告でも帳簿の記帳・保存義務がある
2014年の法改正以降、白色申告者であっても記帳義務が課せられるようになりました。所得の大小に関わらず、売上や経費などの取引内容を記録し、帳簿を一定期間保存することが求められています。
この記帳方法は青色申告ほど厳密な形式を必要としないものの、収入と支出の内容が明確に分かるよう記載し、整然とかつ明瞭に保管(帳簿は7年、書類は5年)することが要件です。取引ごとの記録が難しい場合でも、日ごとの合計で記帳する簡易な方法も認められています。
現金取引があるなら現金出納帳の作成は実務上必須
白色申告者が現金による取引をしている場合、その動きを正確に把握するためには現金出納帳の作成がほぼ不可欠です。現金出納帳には、現金での売上や経費支出、預金との移動などの情報を日付順に記録し、帳簿残高と実際の現金残高を照合できるようにします。
また、白色申告では確定申告の際に「収支内訳書」を提出する必要があり、これは帳簿の記録をもとに作成するものです。日々の現金出納帳がなければ、正確な内訳書を作成できず、税務署から指摘を受けるリスクが高まります。
さらに、将来的に青色申告へ切り替える場合にも、正しい帳簿の作成と保存の実績が求められます。適正な会計帳簿が整っていないと青色申告の承認が得られなかったり、特別控除を受けられなかったりする可能性もあります。
したがって、白色申告だからといって現金出納帳を省略するのではなく、日々の現金取引を記録し、帳簿管理の習慣を身につけておくことが、長期的にも有効な経営管理となります。
確定申告で現金出納帳を提出する必要はある?
確定申告において、現金出納帳自体を税務署へ提出する必要はありません。ただし、現金出納帳を含む帳簿書類は、申告内容を裏付ける重要な資料であり、法律により保存義務があります。ここでは提出義務と保存義務の違いを明確に解説します。
現金出納帳は申告時に提出不要
青色申告・白色申告のいずれであっても、確定申告書の提出時に現金出納帳そのものを添付する必要はありません。
青色申告者は「青色申告決算書(貸借対照表および損益計算書)」を、白色申告者は「収支内訳書」を確定申告書とあわせて提出します。これらの書類は、日々の帳簿記録(現金出納帳、仕訳帳、総勘定元帳など)をもとに集計・作成されたものです。
つまり、現金出納帳は申告書類の作成には不可欠ですが、提出書類そのものではないため、税務署へ提出は不要です。ただし、帳簿の内容が不正確だったり、後から修正が必要になったりした場合の裏付け資料として、現金出納帳を含む日常の帳簿が重要になります。また、税務調査の際には、現金出納帳をはじめとする各種会計帳簿の提出を求められることは多々あります。
帳簿は提出不要でも保存義務がある
提出の必要はなくても、現金出納帳を含む帳簿書類には法律上の保存義務があります。
青色申告・白色申告を問わず、法定帳簿(収入・経費の記録など)は7年間保存しなければなりません。また、任意の補助帳簿や書類でも最低5年間の保存が求められています
帳簿を保存していなかった場合、税務調査で記帳不備が発覚すると、加算税などのペナルティが科されるリスクがあります。2023年分以降の税制改正でこの帳簿不備に対する加重措置が強化されました。帳簿の提示を拒否した場合や、売上などの記載が本来の金額の半分未満だった場合には10%の加重、3分の2未満の場合でも5%の加重措置が講じられる仕組みです。
さらに、青色申告で65万円または55万円の控除を受けるには、複式簿記による正規の帳簿が整備・保存されていることが前提です。帳簿が不備だと、控除が取り消されることもあるため注意が必要です。
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電子帳簿保存法では現金出納帳も対象になる?
