- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主は育児休業給付金の対象外?活用できる支援制度や対策を解説
育児と仕事の両立が求められる個人事業主にとって、育児休業給付金の対象外であるという現実は大きな課題です。しかし、近年は自営業者向けにも利用可能な公的支援策や税制優遇、年金保険料の免除制度などが整備されつつあります。
この記事では、育児期の支援制度と対策をまとめ、安心して育児と事業の両立を目指すための方法を紹介します。
目次
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育児休業給付金は個人事業主にも支給される?
育児休業給付金は会社員など雇用保険に加入している労働者を対象とした制度であり、個人事業主やフリーランスは対象外です。そのため、自営業者は育児休業中に公的な所得補償を受けられず、別の支援策を活用する必要があります。
雇用保険の制度であるため、個人事業主は対象外
育児休業給付金は、原則として子が1歳に達するまでの期間、育児休業を取得した労働者に支給されます。保育所に入れないなどの事情がある場合は、最長で2歳まで延長されることがあります。
男女を問わず利用できる制度ですが、雇用保険に加入していることが受給の前提条件となっています。つまり、雇用主と雇用契約を結び、雇用保険料を支払っている会社員や公務員などが対象です。
一方、個人事業主やフリーランスは雇用保険に加入する仕組み自体がないため、この制度の対象外となります。そのため、同じように子育てをしていても、育児休業を取る際に国からの所得補償が受けられません。
出産手当金やパパ育休の給付金も対象外
育児休業給付金と並んで、産前産後休業中に支給される「出産手当金」や、「出生時育児休業給付金(産後パパ育休の給付)」といった制度も存在しますが、これらも健康保険や雇用保険に基づく制度です。個人事業主はこれらの保険制度に加入していないため、同様に受給資格がありません。
このように、出産や育児に関連する主要な所得補償制度は、雇用されている立場の人を前提に設計されており、自営業者は制度の恩恵を受けにくい構造となっています。
その結果、個人事業主は出産や育児による休業期間中に経済的不安を抱えやすく、早期の仕事復帰を余儀なくされるケースも多いのが実情です。育児と収入をどう両立させるか、個人事業主にはより一層の計画性と代替手段の検討が求められます。
個人事業主が利用できる出産・育児の公的支援策は?
個人事業主は育児休業給付金の対象外ですが、雇用形態に関係なく利用できる出産・育児に関する支援策も複数存在します。以下に主要な制度を紹介します。
出産育児一時金(出産時の給付)
出産育児一時金は、妊娠4か月(85日)以上の出産に対して、公的医療保険から支給される給付金です。会社員は健康保険、自営業者は国民健康保険から受け取ることになります。2023年4月以降は1児につき支給額が50万円に増額され、双子以上の多胎出産であれば子の人数分支給されるようになりました。
分娩費用や入院費に充てるための制度で、早産・死産であっても妊娠週数の条件を満たせば対象です。なお、この給付金は非課税所得に該当し、確定申告での所得税や住民税には影響しません。
出産・子育て応援交付金(出産育児応援ギフト)
「出産・子育て応援交付金」は、妊娠届・出産届を提出した家庭に対して、自治体が面談等を通じて支給する現物給付制度です。標準的には、妊娠時に5万円、出産後に5万円の合計10万円分のギフトやクーポンが支給され、育児用品や家事支援サービス等と交換できます。現金で給付される自治体もありますが、自治体指定のカタログや電子ポイントで受け取る形式が一般的です。自営業か否かに関わらず居住地の自治体で実施されているため、条件を満たせば誰でも交付を受けることができます。
参考:妊産婦への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施|こども家庭庁
児童手当(子ども手当)
児童手当は、子どもを養育するすべての保護者が受け取れる国の経済支援制度です。2024年10月からは支給対象が高校生年代まで拡大され、第3子以降については月額3万円に増額されました。基本的な支給額は以下の通りです。
- 3歳未満:月15,000円
- 3歳以上〜中学生(→2024年10月からは高校生年代まで):第1・2子 月10,000円、第3子以降 月15,000円(→2024年10月から3万円)
