- 更新日 : 2025年7月7日
小規模企業共済は廃業したらどうなる?個人事業主が知っておきたい手続きや注意点を解説
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業経営者が退職や廃業に備えて積み立てる制度で、老後資金や事業終了時の資金として活用できます。掛金は全額が所得控除の対象となり、節税効果を得ながら将来に備えることができるのが大きな魅力です。
特に、廃業時の共済金受け取り方や受給条件、税務上の扱いには明確な違いがあり、知識があるかどうかで受取額や税負担に大きな差が生じます。本記事では、廃業を検討している個人事業主向けに、制度の概要から申請方法、受取タイミングの工夫を解説します。
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目次
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小規模企業共済制度とは
小規模企業共済制度は中小企業基盤整備機構が運営する、個人事業主や小規模企業経営者のための退職金制度です。月1,000円〜7万円の掛金を積み立て、廃業や引退時に共済金を受け取ることができます。掛金は全額が所得控除の対象となり、節税しながら老後資金を形成できるのが特徴です。積立金は予定利率(令和5年9月1日現在で1.0%)をもとに運用され、長期加入することで運用益が上乗せされます。たとえば月1万円を20年積み立てた場合、共済金Aの場合は掛金総額240万円に対し約278万円を受け取れるという試算もあります。
ただし、加入期間や受取理由によって共済金の種類が異なり、給付水準も変動するため注意が必要です。
また、受け取り理由によって支給金額は大きく異なります。廃業や老齢による受取は有利ですが、任意解約は元本割れのリスクがあります。
個人事業主が受け取れる共済金の種類
小規模企業共済では、退職や廃業の理由に応じて以下の4種類の共済金が定められています。
共済金A(廃業・死亡・事業譲渡)
共済金Aは、個人事業主が事業を廃業した場合や契約者本人が死亡した場合、または家族(配偶者や子)に事業を譲渡した場合に支給されます。計算方法は最も優遇されており、掛金元本に1%の利率と運用益が加算されます。20年以上積み立てると基本共済金だけで元本の116%以上を受け取れるケースもあります。受取方法は一括が原則ですが、条件を満たせば分割も可能です。6ヶ月以上の掛金納付があれば請求資格があります。
共済金B(老齢給付)
共済金Bは、個人事業主が65歳以上になり、かつ15年以上掛金を納めた場合に、退職金として受け取れる共済金です。事業継続中でも受取可能です。こちらも6ヶ月以上納付で請求可能で、一括・分割・併用が選べます。
準共済金(個人事業主が法人化した場合など)
準共済金は、個人事業主が事業を法人化するなどして小規模企業共済の資格を喪失した場合に支給されます。受取額は掛金とわずかな運用益のみで、20年積み立てても共済金AやBより少額です。12ヶ月以上の納付が必要で、受取方法は一括のみです。
解約手当金(個人事業主が任意解約した場合)
解約手当金は、個人事業主が任意で共済契約を中途解約した場合や、長期にわたり掛金を納めなかったために契約が強制解約となった場合に支給されます。受取額は最も低く、20年未満での解約では元本割れのリスクが高くなります。5年未満の積立では大きく目減りし、12ヶ月未満では受け取れません。受取方法は一括のみで、原則として任意解約は避けた方が得策です。
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個人事業主が廃業した時の共済金の受け取り方法
個人事業主が廃業した時の共済金の受け取り方と、流れについて解説します。
一括受取りと分割受取り
共済金の受け取り方法は、大きく分けて一括受取りと分割受取りがあります。個人事業主が廃業して受け取る場合、基本は一括で指定口座に振り込みとなります。たとえば共済金が500万円であれば、請求手続き完了後にその全額が指定した銀行口座に一括入金されます。分割受取りを希望する場合は、共済金AまたはBの受給者で一定の条件を満たす場合に限り選択できます。分割受取りは年金形式で、共済金を10年もしくは15年に渡り年数回ずつ受け取る方法です。制度上、共済金の分割受取は年6回まで(奇数月ごと)可能で、過去には年4回でしたが現在は年6回に柔軟化されています。なお、準共済金や解約手当金は分割受取できず必ず一括支給となります。受取方法によって課税方法(退職所得・雑所得)が異なり、税額に影響を及ぼす場合があるため、将来のライフイベントや生活スタイルを踏まえた上で、必要に応じて課税額を試算してから受取方法を検討することをおすすめします。また、多くの個人事業主にとって、廃業時には一括でまとまった資金を受け取るケースが一般的です。
