- 更新日 : 2025年8月8日
個人事業主でも退職代行は関係ある?利用・対応・開業のケースごとに解説
退職代行サービスは、会社員だけでなく個人事業主にも関係する場面が増えています。たとえば、自身が雇用されている立場で退職代行を利用するケース、雇用している従業員に退職代行を使われるケース、または退職代行サービスを自ら事業として提供するケースなどです。立場によって法的な扱いや必要な手続き、税務処理が異なるため、それぞれの状況に応じた正しい知識が必要です。本記事では、個人事業主と退職代行の関係について総合的に解説します。
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目次
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個人事業主が退職代行を利用するケース
個人事業主であっても、企業に雇われる形で働いているケースでは、退職代行サービスを利用することがあります。このセクションでは、契約形態ごとの法的な扱いの違いや、利用時の注意点について詳しく解説します。
雇用契約で働いている場合
副業や転職活動の一環として、個人事業主であっても企業と雇用契約を結んで働いていることがあります。こうしたケースでは、退職代行サービスの利用は労働者としての正当な権利の行使にあたります。日本の民法では、期間の定めがない雇用契約であれば、退職の意思を示してから2週間が経過すれば契約を終了できるとされています。会社の承認は不要であり、「退職代行の使用は禁止」といった社内ルールがあっても、法的拘束力はありません。退職代行業者を通じた意思表示も、法的には本人の意思と同様に有効であり、会社側がこれを拒否することはできません。
業務委託契約を結んでいる場合
一方で、企業と業務委託契約や請負契約を結んで働く場合は、退職=契約解除の扱いとなり、雇用契約とは異なる法的ルールが適用されます。多くの業務委託契約には「解約には○日前の通知が必要」などの解除条項が盛り込まれており、これに反して一方的に辞めた場合は契約不履行とされるリスクがあります。損害賠償を請求される可能性もあるため、まずは契約書の内容をよく確認し、通知期間や手続きに従うことが求められます。退職代行を利用する場合でも、契約内容に合った形で伝達してもらうよう依頼する必要があります。
偽装請負に該当する場合
実態としては業務委託であっても、労働時間の拘束や上司からの指示に従うなど、労働者に近い働き方をしている場合もあります。こうした場合、契約は形式上業務委託でも、実態は雇用関係とみなされる「偽装請負」に該当する可能性があります。偽装請負と判断されれば、退職の自由も労働者として認められ、2週間ルールによる退職が認められるケースもあります。ただし、自分自身でその線引きを判断するのは困難なため、労働組合や弁護士など、労働問題に詳しい専門家への相談を経て判断するのが賢明です。法的な立場を誤って認識してしまうと、不要なトラブルを招くおそれもあるため慎重な対応が求められます。
個人事業主が退職代行を利用した場合の経費処理と確定申告
退職代行サービスを利用した個人事業主は、退職時の費用やその後の税務処理について正しく理解しておく必要があります。契約形態によって経費として認められるかどうかが異なります。
雇用契約で働いていた場合
個人事業主が副業先や雇用契約に基づく職場を退職するために退職代行を利用した場合、その費用は私的な支出とみなされます。このため、原則として確定申告において必要経費や控除の対象にはなりません。給与所得に関連する支出は、税法上の経費計上が認められていないため、代行費用も申告上は反映できないのが一般的です。
業務委託契約を結んでいた場合
一方、自身の事業として受託していた業務委託契約の解除のために退職代行を利用したケースでは、事業経費として計上できる可能性があります。取引先との契約解除が業務上避けられず、やむを得ず外部委託したと説明できる場合には、正当な経費と認められる場合もあります。念のため、領収書や利用目的の記録を残しておくことが望まれます。
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退職代行サービスの選び方
退職代行サービスは、運営母体によってサービス内容や対応可能な範囲が異なります。個人事業主が自身に適した退職代行サービスを選ぶためには、それぞれの特徴を理解し、自身の状況に合った形態を選択することが大切です。
法的対応を任せたい場合は弁護士型
会社とのトラブルが予想される、未払い賃金の請求もあわせて行いたいなど、法的交渉まで依頼したい場合は、弁護士が運営する退職代行サービスが適しています。弁護士には退職の意思伝達だけでなく、代理人として交渉する法的権限があります。費用はやや高めで3万円程度からが一般的ですが、万一会社側からの引き止めや請求対応が必要になった場合でも、スムーズに対応してもらえるため、安心感があります。
