- 更新日 : 2025年8月28日
給料(報酬)未払いは労働基準監督署で対応できる?個人事業主が知っておくべき相談先と対処法を解説
個人事業主やフリーランスとして働く中で、報酬の未払いに悩まされるケースは珍しくありません。業務委託契約であるため、労働基準法の保護が及ばず、労働基準監督署では対応できないこともあります。
本記事では、未払いが発生した際の相談先や対処法、トラブルを防ぐための契約上の工夫、そして確定申告における経理処理のポイントなどを解説します。
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目次
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個人事業主は給料(報酬)未払いを労働基準監督署に相談できる?
個人事業主として業務委託を受けて働くフリーランスが報酬未払いに遭った場合、労働基準監督署へ相談できるかどうかは「労働者性の有無」によって異なります。労働基準法が適用されるか否かで対応が分かれるため、自身の働き方がどちらに該当するかを見極めることが、適切な相談先を判断するうえでの第一歩となります。
原則として個人事業主は労働基準監督署の対象外
労働基準法第9条では「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。これに対し、フリーランスや個人事業主は一般に「請負契約」や「業務委託契約」の形式で仕事を請け負うため、法的には労働者とみなされず、原則として労働基準監督署の対象外です。そのため、報酬未払いが起きても、すぐに労基署が介入できるわけではありません。
労基署が対応するケース:労働者性が認められる場合
ただし、実態が労働者に近い働き方である場合、形式的には業務委託でも労働基準法上の「労働者」と判断される可能性があります。たとえば、勤務時間が指定されていたり、業務の進め方を細かく指示されたりと、発注者の管理下で働いている状態にある場合が該当します。このようなケースでは、労働基準監督署に相談することで、実態を調査して対応を行う可能性があります。厚生労働省は、2024年4月1日から全国の労働基準監督署に『労働者性に関する相談・情報提供窓口』を設置しています。これにより、自身の働き方が労働基準法の適用対象となる『労働者』にあたるかどうかの相談がしやすくなりました。
労基署が対応できないケース:純粋な業務委託の未払い
一方、契約上・実態上ともに明らかな業務委託である場合、報酬未払いは労働基準法の管轄ではなく、民事上の契約問題として扱われます。この場合、労働基準監督署では対応できず、相談しても「労働者ではない」として管轄外と判断されるのが通常です。とはいえ、フリーランス新法に基づいて不当な取引が行われている可能性もあるため、別の相談機関や法的手段を視野に入れる必要があります。
フリーランス新法で定められた個人事業主への支払いルール
2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」は、増加するフリーランスの取引環境を整備する目的で制定されました。以下では、新法の概要と守るべきルールについて解説します。
取引条件の明示義務と報酬支払期日の設定
フリーランス新法により、発注者はフリーランスと契約を結ぶ際に、契約内容(業務内容・報酬額・支払期日など)を文書または電子データで明示する義務を負います。これにより、口頭のみで契約内容をあいまいにしたまま仕事を依頼することが禁止されました。さらに、報酬の支払期日は納品の受領から60日以内とされ、過度に長い支払いサイトを設けることも制限されています。発注者は契約時に必ずこれらの項目を明確に示し、期日どおりに報酬を支払わなければなりません。
報酬の減額や受領拒否などの禁止行為
新法では、発注者による不当な行為として7つの禁止行為が定められています。中でも「納品物の受領拒否」「報酬の一方的な減額」など、フリーランスに不利な対応は明確に違法とされました。以前から、契約後に「予算が減ったので報酬を半額にしたい」といった不当な減額や、納品物を理由なく受け取らない行為が問題視されてきましたが、これらは今後、法的に禁止されます。このほか、過度に低価格での契約(買いたたき)や、業務外の商品購入の強要、無償作業の要求も対象となっています。
違反した場合の措置と罰則
発注者がフリーランス新法に違反した場合、公正取引委員会や厚生労働省などが調査に入り、違反が認められれば指導・勧告が行われます。悪質なケースでは法的命令と企業名の公表もあり、命令違反があれば罰金などの刑事罰も科される可能性があります。実際の未払い金回収には民事手続きが必要ですが、法違反が明るみに出ること自体が発注者にとって大きなリスクとなり、報酬未払いの抑止につながると考えられています。