共済金を受け取る手順
受取手続きを進める際の流れは次の通りです。
- 必要書類の準備・記入
共済金等請求書に必要事項を記入し、廃業届の控えや本人確認書類など要求される書類一式を揃えます。共済契約者本人の実印を押した請求書や、実印の印鑑証明書も忘れずに用意します。もし老齢給付の請求で65歳以上の場合は年齢確認書類(マイナンバーカード等)が必要になることもあります。 - 金融機関で口座確認印をもらう
共済金の振込を希望する金融機関(銀行)の窓口に請求書を持参し、受取口座欄に銀行の確認印(証明印)を押印してもらいます。これは振込先口座が契約者本人のものであることを金融機関に証明してもらう手続きです。最近では銀行窓口に行かずとも、預金通帳のコピー添付等で代替できる場合もありますが、中小機構の案内に従ってください。口座確認が済んだら、請求書に金融機関印が押された状態になります。 - 中小機構へ書類を送付する
必要書類一式が整ったら、簡易書留などの追跡可能な郵送方法で中小機構(小規模共済給付課)宛に書類を送付します。送付先は請求書に記載の提出先住所です。マイナンバーなど重要情報を含む書類もありますので、確実に届くよう配慮します。 - 審査・振込
中小機構に書類が到着すると、内容の審査が行われます。書類不備や確認事項がなければ、提出後約3週間~1ヶ月程度で指定口座へ共済金が振り込まれます。繁忙期や不備があった場合はさらに時間がかかることがありますので、廃業後は早めに手続きを開始すると安心です。無事に振込が完了すれば、中小機構から「振込通知書」や「共済金支払報告書」等の書類が届きますので確認しましょう。
小規模企業共済の共済金にかかる税金
小規模企業共済の共済金に対する課税は、受給理由や受取方法によって異なります。大別すると、退職所得として課税される場合と、一時所得として課税される場合があり、確定申告での取扱いを誤らないよう注意が必要です。
退職所得、雑所得として課税される場合
事業の廃業や老齢により受け取る共済金(共済金A・B・準共済金)は「退職所得」に該当します。退職所得控除が適用され、課税対象は控除後の金額の1/2のみです。例えば15年加入なら控除額は600万円。800万円受け取った場合、課税対象は(800万-600万)÷2=100万円です。退職所得は分離課税扱いのため、他の所得と合算されず、税率も優遇されます。
共済金受取時に中小機構へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、適切な控除が反映され、確定申告は不要です。ただし、他の退職所得と重なる場合などは申告が必要なケースもあります。
分割受取を選択した場合は「雑所得(公的年金等)」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。65歳以上であれば受給する年額によって公的年金等控除が受けられるため、他の所得が少なければ非課税となる可能性もあります。ただし一括受取と比べると節税効果がやや小さくなる傾向があります。
一時所得として課税される場合
共済金でも、任意解約など退職や老齢以外の理由で受け取った「解約手当金」などは「一時所得」として課税されます。この場合、受取額から掛金総額を差し引いた利益部分が対象で、年間50万円までの特別控除があります。控除後の残額の1/2が課税対象となり、他の所得と合算して課税されます。
一時所得が発生した場合も、確定申告が必要です。たとえば、解約手当金による利益が80万円なら、控除後の30万円の半分=15万円が課税対象になります。事業を続けながら共済を解約した年などでは一時所得としての申告も忘れないようにしましょう。
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小規模企業共済廃業時の共済金を有利に受け取るタイミングと注意点
廃業にあたって小規模企業共済を有利に活用するには、受給理由やタイミングを工夫することが重要です。個人事業主が押さえておくべきポイントを紹介します。
廃業理由で受け取る
共済金A(廃業)や共済金B(老齢)での受取が、任意解約より圧倒的に有利です。廃業届を提出し「廃業による請求」として受け取れば元本割れを避けられ、退職所得控除の対象にもなります。事業継続中に解約すると解約手当金扱いとなり、金額も税負担も不利になるため注意が必要です。
掛金納付期間を長くする
掛金納付期間が長いほど、受取額や運用益は増えます。20年以上積み立てることで確実に元本を上回る共済金が得られます。たとえば同条件でも15年積立では約201万円、20年では約278万円と、数年の差で大きな違いが出ます。無理のない範囲で納付期間を延ばすと有利です。
老齢給付条件を満たす