費用を抑えつつ交渉力を確保したいなら労働組合型
労働組合が提供する退職代行サービスは、費用を抑えつつ、交渉力もある程度確保したい場合に適しています。利用者は一時的に組合員として加入し、団体交渉の形で退職条件を交渉してもらう仕組みです。費用相場は2~3万円程度で、法律上の団交権が認められているため、有給休暇の消化や即日退職の調整などがスムーズに進むことがあります。ただし、提携する民間業者が実質的に交渉を行っている場合、非弁行為に該当する可能性があるため、信頼できるサービスを選ぶ必要があります。弁護士監修の労組型サービスであれば、より安心です。
とにかく費用を抑えたいなら民間企業型
コストを重視し、とにかく退職の意思だけを伝えてもらいたい場合には、民間企業が運営する退職代行サービスが選ばれる傾向にあります。費用相場は2〜3万円前後と手頃で、24時間対応や即日対応などの柔軟さも魅力です。ただし、民間業者は法的交渉ができず、会社に対しては退職の意思を「伝えるだけ」の役割に留まります。そのため、会社側から質問された際の対応や条件交渉には対応できません。最低限の手続きだけを代行してほしい場合に適しています。
個人事業主が従業員に退職代行を使われた場合の対応
個人事業主が雇用している従業員から、退職代行業者を通じて退職の意思を伝えられるケースが増えています。突然の連絡に戸惑う場面もありますが、冷静に対応することでトラブルを防ぎ、法的にも適正な対応を行うことができます。
退職代行業者の身元を確認する
まず最初に行うべきは、退職代行業者の連絡元を確認することです。弁護士、労働組合、民間業者のいずれかで対応可能な範囲が異なります。弁護士や労働組合は法的交渉が可能ですが、民間業者は意思の伝達のみしかできないため、その違いを踏まえて対応方針を検討します。
従業員本人の意思を確認する
退職の申し出が本人の意思であることを確認するため、本人へ直接連絡を取ることが理想です。無断欠勤中などの場合でも、安否確認や今後の手続きに必要な情報を取得する目的での連絡は問題ありません。メールや文書での通知でも証拠として残しておくと安心です。
雇用形態に応じた退職対応を検討する
無期雇用であれば従業員は自由に退職できますが、有期契約の途中での退職は原則として契約違反になることもあります。ただし、強引な引き留めは労使関係を悪化させるリスクがあるため、合意退職の形で円滑に進めるのが現実的です。
退職届を必ず書面で受け取る
口頭や代理での退職連絡も有効ですが、証拠を残す意味でも退職届を本人から提出してもらうよう依頼します。退職届は郵送での提出でも問題ありませんが、内容の改変をせず、本人記載の内容を尊重することが基本です。
貸与物の返却を依頼する
制服や機器類など、会社が貸与していた物品の返却を求めましょう。退職代行業者を通じて返却の段取りを伝えることも可能です。未返却のまま給与を保留するのは避け、まずは穏やかに返却を促す姿勢が望まれます。
退職手続きを正確に完了させる
退職が確定したら、給与計算や社会保険の手続き、離職票の発行などを速やかに行います。有給休暇が残っている場合には、できる限り本人の希望を尊重して対応し、円満な退職とする配慮が経営者としての信頼にもつながります。
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個人事業主が従業員に退職代行を使われた場合の注意点
従業員から退職代行を使われた場合、個人事業主としては冷静かつ法に則った対応が求められます。ここでは意識したい4つの対応ポイントについて整理します。
民間業者との交渉は行わない
退職代行業者が弁護士資格を持たない場合、会社との交渉は法的に許されていません。民間業者から退職日の調整や条件交渉を求められても、会社側は応じず、本人からの書面で確認する姿勢が必要です。
有給休暇は円満消化を促す
退職時に有給が残っていれば、できる限り消化を認める方が望ましいとされます。本人が言い出しにくい場合もあるため、会社側から「退職日までの消化で構わない」と伝える配慮が、企業イメージ向上にもつながります。
手続きは速やかに進める
退職代行を使われた場合、従業員はすでに出社しない意思を固めていることが多く、引き継ぎは困難です。対応を長引かせず、速やかに退職手続きを完了させる方が現実的で合理的といえます。
記録を残しておく
連絡内容や対応経緯は、後のトラブル回避のためにも記録として残しておきましょう。メールややり取りの履歴は証拠として機能し、万一の問い合わせにも対応しやすくなります。
個人事業主として退職代行で開業できる?
