• 更新日 : 2025年10月21日

修繕積立金は経費になる?個人事業主が押さえるべき税務処理や確定申告のポイントを解説

マンションやアパートなどの集合住宅で毎月支払っている「修繕積立金」。建物の維持管理に不可欠な費用である一方、個人事業主にとっては「経費にできるのか?」といった取り扱いが気になるところです。

本記事では、修繕積立金の基本から管理費との違い、経費算入できる条件、売却時の扱いなどを解説します。

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修繕積立金とは?

マンションやアパートなどの集合住宅では、建物や共用設備を将来的に修繕するための費用をあらかじめ積み立てる仕組みがあります。それが「修繕積立金」と呼ばれるものです。ここでは、修繕積立金の基本的な意味や性質、管理費との違いについて見ていきましょう。

将来の大規模修繕のための事前準備費用

修繕積立金とは、マンションなどの集合住宅において、屋根・外壁・給排水設備・エレベーターなどの共用部分の修繕を将来実施するため、各所有者から徴収される積立金です。多くは毎月徴収されますが、四半期払いや一時金を併用する場合もあります。これは不測の事態に備える保険とは異なり、計画的に行われる大規模修繕のために定期的に準備される資金です。

管理費との違い

修繕積立金は、通常の建物維持や日常管理にかかる「管理費」とは異なる性質の費用です。管理費が清掃・電気代・管理人費用など日々の支出をまかなうのに対し、修繕積立金は10年・20年後の大規模工事を見据えて積み立てるものであり、国土交通省の定める「長期修繕計画指針」に基づく金額設定が推奨されています。

管理組合により保管される

徴収された修繕積立金は、マンションの管理組合が専用の口座で管理します。個人の所有者には返還義務がないのが原則で、建物を売却する場合にも積立済みの修繕積立金は次の所有者に引き継がれます。このような仕組みにより、長期的に安定した修繕計画が可能となり、資産価値の維持にも貢献します。

個人事業主の修繕積立金は経費に計上できる?

個人事業主が支払う修繕積立金は、原則として支払時点では必要経費に含められません。ただし、管理規約や長期修繕計画に基づき、一定の要件を満たす場合には経費算入が認められることがあります。以下でその理由と条件を解説します。

税務上の原則としては経費にできない

修繕積立金は、マンションなどで将来的に行う大規模修繕に備えて事前に徴収されるものであり、支払時点では実際の修繕が行われていません。そのため、税務上は「その年において債務が確定していないもの」とみなされ、原則として支出した年に必要経費として算入することは認められません。

これは、「債務の確定」がまだ生じていないため、税務上は費用ではなく資産、すなわち預け金のようなものと考えられるからです。実際に修繕工事が行われ、その費用が確定したタイミングで初めて経費として計上できる仕組みです。

自主的な積立金も経費にはできない

個人事業主が自らの判断で将来の修繕に備え、資金を預金口座などに積み立てておく場合がありますが、そのような積立は経費としては認められません。なぜなら、それは実際の支出を伴わず、単なる資金の移動や内部留保でしかないためです。

自分の所有する賃貸物件の修繕に備えて毎月一定額を別口座に移していたとしても、そのお金は外部に出ていない以上、税務上の「必要経費」には該当しません。支出が発生していない限り、税務処理上はあくまで自己資金の保留として扱われます。

以下の要件を満たす場合に経費にできる

ただし、例外的に修繕積立金を支払った年の経費として認められるケースもあります。それは以下のような要件をすべて満たしている場合に限られます。

  1. 区分所有者に対し、修繕積立金を支払う義務があること
  2. 支払った修繕積立金が返還されないこと
  3. 積立金が将来の修繕目的のみに使用されること
  4. 金額が長期修繕計画に基づき合理的に算出されていること

なお、これらの条件は一見すると限定的な要件のように見えますが、実際には多くの分譲マンションが国土交通省の標準管理規約に準じて運営されており、上記の要件を自然に満たしているケースが少なくありません。

したがって、税務上は「例外的に経費算入が認められる」という位置づけでありつつも、実務では多くの個人事業主が経費計上している現実があるということも押さえておくとよいでしょう。該当物件の管理規約や支払実態を確認し、要件を満たしているかを判断することが重要です。

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修繕積立金を経費に計上する場合、確定申告ではどうする?