電子帳簿保存法とは、国税関係帳簿・書類・取引情報を電子データで保存することを認める法律です。これまでは帳簿類を紙で保存するのが原則でしたが、会計ソフトやクラウドシステムの普及に伴い、一定の要件を満たせば、電子的な形式で保存しても法的に認められるようになりました。
現金出納帳もこの対象に含まれます。たとえば、会計ソフトで現金の入出金を入力し、クラウド上で管理する場合、その帳簿データを一定期間適切に保管すれば、紙に印刷しなくても保存義務を果たせます。
電子保存に必要な要件
電子帳簿保存は、帳簿や書類を電子的に保存する「電子帳簿等保存」、紙で受領・作成した書類をデータで保存する「スキャナ保存」、電子的に授受した取引をデータで保存する「電子取引」の3つに区分されます。
これらの3区分のうち、「電子帳簿等保存」においては、「帳簿」に係る要件と「書類」に係る要件があります。このうち、「帳簿」については、「優良帳簿」と「優良以外の帳簿」の区別があります。
このうち、まず「優良以外の帳簿」について電子で保存するには主に次のような要件を満たす必要があります。
- システムの概要所等の備付け
- ディスプレイ装置の備付け
- ダウンロードの求めに応じること
次に、「優良帳簿」とは上記に加えて次の要件を満たす帳簿を言います。「優良帳簿」であれば、過少申告加算税の5%軽減措置等の特典があります。
- 訂正・削除・追加の履歴が残ること
- 帳簿の相互関連性があること
- 取引について日付・金額・取引先の検索が可能なこと
なお、電子帳簿保存法については、次のような観点からの要件が求められることが多いのでよく見ておきましょう。
- 真実性の確保
訂正・削除履歴が残る、タイムスタンプが付されるなど、改ざん防止措置が講じられている - 可視性の確保
いつでも見読可能な状態で保存されている(PDF等) - 検索機能
日付、金額、取引先名などで検索できる機能がある
ただし、これらすべてを事業者が自前で整備するのは難しいため、クラウド会計ソフトの多くは要件を満たす形式での電子保存に対応しており、現金出納帳もそのまま電子帳簿として保存できます。
税制改正との関係と注意点
令和3年度税制改正で決定後、令和6年より電子取引データの保存義務がより厳格化されました。メール添付の請求書やネットバンキングの取引明細なども、すべて電子データで保存することが原則とされ、紙への出力保存は認められないケースが増えています。
これにより、現金出納帳だけでなく、現金取引に伴う証憑(領収書や請求書など)も電子データで保存する運用に移行することが求められています。電子帳簿保存法の要件を満たさずに帳簿や証憑を管理していると、税務調査などで青色申告の承認取消しの対象となり得るほか、帳簿不備として加算税が加重される可能性もあります。
参考:電子取引関係|国税庁、「電子取引データを適切に保存できていますか?」
税務調査で現金出納帳の提出を求められる?
税務調査では、確定申告の内容と帳簿との整合性を確認するために、帳簿類の提示を求められることがあります。とくに以下のようなケースでは、現金出納帳の提出が必要になります。
- 現金売上・現金仕入れの割合が高い業種(飲食業、小売業、運送業など)
- 実地調査(反面調査や売上調査など)において帳簿と現金残高に乖離がある場合
- 書類の記録と通帳残高が合わないと指摘された場合
現金出納帳には、日々の現金の入出金を時系列で記録する必要があり、その記録が他の帳簿(仕訳帳・総勘定元帳など)と矛盾しないかがチェックされます。現金出納帳が整っていない場合、「記帳管理が杜撰」とみなされるおそれがあり、修正申告や追徴課税の対象になることもあります。
対応法とリスク回避のポイント
税務調査でのリスクを避けるためには、現金出納帳を日々正しく記録し、他の帳簿や実際の残高と整合性を保つことが不可欠です。具体的には、以下のような対応が有効です。
- 現金の残高を定期的に実査(手元現金と帳簿残高の照合)する
- 摘要欄に取引の詳細を簡潔に記載する(例:〇〇店仕入、××様売上など)
- 会計ソフトやアプリを活用し、自動仕訳と連動させて記帳ミスを減らす
- 領収書や請求書などの証憑書類を出納帳と紐づけて保管する
また、調査時には「不自然な多額の出金や入金」がないか、「現金残高が常にゼロや一定金額になっていないか」などもチェックされます。これらの異常は「仮装・隠蔽」の疑いとして重加算税の対象となる可能性があるため、出納帳の記録が客観的に信頼できることが重要です。
税務調査で指摘を受けやすいのは、帳簿の不備よりも「帳簿が存在しない」場合です。現金出納帳を日々記録・保存していれば、調査対応もスムーズに進み、過度な指摘や追加課税を回避できます。
正しい記帳と保存が事業と税務の信頼を支える
現金出納帳は、事業の収支を把握するだけでなく、確定申告や税務調査においても重要な役割を果たします。帳簿の提出義務はなくても、適切に記録し保存しておくことで、余計なトラブルを防ぎ、青色申告の控除要件も満たせます。記帳は負担に感じるかもしれませんが、会計ソフトなどを活用すれば日常業務に無理なく組み込めます。制度の変化にも対応しながら、日々の帳簿管理を丁寧に行うことが、安定した事業運営につながります。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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