- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主の給料振込手数料は誰が負担する?経費処理や節約のコツを解説
個人事業主として従業員や外注先に報酬を支払う際、意外と見落とされがちなのが「給料振込手数料」の取り扱いです。この手数料は誰が負担すべきか、経費にできるのか、確定申告での処理方法はどうするのかなど、判断に迷う場面も多いでしょう。
本記事では、振込手数料の基本から、経費処理、家族従業員への給与支払い、削減方法などを解説します。
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目次
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個人事業主が雇用する給料振込手数料は誰が負担すべき?
給与の支払い時に発生する振込手数料は、個人事業主にとっても毎月発生する固定的なコストです。労基法24条の全額払い原則*と行政通達・裁判例の解釈から、賃金振込に伴う手数料は使用者負担と解されています。
*給与は原則としてその全額を労働者に支払わなければならないというルール
給料振込手数料の発生する仕組み
給料振込手数料とは、従業員の銀行口座に給与を振り込む際に、送金元である事業者が金融機関に支払う手数料のことです。
支払い方法が現金手渡しから銀行振込へと移行した現在、多くの事業者にとって振込手数料は毎月発生する費用です。この手数料は、振込先の金融機関や支店の違い、送金金額、利用するチャネル(ネットバンキング・ATM・窓口など)により変動します。
同一銀行の同一支店への振込であれば無料または数十円で済むことが多いですが、他行宛は概ね330円前後、一般振込や窓口等では495~770円程度かかることが一般的です。また、多くの銀行で、その振込金額によって振込手数料が変動します。
振込件数が多ければ、毎月の累積額は無視できません。
手数料の負担者は事業主、個人事業主も例外ではない
給与振込時に発生する手数料は、法律上、雇用主である事業主が全額を負担することが義務付けられています。
これは労働基準法第24条に基づく「賃金の全額払いの原則」によるもので、労働者に支払うべき給与から、振込手数料などの名目で控除することは原則として認められていません。
つまり、個人事業主であっても、給与を従業員に振り込む場合には、発生する振込手数料を自らが負担しなければならないということです。法人・企業に限らず、個人経営の小規模事業者であっても同様の義務が課されます。
手数料を従業員に負担させたり、給与から控除したりすることは法的リスクを伴い、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性もあります。正しい知識を持って処理することが大切です。
振込手数料の相場とコストへの影響
振込手数料の金額は、以下のような条件により変動します。
- 同一銀行・同一支店宛の振込かどうか
- 同行宛、他行宛の場合
- 振込金額が3万円未満か以上か
- 利用チャネル(ネットバンキング・ATM・窓口など)
ネットバンキング経由の振込は、一般的に最も安価で済む傾向があります。同行宛であれば無料になる場合もあり、逆に窓口での他行宛振込は最も高額になります。
たとえば、毎月5人の従業員に給与を支払う個人事業主が、1件あたり400円の振込手数料を負担すると、月額2,000円、年間で24,000円に達します。経費として計上できるとはいえ、積み重なると無視できないコストです。
こうしたコストの最適化には、銀行の選定や振込方法の見直しも重要な経営判断材料となります。個人事業主であっても、人件費だけでなく、それに付随する手数料まで計画的に管理する姿勢が求められます。
給料振込手数料は経費にできる?勘定科目と仕訳処理
給与の振込時に発生する手数料は、少額であっても毎月の固定費として積み上がります。個人事業主の場合でも、事業運営上必要な支出として処理できるのか、帳簿の記載方法や税制上のポイントを確認しておきましょう。
給料振込手数料は経費計上が可能
給与を銀行振込で支払う際に発生する振込手数料は、事業の遂行に必要な支出とみなされ、個人事業主でも経費に計上できます。
会計処理では、「支払手数料」という勘定科目を使って仕訳するのが一般的です。通信費や水道光熱費と同じく、業務上発生する費用として扱います。なお、少額だからといって「雑費」などにまとめてしまうと、経費内容が不透明になりやすいため、振込手数料は明確に分けて記帳した方が合理的です。
確定申告の際も、支払手数料として計上した分は、所得から差し引ける必要経費として認められます。
仕訳例【給与10万円、手数料550円の場合】
たとえば従業員に10万円の給与を振り込む際、振込手数料が550円かかったとします。この場合、以下のように仕訳します(税込み経理方式)。
借 方 | 貸 方 | 摘 要 | ||
---|---|---|---|---|
給料手当 | 100,000円 | 普通預金 | 100,550円 | 〇月分 従業員給与 |
支払手数料 | 550円 | 振込手数料 |
このように、給与と手数料を分けて記帳することが重要です。これにより、税務署に対しても正確な支出の根拠を提示できます。
消費税とインボイス制度への対応
銀行振込手数料には、原則として消費税(10%)が含まれています。たとえば550円の手数料なら、そのうち50円が消費税分です。
課税事業者であれば、この消費税を仕入税額控除の対象にできます。ただし、2023年10月から始まったインボイス制度により、原則的には、控除を受けるためには適格請求書(インボイス)の保存が必要です。銀行が発行する取引明細や領収書がそれに該当します。
ただし、一定規模以下の課税事業者については、令和11年9月30日までは支払額が「1万円未満」である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除の適用を受けることができる経過措置(少額特例)があります。この期間中は上記のようなインボイスがなくても仕入税額控除は可能です。
参考:少額特例の概要|国税庁
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個人事業主自身や家族への給与は経費にできる?
