- 更新日 : 2024年10月17日
一人親方や大工はインボイス制度にどう対応すべき?業務効率化まで解説
インボイス制度が開始され、さまざまな業界に影響をおよぼしました。対応に迫られた一人親方や大工の方もいるでしょう。
インボイス制度について理解し、適切な対応をするにはどうすればよいか、一人親方や大工の方がこれだけは押さえておきたい、というポイントを紹介します。
目次
一人親方・大工がインボイス制度において対応すべきこと
インボイス制度に関連して、課税事業者や免税事業者は、消費税の課税関係を表します。
課税事業者とは、消費税の課税対象となる事業者(会社などの法人や個人で事業を営む個人事業主)のことです。各事業年度または各年の消費税の計算を行った結果、納めるべき消費税がある場合は、消費税を納付しなければなりません。
免税事業者とは、消費税の納税義務が免除される事業者のことです。基準期間(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円以下、かつ特定期間(個人事業主の場合は前々年の1月1日から6月30日までの期間)の課税売上が1,000万円以下の場合は、任意で課税事業者を選択しない限り、免税事業者として消費税の申告や納付が免除されます。
課税事業者の場合
インボイスを発行できる適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)は、課税事業者のみが登録できる制度です。インボイスを発行するかどうかは事業者の任意であるため、課税事業者は、適格請求書発行事業者になるかどうかを検討する必要があります。適格請求書発行事業者の登録を受ける場合は、主に以下の対応が必要です。
- 適格請求書発行事業者の登録申請を行う
- 登録後に売上先にインボイスの交付について共有する
- インボイスの要件を満たした適格請求書を発行する
- インボイスの保存方法を検討する
- 仕入や経費についてはインボイスが必要な取引を区分する
- 受け取った請求書をインボイスの登録の有無で区分できるようにするなど
免税事業者の場合
インボイスを発行できる適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、課税事業者にならなければなりません。そのため免税事業者は、まず適格請求書発行事業者になるべきかどうかを検討する必要があります。
登録を受けるかどうかの判断基準の一つは、売上先がインボイスを必要としているかどうかです。インボイスの保存は消費税の仕入税額控除に関わるため、消費税の課税事業者で原則課税を適用している事業者の場合は必要になります。つまり、売上先が消費者、免税事業者、簡易課税を選択する課税事業者の場合は、インボイスの発行は必須ではありません。
免税事業者が、売上先との関係などから課税事業者を選択する場合は、適格請求書発行事業者の登録申請を行います。
令和5年10月1日から令和11年9月30日までに適格請求書発行事業者の登録申請を行う場合は、消費税課税事業者選択届出書を別途提出する必要はありません。
そもそもインボイス制度とは
インボイス制度は、消費税が複数税率になったことで導入された、消費税の計算に関わる仕入税額控除の方式です。
消費税とは商品・製品の販売やサービス提供などのさまざまな取引に対し課せられる税のことで、「間接税」に分類されます。
例えばスーパーの場合、消費税を支払うのは商品を購入した側ですが、実際に消費税を納めるのはスーパーで、これが間接税の仕組みです。
消費税の課税事業者が申告して納める消費税額は、二重課税にならないように「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入れ等に係る消費税額」を差し引いて求めます。
例えば、ある事業者の取引が「売上額70,000円+消費税額7,000円」と「仕入額50,000円+消費税額5,000円」だった場合、納める消費税額は7,000円-5,000円の2,000円です。
仕入れに対する消費税を差し引くことを「仕入税額控除」と呼びます。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間には簡易課税制度も適用できますが、原則的に課税期間ごとに消費税額を算出して申告します。
インボイス制度が開始されたことで、事業者が仕入税額控除を行うためには、原則的にその根拠としてインボイス(適格請求書)を保存することが必要になりました。
