- 更新日 : 2025年8月28日
個人事業主が業務改善助成金を活用するには?要件・助成額・申請の流れを解説
個人事業主にとって、従業員の雇用や設備投資は事業運営の大きな課題です。そんな中、厚生労働省が実施する「業務改善助成金」は、従業員の賃上げと生産性向上を支援する制度として注目されています。
本記事では、個人事業主が業務改善助成金を活用するためのポイントや申請方法、税務上の取り扱いなどを解説します。
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目次
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業務改善助成金とは
業務改善助成金とは、厚生労働省が実施する制度で、中小企業や小規模事業者が従業員の賃金引き上げと業務の効率化を目的とした設備投資を行った場合、国がその費用の一部を助成する仕組みです。対象には法人だけでなく、一定の条件を満たす個人事業主も含まれており、賃金改善に取り組むことで最大600万円の助成金が支給される可能性があります。ただし、申請には業種・従業員数・最低賃金との差など複数の条件があり、制度の趣旨に沿った取り組みが求められます。
個人事業主は業務改善助成金を利用できる?従業員の有無による違い
業務改善助成金は、個人事業主であっても一定の要件を満たしていれば申請が可能な制度です。制度の目的は、企業に対して従業員の賃金引き上げと事業の生産性向上を支援することにあり、労働者を雇用していることが前提条件となっています。そのため、申請の可否は「従業員がいるかどうか」によって大きく異なります。
従業員を雇用していない個人事業主の場合
従業員を一人も雇っていない個人事業主は、業務改善助成金の対象にはなりません。助成金の主な要件である「事業場内最低賃金を引き上げる」という取り組みは、賃上げの対象となる従業員が存在していなければ実行できません。そのため、完全な一人事業の場合には、この制度を利用することはできないのが現状です。
従業員を雇用している個人事業主の場合
一方、従業員を1人以上雇っている個人事業主であれば、業務改善助成金の対象となる可能性があります。正社員に限らず、パートタイマーやアルバイトなど、労働契約に基づいて働く者であれば対象に含まれます。助成金の申請には、対象となる従業員の最低賃金を地域別最低賃金より一定額引き上げることが条件となるため、現在の賃金水準や雇用形態をよく確認し、計画的に賃上げに取り組むことが重要です。
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業務改善助成金の対象要件
個人事業主を含む中小企業・小規模事業者が業務改善助成金を利用するには、制度で定められた一定の条件を満たしている必要があります。以下に、主な条件を整理します。
中小企業・小規模事業者であること
第一に、申請者が中小企業基本法に基づく中小企業もしくは小規模事業者であることが求められます。個人事業主であっても、業種ごとの従業員数や資本金の基準を満たしていれば対象に含まれます。たとえば小売業では『資本金5,000万円以下または従業員50人以下』、サービス業では『資本金5,000万円以下または従業員100人以下』の事業者が『中小企業・小規模事業者』として対象に含まれます。
なお、法人化しているかどうかにかかわらず、要件を満たしていれば申請は可能です。ただし、大企業の子会社や関連会社など「みなし大企業」に該当する事業者は対象外となります。
賃金要件:地域別最低賃金との差が50円以内
次に重要なのが、従業員の賃金水準に関する要件です。事業所内で最も賃金の低い従業員の時給(事業場内最低賃金)が、地域別最低賃金との差が50円以内であることが求められます。極端に低い賃金水準で雇用している場合は対象外とされるため、対象者の賃金額と地域ごとの最低賃金を照らし合わせて確認しておくことが必要です。地域別最低賃金は毎年10月頃に見直されるため、申請時期によっては要件を満たさなくなる場合もあります。
不交付事由がないこと(法令違反・解雇・賃下げなど)
さらに、助成金の不交付事由に該当していないことも条件に含まれます。具体的には、交付申請日の約6か月前から確認期間終了までに従業員の解雇や賃下げを行っていないこと、労働基準法などの関連法令に違反していないことが確認されます。助成金受給後も、定められた期間内に『状況報告書』を労働局へ提出する義務があります。この報告により、助成金の要件となった賃上げが維持されていることや、不当な解雇が行われていないことなどが確認されます。報告を怠った場合や、要件に反する事態が発覚した場合は、助成金の返還を求められることがあります。
過去に労働関連の問題を抱えていた場合には、事前に専門家や労働局に相談し、申請可能かどうか確認しておくと安心です。制度の信頼性を維持する観点から、コンプライアンス面の対応も求められることを理解しておく必要があります。
業務改善助成金のコース別の助成額
個人事業主が業務改善助成金を活用する場合、賃金引き上げ額とその対象となる従業員数によって、助成額の上限が決まります。令和7年度の制度も引き続き「生産性向上支援コース」1本に整理されていますが、助成率や雇用要件の一部が見直されています。従業員数30人未満の小規模事業者には高めの上限が設定されており、少人数でも高額の助成を受けられる点が特徴です。
4つのコースと助成額の考え方
令和7年度も賃金引き上げ幅に応じて、30円・45円・60円・90円の4つのコースが設けられています。個人事業主もこのコース区分に従って申請が可能であり、従業員の人数や引き上げ幅に応じた上限額が支給されます。たとえば30円コースでは、従業員1人の賃上げでも申請可能で、30人未満の事業場であれば最大60万円、5人の賃上げなら100万円が支給対象になります。
