- 更新日 : 2025年10月21日
当期所得見込とは?個人事業主が知っておくべき意味・計算方法・記入時の注意点を解説
個人事業主として事業を営むうえで、「今年どれだけ利益が出そうか?」という問いに答えるのが「当期所得見込」です。これは、確定申告の準備やクレジットカード・ローン申込み、さらには予定納税の減額申請など、さまざまな場面で必要とされる重要な情報です。しかし「売上」との違いや、青色申告特別控除を踏まえた正しい計算方法については意外と知られていません。
本記事では、最新の税制も踏まえながら、当期所得見込の意味や計算の手順などについて解説します。
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目次
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個人事業主の当期所得見込とは?
個人事業主にとって「当期所得見込」は、自身の事業が1年間でどれほどの利益を生み出すかを予測する重要な指標です。これは確定申告や金融機関への融資・クレジットカードの申込み、さらには予定納税の減額申請などで求められることが多く、売上や経費とは異なる視点で「実際のもうけ」を把握する必要があります。
当期所得見込は「その年の利益予想額」
当期所得見込とは、その年の1月1日から12月31日までの事業活動によって得られる利益(事業所得)を見積もった金額を指します。 個人事業主における所得とは、単純な売上ではなく、所得税法第27条に定義される通り、売上から必要経費を差し引いたあとの「純粋な利益」です。つまり、当期所得見込は「今年どれくらい儲かりそうか」を予測する数値となります。
前年と同程度の業績が見込まれる場合は、前年の確定申告書の「所得金額等」を参考に今年の見込みを設定することが一般的です。事業規模の変化がなければ、前年実績を基準とした数値が見込まれることが妥当とされています。こうした見込額が、金融機関融資審査や税務署の予定納税関連の手続きなど、外部に対して事業の健全性や収益力を示す客観的材料として活用されます。
売上や年収とは異なる数値
当期所得見込は、年間の売上高や年収と混同されやすい概念ですが、全く別の意味を持ちます。
売上高は1年間の総収入を指し、経費を差し引く前の数字です。一方で所得は、所得税法第27条に定義されている通り、売上から仕入・人件費・通信費などの必要経費を差し引いた「利益」に相当します。
売上が1,000万円で経費が400万円かかった場合、実際の所得は600万円となり、これが当期所得見込の基準になります。このように、見込額は「実際に手元に残る収益」に基づいて算出される必要があります。
さらに、青色申告を行っている場合は、確定申告書B第一表の所得金額欄に青色申告特別控除が適用された後の数値が反映されます。したがって、当期所得見込を算出する際には、この控除額を加味した「控除前の利益額」を基準にすることが適切です。正確な見積もりのためには、前年の確定申告書や日々の帳簿データを参考にすることが望ましいでしょう。
個人事業主の当期所得見込が求められる場面は?
当期所得見込は、個人事業主が事業の収益力を外部に伝えるために活用される重要な数値です。ここでは、求められる代表的な2つのケースについて解説します。
クレジットカードやローン申込
当期所得見込は、クレジットカードやローンの審査において、個人事業主の返済能力を判断する重要な基準として用いられます。
会社員と異なり、定期的な給与がない個人事業主の場合、金融機関は過去の確定申告実績とともに、今後の収入見込みに注目します。そのため、申込書には「当期売上見込」や「当期所得見込」といった欄が設けられており、申込者自身が今年の事業による利益見込みを自ら記入する必要があります。
実務上、大手クレジットカード会社や金融機関では、所得見込みの申告と併せて、確定申告書の写しを提出させるケースが一般的です。これは、実際の売上だけでなく、最終的に経費控除後にどれだけ利益を確保できているかを確認し、事業の安定性や将来の返済能力を評価するためです。
ただし、当期所得見込を課題に記載すれば審査に有利になると考えるのは誤りです。金融機関は、提出された確定申告書や帳簿と照らし合わせて妥当性を確認するため、根拠のない申告はかえって信用を損なう可能性があります。実績と整合性のある正確で現実的な金額を記入することが、結果的に審査通過の近道となります。
予定納税の減額申請
当期所得見込は、税務署に提出する予定納税の減額申請手続きにおいても必要とされます。
予定納税とは、前年分の所得税額に基づき、当年分の所得税を年2回(通常7月と11月)に分けて前払いする制度です。しかし、業績が悪化して今年の所得が明らかに減少する見込みの場合には、所得税法第120条第2項および施工令第220条に基づき、予定納税額の減額申請をおこなうことが可能です。
この申請では、今年の所得の見込み金額(=当期所得見込)とそれに基づく所得税額の見積もりを明示する必要があります。6月末時点での収入と経費をもとに所得を予測し、前年より低い所得が見込まれることを示さなければなりません。減額申請が認められれば、予定納税額が実情に合わせて軽減され、資金繰りの負担も緩和されます。
申請の際には、収支実績や当期所得見込を裏付ける帳簿・試算表などの資料の提出が必要となるため、日々の会計記録を整備しておくことが重要です。
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個人事業主の当期所得見込の計算方法は?
