- 更新日 : 2025年8月8日
個人事業主は建退共に加入できる?条件・手続き・掛金について解説
建退共(建設業退職金共済制度)は、国が支援する退職金積立制度として、長く現場で働く人の安心を支える仕組みです。従業員を雇っている個人事業主はもちろん、一定の条件を満たせば一人親方でも組合を通じて加入が可能です。
本記事では、建退共の制度概要から、加入方法、掛金の仕組み、税務処理や確定申告での注意点まで、実際に活用するうえで知っておくべきポイントを解説します。
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目次
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建退共の制度概要
建退共(建設業退職金共済制度)は、建設業に従事する労働者の退職金を、事業者が日々の就労に応じて積み立てる国の共済制度です。
建退共の制度と仕組み
建退共は、中小企業退職金共済法に基づいて運営され、勤労者退職金共済機構が管轄する制度です。建設業を営む個人事業主や法人が事業主として共済契約を結び、従業員のために掛金を納付します。掛金は、建設現場での就労日数に応じて積み立てられ、従業員が退職時に「退職金共済手帳」に記録された日数に応じて退職金が支給される仕組みです。
この制度の特徴は、複数の事業所や現場で働いた日数を手帳で通算できる点にあります。これにより、事業所が変わっても退職金の受け取りに不利にならず、建設業界でのキャリア全体にわたって積み立てが継続されます。
加入対象となる業種と職種
建退共の対象は「建設業」に限定されています。具体的には、土木・建築・解体などの工事現場に従事する作業員で、常用雇用か日雇いかは問いません。逆に、建設業に該当しない業種、たとえば製造業、飲食業、IT業といった分野で働く事業者や労働者は、この制度の加入対象とはなりません。また、建設業であっても、事務職など現場作業に直接関与しない職種の方は加入できない点に注意が必要です。
他業種向けの退職金制度との違い
建設業以外にも、国が指定する特定業種向けの退職金共済制度があります。代表的なものとして、清酒製造業退職金共済(清退共)、林業退職金共済(林退共)があり、いずれも特定業種に限定した共済制度です。
また、業種を問わず中小企業であれば加入できる「中小企業退職金共済(中退共)」もあります。これは幅広い業種に対応しており、建設業以外の個人事業主でも利用できます。ただし、建退共と中退共は併用できず、同一の従業員に対して両方の制度に重複加入することはできません。どちらか一方を選び、適切な制度を活用することが求められます。
建退共に個人事業主は加入できる?
建退共(建設業退職金共済制度)は原則として「労働者」のための制度ですが、建設業に従事する個人事業主や一人親方も、一定の条件を満たせば加入が可能です。ここでは、加入資格と方法について、個人事業主・一人親方・法人の違いを踏まえて整理します。
個人事業主自身の加入は任意組合を活用する
建退共は、建設業を営む法人または個人事業主が共済契約を結び、現場作業に従事する労働者に対して退職金を積み立てる仕組みです。建設業法の認可がなくても、実態として建設工事に従事していれば加入資格はあります。したがって、小規模事業者や許可を持たない一人親方も制度の対象です。
ただし、個人事業主本人が「事業主」である場合、原則としてそのまま建退共の被共済者にはなれません。建退共は「労働者向け制度」であるため、雇用主である個人事業主が自分自身のために直接加入することは認められていません。
このようなケースでは、「任意組合」を活用する方法があります。一人親方同士で任意組合(法人格のない団体)を設立し、その組合が事業主となって建退共に契約することで、組合員である一人親方が退職金の対象となる仕組みです。また、既に建退共に対応している事業協同組合や労働組合へ加入することで、組合を通じて建退共に参加することも可能です。この場合、個人で手続きするよりも簡便で、実際には多くの一人親方がこのルートを利用しています。
法人事業者・従業員を雇用している個人事業主の場合
一方、法人として建退共に加入する場合は、対象が「従業員」に限られます。建設現場で作業を行い、法人から給与を受け取っている社員が該当します。代表取締役や取締役といった役員は原則として「労働者」ではないため、退職金共済手帳の対象にはなりません。また、事務職や管理職など現場作業に従事しない職種も同様に対象外です。
つまり、法人・個人を問わず、建退共において退職金を積み立てる対象となるのは「現場で働く労働者」に限られ、経営者本人や間接部門の職員は対象には含まれません。そのため、経営者自身の退職金準備としては、小規模企業共済などの他制度を併用する必要があります。
なお、個人事業主であっても従業員を雇用していれば、事業主として建退共に契約し、従業員のために掛金を納付することが可能です。この場合、従業員一人ひとりに対して退職金共済手帳が発行され、雇用主としての責任で積立を行うことになります。加入手続きは通常の企業と同様で、共済契約申込書と手帳申請書を建退共支部に提出することで始まります。