事業者がインボイスを発行するには適格請求書発行事業者の登録が必要で、建設やその他の現場で事業を行う一人親方も、適格請求書発行事業者にならなければインボイスは発行できません。
インボイス制度の詳しい内容は、以下の記事で解説しています。
インボイス制度に対応した請求書テンプレート
「マネーフォワード クラウド請求書」では、インボイス制度に対応したエクセル形式のテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
インボイス制度に対応した請求書作成ソフトは、「マネーフォワード クラウド請求書」が便利です。簡単にインボイス制度対応の請求書を作成できるだけでなく、会計ソフトとの連携や、電子帳簿保存法に対応した方式による保存もできます。
インボイス制度が一人親方・大工に与える影響
インボイス制度と一人親方には、深い関わりがあります。「インボイス制度はよくわからないけど、何とかなるだろう」と思っている一人親方は、仕事が減って収入減に対応できなくなる可能性もあります。ここでは、インボイス制度と一人親方の関わりについて解説します。
なお、インボイス制度と一人親方・大工との関係については、下記の動画でも解説しています。
インボイスの発行を求められる可能性がある
適格請求書発行事業者に登録せずに免税事業者のままでいても、相手先がこれまで通り支払いを行う際に問題はありません。しかし、相手先が課税事業者である場合は、仕入税額控除のためにインボイスの交付を求められる可能性があります。
したがって、これまでどおりの取引を続けるには、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出して、インボイス登録事業者になるほうが無難という考え方もあります。
免税事業者からの変更は消費税の申告や納付が必要になる
免税事業者には消費税の納税義務がないため、消費税の申告をする必要はありません。しかし、免税事業者が適格請求書発行事業者に登録すると自動的に課税事業者になるため、登録日以降の取引については消費税の申告や納付の義務が生じます。
つまり、消費税申告のための事務負担が生じるだけでなく、消費税の納付による税負担の増加も予想されるということです。
事務負担を軽減するには、消費税申告に対応する会計ソフトの導入などを検討する必要があります。
税負担については、免税事業者が適格請求書発行事業者になることによる負担を軽減するために、2割特例が創設されました。2割特例は、売上税額の一律2割を消費税の納付税額とする制度です。
2割特例は免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者が対象で、令和5年10月1日から令和8年9月30日まで、原則課税、簡易課税を選択して適用できます。
企業からの仕事の依頼が減少する可能性がある
下請けとして企業から仕事を受注している一人親方で、取引先の企業が原則課税の適格請求書発行事業者である場合は、仕事が減少する可能性が指摘されています。
事業者が消費税の原則課税で仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスを保存しておく必要があるからです。
経過措置として、インボイスを発行できない免税事業者との取引でも、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは課税仕入の80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは課税仕入の50%を仕入税額控除できることになっています。しかし、令和11年10月1日以降は仕入税額控除が認められません。
仕入税額控除が認められないということは、原則課税の課税事業者は、控除できない分を実質的に負担する必要があるということです。一人親方が免税事業者のままでいる場合は、仕入税額控除ができないことを理由に、取引先からの仕事が減少する可能性があります。また、仕事が減少しない場合であっても、取引条件の見直しを求められる可能性も考えられます。
取引先が仕入税額控除などを理由に、一方的に取引の停止や条件の見直しを通告した場合には独占禁止法などに抵触する可能性がありますが、双方が同意している場合は抵触しません。
課税事業者でも適格請求書発行事業者の登録が必要
