- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主の請求書に本名なしで屋号だけ記載できる?ルールや注意点を解説
副業やフリーランスとして活動する個人事業主の中には、請求書に本名ではなく「屋号のみ」を記載したいと考える方が少なくありません。プライバシーの保護やブランディングの観点から、屋号の使用にはメリットがあります。
本記事では、屋号だけで請求書を発行しても問題ないのかという疑問に対し、法律上の根拠やインボイス制度との整合性、記載上の注意点などを解説します。
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目次
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個人事業主の請求書に屋号のみを記載しても問題ない?
個人事業主が請求書を発行する際、宛名欄に自分の本名ではなく屋号のみを記載したいというケースはよくあります。副業のため身元を伏せたい、ビジネスイメージを統一したいなど、さまざまな理由が考えられます。では、屋号のみを記載することに法的な問題はあるのでしょうか?この章では、屋号のみの記載が許容される理由や、注意点について解説します。
屋号のみの記載は法的に問題ない
結論からいえば、請求書に屋号のみを記載することは法律上、何ら問題はありません。請求書において発行者が誰であるかを明示できていれば、屋号(ビジネスネーム)のみの表記でも法的な要件は満たされます。そもそも、請求書には「法律で定められた書式」はなく、民間同士の取引で発行される任意の書類であるため、発行者情報の記載方法について厳格なルールは設けられていません。
屋号だけで発行された請求書であっても、発行者の実体(誰が請求しているのか)が特定できる状態であれば、商取引上問題は生じません。本名を記載せずにビジネスを展開したい個人事業主や、副業の実態を会社に知られたくないケースでは、屋号のみで請求書を作成する方が多数を占めています。
発行者を特定できる情報の明記が重要
屋号のみの記載が法的に問題ないとはいえ、請求書の受取側である取引先が安心して対応できるようにするためには、発行者を特定できる補足情報を併記しておくことが現実的には望まれます。
請求書内に電話番号やメールアドレスといった連絡先を記載しておくことで、取引先が問い合わせを行いたい場合や、振込先名義と請求者名に差異がある場合にもスムーズに確認が取れます。また、屋号の入った印章(ゴム印やスタンプ)を押しておけば、取引先にとって発行者の信頼性が高まりやすくなります。
このように、屋号のみの記載自体に問題はなくても、発行者としての信用を確保するためには、連絡手段や印章の工夫によって「屋号=実在する事業者である」ということを裏付ける姿勢が重要となります。
インボイス制度で屋号のみの請求書は問題ない?
2023年10月に導入されたインボイス制度により、個人事業主の請求書に関するルールも大きく注目されています。中でも「発行者名に屋号だけを記載してもよいのか」という疑問を抱く方は少なくありません。ここでは、インボイス制度の要件と照らし合わせて、屋号のみの記載が許される条件と注意点について解説します。
屋号のみの記載は制度上認められている
インボイス制度においても、適格請求書に屋号のみを記載することは認められています。適格請求書(インボイス)として有効にするためには、発行事業者の氏名または屋号と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額と税率、税率ごとの消費税額、取引先の氏名または名称といった法定の必須記載事項をすべて満たす必要があります。
国税庁の公式ガイドラインでも、個人事業主の場合は本名ではなく屋号を記載して差し支えないと明示されています。つまり、屋号だからといって特別な追加要件が課されるわけではなく、本名を記載する場合と同じ法定要件を満たしていればインボイスとして有効です。
したがって、「○○商店」「○○デザインスタジオ」といった屋号を発行者名として記載したインボイスも、正式な適格請求書として認められます。
屋号を使うなら公表手続きも行うと安心
ただし、インボイス発行事業者として登録した個人事業主の情報は、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で一般に公開されます。初期状態ではこの公表情報に記載される氏名は、本名(住民票に記載されている氏名)となっており、屋号は表示されません。
