- 更新日 : 2025年10月21日
家内労働者とは?個人事業主との違いや税務・確定申告の注意点を解説
企業に属さず自宅で作業を行う「家内労働者」は、外から見ると個人事業主と似た働き方に見えるかもしれません。しかし実際には、法律上・税務上での取り扱いや制度面で明確な違いがあります。
本記事では、家内労働者と個人事業主の定義から税務処理、青色専従者との違い、「必要経費の特例」の内容などを解説します。
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目次
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家内労働者とは?個人事業主との違いは?
家内労働者と個人事業主は、いずれも企業に雇用されずに業務を行うという共通点がありますが、法的な位置づけや保護内容、税務上の扱いには明確な違いがあります。
家内労働者は法律に基づき保護される委託型在宅ワーカー
家内労働者とは、「家内労働法」に基づき、自宅などで企業から委託された作業を行い、完成品の数量や質に応じた報酬(工賃)を受け取る働き方をする人を指します。これは典型的な「内職」に該当し、たとえば衣類の縫製や製品部品の組立てなど、物理的な作業を自宅で行うケースが多く見られます。
雇用契約を結ぶのではなく、あくまで業務委託契約によって働く形式であるものの、最低工賃の保障や安全衛生上の配慮、委託条件の明示義務など、労働者に準じた法的保護を受けられるのが特徴です。これは、企業の管理下にない場所で働き、立場が弱くなりがちな在宅労働者を守るために設けられた特別な制度です。
税法上は「個人事業主」として扱われるが労働形態が異なる
税務面では、家内労働者は広い意味で個人事業主と同様に扱われます。企業との雇用契約が存在しないため、所得税の源泉徴収は基本的に行われず、工賃に対して発生する税金は自身で確定申告により納付する必要があります。こうした点は、フリーランスや自営業者と同じです。
ただし、家内労働者には「家内労働者等の必要経費の特例」と呼ばれる優遇措置が設けられており、実際の支出にかかわらず一定額を経費として認める仕組みが適用される場合があります。この点で、税務上も他の個人事業主とは異なる取り扱いを受けることになります。
また、個人事業主の多くは自身で開業届を提出し、自由な営業活動やサービス提供を行う主体的な事業者である一方、家内労働者は委託者から提供された材料と指示に基づき作業を行う受動的な形が中心です。つまり、家内労働者は個人事業主に分類されつつも、労働者と事業主の中間的な立場にある存在といえるでしょう。
青色専従者と家内労働者の違いは?
青色専従者と家内労働者は、いずれも個人事業主のもとで働く「家族」が対象となることが多く、混同されやすい制度です。しかし、税法上の位置づけや経費計上の方法、届出の要否など、両者には明確な違いがあります。
青色専従者は事前届出に基づく「家族従業員」
青色専従者とは、青色申告を行う個人事業主が、同居または生計を一にする配偶者や親族を事業に従事させ、その労務に対して適正な給与を支払う場合に、その給与を必要経費として認めてもらう制度に基づく「専従の家族従業員」です。
適用を受けるためには、税務署への「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要であり、対象者は15歳以上で、その年の6か月超を原則として専らその事業に従事していることが条件となります。(期中開業や休業の場合は「その期間の2分の1超」などの特例が認められます。)
給与額は「労務の対価として相当」と認められる金額に限られ、不当に高額であると税務署に判断されれば、一部または全部が経費と認められない可能性があります。
家内労働者は委託契約による在宅労働者
家内労働者は、事業主から材料や作業指示を受けて、自宅などで製造・加工などの作業を行う人を指します。契約は「請負・委託契約」であり、労働時間ではなく出来高(成果物)に応じて工賃が支払われます。
税務上は、原則として「個人事業主」または「雑所得者」として扱われますが、所得計算の際に「家内労働者等の必要経費の特例」が使える点が特徴です。この特例により、実際の支出にかかわらず、一定額(令和7年分以降は65万円まで)を必要経費として計上できます。
事前届出は不要であり、作業内容が内職的かつ在宅で、委託された形態であれば、生計を一にしない親族であれば、「家内労働者」として取り扱うことが可能です。ただし、実態として事業主と一体である場合や、明確な報酬の授受がない場合には、必要経費の特例の適用が否認されることもあるため注意が必要です。
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個人事業主が家族を家内労働者とするか青色専従者とするかの判断基準は?
家族に業務を手伝ってもらう際、家内労働者として扱うか、青色専従者として扱うかで、税務上の処理や節税効果が大きく変わります。どちらを選ぶべきかは、作業内容・従事時間・報酬の金額・届出の有無など複数の要素を踏まえて判断することが大切です。
青色専従者は事業の主力メンバー向け
家族が事業の中心的な役割を担っており、年間を通じて継続的に従事している場合は、青色専従者として登録するのが適しています。税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に提出すれば、支払った給与を上限なく必要経費にできます。記帳や通帳管理がしっかりできる場合、節税効果も高く、制度上のメリットが大きい方法です。
家内労働者は補助的な作業や簡便処理に向く
家族が副業的に一部の作業(内職・梱包など)を手伝う程度であれば、家内労働者として扱う方が現実的です。この場合、税務署への届出は不要で、所得の計算時に「家内労働者等の必要経費の特例」により一律65万円まで経費計上が可能です。作業時間が短く、報酬も限定的な場合は、こちらの方が手続きも簡易で適しています。
両制度は併用できないため、作業の実態と報酬額に応じて、どちらが自身の状況に合っているかを見極めましょう。迷う場合は、税理士など専門家への相談が推奨されます。
個人事業主が家内労働者を使う際の経費処理は?