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個人事業主が建退共に加入する手続き
建退共への加入を検討する個人事業主にとって、加入手続きの方法は自らの業態によって異なります。ここでは、従業員を雇用している通常の事業主として加入するケースと、一人親方が任意組合や既存組合を通して加入するケースの手続きの流れを解説します。
従業員がいる場合の加入手続き
従業員を雇用している個人事業主や法人事業者が建退共に加入する場合、事業主として直接契約を行います。
ステップ1:建退共支部で申請書類を入手する
各都道府県に設置されている建退共支部(多くは建設業協会内)に赴き、「毛説業共済契約申込書」と「建設業退職金共済手帳申込書」を受け取ります。
ステップ2:必要事項の記入・提出
上記の申込書に必要事項を記入し、建退共支部へ提出します。提出時に費用は発生しません。
ステップ3:共済契約者証と手帳の受領
手続き完了後、「共済契約者証」と被共済者(従業員)用の退職金共済手帳が交付されます。手帳は労働者1人につき1冊が必要です。
ステップ4:掛金証紙の管理・納付
以後、手帳に証紙を貼付または電子記録方式で掛金納付を行い、日数を積み立てていきます。対象従業員が増えた場合はその都度手帳を申請し、契約を追加します。
一人親方が組合を通じて建退共に加入する方法
一人親方は原則として事業主扱いのため、単独では建退共に加入できません。ですが、任意組合または既存の建退共対応組合を通じて加入する方法が認められています。
(A) 任意組合を新設して建退共に加入する手順
ステップ1:複数の一人親方で任意組合を結成する
1人では組合を作れないため、2名以上で規約と代表者を定め、組合を組成します。
ステップ2:「任意組合認定申請書」を提出する
建退共支部に対して、組合の規約・業務方法書とともに任意組合認定申請書を提出します。
ステップ3:建退共から認定を受ける
審査を経て組合が正式に認定されると、認定書が交付されます。
ステップ4:建退共への共済契約申込
認定書を添えて、組合名義で共済契約申込書・共済手帳申請書を提出します。
ステップ5:手帳の受領・掛金の納付
組合を通じて各組合員に手帳が発行され、以後は組合単位で掛金を管理・納付します。
この方法は一人親方自身が制度に参加できるメリットがある一方で、設立や運営に手間がかかり、実務的な負担も少なくありません。
(B) 既存の建退共対応組合に加入する手順
ステップ1:建退共に対応する組合を探す
建設業協会や自治体窓口に問い合わせて、一人親方が加入できる組合を調べます。
ステップ2:組合に加入申請する
条件に合致すれば、入会申込書を提出し、組合員として登録されます。
ステップ3:組合経由で建退共に申し込む
組合が一括で建退共と契約を結び、加入手続きと手帳交付を代行してくれます。
この方法の利点は、組合が煩雑な事務手続きを担ってくれる点です。ただし、組合費の負担や証紙の管理に関しては組合の規約に従う必要があります。
建退共の掛金と納付方法
建退共に加入する個人事業主にとって、掛金の金額や納付方法の仕組みを理解しておくことは、適正な労務管理と退職金制度の運用に欠かせません。ここでは、掛金の算出方法と、納付の2つの手段について詳しく説明します。
掛金の金額と日数の考え方
建退共の掛金は、作業日数に応じて事業主が定額で負担する仕組みです。掛金日額は1人あたり320円で、2021年10月の改定によって現在の水準になっています。1日とは通常8時間の労働を基準とし、8時間未満の短時間勤務でも日給が発生すれば1日分として計上されます。
また、長時間労働で翌日にかかった場合には、8時間を超えるごとに追加で1日分の掛金を納める必要があります。さらに、有給休暇や会社都合の休業日であっても、賃金が支払われていれば労働日と同様に掛金の納付対象となります。
掛金の納付方法:証紙貼付方式
従来から利用されているのが、証紙貼付方式です。これは、事業主が建退共の専用証紙を郵便局や金融機関で購入し、労働者の共済手帳に月ごとの就労日数分の証紙を貼っていく方法です。
たとえば月に21日勤務した場合は、320円×21日=6,720円分の証紙を購入して貼付します。共済手帳1冊には最大250日分の証紙が貼れ、満了すれば手帳を更新する仕組みです。
掛金の納付方法:電子申請方式
2020年から導入された電子申請方式では、紙の証紙を使用せず、すべての記録をオンラインで管理します。まず建退共支部へ利用申込書を提出し、登録を行います。登録後は、電子申請サイトにログインして、労働者ごとの就労日数を入力します。
事業主は「退職金ポイント」を事前に購入しておき、入力された日数に応じてポイントが差し引かれ、積立が完了します。購入は口座振替やペイジーに対応しており、証紙の購入・貼付といった手間を省けるため、事務負担の軽減にもつながります。
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個人事業主の建退共の掛金の確定申告・税務上の扱い
