- 更新日 : 2025年10月21日
消費税と所得税は二重課税になる?個人事業主が誤解しやすい税の仕組みを解説
個人事業主の間でしばしば疑問に上がる「消費税と所得税の二重課税」問題。売上に含まれる消費税まで所得税の対象になっているのでは、と不安を感じたことはありませんか?
本記事では、消費税と所得税がどのように異なる仕組みで課税されているのかや、二重課税が起きない理由、税務上の処理などを解説します。
目次
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消費税と所得税の二重課税とは?
消費税と所得税の二重課税とは、一つの所得に対して消費税と所得税を二重に支払うことを指すイメージですが、実際には通常発生しません。
消費税は商品の販売など取引に対する間接税であり、所得税は儲け(所得)に対する直接税です。それぞれ課税対象が異なるため、本来は二重に課税される性質のものではありません。個人事業主が税込価格で売上を計上する場合でも、納付すべき消費税額は「租税公課」として必要経費に算入されます。
したがって、同じ金額について消費税も所得税も取られて損をする、という心配は基本的に無用です。
消費税と所得税の仕組みは?二重課税はなぜ発生しない?
消費税と所得税が同じ取引に重ねて課税されていると感じる個人事業主もいますが、実際には税制上、それぞれ異なる対象に課されており、適切な経理と申告を行えば二重課税は生じません。ここでは、両者の課税構造と帳簿処理の実務を通じて、なぜ二重課税とならないのかを見ていきます。
消費税は最終的に消費者が負担する仕組み
消費税は、商品やサービスを購入する際に最終的な消費者が負担する間接税です。事業者は取引時に顧客から消費税を預かり、仕入や外注、経費に対して支払った消費税を差し引いて、差額を国に納付します。
仕入などで支払った消費税を差し引くことを「仕入税額控除」といい、事業者が実質的に納税しているのではなく、あくまで消費者から預かった税金を納付している構造です。事業者にとって消費税は利益ではなく、あくまで「預り金」的な性質を持つため、所得税の対象にはなりません。
所得税は利益に対してのみ課税される
所得税は、個人事業主が1年間の売上から必要経費を差し引いた利益(=所得)に対して課される直接税です。ここで重要なのは、経理処理の方法です。
「税込経理」では、売上・仕入ともに消費税額を含んで帳簿処理します。この場合、売上に含まれる受取消費税も収入に計上されますが、納税した消費税は「租税公課」に含まれ必要経費として控除されるため、最終的な課税所得からは除かれます。
一方、「税抜経理」を採用すれば、初めから消費税を含めずに売上や仕入を処理するため、当然ながら所得税の対象にもなりません。
いずれの方式でも、経理処理が正確であれば、消費税分は所得とならず、したがって所得税と消費税の二重課税は起こらないことになります。
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個人事業主が消費税を納めるのはどんなとき?
個人事業主が消費税を納める義務が生じるかどうかは、「課税事業者」と「免税事業者」の区別に基づきます。事業規模や届出状況によって、消費税の納税義務が発生する条件は異なります。ここでは、課税事業者となる要件や例外となるケースを整理します。
課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる
原則として、2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えている個人事業主は「課税事業者」となり、消費税の申告と納税義務を負います。
たとえば、2023年の売上が1,200万円であれば、2025年には課税事業者として消費税を納めなければなりません。この際に基準となる「課税売上高」とは、原則として消費税の対象となる取引金額の合計を指します。
また、基準期間の売上が1,000万円を下回っていても、特定期間(前年の1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えていれば、その年は課税事業者となります。
特定期間の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の金額で判定することもでき、事業主が選べます。
インボイス登録すると売上に関係なく課税事業者になる
2023年10月から始まったインボイス制度の導入により、「適格請求書発行事業者」として登録した場合には、売上高にかかわらず消費税の課税事業者になります。
取引先が仕入税額控除を受けるためにインボイス(適格請求書)を必要とするため、取引を維持するために小規模事業者であってもインボイス発行事業者として登録せざるを得ないケースがあります。
インボイス発行事業者として登録するためには、消費税の課税事業者にならなければなりません。たとえ年間売上が500万円程度の免税事業者であっても、インボイス登録を行えば、登録日以降は消費税の申告と納税が必要となります。
インボイスの登録は任意ですが、登録して課税事業者になった場合は、2年間は免税事業者に戻れないという制限もあるため、慎重な判断が求められます。
自主的に課税事業者を選択することもできる
売上が1,000万円未満で免税事業者の条件を満たしていても、「課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者になることも可能です。ただし、一度課税事業者の選択をすると2年間は変更できず、納税額が増えるため、税理士などに相談のうえ届出を行うのが適切です。
このように、個人事業主が消費税を納めるのは「基準期間の売上が一定規模を超える」「インボイス制度への登録を行う」「自主的に課税事業者となる」のいずれかに該当する場合であり、その他の小規模事業者は免税事業者として消費税の納税が免除されるケースが一般的です。
免税事業者が受け取った消費税はどうなる?
