- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主でも使える!特別償却の仕組み・対象設備・税額控除との違いを解説
特別償却は、個人事業主や中小企業が一定の設備投資を行った際に、通常の減価償却とは別に追加の償却費を計上できる制度です。初年度の費用計上額を増やすことで課税所得を圧縮し、税負担を軽減する効果がありますが、適用には制度ごとの条件や書類提出が求められます。
本記事では、特別償却の仕組みや通常償却・即時償却との違い、対象となる業種や設備、確定申告時の手続きなどを解説します。
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目次
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特別償却とはどんな制度?
特別償却とは、通常の減価償却に上乗せして追加の償却費を計上できる制度であり、租税特別措置法に基づいて設けられています。対象となる一定の設備投資等について、初年度から多めに減価償却費を計上できるため、事業者の税負担を早期に軽減できるメリットがあります。主に中小企業や個人事業主の設備投資を後押しする目的で設けられており、資金繰りの改善や投資促進に役立つ制度です。
通常の減価償却との違い
通常の減価償却では、資産の取得価額を耐用年数にわたって費用として計上していきます。一方、特別償却では、規定に基づき通常の償却費に加えて、一定の償却費(特別償却費)を追加して初年度に計上することが可能です。このように、普通の償却限度額を超えて行われる償却であるため、「特別償却」と呼ばれます。たとえば、耐用年数10年の設備であっても、初年度に多くの償却費を計上することで、その年の課税所得を圧縮でき、結果として課税の延期を実現することができます。
即時償却との違い
特別償却は、取得した資産の一部を初年度に増額して償却する制度です。一方で、即時償却は資産の取得額全額を初年度に一括で費用計上できる仕組みです。即時償却は特定の税制措置で認められており、全額を一気に損金算入できる点が異なります。特別償却では、残りの部分は引き続き通常の減価償却として処理します。また、償却しきれなかった特別償却額は、「特別償却不足額」として、翌期以降に繰り越して計上することもできます。
一括償却との違い
一括償却資産制度は、取得価額が20万円未満の資産を対象とし、3年間で均等に償却する簡便な方法です。10万円の備品であれば、毎年約3.3万円ずつ費用計上する形となります。一方、特別償却には取得額の制限がなく、高額な設備でも条件を満たせば初年度から大きく費用計上が可能です。つまり、一括償却は少額資産向け、特別償却は政策目的に合致した投資に対する制度という違いがあります。
割増償却との違い
割増償却は、一定の要件のもと一定期間継続して適用することができる償却を割増しすることができる制度です。特別償却と異なって、「通常の減価償却額 × 割増率」により、償却費を上乗せ計算するものであり、特別な償却ではありますが「特別償却」とは別の制度となります。
個人事業主も特別償却を利用できる?
特別償却は法人だけでなく、個人事業主も条件を満たせば利用できます。青色申告を行っている中小規模の事業者であれば、制度の対象となることが多いです。
個人事業主が特別償却を受けるための基本条件
特別償却の適用を受けるためには、まず、適用しようとする減価償却資産の取得が特別償却の要件を満たしているかどうかを確認します。個人事業主が特別償却を受けることのできる制度としては、中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制、中小企業防災・減災投資促進税制などがあり、適用要件(対象となる固定資産)はそれぞれ異なります。
次に、自社が「常時使用する従業員数が1,000人以下」であること等の基準を満たしているかを確認します。中小企業者等に該当することが条件であり、個人事業主は常時使用する従業員数が1,000人以下、法人は資本金1億円以下など、制度ごとに基準が異なります。
個人事業主の場合、ほとんどのケースでこの条件を満たしています。また、もう一つの重要な条件が青色申告を行っていることです。
青色申告とは、税務署へ事前申請して帳簿を正規の形式で記録し、申告書に反映する制度で、所得控除や各種特典が多いのが特徴です。特別償却を受けるには、この青色申告が必須となっており、白色申告者は対象外です。つまり、事前に青色申告の承認を受け、日々の帳簿管理をきちんとしておくことが求められます。
一部の業種には対象外の規定もある
中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制等における特別償却の制度は、中小企業者を対象としていますが、すべての業種が対象になるわけではありません。電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)などの一部業種は除外されています。
ただし、農林水産業、製造業、建設業、小売業、飲食業、サービス業など、多くの業種では問題なく対象となります。
個人事業主が特別償却を検討する際には、自分の業種が適用対象であるかどうか、事前に制度の概要や国税庁の資料を確認することが大切です。また、投資対象となる設備の内容や取得方法によっては、税額控除など別の税制措置の方が適している場合もあるため、比較検討も有効です。
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どんな設備投資が特別償却の対象になる?