家内労働者を業務に従事させている個人事業主は、報酬の支払いに関して適切に経費処理を行う必要があります。給与ではなく委託費として処理される点を理解し、帳簿への記載や支払い証憑の整備が重要です。
工賃は「外注費」として処理する
家内労働者に支払う報酬は、雇用関係に基づく給与ではなく、業務委託による工賃です。このため、支払いは原則として「外注費」または「雑費」などとして必要経費に計上します。源泉徴収の義務は通常ありませんが、報酬の金額・支払日・相手の氏名・業務内容を帳簿に明確に記録しておくことが必要です。
家族を使う場合は記録を厳密に
生計を一にしない親族を家内労働者として使う場合は、実態のある作業であれば経費に含めることができます。ただし、「名義貸し」や「仮装経費」と見なされないよう、作業内容や時間、工賃の妥当性を説明できるように記録を整えておく必要があります。できれば作業日報や受領書、振込記録などを残すと安全です。
経費処理の透明性が税務上のリスク回避につながる
適正な経費処理を行うことで、家内労働者の活用による節税効果を最大限に活かすことができます。一方で、証憑が曖昧だったり、作業実態が不明瞭だったりすると、税務署から経費として否認されるおそれもあります。帳簿管理・証憑管理を日常的に徹底することが重要です。
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家内労働者への報酬で支払調書の作成は必要?
家内労働者を雇用せずに委託契約で業務を依頼している場合でも、「報酬を支払っている」という点では、税務上の書類作成義務が気になるところです。「支払調書」の提出義務については誤解が多く、正確な理解が求められます。
原則として支払調書の提出義務はない
結論から言うと、家内労働者に対して報酬を支払った場合でも、通常は支払調書の作成・提出義務はありません。というのも、支払調書(報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書)は、主に源泉徴収を行った支払いについて税務署に提出する書類だからです。
家内労働者への支払いは、業務委託に基づく工賃であり、かつ原則として源泉徴収の対象外です。このため、税務署への報告(支払調書の提出)も求められません。
家内労働者本人の確定申告・税務処理はどうする?
家内労働者は企業に雇用されているわけではなく、業務委託による在宅ワークという形態のため、税務上は個人事業主やフリーランスと同様に扱われます。基本的には自ら所得を計算し、確定申告を行って所得税を納める必要があります。ただし、一定の条件を満たせば「必要経費の特例」によって、税負担を軽減することも可能です。
所得税は原則として本人が自己申告・自己納付する
家内労働者は報酬(工賃)に対して企業から源泉徴収を受けないのが一般的です。そのため、毎年1月〜12月までの所得を自ら集計し、翌年の2月〜3月に確定申告を行い、所得税および住民税を申告・納付します。
ただし、所得が少額であれば申告義務がないケースもあります。他に収入がなく、所得が基礎控除(2025年以降は最大95万円)以下であれば、確定申告を行わなくても問題ありません。また、会社員などが副業で家内労働をしている場合は、その所得が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。
「必要経費の特例」で最大で一律65万円を控除できる
家内労働者には、「家内労働者等の必要経費の特例」という制度が用意されています。この制度は、事業所得または雑所得の計算において、実際にかかった経費が少なくても、一律で最大65万円までを必要経費として認めてもらえるという仕組みです。これは、2025年分(令和7年分)の所得から適用される税制改正によって、従来の55万円から引き上げられたものです。
収入が100万円あり、実際にかかった経費が10万円しかなかったとしても、この特例を適用すれば65万円を必要経費として差し引くことができます。結果として課税対象となる所得は100万円-65万円=35万円となり、所得税や住民税を大幅に軽減できます。
なお、同一年に給与収入がある場合や事業所得・雑所得が併存する場合には按分・上限調整が行われます。実経費の少ない内職的な働き方をする人にとっては、有利な制度といえます。
この特例を利用するには、確定申告時に「家内労働者等の所得計算の特例適用額の計算書」という書類を作成し、申告書に添付する必要があります。計算書には、実際の収入額や支出額、そして特例による経費額などを明記します。記載内容が不正確な場合や、要件を満たしていない場合は特例の適用が認められないこともあるため、慎重に手続きを行うことが重要です。
給与収入が65万円以上あると特例は使えない
家内労働者等の必要経費の特例には、給与収入との兼ね合いによる適用制限があります。対象者本人が年間の給与収入が65万円以上ある場合、この特例は適用できません。この基準は、2020年の基礎控除・給与所得控除の見直しに合わせて、かつての「55万円」から「65万円」に引き上げられたものであり、対象年が2025年の分(2026年に申告する分)においてもこの65万円基準が適用されます。
つまり、パートタイムや短時間勤務で給与収入が年間65万円未満であれば、家内労働者の特例を使って一律65万円(2025年分以降)を必要経費として計上できる可能性があります。一方で、給与がメイン収入となっている人が副業的に家内労働を行っている場合など、給与収入が65万円を超えていると、特例の対象外となるため注意が必要です。
給与収入が65万円未満であれば適用可能ですが、給与所得控除との調整が行われます。
給与収入には、会社からのパート代やアルバイト代など、源泉徴収票の「支払金額」欄に記載されるすべての金額が含まれます。その合計額が65万円未満かどうかを確認した上で、特例の適用可否を判断しましょう。
家内労働者と税制のポイントを押さえて安心の申告を
家内労働者は、税務上は個人事業主に分類されながらも、労働法上の保護を受ける立場にあります。青色専従者との違いや、必要経費の特例、確定申告の要否など、正しい知識を持つことで税務リスクを減らし、適切な申告・経費処理が可能になります。報酬支払時の記録管理や特例制度の利用条件にも注意を払いながら、働き方や事業形態に応じた制度を選択しましょう。
制度を正しく理解し、申告ミスを避けることが、安心して事業を続けるための第一歩です。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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