免税事業者は消費税を納める義務がないため、税込で受け取った売上に含まれる消費税分がそのまま収入となります。これは事業者にとって実質的な利益になりますが、税法上はあくまで一度だけ課税されるものであり、二重課税ではありません。
消費税分は収入扱いとなり所得税の対象になる
免税事業者は、売上に含まれる消費税分を国に納める必要がありません。そのため、税込550万円の売上(うち50万円が消費税相当)の場合、その50万円分も含めた全体が収入として帳簿に記載されます。
このように、納税義務がない一方で、消費税相当分も事業者の利益となるため、所得税の課税対象となります。つまり、所得税の計算上では消費税分も含めた金額が「所得」とみなされ、その分の所得税を支払う必要があります。
ただし、ここで課されるのはあくまで所得税のみであり、消費税は課税されていません。したがって「同じお金に二重に課税される」という構図ではなく、税制上は一度の課税にとどまります。
インボイス非対応のままだと取引機会を失うリスクがある
インボイス制度の導入後も免税事業者として活動することは可能ですが、その選択にはデメリットもあります。インボイス(適格請求書)を発行できるのは課税事業者に限られるため、免税事業者はインボイス発行ができません。
仕入税額控除を受けるためにはインボイスが必要になるため、取引先は免税事業者との取引で仕入税額控除を受けられなくなり、消費税分の負担が増えることになります。
その結果、取引先から「コスト増になるため免税事業者とは取引を控える」と判断され、取引を打ち切られたり報酬を値下げされたりするケースがありえます。こうした事態を避けるため、売上規模に関係なくインボイス発行事業者として登録し、課税事業者へ移行するという選択をする場合もあります。
たとえ消費税の納税義務が発生しても、取引の安定や信頼性を維持するためには重要な判断となります。
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税込経理と税抜経理の違いは?個人事業主はどちらを選ぶべき?
個人事業主が帳簿を作成する際には、「税込経理」または「税抜経理」のどちらかの方式を選択する必要があります。以下では、それぞれの方式の特徴と違いを解説します。
【税込経理】収支に消費税を含めて処理する方法
税込経理とは、売上や仕入、経費などの金額を消費税を含めた「税込金額」で帳簿に記載する方法です。税込110万円の売上があった場合、その全額を収益として記録します。
一方、仕入や外注費などの経費も同様に税込金額で処理します。
この方式では、受け取った消費税は一旦売上として収入計上されますが、後に納付する消費税や支払った消費税を「租税公課」として必要経費に含めることで、結果的に所得税の計算からは除かれる仕組みです。
【税抜経理】消費税を除いた実額で処理する方法
税抜経理は、売上や経費から消費税を除いた「税抜金額」で記帳する方式です。例えば、110万円から消費税10万円を除いた100万円のみを売上に計上し、消費税10万円は「仮受消費税」として別に記録します。支払消費税も同様に「仮払消費税」として処理します。
この方法では、消費税は最初から収益にも費用にも含まれないため、消費税の納付額が確定する前でも、「純粋な所得」を把握できます。
ただし、帳簿上で「本体価格」と「消費税額」を明確に区別して処理する必要があるため、簿記の知識や経理の正確さが求められます。特に取引が多い業種では、仕訳が煩雑になる傾向があります。
方式選択が税負担に与える影響
どちらの方式を選んでも、最終的な所得税額は基本的に同じになるよう制度設計されています。ただし、消費税を納める「課税事業者」である場合、税抜経理のほうがより正確に納税計画を立てやすく、節税対策を立てやすい傾向があります。
一方で、免税事業者の場合は消費税の納税義務がないため、税込経理の方が記帳も簡易であり、実務負担が少ないというメリットがあります。したがって、自身の事業規模や税務処理能力に応じて、適切な方式を選択することが重要です。
税制の仕組みを理解して正しく申告しよう
消費税と所得税は異なる性質を持つ税金であり、正しく処理されていれば一つの取引に対して二重に課税されることはありません。個人事業主が課税事業者の場合、所得税とは分離して計算されます。
免税事業者であっても、消費税分は所得として課税されるのみで、消費税を納めていない以上「二重課税」には当たりません。
消費税がからむと税に関して判断が複雑になりがちですが、税制の基本構造と最新制度を正しく理解し、適切に経理・申告を行うことで、不安なく事業を続けられます。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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