所得制限も2024年10月から撤廃され、すべての家庭が満額受給できるようになりました。市区町村に申請を行えば、個人事業主でも確実に受給可能です。長期的かつ定期的な支援として、育児期の家計を安定させる重要な制度です。
子ども医療費助成(乳幼児医療費助成制度)
子ども医療費助成は、自治体が子どもの医療費自己負担分を助成する制度です。多くの自治体では0歳から中学生、あるいは高校生年代までを対象に、保険診療の自己負担が無料、または定額に軽減されます。子ども医療証(医療証の名称は自治体によって異なります)を提示すれば、病院の窓口で支払いが不要になるケースも多く、風邪やケガなどの際に心強い制度です。所得制限がある自治体もありますが、国民健康保険に加入している個人事業主の家庭でも、条件を満たせば利用可能です。
その他の支援策
そのほかにも、以下のような制度やサービスがあります。
- 妊婦健診の公費負担
妊娠中に受ける定期的な妊婦健康診査の費用を、各自治体が交付する補助券により14回程度まで補助する制度。自営業かどうかを問わず利用可能です。 - フリーランス協会などの民間福利厚生サービス
スキルアップ支援、ベビーシッターの優待、育児相談などが含まれた福利厚生パッケージに加入することで、出産・育児期のサポートが受けられます。
このように、個人事業主であっても、国・自治体が提供する支援策や民間サービスを活用することで、経済面・生活面の負担を軽減できます。出産前後のライフプランに合わせて、積極的に情報収集・申請を行いましょう。
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育児中の個人事業主が知っておきたい制度改正の動向は?
近年、政府は少子化対策や働き方の多様化に対応するため、フリーランスや個人事業主など非雇用型労働者向けの支援制度を強化しています。ここでは、影響が大きい2つの制度改正について解説します。
2026年から開始予定の国民年金保険料免除制度
政府は2026年10月から、自営業者やフリーランス(国民年金第1号被保険者)を対象に、育児中の年金保険料を免除する新制度の導入を予定しています。これは「こども未来戦略」に盛り込まれた施策の一環で、育児休業給付金を受け取れない個人事業主への新たな経済支援策と位置づけられています。
この制度では、出生または養育開始から子どもが1歳になるまでの間、対象者の国民年金保険料が全額免除されます。ポイントは、所得制限がなく、実際に育児休業を取得しているかどうかも問われないという点です。条件を満たしていれば、自動的に免除の対象となります。
現在も実母に限り、出産予定日前後の4か月間は国民年金保険料の産前産後免除が適用されていますが、この新制度では対象期間が1年間に延長され、男性も含む父母どちらにも適用されます。これにより、会社員が受け取る育児休業給付金に近い形で、個人事業主にも育児中の負担軽減が図られることになります。将来の年金受給額への影響もないため、安心して制度を活用できます。
参照:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案における国民年金法の改正について|厚生労働省
令和7年度(2025年)税制改正による負担軽減
もうひとつ注目すべき変更が、2025年分の所得から適用される所得税制度の見直しです。令和7年度税制改正では、基礎控除の引き上げや新たな控除制度の創設など、幅広い納税者の負担軽減が盛り込まれました。
なかでも大きいのは、基礎控除の拡大です。従来48万円だった控除額が、2025年以降は一律58万円に引き上げられます。また、所得水準に応じては最大95万円まで段階的に上乗せされる「特例加算」も導入されました。これにより、課税所得がゼロになる収入の上限が引き上がり、いわゆる「103万円の壁」は160万円程度まで緩和される見込みです。
これにより、配偶者控除や扶養控除の判定にも影響が出るため、育児のために収入が減った家庭でも、より広範囲に非課税対象が拡大されます。副業的に収入を得ている配偶者がいる場合にも、より柔軟な働き方が可能になります。
また、新設された「特定親族特別控除」は、19歳から22歳の扶養家族がいる場合に適用されるもので、大学進学等で扶養にかかる経済的負担が増す時期に合わせた支援です。あわせて、給与所得控除の最低保障額も55万円から65万円に引き上げられ、パートタイムやフリーランスで働く人の手取り増にもつながる改正となっています。
参照:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
育児中の個人事業主が心がけたいポイントは?