そのため、請求書に屋号しか記載していないと、取引先が登録番号を公表サイトで検索した際に「名前が一致しない」と戸惑う恐れがあります。たとえば、請求書に「ABCデザイン事務所」と書いていても、公表サイトでは「山田太郎」としか表示されていない場合、同一人物かどうか判断できないという混乱が生じかねません。
このような状況を避けるために、国税庁では「屋号も公表情報に掲載するための届出手続き」を案内しています。「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」という書類を税務署に提出することで、屋号を公式に公表情報へ追加できます。これにより、取引先が請求書記載の屋号で登録番号を照合できるようになり、確認作業がスムーズになります。
取引の透明性や信頼性を高める意味でも、インボイス制度を利用する個人事業主が屋号を使う場合には、こうした届出を済ませておくことが推奨されます。
参考:適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出手続|国税庁
インボイス発行の可否は屋号の有無とは無関係
あわせて理解しておきたいのは、インボイスの発行可否や課税事業者・免税事業者の区分は、屋号の有無に影響されないという点です。インボイスを発行できるのは「適格請求書発行事業者」として税務署に登録された課税事業者のみであり、屋号があっても登録されていなければインボイスは発行できません。一方で、屋号がなくても登録済みであれば、インボイス発行は可能です。
つまり、屋号の有無はあくまで表示上の選択に過ぎず、制度上の登録資格や仕入税額控除の要件とは直接関係ありません。とはいえ、ビジネス上の見た目や信頼性を考慮すれば、屋号の表記を整えた上で適切な届出を行っておくことで、制度対応がスムーズになり、取引先にも安心感を与えられます。
なお、免税事業者が無理にインボイス制度を導入する必要はありませんが、取引先の状況や事業の継続性を考え、合理的に判断しましょう。
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確定申告や開業届に屋号を記載する必要はある?
個人事業主として開業する際や確定申告を行う際、「屋号を必ず記載しなければならないのか?」という疑問を持つ方は多いかもしれません。屋号の記載は義務ではなく、記載しないことによって税務上の不利益を受けることもありません。ここでは、開業届や確定申告書における屋号欄の扱いについて説明します。
屋号の記載は任意であり、省略しても問題ない
開業届や確定申告書の屋号欄は、あくまでも任意記載項目です。開業時に税務署へ提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」や、毎年の「確定申告書(第1表及び第2表)」、「青色申告決算書」「収支内訳書」には「屋号(雅号)」という記入欄がありますが、屋号を設定していない、あるいは記載したくない場合は空欄のまま提出して差し支えありません。
これは、屋号が法律上の必須要件ではないためです。屋号がまだ決まっていない状態でも開業届を出すことが可能ですし、確定申告書の屋号欄に何も書かなくても、申告手続き自体は正式に受理されます。国税庁の記載例や案内でも一定の書類に「屋号の記入は任意」と明言されています。
したがって、屋号を持たないまま事業を始める個人事業主や、副業的に小規模な事業を行っている方などは、無理に屋号を設定しなくても問題は生じません。
屋号を記載することで実務上の利便性が高まる
一方で、屋号と本名の両方を持っている場合には、各種税務書類に屋号を併記することで一定の利便性や信頼性が高まります。確定申告書第一表及び第二表の「氏名」欄には本名を、別枠の「屋号」欄にはビジネスネームを記載することで、税務署や取引先にとって申告内容がより明確になる効果があります。青色申告決算書や収支内訳書にも屋号記入欄が設けられており、こちらも同様に記載は任意です。
また、複数の事業を並行して行っている個人事業主が屋号を複数持っている場合でも、申告書類には「主たる事業の屋号」を一つ記載すれば十分です。副業的な収入がある程度の規模である場合でも、特に屋号を付けていなければその欄は空欄で問題ありません。
屋号だけで請求書を出す場合の記載項目と注意点
個人事業主が請求書に屋号のみを記載する際は、法的には問題ありませんが、取引先にとって分かりやすく信頼できる内容に仕上げることが重要です。ここでは、屋号のみで請求書を作成する際に押さえておくべき基本的な記載項目と、注意点について解説します。
必須項目を正確に記載することが信頼の第一歩