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個人事業主の給料(報酬)未払いが発生した場合の対処方法
個人事業主として業務委託を受けて働く中で、報酬の未払いに直面することは珍しいことではありません。以下では、未払いが発生した際に取るべきステップを、順を追って解説します。
ステップ1:契約内容と履行状況の確認
最初に行うべきは、契約内容の見直しです。書面契約がある場合は報酬額や支払期日が明記されているか確認し、書面がない場合でも、メールやチャットでのやり取りから契約条件を整理しましょう。同時に、自身の納品や業務遂行が契約通りであったかを確認し、不備がないかを見直すことも重要です。自分側に履行の問題がなければ、次のステップへ進みます。
ステップ2:発注者へ督促する
支払期日を過ぎても入金がない場合は、電話やメールで速やかに発注者に連絡を取り、入金状況を確認します。催促は丁寧に行い、対応履歴を記録として残しておくことが後々の証拠となります。再度請求書を送るなど、確認しやすい形で再通知するのも有効です。
ステップ3:内容証明郵便で正式に請求する
口頭やメールでの催促でも支払われない場合は、内容証明郵便によって正式な請求書を送付します。この手段は、相手に対し法的手段を検討しているという意思表示となり、支払いの動機付けとして有効です。記載には未払い金額、契約内容、支払期限などを明記しましょう。
ステップ4:支払督促・少額訴訟を利用する
内容証明でも効果がなければ、簡易裁判所への「支払督促」や「少額訴訟」を検討します。支払督促は書面審査で進み、相手が異議を出さなければ判決と同じ効力を持ちます。60万円以下の請求なら少額訴訟も利用可能で、原則一回の審理で即日判決が出るため、迅速な解決が望めます。
ステップ5:強制執行や通常訴訟に進む
支払督促に異議が出された場合や、少額訴訟で解決に至らない場合には、通常訴訟に移行します。勝訴判決を得れば、相手の銀行口座や売掛金、不動産などに対する差し押さえによる強制執行が可能となります。ただし、相手に資産や支払い能力がない場合は、回収できないこともあるため、事前に弁護士と相談し、費用対効果を見極めながら対応を進めましょう。裁判に至る前に和解を目指す姿勢も重要です。
個人事業主の給料(報酬)未払いトラブルにおける相談先
報酬未払いの問題に直面した際、個人事業主・フリーランス特有の契約上のトラブルに対応するために、行政や弁護士による相談体制が整備されています。ここでは、未払い問題を抱えた場合に活用できる相談先について紹介します。
フリーランス・トラブル110番(厚労省委託)
「フリーランス・トラブル110番」は、厚生労働省の委託により、第二東京弁護士会が運営している無料相談窓口です。労働者とは異なる立場にあるフリーランスや個人事業主が、報酬未払い、契約書未締結、ハラスメントなどに関する相談を弁護士に直接行えます。電話やメールで匿名相談が可能で、状況によっては弁護士が和解のあっせんに進むこともあります。
さらに、フリーランス新法に違反する可能性がある場合には、公正取引委員会や厚生労働省、中小企業庁などへの申し出方法についてもアドバイスを受けられます。報酬未払いに困った際は、ひとりで抱え込まず、まずはこの窓口を利用してみるのが現実的な第一歩です。
公正取引委員会・中小企業庁への申告
発注者がフリーランス新法に違反して報酬未払いまたは減額行為を行った疑いがある場合、個人事業主は公正取引委員会や中小企業庁などへ通報できます。これにより、行政が発注者に対して調査や指導を行うことになり、未払いの是正を促す圧力となる場合があります。
ただし、これらの申告制度はあくまで行政指導や制裁の手段であり、実際の報酬を回収するためには別途民事手続きが必要となる点には留意が必要です。制裁の効果で支払いに応じる事例もあるため、支払いを促す一つの有効な手段といえます。
弁護士や法テラスの活用
発注者との直接交渉が難航する場合や、金額が高額で損害が大きい場合には、弁護士に相談し、法的措置を取ることも視野に入れるべきです。法テラス(日本司法支援センター)では、収入条件を満たせば無料の法律相談や訴訟費用の立替制度を利用できます。
弁護士に依頼すれば、内容証明郵便の作成や裁判所手続きなど、複雑な手続きを専門家が代行してくれるため、精神的負担も軽減されます。相手が話し合いに応じない、または悪質な対応を取っている場合には、早めの専門家相談が解決への近道です。