退職代行サービスは、個人事業主としても開業・運営が可能な業種です。近年は低コストで始められることから、副業や独立開業の手段として注目されています。ただし、法的な制約や運営リスクもあるため、事前に十分な知識と準備が求められます。
開業届の提出と基本手続き
退職代行を個人事業として始めるには、まず税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。屋号を設定し、事業内容を「代行業」「退職代行業」などと記載すれば問題ありません。同時に「青色申告承認申請書」も提出しておくと、65万円控除や赤字繰越など税務上のメリットが受けられます。
必要な設備は電話・パソコン・ネット環境があれば最低限の運営が可能で、初期費用も比較的少なく済みます。自宅兼事務所でスタートする人も多く、スモールスタートがしやすい業種です。
非弁行為の回避と法的リスクに注意
退職代行を個人で運営するうえで最も注意すべきなのが、「非弁行為」のリスクです。非弁行為とは、弁護士資格がない者が報酬を得て法律業務を行うことで、違法とされます。退職代行の場合、「退職の意思を会社に伝えるだけ」であれば合法ですが、「退職日の交渉」「有給休暇の取得交渉」「未払い給与の請求」などは法律事務にあたります。
そのため、非弁行為を避けるには、以下のような体制を整えることが不可欠です。
- 利用規約や契約書に「交渉は行わない」と明記する
- 必要に応じて弁護士監修を受ける
- 交渉が必要なケースでは速やかに弁護士を紹介する
労働組合方式という選択肢
より広い対応範囲を持たせたい場合、自社で労働組合を設立し、依頼者を一時的に組合員として受け入れる「労働組合方式」も選択肢となります。この方式では、団体交渉権を使って退職条件の交渉が可能になります。
ただし、表向きは労組でも、実質的に民間業者が交渉を代行している場合には違法とみなされるおそれがあり、東京弁護士会も厳しい見解を示しています。労組型で運営する場合も、弁護士との連携を前提とした法的な設計が必要です。
体制整備と顧客対応
退職代行は、深夜・早朝の問い合わせがあることも多く、24時間体制の運営をうたう業者も少なくありません。個人で運営する場合は、対応時間を明確に決めておくことが重要です。依頼受付から完了までの業務フロー(ヒアリング→委任状作成→会社への通知→完了報告など)を整え、顧客対応の品質を担保しましょう。
また、トラブルを避けるため、すべてのやり取りを記録に残し、プライバシー保護の体制を整えておくことも大切です。特に退職はセンシティブな内容を扱うため、情報漏洩や誤送信などには細心の注意が求められます。
税務処理と確定申告
退職代行の報酬は事業所得に分類され、毎年の確定申告が必要です。売上や経費を記帳し、決算書を作成した上で所得税を申告します。広告費、通信費、相談料(顧問弁護士費用など)、交通費、家賃の一部など、業務に関係する支出は経費として認められます。
売上が年間1000万円を超えた場合は、翌々年から消費税の課税事業者となるため、インボイス制度への登録も視野に入れる必要があります。
退職代行と個人事業主の関わり方を正しく理解しよう
退職代行サービスは、個人事業主にとっても無関係ではありません。自身が雇用されている立場で退職代行を利用する場合、契約形態によって法的扱いや税務処理が異なります。業務委託契約での利用なら経費として認められる可能性もあります。一方、従業員に退職代行を使われた場合は、感情的にならず、法に基づいた冷静な対応が求められます。また、退職代行を自らの事業として始めることも可能ですが、非弁行為の回避や適切な体制構築が不可欠です。立場ごとの正しい知識と準備が、トラブル防止と円滑な対応に繋がります。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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