屋号のみの請求書でも、請求書としての体裁を整えるために必要な項目はしっかり記載する必要があります。 基本的に、請求書に記載すべき項目は以下の通りです。
- 請求書のタイトル
- 屋号(請求元の名称として記載)
- 請求書発行日
- 請求番号(管理用の連番など)
- 請求先の名称(取引先の法人名や担当者名)
- 商品・サービスの内容と金額
- 合計金額(税込)
- 支払期限
- 支払方法と振込先口座情報
- 発行者の連絡先(電話番号やメールアドレス)
屋号しか記載しない場合でも、発行元を明確にし、万が一の問い合わせや確認ができるよう、連絡先は必ず記載しておくべきです。
また、インボイス制度に対応する場合は、適格請求書発行事業者の登録番号(Tから始まる13桁の番号)を必ず記載しなければなりません。これが抜けていると、取引先が仕入税額控除を受けられなくなる恐れがあります。さらにインボイスの場合は、先述のとおり、取引年月日、税率ごとの金額と税率、税率ごとの消費税額、取引先の氏名または名称といった記載事項も忘れないようにしましょう。
振込口座の名義と屋号の不一致に注意する
請求書に屋号しか記載していない場合、振込先の口座名義との不一致が混乱を招くことがあります。請求書に「ABCデザイン事務所」とだけ書いていて、振込先が「ヤマダタロウ」名義の個人口座だと、取引先が「本当にこの屋号の人の口座なのか?」と不安になる可能性があります。
これを防ぐためには、次のような対応が有効です。
- 振込先口座の名義を正確にカナ表記で記載する(例:ヤマダ タロウ)
- 屋号名義の銀行口座を開設し、屋号と名義の整合性を取る
入金が遅れるとキャッシュフローに影響を及ぼすため、請求書と振込先の名義情報に食い違いがないよう、丁寧に表記することが重要です。
発行者の実在性を示す工夫も信頼につながる
屋号だけの記載では、場合によっては発行者の実在性を疑われることもあります。そのため、発行元の情報を補完する工夫も有効です。
- 住所の記載(自宅であっても問題なし)
- 屋号入りのゴム印やスタンプの押印
- ウェブサイトURLやSNSアカウントの記載
こうした情報が加わることで、発行者の信用が高まり、取引先とのやり取りもスムーズに進みやすくなります。
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屋号のみの請求書を送る初回のマナーは?
初めて取引する相手に請求書を送る際は、屋号を使っている個人事業主の場合、誤解や混乱を避ける工夫が求められます。ここでは、初回取引時に屋号で請求書を発行する場合のマナーと、相手に安心してもらえる書き方のポイントを解説します。
屋号と本名の関係を明記して信頼性を高める
屋号のみを請求書に記載すること自体は問題ありませんが、初めての取引では発行者の実在性や本人確認の観点から、屋号と本名を併記するのが望ましいです。たとえば、「ABCクリエイト(田中太郎)」のように記載すれば、屋号の事業者が誰であるか一目で伝わり、取引先に安心感を与えます。
また、振込先口座の名義が本名(個人名義)である場合、請求書の下部や備考欄に、「※振込先は個人口座名義(タナカタロウ)です」と補足を添えることで、誤解を防げます。
初回送付時は簡単なメッセージを添えると好印象
請求書を初めて送付する際には、メールや郵送文面に一言添えたあいさつや説明文を加えると、ビジネスマナーとしても丁寧です。たとえば以下のような文面が有効です。
「お世話になっております。〇〇をご依頼いただきありがとうございました。請求書を添付いたします。なお、屋号は『ABCクリエイト』で、振込先口座は田中太郎名義となっております。ご確認のほど、よろしくお願いいたします。」
このような一文があるだけで、相手に安心してもらえるだけでなく、スムーズな処理につながります。法人との取引では、経理担当者が初めて屋号を見るケースもあるため、「屋号=あなた」であることを明確に示すことが重要です。
屋号で請求書を出すなら、丁寧さで信頼を支えよう
個人事業主が屋号のみで請求書を発行することは法的に認められており、インボイス制度の場面でも問題はありません。ただし、発行者を特定できる情報の明示や、振込先名義との整合性、初回送付時の配慮など、相手にわかりやすいよう丁寧な対応が求められます。屋号は単なる表記にとどまらず、信頼構築やブランディングにも関わります。請求書作成時は、相手にとって分かりやすく、安心できる内容になっているかを常に意識することが大切です。

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