先述のとおり特別償却は、複数の税制優遇措置の形で提供されており、代表的なものに「中小企業投資促進税制」「中小企業経営強化税制」「中小企業防災・減災投資促進税制」などがあります。制度ごとに、利用する制度によって対象設備や適用要件、償却率が異なります。
中小企業投資促進税制(30%の特別償却又は7%の税額控除)
この制度は、青色申告をしている中小企業者等が一定の条件を満たした設備を導入した場合に、取得価額の30%を特別償却、または7%の税額控除を選択できる制度です。対象となるのは、生産性向上に資する新品の機械装置であれば「1台160万円以上」、ソフトウェアであれば「一つで70万円以上」といった最低取得価額の要件があります。
この制度の特徴は、事前の計画認定が不要である点にあります。要件を満たす設備を取得すれば、確定申告の際に所定の明細書を添付して特別償却を適用できます。
なお、当初の適用期限は令和7年3月31日(2025年3月末)までとされていましたが、令和9年3月31日(2027年3月末)まで延長されることが決定されました。個人事業主には資本金の要件がないため、この制度を活用しやすく、設備投資による節税効果を高める有効な手段となります。
中小企業経営強化税制(即時償却または税額控除)
こちらは、「経営力向上計画」の認定を受けた事業者が対象となる制度で、取得した設備について100%即時償却(初年度一括償却)または最大10%(一部は7%)の税額控除のいずれかを選択できます。
対象となる設備は、以下の類型に分類されます。
- A類型:生産性向上設備(旧モデル比で性能が一定以上向上)
- B類型:収益力強化設備(計画における投資利益率が一定以上見込まれる設備)
- D類型:経営資源集約化設備(修正ROA又は有形固定資産回転率が要件を満たす設備等)
この制度を利用するには、設備取得前に「経営力向上計画」の申請と認定が必要です。認定後に取得した設備について、即時償却または税額控除のいずれかを選択して適用する流れとなります。
これらは当初適用期限が令和7年3月末までとされていましたが、令和9年3月31日(2027年3月末)まで延長されることが決定しました。ただし、一部の類型(C類型:デジタル化設備)については延長対象から除外されました。
中小企業防災・減災投資促進税制(16%の特別償却)
中小企業者等が中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」または「連携事業継続力強化計画」の認定を受け、認定後1年以内に対象設備を導入した場合、取得価額の16%の特別償却を受けられる制度です(認定受け後1年以内に取得する必要があります) 。税額控除はありません。
対象設備は、自家発電設備、浄水装置、排水・揚水ポンプ、耐震・制震・免震装置といった自然災害による事業影響を軽減する機能を備える機械・器具・建物附属設備です(それぞれに取得金額要件があります)。
本制度も当初、令和7年(2025年)3月末までの適用予定でしたが、税制改正により2年間延長され、令和9年(2027年)3月31日まで適用可能となりました。
参考:事業継続力強化計画 | 中小企業庁、事業継続力強化計画 | 中小企業庁
特別償却と税額控除、どちらを選ぶべき?
特別償却と税額控除は、一部の制度で選択適用が可能ですが、それぞれに異なるメリットがあります。税額控除は所得税または法人税の納税額から直接差し引く仕組みで、黒字計上が続く事業者にとって効果的です。ただし、控除額には制度ごとに上限)があるため、全額を即時に使い切れないケースもあります。
一方、特別償却は初年度の償却費を増やすことで一時的に課税所得を減らす方法であり、当期に利益が大きい場合や資金繰りの観点から早期に費用化したいときに有利です。赤字の場合でも、青色申告の純損失繰越控除(個人は原則3年、法人は一定要件下で10年など)により、将来の黒字と相殺して節税につなげられる点が特徴です。
したがって、利益が安定しており税額控除で直接節税効果を得たい場合は税額控除を、設備投資で当初の利益圧縮を図りたい場合や損金算入を優先したい場合は特別償却を選ぶとよいでしょう。
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確定申告で特別償却を適用するには?