年間課税売上1,000万円を超えた課税事業者である一人親方がインボイスを発行するには、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出するだけで手続きが終了します。逆にいえば、課税事業者であろうと、登録しなければインボイスは発行できません。
大まかな流れは、以下の通りです。
- 納税地を管轄する税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する
- 税務署の審査後、登録名簿に登録され公表される(インターネット上で確認可能)
- 税務署から登録完了の旨や登録番号が通知される
手数料は無料です。登録は任意ですが、もともと消費税の申告義務がある課税事業者にとっては、登録するデメリットは手続きに時間がかかるだけです。何もなければ登録を済ませておきましょう。
適格請求書発行事業者は適格請求書を発行しなければならない
3万円未満の自動販売機での販売など、発行が困難と認められる一定の場合を除き、適格請求書発行事業者には、適格請求書の交付が義務付けられます。相手方が課税事業者で、交付を求められた場合は、適格請求書を作成して交付しなければなりません。
適格請求書に記載しなければならない項目が定められています。適格請求書発行事業者に登録した場合は、適格請求書の要件を満たすテンプレートの作成や請求書発行システムの導入なども検討する必要があるでしょう。
偽装請負の一人親方・大工とインボイスについて
一人親方の働き方には「偽装請負の一人親方」という問題が潜んでいます。偽装請負の一人親方とは、法人が高額の社会保険料の支払いを免れるために社員を一人親方(個人事業主)に転換させ、社員と同じように働かせることです。
一人親方(個人事業主)だと社会保険料の負担はありませんが、社員だと会社負担となる社会保険料が発生します。
一人親方にされた元社員は業務負担が社員時代と変わらないにもかかわらず、社会保険や残業代、福利厚生などの恩恵が受けられないという問題が発生していました。
しかし、インボイス制度の導入によって、一人親方か社員かという問題は以下のように整理することが可能になります。
- インボイス登録をした一人親方であれば、請負契約に基づく下請け業者である。
法人は、交付されたインボイスに基づき、仕入税額控除ができる。 - インボイス登録をしない場合には雇用関係に基づく社員であることを相互に確認し、社員は社会保険の対象となる。
一人親方や大工がインボイス制度に関して注意する点は?
一人親方がインボイス制度に関して注意する点は、以下の通りです。
<免税事業者のままでいる場合>
今まで請求できていた消費税相当額がなくなることを前提とした資金繰りを行う(交渉後に収入額や設備投資できる額が減ることを考慮する)
<インボイス登録事業者となる場合>
- インボイスに対応した証憑書類(請求書や領収書など)の書式を見直す
- インボイスの書き方を理解する
- 新しい会計ソフト導入を視野に入れる
など
収入面、作業面の両方でさまざまな影響が出ます。不安がある場合は専門家へ相談するなど、第三者に頼ることも考えておきましょう。
インボイス制度対応を効率化するポイント
インボイス制度対応で、負担が増加する部分を効率化するための3つのポイントを紹介します。
インボイスの発行
適格請求書には、以下の記載事項が含まれている必要があります。
- 発行者の氏名または名称
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 取引の年月日
- 取引の内容
- 適用税率と税率ごとに区分した合計金額
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付先の事業者の氏名または名称
従来の区分記載請求書等保存方式から増えた項目もあるため、どのように適格請求書を作成すべきか迷うこともあるかもしれません。
記載事項を適切に満たした適格請求書を発行する際には、適格請求書を簡単に発行できるツールが便利です。
マネーフォワード クラウドなら、フォームに従って入力するだけでインボイスの要件を満たす請求書を簡単に作成できます。また、メールやPDF出力、郵送代行による送付も可能です。
適格請求書発行事業者の判定
課税事業者が仕入税額控除の適用を受けるには、インボイスの保存が必要です。インボイス以外の交付を受ける場合は、適用できる仕入税額控除の割合がインボイスと異なります。
つまり、仕入税額控除を適切に計算するためには、適格請求書発行事業者とそうでない事業者の判定を行わなければなりません。
