- 更新日 : 2025年2月27日
賃上げ促進税制の個人事業主向けガイド!税金の控除や改正を解説
賃上げ促進税制とは、賃上げを実現した法人・個人事業主の法人税・所得税を優遇する制度です。2024年度の税制改正により要件などが見直されたため、この機会に理解を深めましょう。
この記事では個人事業主の方を対象とした、賃上げ促進税制の概要や控除率、計算方法、手続き、注意点などを解説します。
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目次
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賃上げ促進税制とは?個人事業主も対象
賃上げ促進税制とは、一定の賃上げをした法人・個人事業主の法人税・所得税を減額する制度です。賃上げによる購買力の上昇、デフレ脱却のための物価上昇の好循環を目指す経済対策の一環として創設されました。まずは、賃上げ促進税制の賃上げの対象者・適用期間について解説します。
参考:全企業向け・中堅企業向け賃上げ促進税制|経済産業省、令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット(令和6年3月時点版)
賃上げ促進税制の対象企業
賃上げ促進税制の対象企業は、青色申告書を提出する企業または個人事業主です。対象企業は従業員数や資本金等により以下のとおり区分されます。
- 全企業:青色申告書を提出する全企業または個人事業主
- 中堅企業:青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業または個人事業主
- 中小企業:青色申告書を提出する資本金1億円以下の法人、農業協同組合等または従業員数1,000人以下の個人事業主
中小企業は全企業の区分も利用できるため、全企業=大企業ではないことに注意してください。
賃上げ促進税制の賃上げの対象者
賃上げ促進税制の賃上げの対象者は「使用人のうち国内の事業所に勤務する雇用者でその賃金台帳に記載されたもの」となっています。したがって、パート・アルバイト・日雇い労働者も含まれます。ただし、役員等(使用人兼務役員含む)、役員および個人事業主の特殊関係者等(親族等)は対象者に含まれません。
賃上げ促進税制の適用期間
賃上げ促進税制の適用期間は、法人は2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度、個人は2025年から2027年までの各年です。
個人事業主の賃上げ促進税制の主な内容
個人事業主を対象とした賃上げ促進税制は、一定の賃上げをした場合に所得税を減額する制度です。ここでは、個人事業主の賃上げ促進税制の主な内容について解説します。
従業員の賃上げで税額控除
賃上げ促進税制では、継続雇用者等の給与等支給額が前年より一定以上増えている場合に給与等支給増加額の一定割合が税額控除(減額)されます。賃上げによる控除率は最大で30%です。
教育訓練による上乗せ
賃上げ促進税制には「教育訓練費による税額控除の上乗せ」があり、教育訓練費が前年より一定上増えている場合に税額控除率が最大で10%上乗せされます。
教育訓練費とは、職務に必要な技術・知識を習得・向上させる費用のうち一定のものです。教育訓練費の具体例としては、講師等に支払う報酬・旅費や施設の賃借料、授業料などがあります。なお、使用人等である講師に支払う報酬は教育訓練費の対象外です。
また、この教育訓練による上乗せを適用する場合には、前年および当年の「教育訓練費の額の明細書」を作成・保存する必要があります。
参考:給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)|国税庁
子育てとの両立・女性支援で上乗せ
賃上げ促進税制には、さらに「子育てとの両立・女性活躍支援による上乗せ」もあります。厚生労働省から子育てをサポートする企業として「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」を受けた場合には、税額控除率が5%上乗せされます。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて|厚生労働省
個人事業主の最大控除率は
「従業員の賃上げ」「教育訓練費の上乗せ」「子育てとの両立・女性活躍支援による上乗せ」の要件を全て満たした場合、個人事業主を対象とした賃上げ促進税制による税額控除率は最大で45%となります。
所得税額の20%が上限となりますが、中小企業の場合は控除しきれなかった金額を5年間繰り越すことができ、非常に節税効果の大きい制度となっています。
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個人事業主の賃上げ促進税制による税額の控除率
賃上げ促進税制は、対象企業や賃上げ率等により控除率に多くのパターンがあり複雑になっています。ここでは、各要件による控除率について見ていきましょう。
各要件による控除率
下記表で各要件による控除率を一覧にしています。自社がどの区分に該当するか確認しましょう。
■全企業
全企業(青色申告書を提出する全企業または個人事業主)の税額控除率は、以下のとおりです。
必須要件 | 上乗せ要件 | ||
---|---|---|---|