修繕積立金を必要経費に算入できる場合には、帳簿上の勘定科目設定や申告書の正しい記載、さらに自宅兼事業所の按分処理や消費税区分の扱いにも配慮が必要です。以下では確定申告に向けたポイントを解説します。

勘定科目は「修繕費」として処理する

必要経費として認められる修繕積立金は、帳簿上で「修繕費」勘定に分類し、月ごとに記録します。たとえば賃貸用マンションの一室に毎月1万円の修繕積立金を支払っている場合、「〇〇マンション○月分修繕積立金」と摘要を記載して登録します。

青色申告を行っている個人事業主であれば、不動産所得や事業所得の青色申告決算書の「修繕費」欄に集計した金額を反映させます。

自宅兼事務所では按分計算が必要

自宅を事務所としても使っている場合、修繕積立金や管理費などは全額を経費にできません。こうした支出は「家事関連費」として扱われ、事業用の割合が明確に分けられる場合に限り、その部分だけを必要経費に含められます。

たとえば自宅の50%を事業スペースとして使用していれば、修繕積立金の50%相当額を経費として計上できます。面積や利用時間などを基準に合理的に算出し、その根拠は帳簿やメモなどで残しておくと、後の確認にも対応しやすくなります。

消費税は「課税対象外」として処理する

マンション管理組合への修繕積立金や管理費の支払いは、消費税の課税取引に該当しません。管理組合は事業者ではなく、取引もサービス提供とみなされないため、現行税制では「課税対象外」となります。帳簿への記帳では「非課税」や「対象外」といった税区分を設定する必要があります。もし誤って「課税仕入」として処理すると、消費税の申告や控除に影響を与えるため、注意が必要です。たとえ免税事業者であっても、正確な記帳管理が重要です。

修繕積立金を支払っている物件を売却した場合の税務処理は?

マンションやアパートなどの物件を所有している個人事業主が、物件を売却する際にこれまで支払ってきた修繕積立金が譲渡所得の計算に影響するかどうかは、誤解されやすいポイントです。支払った積立金の取り扱いは、経費算入とは異なる考え方に基づいて処理されます。

修繕積立金は譲渡所得の取得費や経費に含まれない

原則として、物件の売却に伴って支払済みの修繕積立金を取得費や譲渡費用として譲渡所得の計算に含めることはできません。なぜなら、修繕積立金は購入者ではなく管理組合が保有する資金であり、所有者が自由に使える資産ではないためです。修繕積立金は区分所有者の個別資産ではなく、建物全体のための共有財産として管理されている扱いとなります。

したがって、売主がこれまで支払ってきた積立金がいくらであっても、譲渡所得の取得費・譲渡経費として追加することは認められません。積立金の引き継ぎについて売主・買主間で金銭のやり取りがあった場合も、それは私法上の交渉結果であり、税務上の取得費とは関係しない点に注意が必要です。

買主への引き継ぎは「含み益」として課税されない

売却時点で管理組合に積み立てられている修繕積立金の残高が多い場合、購入者にとっては将来の修繕費負担が軽くなるというメリットがあります。しかし、それが売却益として売主に課税されることはありません。税務上、管理組合にある修繕積立金は売主の資産ではないため、譲渡所得の計算対象にはならないのです。

売買契約書に「修繕積立金残高相当額を考慮して売買価格を決定した」などの記載がされることがありますが、この金額はあくまで売買価格に含まれる調整要素であり、課税の基準となる譲渡対価に修繕積立金を加算・減算することはありません。

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修繕積立金の増額・一時金徴収があった場合の経費処理は?

