• 更新日 : 2023年6月27日

一人親方や大工が確認すべきインボイス制度とは?課税事業者や免税事業者の対応を解説

一人親方や大工が確認すべきインボイス制度とは?課税事業者や免税事業者の対応を解説

2023年10月1日導入開始のインボイス制度は、さまざまな事業者にとって大きな制度変更です。

特に契約書がない一人親方の場合、発注元での扱いが外注費か給与かは大きな問題です。当記事ではインボイス制度の概要と一人親方や大工との関係、一人親方や大工がインボイス制度に関して備えておくべき準備について解説します。

インボイス制度とは

インボイス制度は、消費税が複数税率になったことにより制定された、新しい仕入税額控除の方式です。まずは消費税の仕組みとインボイス制度の概要をおさらいしておきましょう。

一人親方や大工がおさらいしておきたい消費税の仕組みについて

消費税とは商品・製品の販売やそのほかのサービス提供などのさまざまな取引に対し、公平に課せられる税です。消費税は税金を負担する方(消費者)と税金を納める方(事業者)が異なる「間接税」に分類されます。

例えば、スーパーで商品を買うとき、消費税を支払うのは商品を購入した方ですが、実際に税金を納めるのはスーパーです。これが間接税の仕組みになります。一方、自分で税額を申告して納める税金は「直接税」と呼ばれ、所得税や法人税が該当します。

消費税は2019年10月1日より、一部の飲食料品や新聞に課せられる軽減税率と、それ以外の標準税率に分かれました。それぞれの税率は次のとおりです。

  • 軽減税率:8%(消費税率6.24%、地方消費税率1.76%)
  • 標準税率:10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)

消費税を徴収して納める義務があるのは、基準期間もしくは特定期間中の課税売上が1,000万円を超えた事業者である「課税事業者」です。個人事業主と法人それぞれの基準期間と特定期間を確認していきましょう。

基準期間特定期間
個人事業主前々年の1月1日~12月31日前年の1月1日~6月30日
法人前々事業年度前事業年度開始以後の6ヶ月間

上記の期間に課税売上高が1,000万円超に当てはまらない場合は「免税事業者」となり、消費税の納付義務が免除されます。もし免税事業者が消費税を受け取っていた場合でも、消費税を納める必要はありません。

課税事業者が申告して納める消費税額は、二重課税にならないように「課税売上に係る消費税額」から「課税仕入れ等に係る消費税額」を差し引いて納税額を求めます。

例えば、ある事業者の取引が「売上額70,000円+消費税額7,000円」と「仕入れ額50,000円+消費税額5,000円」だった場合、納める消費税額は7,000円-5,000円の2,000円です。仕入れに係る消費税を差し引くことを「仕入税額控除」と呼びます。

消費税及び地方消費税の負担と納税の流れ

引用:消費税のしくみ|国税庁

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間には簡易課税制度の適用も可能ですが、原則としては課税期間ごとに税額を算出して申告します。

ここまでが従来の消費税および仕入税額控除の仕組みです。しかし、インボイス制度が適用されると、仕入税額控除を行うためにはその根拠として原則としてインボイス(適格請求書)の保存が必要になります。

インボイス制度の概要

まず、2019年9月30日まで適用されていた「請求書等保存方式」に代わる新しい制度として、2019年10月1日からは複数税率に対応した「区分記載請求書等保存方式」となりました。そして今回、2023年10月1日からは「適格請求書保存方式(インボイス方式)」となります。これまで消費税の仕入税額控除は帳簿や請求書等の保存をしていれば適用できましたが、インボイス制度が始まると仕入税額控除するためにはインボイス(適格請求書)の保存が必要になります。

「区分記載請求書等保存方式」において仕入税額控除を受けるためには記帳のほか、以下の情報が記載されている請求書や領収書の保存が必要でした。

  • 請求書や領収書発行者の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の場合にはその対象であることが分かる旨)
  • 対価を税率ごとに区分して合計した金額
  • 交付を受ける者の氏名または名称

インボイスとして認められるには、上記の「区分記載請求書」の記載内容にプラスして以下の情報を記載しなければなりません。

  • インボイス発行者の氏名または名称と登録番号
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額の適用税率(8%と10%のこと)
  • 税率ごとに区分した消費税額等(8%と10%のそれぞれの税額のこと)

インボイスを発行するには「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」として税務署に登録をする必要があります。

もちろん建設やそのほかの現場で事業を行う一人親方も、インボイス発行事業者にならなければインボイスは発行できません。

インボイス制度についての詳しい内容は、以下の記事にて解説しています。

インボイス制度と一人親方・大工の関わり

インボイス制度と一人親方には非常に深い関わりが存在します。「インボイス制度はよく分からないけど、なんとかなるだろう」と思っている一人親方は、仕事が激減して収入減に対応できない問題が発生する可能性もあります。インボイス制度と一人親方の関わりについて解説します。
なお、インボイス制度と一人親方・大工との関係については下記の動画でも解説しています。

一人親方同士の仕事依頼がしづらくなる?