手動で判定を行う場合は、国税庁の公表サイトに登録情報があるか、適格請求書が適切に発行されているかを、その都度確認する必要があります。また、適格請求書発行事業者の登録は取り下げも可能であるため、既存の取引先でも定期的に確認しなければなりません。
マネーフォワード クラウドなら、アップロードした請求書や領収書、他社サービスから自動で取得したデータから、インボイスの要件を満たしているか、国税庁の公表サイトに登録情報があるかを自動で判定できるため、都度登録情報などを確認する手間がかかりません。
消費税の申告
インボイス対応のために免税事業者から課税事業者になる場合は、消費税の申告のための計算や申告書作成の負担が生じます。消費税申告に関わる事務を効率化するには、消費税申告書の作成をスムーズにできるツールが便利です。
マネーフォワード クラウドなら、法人向けのクラウド会計、個人事業主向けのクラウド確定申告のどちらも消費税の申告に対応しています。
クラウド会計やクラウド確定申告で税率ごとの消費税の集計ができる他、フォームに沿って入力するだけで消費税申告書を作成できるため、消費税申告の負担軽減を図れます。作成した消費税の確定申告書は、PDFやe-Tax用ファイルとして出力して提出できます。
インボイス制度に対応するならマネーフォワード クラウド
一人親方にとって、インボイス制度は仕事数や収入に直接関わる重要な制度です。課税事業者であろうと免税事業者であろうと、必ず仕事に影響を与えます。
「自分はインボイスを発行できる課税事業者になるのか、免税事業者のままでいるのか」を含め、インボイス制度への対応についてはしっかりと検討しておきましょう。
マネーフォワード クラウドなら、適格請求書発行事業者の登録が簡単にでき、インボイス制度に対応した適格請求書も発行できます。さらに、発行した請求書は電子帳簿保存法の要件に則して「マネーフォワード クラウドBox」に自動で保存されます。
インボイス制度への対応については経過措置もありますので、よく考えてから決めましょう。インボイス事業者になるほうが明らかによい場合には、できるだけ早く取り組んでください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
インボイス制度の関連記事
新着記事
消費税課税事業者選択不適用届出書とは?必要なケースや作り方を解説
消費税課税事業者選択不適用届出書とは、課税事業者が免税事業者に戻る際に提出する書類を指します。課税事業者となってから一定期間を経過してからでないと提出できない点に、注意が必要です。 届出書には、届出者や課税売上高などの情報を記載します。本記…
詳しくみる患者宛の送付状の例文、無料テンプレートや書き方を解説
病院から患者様へ検査結果や請求書などを郵送する際には、書類の内容が一目で分かるよう、送付状を添えるのがビジネスマナーです。この記事では、病院から患者様へ書類を送付する際の送付状(添え状)の例文やテンプレート、書き方を紹介しています。 また、…
詳しくみる新規営業DMに添える送付状の例文、テンプレート、書き方を解説
新規のお客様にDM(ダイレクトメール)やパンフレット、商品カタログを郵送する際には、送付状を添えることで、企業の丁寧な姿勢が伝わり、ブランドイメージの向上にもつながります。 この記事では、新規営業DMに送付状を添える役割や、販売戦略のための…
詳しくみるお礼状の送付状(添え状)の例文集・メッセージや無料テンプレート、書き方を解説
取引先やお客様にお礼状を送る際の送付状には、感謝の気持ちを伝える役割があります。お礼状を書く場面には、贈り物をいただいたときや取引先からのご支援、就職活動の面接後など、さまざまなシチュエーションがあります。お礼状は日頃のご支援やご厚意に対す…
詳しくみる年末カレンダーに添える送付状の例文、テンプレート、書き方を解説
年末に送るカレンダーには、今年一年の感謝を伝えるとともに、新年のご挨拶の意味も込められています。年末カレンダーを郵送する際には、感謝の気持ちや新年のご挨拶をより丁寧にお伝えするために、送付状を添えると良いでしょう。 この記事では、年末カレン…
詳しくみる広報誌の送付状の例文、無料テンプレート、書き方を解説
広報誌を郵送する際は、送付状を添えることで、送付の目的や内容を相手に簡潔に伝えられます。送付状に記載する宛名のマナーや敬称の使い分け、挨拶文の具体的な例文や書き方のポイントを解説します。 また、今すぐ使える広報誌の送付状の無料テンプレートも…
詳しくみる