当期所得見込は、今年1年間にどれだけの利益を見込めるかを予測するものであり、正確な把握は金融審査や税務申告において重要です。ここでは、前年実績があるケースと、開業初年度や業績変動が大きいケースに分けて、計算の考え方を解説します。
前年の確定申告を参考に予測する
前年の事業内容や収支に大きな変化がない場合は、前年分の確定申告書B第一表に記載される「所得金額等」をもとに今年の見込額を算出するのが基本です。前年の所得金額が500万円なら、同程度の業績を見込める場合、今年の当期所得見込も500万円前後とするのが自然です。
注意点として、青色申告をしている場合、「所得金額等」に記載される数値は青色申告特別控除を差し引いた後の金額です。そのため、当期所得見込を出す際は、控除前の実際の利益をもとにすることで、より正確な見積もりが可能です。前年の所得金額等に控除額を加算して調整することでより実態に近い見積もりとなります。
また、年の途中で見積もる場合は、現時点までの実績をもとに年換算する方法も有効です。上半期の売上が600万円で経費が300万円だった場合、利益は300万円。これを2倍にして年間600万円の利益と見込む計算です。季節変動が少ない事業であれば、合理的な予測方法として使えます。
開業初年度は月次実績から年換算
前年実績がない場合や、業績の変動が大きい年は、月単位の実績をもとに年間予測を立てるのが基本です。直近3か月の平均利益が月20万円であれば、「20万円 × 12か月 = 年間240万円」という形で算出します。これは金融機関や一部のクレジットカード会社が審査上の参考として案内している算出方法で、月次実績を12か月分に換算して見込所得を計算する方法です。
もっとも、季節による売上変動がある業種では、単純な月平均×12が正確とは限りません。繁忙期と閑散期の差が大きい場合は、所得税法第36条に基づく収入計上の原則を踏まえ、すでに得られた月次データを踏まえ、年間の売上予測を修正し、そこから必要経費を控除した上で所得見込を算出する方が現実に近い数値になります。
また、大口の取引が開始・終了といった事業環境の変化があれば、それを反映した見積もりが必要です。こうした数字に説得力を持たせるためには、帳簿を正確に整備し、必要に応じて専門家(税理士など)の助言を受けることも有効です。
当期所得見込を記入する際の注意点は?