個人事業主にとって、自身や家族に対する支払いは、通常の従業員とは異なる扱いとなります。正しい処理方法を理解していないと、経費にできなかったり、税務上不利になったりする可能性もあるため注意が必要です。
自分自身への給与は経費にできない
個人事業主が自分に対して「給与」を支払ったとしても、それは経費にはなりません。理由は明確で、事業主本人は自営業者であり、法人の役員のように他者から報酬を得る立場ではないからです。
個人事業の所得は「売上−必要経費」で計算され、その中から生活費を引き出すことは可能ですが、それを「給与」として経費計上することはできません。帳簿処理では、「事業主貸」という勘定科目を使って、事業用口座から個人口座へ移動した金額を記録します。これは資本の引き出しであり、費用とはみなされません。
事業用口座から10万円を生活費として引き出した場合、次のような仕訳をします。
借 方 | 貸 方 | 摘 要 | ||
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 | 〇月分 事業主生活費引出 |
これにより、その支出は所得計算に影響を与えません。
家族への給与は条件付きで経費になる
家族に給与を支払っている場合は、条件を満たせば経費にすることが可能です。「青色申告」を選択している個人事業主であれば、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出し、専従者の要件を満たすことで、家族への給与も必要経費として認められます。
この専従者とは、15歳以上で、年間を通じて6か月以上、事業に専ら従事している配偶者や親族のことです。届出には、氏名や仕事内容、給与額などを記載する必要があります。たとえば、配偶者に毎月10万円を支給している場合でも、届出と実態があれば、その給与と発生する振込手数料を経費として処理できます。
ただし、白色申告の場合は同様の扱いにはなりません。専従者控除として、配偶者は最大86万円、その他親族は最大50万円までの控除にとどまり、給与全額を経費にすることはできません。ただし、「事業所得 ÷ (専従者の数+1)」が86万円や50万円よりも低ければ、低い金額となります。
また、青色でも白色でも専従者控除をした場合には、配偶者控除や扶養控除は受けられません。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
手続きがないと経費にできない点に注意
家族への給与を経費にするには、あくまで「届出済み」であることと、「実際に業務に従事している実態」が必要です。これらの手続きを怠ると、たとえ現実に給与を支払っていたとしても、税務上は経費として認められません。
そのため、家族を従業員として扱う場合には、税務署への届出、労働時間の記録、仕事内容の明示など、形式と実態の両面で整備することが重要です。正当な経費として計上し、適正な節税を行うためにも、事前準備を欠かさないようにしましょう。
給料振込手数料を削減する方法は?