建退共の掛金を支払う際、その費用が経費となるかどうかは、支払う相手が「従業員」か「事業主本人」かによって大きく異なります。個人事業主として適切な税務処理を行うために、確定申告時の取り扱いを正確に把握しておきましょう。
掛金の経費計上
建退共の掛金は原則として事業主が全額負担する制度であり、従業員の給与から天引きして支払うことはできません。個人事業主が従業員のために支払った掛金は、事業上の必要経費として認められます。「福利厚生費」などに区分して計上することが可能です。
一方、一人親方など個人事業主本人が自分の退職金積立を目的として掛金を支払う場合、この支出は個人的な積立金と見なされ、事業経費として処理することはできません。確定申告においても所得控除の対象にはならず、課税所得から差し引くことはできません。
退職金受取時の税制上の優遇措置
ただし、建退共から支給される退職金は、税務上「退職所得」として扱われます。退職所得には「退職所得控除」が適用され、勤続年数に応じて大きな控除額が認められます。さらに、控除後の残額の1/2のみが課税対象となるため、税負担は大幅に軽減されます。
たとえば20年間積み立てた場合、退職所得控除額は800万円(40万円×20年)となり、これを超える金額の半額のみが課税対象です。このように、拠出時には節税効果がなくても、受給時に大きな税制メリットがある点が建退共の特徴です。
確定申告では、従業員分の掛金のみを必要経費として計上し、自身分は計上せず、退職時に「退職所得」として申告処理する必要があります。長期的な視点での節税効果を理解したうえで制度を活用すると良いでしょう。
建退共加入の退職金受給の仕組み
建退共に加入した個人事業主やその従業員は、一定の条件と期間を満たすことで退職金を受け取ることができます。本制度の根幹となる共済手帳の役割や、受給要件・積立年数の影響について理解しておきましょう。
共済手帳による積立と退職金支給の流れ
建退共に加入すると、被共済者ごとに「退職金共済手帳」が交付され、就労日数に応じて掛金納付の記録が手帳または電子データ上に蓄積されていきます。事業主は毎月の就労状況をもとに証紙貼付(または電子ポイント入力)を行い、手帳に記録を残します。
この共済手帳はポータビリティ性に優れており、事業者や現場が変わっても手帳を引き継いで使い続けることができます。たとえば一人親方として積立を行っていた人が、後に他社に就職しても同じ手帳で積立を継続可能です。
退職時には、この共済手帳とともに所定の退職金請求手続きを建退共事業本部に提出します。受給金額は、記録された納付日数と掛金総額、さらに国による資産運用の成果(利息)を加味して算出されます。加入期間が長ければ長いほど、利息の上乗せにより受取額が増える仕組みです。
たとえば20年間で掛金総額約161万円を積み立てた場合、運用益を含めた退職金額の目安は約193万円とされています。利率は固定ではありませんが、長期加入者に有利な構造となっています。
退職金を受け取る条件と年数要件
建退共で退職金を受け取るためには、次のような条件のいずれかに該当する必要があります。
- 建設業の仕事を辞めた場合(業界引退や異業種転職)
- 55歳以上に達したとき(継続勤務中でも可)
- 病気や怪我などで建設業に従事できなくなったとき
- 長期間無職が続いたとき(実質的な退職と見なされる)
- 本人の死亡(遺族が請求)
支給は一括の一時金形式で行われ、分割支給はありません。加入期間については法的な「受給資格期間」は設けられていませんが、加入が短期間にとどまった場合、支給額が非常に少なくなる点に注意が必要です。
たとえば1年未満の加入では支給がほとんど行われず、1年以上2年未満では掛金総額の30〜50%程度しか支給されないこともあります。運用上の初期コストや国の補助制度の影響により、短期間の加入では元本割れとなることが多いため、2年以上、可能であれば5年以上継続して積み立てることが望ましいとされています。
実際の退職金支給額の目安(日額310円で始めた人の場合)は以下のとおりです。
加入年数 | 退職金支給額の目安 |
---|---|
5年 | 約41万円 |
10年 | 約95万円 |
20年 | 約202万円 |
30年 | 約390万円 |
40年 | 約600万円 |
このように、長期にわたって積み立てるほど退職金は大きくなりますが、掛金が固定されている以上、受給額の上限も自ずと限られます。
そのため一人親方などが老後資金を形成するには、建退共だけに依存せず、国民年金基金や小規模企業共済といった他の制度も併用しながら、総合的な備えを検討することが大切です。
建退共を活用して将来の備えを始めよう
退共は、日々の就労に応じて国が支える退職金を積み立てられる制度です。従業員を雇っている方はもちろん、一人親方でも組合を通じて加入できます。長く働いた分だけ退職金が増える仕組みのため、早めに始めることで将来にゆとりを持たせることが可能です。掛金や税制、申請手続きの特徴を理解して、建退共を上手に活用しましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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