高額助成が可能なコースの特徴
45円コースでは7人以上の賃上げで最大160万円、10人以上で特例事業者に該当するなら180万円が上限です。特例事業者に該当した場合では、60円コースでは最大300万円、90円コースでは10人以上の賃上げ実施により最大600万円の助成が受けられます。これらのコースにおける助成率は、事業場内最低賃金が1,000円未満であれば4/5、それ以上であれば3/4が適用されます。
自己負担を抑えた設備投資が可能に
2024年度に比べ、2025年度においては助成率区分が大幅に見直され次のようになりました。
2024年度 | 900円未満(9/10),900円以上950円未満(4/5),950円以上(3/4) |
---|---|
2025年度 | 1,000円未満(4/5),1,000円以上(3/4) |
助成率の上昇により、自己負担額は最大でも25%、場合によっては20%にまで抑えることが可能です。たとえば、400万円の設備投資に対して300万円以上が助成されることもあり、実質的な投資負担を大きく軽減できます。制度の柔軟性と支給水準の高さから、業務効率化や従業員の定着支援を図る個人事業主にとって非常に有益な制度です。設備更新や業務改善の計画がある場合には、令和7年度の助成条件に沿って早期の活用を検討するとよいでしょう。
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業務改善助成金の申請方法と手続きの流れ
業務改善助成金を活用するには、事前の計画立案から実績報告、助成金の受給、そして事後報告まで段階的な手続きを踏む必要があります。
(1) 交付申請の提出
まず、申請事業者は「交付申請書」と「事業実施計画書」を作成し、都道府県労働局に提出します。計画には、賃上げの対象人数や引き上げ幅、設備投資の内容と金額などを記載します。添付書類としては、賃金台帳(過去3か月分)や設備見積書などが求められます。申請は書面のほか、電子申請システム(jGrants)も利用可能です。
(2) 審査・交付決定
申請内容は労働局で審査され、要件を満たしていれば「交付決定通知書」が交付されます。交付決定前に賃上げや設備導入を行ってしまうと助成対象外となるため、通知が届くまでの実行は控えましょう。
(3) 事業の実施と報告
交付決定後に計画通り賃上げを行い、対象となる設備の導入と支払いを完了させます。その後、期限内に「事業実績報告書」と「助成金支給申請書」を提出します。なお、2025年8月時点では事業完了は2026年1月末であり、やむを得ない場合には理由書を提出することにより、2026年3月末にできる場合があります。
(4) 助成金の支給
提出された書類に基づき助成額が確定し、労働局から支給決定通知書が発行されます。その後、指定の口座に助成金が振り込まれますが、支給決定から振込までには1か月から2か月程度の期間を要するのが一般的です。申請時期や審査状況によって期間は変動します。
(5) 事後報告の提出
助成金受給後、おおむね半年は報告義務があります。対象従業員の解雇や賃金の引き下げがないか確認されるため、制度の趣旨に反しない運用を継続することが求められます。状況報告書は所定の様式で期日内に提出します。
業務改善助成金を受給した個人事業主の確定申告
業務改善助成金は、個人事業主にとって収入とみなされる性質を持つ一方、特定の条件を満たせば課税対象から除外できるケースもあります。ここでは、確定申告時の正しい処理方法と注意点を解説します。
助成金は原則として事業収入に計上する
業務改善助成金を受給した場合、原則としてその全額を「事業収入」として所得に含めます。個人事業主にとっては課税扱いとなるため、受給額が増えれば課税対象所得も増える仕組みです。収入額が大きい場合は、翌年の納税額にも影響を及ぼすため、資金管理にも注意が必要です。
設備投資に充てた助成金は非課税にできることもある
所得税法では助成金のうち、機械や設備など固定資産の取得に使用した金額については、一定の条件下で「総収入金額不算入」という特例を適用できます。この特例を使えば、助成金のうち該当部分を非課税扱いにできるため、納税負担を軽減できます。ただしその場合、取得資産の帳簿価額から助成金分を差し引いた金額で減価償却を行う必要があります。
また、法人税法でも同様の特例があり、一般に「圧縮記帳」と呼ばれています。
参考:No.2202 国庫補助金等を受け取ったとき|国税庁、法人税法(第42条) | e-Gov
明細書の添付と証拠資料の保管が必要
総収入金額不算入の特例を利用するには、確定申告時に「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」(所得税法)や別表13(法人税法)等を申告書に添付する必要があります。加えて、設備購入にかかる領収書や支出記録などの証憑資料を保管し、税務署から求められた際に提示できるようにしておきましょう。
業務改善助成金の活用は個人事業主にとっても大きなチャンス
業務改善助成金は、個人事業主にも門戸が開かれた国の支援制度です。従業員の賃上げと生産性向上を組み合わせることで、設備投資等に対して最大600万円の助成が受けられる可能性があります。令和7年度も柔軟な制度設計がなされており、少人数事業者への支援も手厚くなっています。正確な申請手続きと確定申告時の適切な処理を行うことで、経済的メリットを最大化できます。制度を理解し、事業成長の一助として積極的に活用していきましょう。

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