給与の支払い時に発生する振込手数料は、人数や頻度によって大きなコストになります。ここでは、効果的な削減策をご紹介します。
同じ銀行・同一支店の口座に統一する
最もシンプルで効果的な方法が、従業員の振込先口座を自分と同じ銀行・同一支店に統一することです。多くの銀行では、同行・同支店宛ての振込は無料、または安価に設定されており、毎月の手数料を抑えることが可能です。
ただし、口座の指定は強制できないため、従業員に理解を得ながら協力してもらう必要があります。福利厚生の一環として、口座開設費用の補助を提案したり、報奨制度を設けたりすることも現実的な対策です。事業主側の説明と配慮により、協力を得やすくなるでしょう。
ネット銀行の活用で振込手数料を最小化する
近年では、ネット銀行の活用が進んでいます。ネット銀行は、物理店舗を持たない分、手数料が非常に安く設定されている傾向があります。
メガバンクの他行宛振込が1件あたり500円前後かかるのに対し、ネット銀行の個人口座では他行宛が75~77円の例もあります。事業用口座では概ね143~229円程度が目安です。
また、一定回数まで振込手数料が無料となるプランを提供している銀行も多く、振込件数が多いほど恩恵を受けやすい特徴があります。
ネット銀行は個人事業主名義で簡単にビジネス口座を開設でき、スマートフォンからの操作も可能です。自社の支払い頻度や件数に応じて、手数料が最も安くなる銀行を選びましょう。
「給与デジタル払い」を導入する
2023年4月に制度解禁された「給与デジタル払い」も、振込手数料を根本からなくす手段として注目されています。これは、従業員の銀行口座ではなく、PayPayや楽天ペイなどの資金移動業者の口座(アカウント)に給与を直接振り込む方法です。
銀行を経由しないため、銀行よりも安価な手数料が設定されていることが多いです。さらに、従業員にとっても即時に給与を受け取れるという利便性があります。政府もキャッシュレス化推進の一環としてこの制度を後押ししています。
ただし、導入にはいくつかの条件があり、従業員の同意や労使協定の締結、100万円までという口座上限などに注意が必要です。(上限を超えたら銀行振込等となります。)全従業員への一斉導入は難しくても、希望者のみ少額の給与で試験的に運用を始めるなど、柔軟な対応が現実的です。
参考:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について|厚生労働省
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業務委託・外注費の振込手数料はどう処理する?給与との違いとは
従業員への給与とは異なり、業務委託先や外注先への支払いには独自のルールがあります。振込手数料の負担者、経費処理の方法、源泉徴収の要否など、給与支払いとは扱いが異なるため、正確に理解しておくことが必要です。
外注費の振込手数料は契約内容により処理が異なる
業務委託先やフリーランスに支払う報酬にかかる振込手数料は、事前の契約書や合意内容によってどちらが負担するかが決まります。労働基準法が適用される従業員と異なり、外注先は労働者ではないため、「全額払いの原則」は適用されません。
そのため、あらかじめ「振込手数料は発注者(事業主)負担」や「手数料は報酬額から差し引く」などの条件を明記しておくことで、トラブルを防げます。口頭契約でも可能ですが、後々の証拠として書面化しておくのが望ましいでしょう。
勘定科目は「外注費」または「支払手数料」で処理
外注先への報酬は、帳簿上では「外注費」や「業務委託費」として処理されるのが一般的です。一方、振込手数料については、「支払手数料」や「雑費」で計上することが多く、給与とは明確に分けて記帳する必要があります。
報酬10万円、振込手数料220円で事業主が全額負担した場合の仕訳(税込み経理方式)は、以下となります。
借 方 | 貸 方 | 摘 要 | ||
---|---|---|---|---|
外注費 | 100,000円 | 普通預金 | 100,220円 | 〇月分□□㈱委託料支払 |
支払手数料 | 220円 | 振込手数料 |
源泉徴収の要否にも注意が必要
士業(税理士、弁護士など)や原稿料など一部の外注先に対しては、源泉徴収義務が発生するケースがあります。給与とは異なり、対象範囲や税率が異なるため、国税庁の資料などを確認しながら対応しましょう。
例えば、個人の開業税理士への報酬が消費税込みで11万円、振込手数料220円で事業主が全額負担した場合の仕訳(税込み経理方式)は、以下となります。
借 方 | 貸 方 | 摘 要 | ||
---|---|---|---|---|
税理士報酬 | 110,000円 | 普通預金 | 99,790円 | 〇月分□□税理士報酬 |
預り金 | 10,210円 | 預り源泉税 | ||
支払手数料 | 220円 | 普通預金 | 220円 | 振込手数料 |
この場合、請求書は報酬部分と消費税部分に明確分かれていたものとし、報酬部分に税率を乗じて源泉税を求めています。(わかりやすいように普通預金を分けて記載しています。)
適切な手数料負担と経費処理で賢く運営を
個人事業主にとって、給与振込手数料はわずかな金額でも積み重なれば無視できない経費です。法律上この手数料は事業主負担が原則であり、適切に経費計上して節税につなげることが重要になります。
ネット銀行の活用や給与デジタル払いなどを取り入れることで、手数料を削減できる時代になっています。最新の税制改正にも目を配りつつ、無駄なコストを省き、利益を確保する運営を心がけましょう。法律遵守のもと適正な支払いと経理処理を行い、事業の発展と従業員満足の双方を実現していきましょう。

マネーフォワード クラウド確定申告の導入事例
データ連携機能を使って、銀行やクレジットカードの明細データを自動で取り込むようになってからは、会計ソフトへの入力作業が減ったので、作業時間は1/10くらいになりましたね。
ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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