育児休業給付金が受けられない個人事業主が育児のために休業を取るには、自らの計画と備えが重要です。ここでは収入面、業務対応、家庭・外部支援の3つの観点から、準備すべきポイントを紹介します。
育児休業に向けた資金計画を立てる
育児中の収入減少を見越して、生活費や事業経費をあらかじめ見直し、休業期間中に必要な資金を試算しておきましょう。出産育児一時金や児童手当などの公的支援も収入として計画に組み込み、できれば出産前に数か月分の生活費を積み立てておくのが理想です。また、在宅で可能な範囲の仕事や副業によって、無理なく収入を維持する方法も考えられます。
業務の整理と顧客対応の準備
育児に専念するためには、業務の中断に伴う影響を最小限に抑える工夫も必要です。取引先へは早めに休業予定を伝え、納期の調整や業務の一部委託を検討しましょう。信頼できる外部パートナーに協力を依頼したり、自動返信メールの設定や連絡先の共有など、顧客対応の体制を整えておいたりすると安心です。こうした対応は休業中の信頼維持、そしてスムーズな復帰にもつながります。
家族や育児支援サービスを活用する
家庭内ではパートナーや親族と育児・家事の分担について事前に話し合い、負担を分け合うことが不可欠です。加えて、自治体の一時預かり保育、ファミリーサポート、ベビーシッター派遣、家事代行などの支援サービスも積極的に活用しましょう。一部は補助金の対象となる地域もあり、育児と仕事の両立に大いに役立ちます。
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育児中の個人事業主の確定申告に関する注意点は?
育児中の個人事業主は、業務時間や作業環境が制限されるなかで、確定申告を行う必要があります。収入の変動や育児関連費用など、例年と異なる事情が発生しやすいため、帳簿や控除の扱いについて注意が求められます。
育児による収入減少・必要経費を整理する
育児期間中は収入が一時的に減少するケースが多く、経費とのバランスが変わる可能性があります。赤字になった場合でも、青色申告をしていれば損失を最大3年間繰り越せるため、事業継続を前提に正確に申告しておくことが重要です。また、育児と事業を兼ねるスペースで発生する光熱費や通信費などは、家事按分によって事業割合のみを経費として計上します。不自然な按分率は税務署に否認されるリスクがあるため、合理的な根拠を持って整理しましょう。
支援金や手当は非課税扱い
出産育児一時金や児童手当などの支援金は非課税収入であり、確定申告の所得には含めません。ただし、受給時期や金額は帳簿上で把握しておくと資金管理にも役立ちます。経理処理を簡素化するためにも、家計と事業の収支を分けて管理し、確定申告直前に慌てないよう日頃からの記帳が大切です。育児と業務の両立で時間が限られるからこそ、会計ソフトやスマートフォンアプリを活用した記録の自動化も検討する価値があります。
制度を正しく理解し、自分に合った支援と準備を選ぶことが大切
育児休業給付金は個人事業主に適用されない制度ですが、出産育児一時金や児童手当、各自治体の助成制度など、雇用形態に関係なく利用できる支援も存在します。さらに、2026年開始予定の国民年金保険料免除や、2025年の税制改正による控除拡大など、間接的に育児期の経済的負担を軽減する仕組みも整ってきています。
出産前から情報収集を行い、自分に必要な支援を見極めましょう。

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