継続雇用者の 賃上げ率 | 税額控除率 | 教育訓練費10%増加 | プラチナくるみん プラチナえるぼし |
+3% | 10% | 税額控除率+5% | 税額控除率+5% |
+4% | 15% | ||
+5% | 20% | ||
+7% | 25% |
賃上げ率が7%の場合、最大で35%の控除率となります。
■中堅企業
中堅企業(青色申告書を提出する従業員数2,000人以下の企業または個人事業主)の税額控除率は、以下のとおりです。
必須要件 | 上乗せ要件 | ||
---|---|---|---|
継続雇用者の 賃上げ率 | 税額控除率 | 教育訓練費10%増加 | プラチナくるみん えるぼし三段目以上 |
+3% | 10% | 税額控除率+5% | 税額控除率+5% |
+4% | 25% |
中堅企業では賃上げ率が4%の場合、最大で35%の控除率となります。
■中小企業
中小企業(青色申告書を提出する資本金1億円以下の法人、農業協同組合等または従業員数1,000人以下の個人事業主)の税額控除率は以下のとおりです。
必須要件 | 上乗せ要件 | ||
---|---|---|---|
全雇用者の 賃上げ率 | 税額控除率 | 教育訓練費5%増加 | くるみん以上 えるぼし二段目以上 |
+1.5% | 15% | 税額控除率+10% | 税額控除率+5% |
+2.5% | 30% |
中小企業では賃上げ率が2.5%の場合、最大で45%の控除率となります。なお、中小企業の場合、賃上げの要件は継続雇用者ではなく全雇用者が要件となっています。また、中小企業は全企業・中堅企業の区分での適用も可能です。
個人事業主以外の企業の要件や控除率
法人などの個人事業主以外の企業も、賃上げ促進税制の対象企業とされています。
全企業の区分は青色申告書を提出する全ての法人が対象、中堅企業の区分は青色申告書を提出する従業員2,000人以下の法人が対象です(他の企業の支配関係による例外あり)。また、中小企業の区分は青色申告書を提出する資本金または出資金が1億円以下の法人等が対象となっています。
その他の要件や控除率は個人事業主と同様です。
賃上げ促進税制の税額控除の計算方法
ここでは、賃上げ促進税制の税額控除額の計算方法について簡単な例を用いて説明します。以下では、青色申告書を提出する従業員数10人の企業(個人事業主)を前提とします。
税額控除率
ある企業で、賃上げ促進税制の要件に関して以下の事実であったとします。
- 入退社等がなく、継続雇用者・全雇用者の給与等支給額は前年50百万円、当年55百万円(10%増加)
- 教育訓練費は前年100万円、当年110万円(10%増加)
- 「くるみん認定」「プラチナくるみん」は受けていない
全企業および中堅企業の区分の場合、税額控除率は25%+5%=30%となります。一方で中小企業の区分の場合、税額控除率は30%+10%=40%となります。したがって、中小企業の区分を利用するほうが有利になります。
税額控除額
税額控除額は、控除対象給与等支給増加額(前年と当年の雇用者給与等支給額の差)に税額控除率をかけて計算されます。
給与等支給額が前年50百万円、当年55百万円であり、税額控除率は40%のため税額控除額は以下のとおりです。
つまり、この企業では2百万円の所得税の税額控除を受けることができます。ただし、所得税額の20%が控除上限となります。
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個人事業主の賃上げ促進税制は確定申告で手続き
個人事業主を対象とした賃上げ促進税制の要件を満たしている場合、確定申告において所定の書類を添付することで適用されます。
確定申告時に必要な書類
個人事業主を対象とした賃上げ促進税制を適用する場合、確定申告書に以下の書類を添付します。
- 控除対象雇用者給与等支給増加額等の計算に関する明細を記載した書類
- マルチステークホルダー方針を公表した旨の届出に対する受理通知書の写し(従業員数2,000人超の場合)
- 繰越控除の金額に関する明細書、繰越税額限度超過額の明細書(繰越控除を受ける場合)
参考:
申告書・申告書付表と税額計算書等 一覧|国税庁
全企業向け・中堅企業向け賃上げ促進税制|経済産業省、「賃上げ促進税制」 御利用ガイドブック 令和6年8月5日公表版
中小企業向け「賃上げ促進税制」|中小企業庁、中小企業向け 賃上げ促進税制 よくあるご質問 Q&A(Q5,Q66)
個人事業主の賃上げ促進税制に関する注意点
賃上げ促進税制に関する注意点をご紹介します。
控除上限
賃上げ促進税制では、所得税額の20%が控除上限です。そのため、あらかじめ将来の所得税額や繰越控除が適用できるかなどを検討しておきましょう。
新規開業の場合
開業初年度は比較対象となる給与等支給額がないため、賃上げ促進税制を適用できない点に注意しましょう。
計画的な賃上げで企業にも従業員にもメリット!
賃上げ促進税制により、所得税を大幅に節税することが可能です。将来の所得税額等を見積もって計画的に賃上げを実施することにより、企業にとっても従業員にとってもメリットがあります。
本記事を参考に、企業の業績向上と従業員の士気向上のために賃上げに取り組んではいかがでしょうか。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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