• 更新日 : 2025年10月21日

薬代は経費になる?個人事業主が知っておくべき申告のルールや控除を解説

個人事業主が薬局で購入した薬代や衛生用品の費用を経費にできるのかは、多くの人が疑問に感じるポイントです。その答えは「場合による」であり、支出の内容や目的によって取り扱いが異なります。

本記事では、薬代を経費にできるケース・できないケースの違いを明確にしつつ、確定申告で活用できる医療費控除やセルフメディケーション税制の仕組み、記帳の注意点などを解説します。

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個人事業主の薬代は経費にできる?

個人事業主が負担する薬代については、その支出の性質によって取り扱いが大きく異なります。自己や家族の医療費は原則として経費に含めることができませんが、従業員全員を対象にし、業務上必要性が認められる健康診断や予防接種、職場用の常備薬などであれば福利厚生費として事業経費に計上できます。

ここでは、経費計上できるケースとできないケースに分けて解説します。

【経費にできないケース】事業主本人や家族の医療費

個人事業主本人やその家族の医療費や薬代は、原則として事業経費にはなりません。これは、税法上の「必要経費」として認められるには、支出が事業の遂行上直接的に必要であることが求められるためです。たとえば、風邪をひいた際に購入した市販薬、定期的な通院にかかる診療費、人間ドックの費用などは、事業に直接関係する支出とは認められず、すべて「家事費」として取り扱われます。

また、個人事業主には従業員とは異なり、健康診断を受ける義務がありません。そのため、事業主本人が任意で受けた健康診断や予防接種の費用についても、事業との直接的な関連性が認められない限り、経費として計上することはできません。なお、これらの費用は医療費控除の対象となる場合もありますが、異常が見つかって治療に移行したケースなど、限定的な例に限られます。

【経費にできるケース】従業員の常備薬や検診費用など

一方、個人事業主が従業員を雇用している場合には、従業員の健康管理を目的とした支出については、事業経費として計上できる可能性があります。たとえば、労働安全衛生法に基づいて実施する年1回の定期健康診断や、インフルエンザ予防接種などは、「福利厚生費」として経費に含めることができます。

また、職場内に備える常備薬(風邪薬・解熱剤・絆創膏など)や消毒液、マスクといった衛生用品の購入費用も、「消耗品費」あるいは「福利厚生費」として経費処理が可能です。ただし、これらの福利厚生費としての支出が認められるには、すべての従業員が公平に利用できることが前提条件となります。特定の従業員だけが恩恵を受ける支出や、任意の人間ドックなど高額な個別負担を事業主が肩代わりした場合などは、福利厚生費とは認められず、給与として課税対象となることもあります。

さらに、業務中のケガなどにより従業員が医療機関で治療を受け、事業主が一時的にその費用を立て替えた場合については、「立替金」として処理し、後日労災保険などから給付があれば精算を行う必要があります。

経費にできない薬代は確定申告で控除できる?

個人事業主が自己や家族のために支払った薬代は、事業の必要経費としては認められませんが、一定の条件を満たせば確定申告で「医療費控除」や「セルフメディケーション税制」による所得控除の対象となります。ここでは、それぞれの制度の内容と対象となる費用、申告方法について解説します。

医療費控除

医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までに支払った医療費の合計額が、一定の基準を超える場合に、所得から差し引ける制度です。控除対象となるのは、納税者本人だけでなく、生計を一にする配偶者や扶養親族の分も含まれます。基準は以下のとおりです。

  • 医療費の総額が10万円を超える場合(※総所得金額等が200万円未満の場合はその5%を超える場合)
  • 対象となる医療費には、診療・手術・入院費・処方薬代・通院にかかる交通費(公共交通機関)などが含まれる

市販薬についても、風邪薬や解熱鎮痛剤など、治療のために使用するものであれば対象に含まれます。ただし、ビタミン剤やサプリメント、予防目的の人間ドック、健康診断の費用などは控除対象外です。たとえば、「将来の病気を防ぐ目的で購入したサプリメント」や「異常が見つからなかった定期健診」は、医療費控除では認められません。

確定申告時には、医療費控除を適用するために「医療費控除の明細書」の提出が必要です。2017年の制度改正以降、領収書の提出は不要となりましたが、税務署からの求めがあれば提示できるよう、5年間の保管義務があります。控除される金額は、医療費総額から保険金等で補填される金額と10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を引いた額です。

セルフメディケーション税制による市販薬代の控除

もうひとつの選択肢が、「セルフメディケーション税制」です。これは、一般用医薬品等(スイッチOTC薬)を年間一定額以上購入した場合に、その一部を所得控除できる制度です。こちらも確定申告が必要ですが、医療費控除との併用はできないため、どちらが得かを比較したうえで選択します。

この制度を利用するためには、「一定の取り組み」を行っていることが前提です。たとえば、定期健康診断やインフルエンザ予防接種などをその年中に受けている必要があります。控除の計算方法は次のとおりです。

  • 対象となる市販薬の購入額から1万2,000円を引いた金額(上限8万8,000円)を所得控除
  • たとえば、対象医薬品を年間3万円購入した場合、3万円−1万2,000円=1万8,000円が控除対象

対象となる医薬品には、風邪薬、鎮痛剤、アレルギー薬などが含まれますが、商品ごとに指定があるため、レシートやパッケージに「セルフメディケーション税制対象」の記載があるか確認が必要です。対象医薬品の範囲は令和4年(2022年)から拡充されており、セルフメディケーション税制の適用期限は令和8年(2026年)12月31日まで延長されています。

セルフメディケーション税制を利用する際にも、医薬品の購入履歴がわかるレシートや領収書は保管しておきましょう。オンライン申告(e-Tax)にも対応しており、データでの提出も可能です。

医療費控除とセルフメディケーション税制は併用不可

医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できないため、どちらか一方を選ぶ必要があります。年間の医療費が10万円を超える場合は医療費控除が有利なことが多いですが、市販薬の購入が多く、医療費全体がそこまで高くない場合はセルフメディケーション税制の方が控除額が大きくなるケースもあります。どちらが節税効果が高いか、確定申告ソフトや税理士に相談するのも一案です。

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確定申告と医療費控除・経費処理の関係は?