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個人事業主ができる給料(報酬)の未払い防止策
報酬未払いトラブルを回避するためには、業務を開始する前の準備段階から慎重に対応することが重要です。以下に、予防策を3つ紹介します。
契約書を交わし支払い条件を明確にする
業務を受ける際には、必ず契約書や発注書など、取引条件を記載した書面を交わすようにしましょう。2024年施行のフリーランス新法では、発注者側に取引条件の書面提示が義務化されましたが、受注側である個人事業主も積極的に契約書の作成を求める姿勢が大切です。契約書には、業務の内容、報酬額、支払期日、支払い方法などを明確に記載し、あいまいな表現は避けます。口頭のみのやり取りでは、トラブルが起きた際に証明が難しくなります。書面を残すことで、自身を守る法的根拠となるほか、発注者に対しても誠実な取引を促す効果があります。
信用できる取引先か事前に見極める
新たな取引先と契約する際には、その企業の信頼性や過去の取引実績を事前に調べておくことも重要です。企業名で検索し、報酬未払いなどのトラブル事例がないかを確認する、業界団体に所属していれば評判を尋ねるなど、可能な範囲で情報を集めましょう。条件が良すぎる案件や、急ぎの依頼には慎重な対応が求められます。初回取引では、報酬の一部を着手金や前金で受け取る提案をするのも効果的です。誠実な事業者であれば、前払いにも前向きに応じるはずです。相手の対応を見ることで、今後の取引の信頼性を測る手がかりにもなります。
請求と入金管理を徹底し、早めに動く
業務が完了したら、速やかに請求書を発行して相手に送付することが基本です。請求が遅れると、結果として入金も後ろ倒しになり、トラブルの原因になります。また、支払サイト(例:月末締め翌々月末払い)を把握し、入金予定を自ら管理しておくことも大切です。予定日を過ぎても入金がない場合は、できるだけ早く督促の連絡を入れましょう。支払いの遅延に気づいてからの対応が早いほど、相手も誠実に応じやすくなります。
未払いが発生した場合の経理処理と確定申告上の注意点
報酬未払いが発生した場合でも、確定申告では会計方式に応じて正しく処理を行う必要があります。ここでは、青色申告と白色申告、それぞれのケースにおける会計処理上の違いと注意点について解説します。
青色申告(発生主義)の場合
青色申告で複式簿記を採用している個人事業主は、原則として「発生主義」により会計処理を行います。発生主義では、実際にお金を受け取ったかどうかにかかわらず、業務の完了時点で売上を計上します。たとえば、12月に納品した仕事の報酬が翌年に支払われる場合でも、その売上は12月分として申告書に反映させなければなりません。未回収分は「未収金」として帳簿に記載し、確定申告書に含める形になります。支払いを受けていなくても課税対象となる点には注意が必要です。
ただし、前々年の所得が300万円以下などの一定の要件を満たして事前に届出をすれば、特例として「現金主義」を選択することも可能です。
その場合、業務を完了していても、報酬をまだ受け取っていなければ、その金額は収入に含める必要はありません。翌年に入金があったタイミングで、その年の収入として申告することになります。ただし、収入計上を意図的にずらすことは認められておらず、正確な帳簿管理と証憑の保存が必要です。
白色申告(発生主義)の場合
白色申告の場合も青色申告と同様に、会計処理の原則は「発生主義」です。そのため、実際にお金を受け取ったかどうかにかかわらず、業務の完了時点で売上を計上します。いずれの申告方法でも、未払い報酬に関しては、請求書・納品書・契約書などの証拠書類を整理して保存することが、税務対応やトラブル時の備えとして有効です。会計方式に応じて正しい処理を行い、確定申告でのミスや不備を防ぎましょう。
未払いへの理解と対策が個人事業主を守る
個人事業主が未払いに直面した場合、労働基準監督署が対応するかどうかは「労働者性」の有無で分かれます。近年施行されたフリーランス新法では、発注者に対し支払い条件の明示や報酬の減額禁止が義務づけられ、未払いの抑止力が強まりました。万一トラブルが起きた際は、フリーランス・トラブル110番や弁護士への相談、民事手続きを活用し、正当な対処を進めることが大切です。予防策として契約書の取り交わしや請求管理も徹底し、適切な会計処理と確定申告を通じて、経営の安定を図りましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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