マンションなどの集合住宅において、修繕積立金が増額されたり、急な大規模修繕のために一時金の徴収が行われたりするケースがあります。ここでは、税務上の取り扱いを整理します。

定期的な積立金の増額は通常通り経費として処理できる

毎月定額で支払っていた修繕積立金が、総会の決議等により増額された場合、その分についても支出の性質が変わるわけではありません。原則通り、管理規約や長期修繕計画に基づいて徴収される積立金であれば、支払った年の必要経費に含めることが可能です。増額分も含め、過去と同様の条件(返還義務なし・用途限定・共有部分対象など)を満たしていれば、帳簿上は「修繕費」として計上できます。

一時金の徴収は条件次第で経費か資本的支出に分かれる

計画外の修繕や資金不足により一時的に徴収される「修繕一時金」については、その支出の内容により税務処理が分かれます。用途が将来の修繕に充てられ、管理組合の財産として管理されるもので、返還される見込みがない場合は、通常の修繕積立金と同様に必要経費として認められる可能性があります。

しかし、特定の修繕工事(例:外壁全面改修、屋上の防水更新など)に充てられ、その工事により資産価値が大幅に向上する場合は、資本的支出として「建物」や「建物附属設備」に計上し、減価償却の対象とする必要が出てきます。したがって、一時金の名目だけで経費処理するのではなく、その実態を確認することが重要です。

帳簿記載と確定申告時の注意点

一時金を経費にできると判断した場合でも、摘要欄に「○○マンション大規模修繕一時金(経費処理)」などと明記し、内容が明確になるよう記帳する必要があります。また、税務調査に備えて、管理組合からの通知文や支払明細、工事内容の説明資料などを保管しておくと安心です。

修繕積立金を経費にできる共済制度とは?【賃貸住宅オーナーの個人事業主向け】

賃貸住宅オーナーが修繕資金を事前に準備しながら、支払った掛金をその年の必要経費として処理できる「賃貸住宅修繕共済」が注目を集めています。制度の拡充によって補償範囲が広がり、加入条件も緩和されたことで、多くの個人事業主が活用できる選択肢となっています。

掛金を経費にできる共済制度として誕生し、補償範囲が拡大

賃貸住宅修繕共済は、オーナーが将来の大規模修繕に備えて掛金を積み立て、その全額を支払年度の必要経費として計上できる制度です。制度開始当初は補償対象が屋根や外壁など一部の共用部に限定されていましたが、現在ではエントランス、階段、廊下、配管といった共用部全体の工事にまで対象が拡大されています。

これにより、計画的な修繕が必要となる賃貸マンション・アパートの維持費を事前に準備しながら、その支出を節税にもつなげることが可能になりました。

制度改正により加入条件が柔軟化し、返戻金制度も導入

かつては加入時に物件ごとの長期修繕計画書の提出が必要とされていましたが、現在は戸数や築年数に応じた標準プランを選べば、詳細な修繕計画なしでも加入可能となっています。

さらに、2024年の制度改正により、地震や火災などの自然災害で物件が滅失した場合には、積み立てた掛金の一部を特別一時金として支払われる仕組みも加わりました。これにより、従来の「掛け捨てリスク」が軽減され、万一の場合にも資金が戻るという安心感が得られるようになっています。

なお、個人事業主の場合、この支払われた特別一時金は、一時所得として所得税の課税対象となることに注意が必要です。

相続・承継時にも活用できる柔軟な制度設計

この共済制度は、単なる修繕積立の仕組みにとどまらず、事業承継や資産相続にも柔軟に対応できる設計がされています。契約は法人・個人を問わず加入でき、契約者の変更や相続時の名義変更にも対応しているため、将来的に物件を子や親族に引き継ぐ予定がある場合にも、そのまま共済契約を継続できます。

また、共済金の積立残高は契約内容によって相続財産として評価されない場合があり、その場合、課税対象外として扱われるため、資産承継の観点からも有利な制度です。

修繕積立金の正しい経費処理が資産と信用を守る

修繕積立金は将来の建物維持に不可欠な費用である一方、その税務上の取り扱いは一様ではなく、経費算入には明確な条件と判断が必要です。個人事業主として、物件の用途や規約内容、支払の性質に応じた処理を行うことは、節税だけでなく、正確な会計管理にも直結します。特に自宅兼事務所や賃貸用物件を所有している場合は、帳簿上の処理と税務上の取り扱いが一致しているかを常に意識し、確定申告において誤りのない対応を心がけましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様

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