ここでは、確定申告と医療費控除・薬代の経費処理の関係を整理します。

医療費控除は青色・白色どちらでも利用できる

医療費控除は申告方法(青色か白色か)に関係なく、すべての個人に適用される所得控除の制度です。 そのため、青色申告だから医療費控除が増える、あるいは不利になるということはありません。

医療費控除は「所得控除」の一種であり、事業の経費とは区別されます。対象となるのは、事業主自身やその家族の治療費、通院交通費、処方薬や一部の市販薬などですが、青色申告だからといって範囲が広がったり、控除額が増えたりするわけではありません。ただし、青色申告を行っている個人事業主の場合、すでに帳簿を詳細に管理しているケースが多く、控除の申告に必要な医療費明細の整理もしやすいという利点があります。

医療費控除と青色申告特別控除は併用可能

青色申告を行うことで得られる節税メリットの一つが「青色申告特別控除(最高65万円)」です。これは帳簿を複式簿記で記載し、貸借対照表等を確定申告書に添付した場合に限り適用される制度です。

この青色申告特別控除と、医療費控除は併用が可能です。つまり、事業所得から最高65万円の特別控除を差し引いたうえで、さらに所得控除として医療費控除を適用できます。複数の控除を重ねて適用することで、課税所得を効果的に圧縮し、所得税・住民税の軽減につなげられます。

また、65万円の青色申告特別控除を受けるには電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存法への対応が求められています。医療費控除もe-Taxを活用することで、明細書の自動入力や領収書の添付不要など、申告作業を効率化できます。

医療費控除申告の記帳実務上の注意点

青色申告者は帳簿を正確に管理する必要がありますが、医療費控除の対象となる支出は、帳簿の「経費」欄ではなく、あくまで確定申告書の「所得控除」欄で管理する必要があります。 このため、日常の経理記帳とは別に、医療費の記録を医療費明細書形式で管理しておくことが重要です。

記録の際には、以下の点を押さえておきましょう。

  • 日付・支払先・金額・誰のための医療費かを明確に記載する
  • 保険金などで補填された場合は、明細に反映させる
  • 通院にかかった公共交通機関の交通費も漏れなく記録する

なお、セルフメディケーション税制を利用する場合も同様に、対象医薬品のレシートを保管し、購入履歴を整理しておくと、青色申告書類との整合性が取りやすくなります。

薬局・ドラッグストアでの買い物が経費になるケースと注意点は?

個人事業主がドラッグストアで購入する商品には、経費にできるものとできないものが混在しています。ここでは、経費にできる例と注意点を整理します。

経費として認められるのは「事業関連支出」に限られる

事業に必要な衛生用品や職場用の医薬品などは経費として認められます。

ドラッグストアでの買い物の中で、以下のようなものは明確に事業との関係があれば経費計上が可能です。事務所や作業場に設置する消毒液、マスク、ハンドソープ、絆創膏などは「消耗品費」として扱えます。また、従業員の体調管理を目的に備え付ける風邪薬や解熱剤、あるいは業務中のケガに備える救急セットも「福利厚生費」として計上できます。

これらは「職場で使用する」「従業員全体が利用する」「不特定多数の顧客に関係する」など、客観的に業務と関連性がある場合に限り経費とされます。

家庭用との混在がある場合は「家事按分」が必要

プライベート利用と事業利用が混在する場合は、使用割合に応じて分けて処理します。

マスク、ティッシュ、飲料水、消毒液などは、事業でも私生活でも使える汎用品であるため、原則として全額を経費にすることはできません。 このような支出は「家事関連費」に分類され、事業用と私用の割合に応じて按分(あんぶん)することが求められます。

たとえば、消毒液1,000円分を家庭と事業所で半々に使うのであれば、500円だけを経費として「消耗品費」に計上し、残りは計上しません。合理的な基準(面積比・使用頻度など)で算定し、その根拠を帳簿や備考欄に記録しておくことが重要です。

レシートは用途メモと分離会計がポイント

レシートに事業用と私用を混在させず、用途を明確にしておくことで経費性が認められやすくなります。

ドラッグストアのレシートには、複数の品目が一括で記載されることが多く、後から内容を精査するのは困難です。そのため、以下の点を実践すると記帳ミスや否認リスクを下げられます。

  • 事業用と私用は別会計でレジを分ける
  • レシートには「職場用マスク」などのメモを記載する
  • 勘定科目ごとにまとめて記帳し、用途がわかるよう分類しておく
  • クレジットカード利用の場合も品目明細のあるレシートを必ず保管する

これにより、税務調査時に「誰が・何のために」購入したかが明確になり、私用との混同が疑われにくくなります。

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経費にできる薬代・できない薬代を区別しよう

薬局やドラッグストアでの支出は、すべてが経費になるわけではありません。個人事業主本人や家族の薬代・医療費は原則として経費計上できませんが、従業員の健康管理や事務所備品としての用途が明確なものは、条件を満たせば「福利厚生費」や「消耗品費」として認められることがあります。事業との関連性・支出の目的・対象者を明確にし、帳簿と証憑を適切に管理することで、合理的な節税が実現できます。用途の曖昧な支出は按分処理や用途メモを活用して、経費性を正確に説明できるように備えましょう。

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