「一人親方同士の仕事依頼がしづらくなる」というのは、具体的には「インボイスを発行できない免税事業者の一人親方へ依頼すると、消費税を支払う際に仕入れに係る消費税を差し引くことができない」ということです。すなわち、消費税の負担が増える結果になります。

例えば、税別50万円で仕事を依頼した場合、一人親方に支払う金額は消費税10%をプラスした55万円です。

取引先から見ると、これまでなら消費税5万円分は仕入税額控除として売上にかかる消費税額から差し引けました。しかし、免税事業者のままの一人親方相手の場合、インボイスの交付が受けられないため、支払った5万円分が控除できません。結果的に5万円の費用が、追加で発生するわけです。(ただし、インボイス開始後6年間は経過措置があります。)

インボイスを発行できる法人や一人親方が相手の場合は、これまで通り仕入税額控除が適用できます。そのため、今後仕事を依頼するときには「免税事業者の一人親方は損だから止めておこう」となる可能性がでてきます。

こうした事情から「免税事業者の一人親方へ依頼する仕事が減るのでは?」という懸念が出ているのです。実際に余計な支払いを免れるために取引先や取引条件を見直したり、下請けや業務委託先に課税事業者となるよう働きかけたりする動きが見られます。

しかし、その働きかけが形式的なものであったり、著しく低い価格を設定したりすることは、優越的地位の濫用にあたり、独占禁止法上や下請法上の問題となります。

参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A|公正取引委員会

年間売上1,000万円超の課税事業者の場合

年間課税売上1,000万円を超えた課税事業者である一人親方がインボイスを発行するには、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出するだけで手続きが終了します。逆にいえば、課税事業者であろうと、登録しなければインボイスは発行できません。

大まかな流れは次のとおりです。

  1. 納税地を管轄する税務署に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する
  2. 税務署の審査後、登録名簿に登録され公表される(インターネット上で確認可能)
  3. 税務署から登録の旨や登録番号が通知される

手数料は無料です。登録は任意ですが、もともと消費税申告の義務がある課税事業者にとっては、登録するデメリットは手続きに時間がかかるだけです。何もなければ登録を済ませておきましょう。

売上1,000万円以下の免税事業者でも消費税を納税する?

適格請求書発行事業者に登録せずに免税事業者のままでも、相手先が支払い応じる場合にはなにも問題はありません。しかし、相手先が課税事業者である場合は、仕入税額控除のためにインボイスを求める可能性があります。したがって、これまでどおりの取引を続けるには適格請求書発行事業者の登録申請書を提出してインボイス登録事業者になるほうが無難との考え方もあります。

しかし、インボイス登録事業者になると、例え基準期間や特定期間で売上1,000万円を超えていなくても消費税申告と納税、帳簿付けの義務が発生します。資金繰り的には厳しい状況になると考えられます。

偽装請負の一人親方・大工とインボイスについて

一人親方の働き方に関しては「偽装請負の一人親方」という問題が潜んでいます。偽装請負の一人親方とは、法人が高額の社会保険料の支払いを免れるために社員を一人親方(個人事業主)に転換させ、社員と同じように働かせることです。

つまり、一人親方(個人事業主)だと社会保険料の負担はないけれど、社員では会社負担となる社会保険料が発生するのです。

一人親方にされた元社員は業務負担が社員時代と変わらないにもかかわらず、社会保険や残業代、そのほかの福利厚生などの恩恵が受けられない問題が発生していました。法人の支払い負担だけ免れている形です。

しかし、インボイス制度の導入によって、一人親方か社員かという問題は次のように整理することが可能となります。

  • インボイス登録をした一人親方であれば、請負契約に基づく下請け業者である。
    法人は、交付されたインボイスに基づき、仕入税額控除ができる。
  • インボイス登録をしない場合には雇用関係に基づく社員であることを相互に確認し、社員は社会保険の対象となる。

一人親方や大工がインボイス制度に関して注意する点は?

一人親方がインボイス制度に関して注意する点は次のとおりです。

<免税事業者のままでいる場合>

  • 今まで請求できていた消費税相当額がなくなることを前提とした資金繰りを行う(交渉後に収入額や設備投資できる額が減ることを考慮する)

<インボイス登録事業者となる場合>

  • インボイスに対応した証憑書類(請求書や領収書など)の書式を見直す
  • インボイスの書き方を理解する
  • 新しい会計ソフト導入を視野に入れる
  • など

収入面や作業面の両方でさまざまな影響が出ます。もし不安がある場合は専門家へ相談するなど第三者の力を頼ることも考えておきましょう。

インボイス制度に対応した請求書テンプレート

「マネーフォワード クラウド請求書」では、インボイス制度に対応したエクセル形式のテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。

インボイス制度に対応した請求書作成ソフトは、「マネーフォワード クラウド請求書」が便利です。簡単にインボイス制度対応の請求書を作成できるだけでなく、会計ソフトとの連携、電子帳簿保存法に対応した方式による保存までできます。

インボイス制度に対応するならマネーフォワード クラウド

一人親方にとってインボイス制度は、仕事数や収入に直接関わる重要な制度です。課税事業者であろうと免税事業者であろうと必ず仕事に影響を与えます。

「自分はインボイスを発行できる課税事業者になるのか、免税事業者のままでいるのか」を含め、インボイス制度への対応についてはしっかりと検討しておきましょう。

マネーフォワード クラウドなら、適格請求書発行事業者の登録が簡単にできるうえ、インボイス制度に対応した適格請求書も発行可能となります。さらに、発行した請求書は電子帳簿保存法の要件に則して「マネーフォワード クラウドBox」に自動で保存されます。

インボイス制度への対応については経過措置もありますので、よく考えてからにしましょう。
また、明らかにインボイス制度導入とともにインボイス事業者になるほうがよい場合には、できるだけ早く取り組みましょう。

よくある質問

インボイス制度とは?

消費税が複数税率なったことにより制定された「区分記載請求書」に代わる新しい仕入税額控除の方式です。詳しくはこちらをご覧ください。

インボイス制度と一人親方・大工の関わりは?

年間売上1,000万円超の課税事業者である一人親方がインボイスを発行するには、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出するだけで手続きが終了します。詳しくはこちらをご覧ください。

一人親方や大工がインボイス制度に関して注意する点は?

まずは取引先との話合いを進めること、インボイスを導入する場合には対応した証憑書類の書式を見直すこと、新しい会計ソフト導入を視野に入れることなどがあります。詳しくはこちらをご覧ください。


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