個人事業主が特別償却を活用するには、確定申告時に必要な書類への記載と添付を正確に行う必要があります。特別償却と特別控除の場合は異なっており、特別償却の場合には「青色申告決算書」や確定申告書への記載となります。
青色申告決算書や確定申告書での記載
まず、青色申告を行っていることが大前提となります。確定申告時に提出する青色申告決算書(損益計算書及び貸借対照表)には、「減価償却費の計算」欄が設けられており、特別償却費を明確に記載する必要があります。通常の減価償却費とは別に、「割増(特別)償却費」の欄に、該当資産の特別償却額を記入します。また、青色決算書の減価償却の計算における「摘要」欄及び確定申告書第2表の「特例適用条文等」欄に、特例名を記載します。例えば、中小企業経営強化税制の場合なら「措法第10条の5の3」などと記載します。
取得価額1,000万円の機械に対し30%の特別償却が適用される場合、通常の減価償却に加えて300万円の特別償却費が別枠で計上されます。これにより、その年の課税所得を圧縮し、納税額の軽減が可能になります。
添付書類と電子申告時の注意点
また、中小企業経営強化税制や防災・減災投資促進税制のように事前の認定を必要とする制度を使う場合は、その認定書の写しを別途添付または提示できる状態で保管しておく必要があります。特に経営強化税制においては類型によって添付書類が異なりますので要注意です。
e-Taxで申告する場合には、これらの添付書類をPDF(イメージデータ)で添付できるかどうかはよく調べましょう。ただし、電子申告でも記載内容に不備があると否認されることがあるため、確認を怠らないようにしましょう。
参考:イメージデータで送信可能な手続検索 |国税庁、利用可能手続一覧 | 国税庁、「イメージデータで提出可能な添付書類 (所得税)」
特別償却を利用する際の注意点は?
特別償却は一時的には節税効果の高い制度ですが、償却タイミングの偏りや制度の併用制限など、事前に知っておくべきポイントを解説します。
償却総額は変わらず、将来の減価償却費は減る
特別償却は、通常の減価償却に上乗せして初年度に多くの償却費を計上できる制度ですが、あくまで償却費の「前倒し」にすぎず、償却総額そのものが増えるわけではありません。耐用年数10年の機械を購入し、初年度に30%の特別償却を適用した場合、その30%分は翌年度以降の償却額から差し引かれることになります。
そのため、初年度の節税効果に注目しすぎると、翌年以降の償却費が減ることで利益が膨らみ、逆に税額が増えるといった事態にもつながりかねません。これにより、資金繰りの見通しが狂うケースもあります。
書類不備や認定漏れによる適用不可に注意する
特別償却は制度ごとに細かな違いがあり、対象資産の種類、最低取得価額、取得時期などが厳密に定められています。たとえば「中小企業経営強化税制」を利用する場合、設備取得前に経済産業局から「経営力向上計画」の認定を受けていないと、制度の適用は認められません。
また、特別償却を申告する際には、確定申告書に記載すべき事項が決められており、不備や記載漏れがあると税務上否認されるリスクもあります。電子申告(e-Tax)を利用する場合でも、PDF添付や省略可能な手続きの可否を確認したうえで、証明書類を保管しておくことが重要です。
特別償却と他制度の併用はできない
見落としやすいのが、特別償却と他の税制優遇措置は同一資産に対して重複適用できないというルールです。特別償却と税額控除の両方を同じ設備に適用することは認められておらず、「選択適用」となります。また、「中小企業投資促進税制」と「経営強化税制」など、異なる制度の特例を同一資産に対して同時に使うこともできません。
そのため、複数の税制が利用可能な場合には、どの制度がもっとも自社にとって有利かを比較検討したうえで一つを選ぶ必要があります。誤って適用を重複申請した場合、税務署での指摘を受けるだけでなく、制度そのものの適用が否認されるおそれもあるため注意が必要です。
特別償却を正しく理解し、効果的に活用しましょう
特別償却は、個人事業主にとって大きな節税効果が期待できる制度ですが、適用には正確な知識と準備が求められます。対象資産や要件は制度ごとに異なり、事前の認定や書類の添付が必要な場合もあります。税額控除との違いも踏まえ、自身の収支や経営方針に応じて最適な制度を選ぶことが重要です。特別償却を正しく活用することで、設備投資の負担を軽減し、事業の成長を支えられます。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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