当期所得見込を申請書類に記入する際には、形式的なミスや内容の過不足がトラブルの原因となることがあります。以下では、記入時に押さえておくべき注意点を解説します。
利益額で記載し、売上高は記入しない
当期所得見込に記載すべき金額は「売上」ではなく「利益(所得)」です。
申込書には「当期売上見込」と「当期所得見込」が区別されて設けられていることが多く、それぞれの欄に適切な金額を記入しなければなりません。売上が1,000万円あっても、経費が400万円かかった場合の所得見込は600万円となります。この区分を誤り、売上高を所得欄に記載してしまうと、実態よりもはるかに高い年収を申告することになり、金融機関の審査や税務上の手続きに齟齬が生じる可能性があります。
赤字見込みの場合も正直に記入する
所得がマイナス、つまり赤字になると見込まれる場合でも、正確に記入する必要があります。
売上が経費を下回る状況であれば、見込所得は「−50万円」などとマイナス表記で記載できます。実際所得税法条も赤字は「純損失」として扱われ、確定申告書の「所得金額等」欄にもマイナス表示が可能です。クレジットカード会社や金融機関の申込要領などにも、「赤字の場合はマイナスであることが分かるように記載してください」と明記されており、虚偽のプラス表示にする必要はありません。
赤字であっても、それが一時的な事情や業種特有の季節変動によるものであれば、審査においても考慮される場合があります。事実に即して正直に申告し、帳簿や確定申告書と整合する形で記入することは大切です。
根拠のある見積もりをもとに記入する
当期所得見込はあくまで予測値ではありますが、信頼に足る根拠に基づいて算出されていることが求められます。
前年の確定申告書と著しくかけ離れた見込み額を記載すると、金融機関等の審査で疑問を持たれる可能性があります。前年に赤字だったにもかかわらず、翌年の見込が大幅な黒字を申告する場合は、具体的な説明や裏付け資料がなければ信用性に欠けると判断されかねません。
金融機関の審査担当者は金額の正確性だけでなく、「妥当性」や「誠実さ」も評価対象としています。多少控えめであっても実現可能性の高い数字を提示する方が信頼性を損なわず、結果として審査に有利に働くこともあります。
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当期所得見込と青色申告特別控除の関係は?
当期所得見込を正しく記載するには、「青色申告特別控除」の影響を理解しておくことが重要です。控除が適用されることにより、申告書上の所得金額と実際の利益に差が生じるため、当期所得見込をどう算出するかに影響を与える場面があります。
控除前の利益額を基準に見込額を算出する
青色申告特別控除は、正規の帳簿付けや期限内申告などの要件を満たした個人事業主に対し、所得税法第25条に基づき最大65万円の控除が認められる制度です。確定申告書B第一表の「所得金額等」欄には、この控除後の金額が記載されるため、見た目には実際の利益よりも小さい金額となっています。
したがって、当期所得見込を算出する際には「控除前の本来の利益額」を基準とするのが正確です。前年の申告書で「所得金額」が450万円であり、65万円の青色控除が適用されていた場合、実際の利益は515万円だったことになります。今年の所得見込を検討する際には、この515万円を基準とすることで、実態に即した適正な見積もりが可能となります。
提出書類や記入欄によって基準が変わる場合もある
申込書や申告関連書類によっては、「控除後の金額で記入してください」と明記されている場合があります。そのような場合は、指示にしたがって記載するのが基本です。 一方、見込額の根拠資料として提出が求められる確定申告書の写しでは、青色控除後の金額が記載されているため、審査担当者が実際の利益額と申告上の所得額との差に気づかないこともあります。
そのようなケースでは、補足資料や説明書きを添えて「控除前の金額が実際の利益である」ことを示すことで、審査側に対してより正確な情報を伝えられます。こうした対応は信用性を高めると同時に過少申告と誤解されるリスクを防ぐことにも繋がります。
正確な所得見込の把握で手続きをスムーズに
当期所得見込は、個人事業主にとって自分のビジネスの現在地と将来を数値で示す大切な指標です。今年どれくらい稼げそうかを正しく見積もり、対外的に伝えることで、クレジット審査から税務手続きまで安心して臨めます。ポイントは、過去の確定申告書や現時点までの実績をもとに根拠ある予測を立て、売上ではなく利益ベースの年収見込額を誠実に示すことです。正確な当期所得見込を算出し、必要な書類に適切に記入することで、個人事業主としての信用力向上とスムーズな手続きを実現していきましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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