65歳以上かつ15年以上掛金を納付すれば、事業継続中でも共済金B(老齢給付)の請求が可能です。条件達成が近ければ、少し契約を延長するのも一つの選択肢です。
親族への事業承継を活用する
事業を家族に引き継ぎ、自身は廃業すれば共済金Aを受け取れます。平成28年以降、親族譲渡も共済金Aの対象になりました(ただし、複数の事業を営んでいる場合は、すべての事業を廃止したことが条件)。事業は継続しながら、自分は正式に廃業できる形です。税務署への廃業・開業届提出や、家族関係を証明する書類の準備も必要です。
法人化のタイミングに注意する
法人化後も一定要件を満たし、契約を継続できる場合はそのまま老齢まで加入可能です。しかし、条件により資格を失うと準共済金扱いとなり不利になります。法人化前に共済金Aを受け取る選択肢もありますが、再加入や退職所得控除の通算条件にも配慮が必要です。
他の退職金制度と調整する
iDeCoなど複数の退職金制度を併用する場合、退職所得控除の「前年以前9年ルール(令和8年1月1日より適用)」に注意が必要です。前回の退職金受取から前年以前9年以内に再び退職所得を得ると、控除が通算され税負担が増える恐れがあります。受取時期を10年以上空けるなど、計画的な調整が必要です。
小規模企業共済における廃業と解約の違い
小規模企業共済では、「廃業による共済金受取」と「任意解約による払戻金」で、受取額や税金の扱いが大きく異なります。
まず金額面の違いです。廃業や65歳以上の退職によって受け取る共済金A・Bは、掛金総額に加え運用益が上乗せされるため、20年積み立てた場合には掛金の116%程度を受け取れることもあります。加入期間が短くても、6ヶ月以上掛金を納めていれば受給資格があり、掛け捨てにならない点も安心です。
一方、任意解約で受け取る解約手当金は、元本を上回ることが非常に難しく、10年未満の解約では元本割れがほぼ確実です。5年程度の加入では掛金の8〜9割しか戻らないこともあり、長期加入であっても運用益はごくわずかです。このように、共済金A・Bと解約手当金では受取総額に大きな差が出ます。制度の本来の趣旨が「退職金準備」であるため、廃業や老齢退職には手厚く、中途解約には厳しい設計となっているのです。
次に税金の違いです。共済金A・Bは一括受け取りの場合、「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用され、課税対象は控除後の金額の1/2のみとなり、税負担は軽く済みます。源泉徴収後、他に所得がなければ確定申告も不要です。
一方、解約手当金は「一時所得」として扱われ、50万円の特別控除はありますが、それを超えた金額の1/2が他の所得と合算され総合課税の対象となります。一時所得は退職所得と比べて控除枠が少ないため、税制面でも廃業による受取の方が明らかに有利です。
まとめると、金額面・税制面の両方で「廃業による受取」が「任意解約」より圧倒的に有利です。やむを得ない場合を除き、任意解約は避け、できるだけ長く契約を継続し、共済金AまたはBとしての受取を目指すのが賢明です。掛金の減額などで契約維持を工夫しつつ、共済制度のメリットを最大限に活かしましょう。
受け取った共済金を再起業に利用できる?
小規模企業共済の共済金は、個人事業主が廃業時に受け取る退職金的性格の資金ですが、その使途に制限はありません。そのため、受け取った共済金を再起業の資金として活用することも可能です。実際、多くの方がこの共済金をもとに新たな事業の立ち上げや法人化の資金に充てています。
共済金AやBの一括受け取りは原則として退職所得に分類され、税制上の控除が適用されるため、税負担が軽くまとまった金額を手元に残せる点も再起業において大きなメリットです。さらに、再度個人事業を開始したり、新たに法人を設立したりする場合には、条件を満たせば再加入も可能です。ただし、以前に受け取った共済金が退職所得として扱われていた場合、次回の退職金受給時には退職所得控除の通算ルールに注意が必要です(前年以前9年以内の再受給は控除枠が圧縮される可能性があります)。
共済金は単なる退職金にとどまらず、再スタートの資金としても活用できる柔軟な資金です。再起業を検討する際は、生活費とのバランスを取りつつ、計画的な資金活用を心がけましょう。
小規模企業共済を廃業時に賢く活用しよう
小規模企業共済は、個人事業主が廃業や引退時に受け取れる退職金制度として、大きな節税効果と資金的安心を提供します。受け取り理由やタイミングによって共済金額や税負担が大きく変わるため、制度を正しく理解し、廃業届の提出や受取方法を慎重に選ぶことが重要です。制度を上手に活用すれば、老後資金や再起業資金として大きな力になるでしょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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