- 更新日 : 2024年11月15日
税込1万円未満の取引はインボイスの保存が不要?少額特例について解説
小規模事業者は、税込1万円未満の取引についてインボイスの保存が不要です。これはインボイス制度における少額特例によるもので、小規模事業者の事務負担を大幅に軽減できる制度です。
本記事では、少額特例の適用要件や対象事業者、経過措置についてわかりやすく解説します。少額特例を正しく理解し、税務処理をスムーズに行うためのポイントを押さえましょう。
目次
少額特例とは?
少額特例とは、課税事業者が税込1万円未満の課税仕入れを行った場合に、インボイスの保存をしなくても仕入税額控除が認められる制度です。少額特例の目的は、小規模事業者がインボイス制度に対応する際の事務的な負担を軽減することにあります。
対象となるのは、一定の売上規模以下の事業者です。なお、少額特例はインボイス制度運用開始による負担増加を緩和するための経過措置であるため、適用期間の定めがあります。
以下で、詳しくみていきましょう。
適用要件
少額特例が適用されるのは、税込1万円未満の課税仕入れが対象です。インボイスの保存が不要となる一方で、課税仕入れに関する帳簿の保存は必須です。この特例を利用する際には、正確な取引記録が求められ、事業者としての義務を守りながらも、負担軽減が可能です。
なお、帳簿の記載要件について、詳しくは後述します。
対象事業者
少額特例の対象事業者は、基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者です。なお、特定期間における課税売上高の算定においては、納税義務判定とは異なり、給与支払額の合計を基準にすることは認められていません。
少額特例における「基準期間」は法人の場合はその事業年度の前々事業年度、個人事業者の場合はその年の前々年です。「特定期間」はまた別であり、法人は前事業年度の開始の日から6月までの期間、個人事業者は前年1月から6月までの期間を指します。
少額特例の対象となる事業者は、特例を適用する際に正確な売上規模の確認を行い、適切な手続きを踏む必要があります。
適用期間
少額特例は時限措置であり、2023年10月1日から2029年9月30日までの期間に行う課税仕入れが対象です。この期間を過ぎれば、課税期間の途中であっても少額特例の対象にはなりません。
参考:国税庁 少額特例
少額特例を適用する場合の帳簿記載要件
少額特例を適用する場合、インボイスの保存は不要ですが、次の内容を記載した帳簿を保存することが必要です。
- 課税仕入れの相手方の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
- 課税仕入れに係る支払対価
少額特例は適用条件を満たしていれば、この帳簿の記載以外に必要とされる特段の手続きはありません。
参考:国税庁 少額特例
免税事業者から仕入れた場合は少額特例の対象になる?
少額特例は課税事業者の仕入れに適用されるものであり、仕入れ先が課税業者か免税業者かで扱いが変わることはありません。仕入れ先が課税業者、免税業者のいずれでも適用条件を満たせば対象になります。
インボイス制度の原則としては、免税事業者からの仕入れは適格請求書が発行されないため仕入税額控除の対象外です。しかし、制度の運用開始による急激な変化を緩和する目的で経過措置が設けられているため、当面は免税事業者から仕入れた場合でも仕入税額控除の対象になるのです。
以下で、経過措置の概要について詳しくみていきましょう。
経過措置の概要
免税業者からの課税仕入れについて、税込み1万円未満の仕入れであれば少額特例によって全額控除が可能です。
1万円以上の課税仕入れの場合は、少額特例ではなく仕入税額控除の経過措置の対象です。経過措置の期間は2023年10月1日~2029年9月30日までで、控除割合は時期によって異なります。
2023年10月1日〜2026年9月30日は仕入税額相当額の80%、2026年10月1日〜2029年9月30日は仕入税額相当額の50%が控除されます。段階的に負担額が増え、2029年10月1日以降仕入税額控除は受けられません。
適用条件
経過措置の適用には以下の条件を満たす必要があります。
- 区分記載請求書の記載事項を満たした請求書の交付・保存
- 必要事項を記載した帳簿の保存(売り手の氏名、取引日、内容、経過措置適用の旨など)
帳簿は消費税率によって区分した区分記載請求書等保存方式での記載に加え、経過措置の適用を受ける旨を記載しなければなりません。これを忘れると適用外になります。
注意点
仕入税額控除の経過措置は2029年9月30日までですが、令和6年度の税制改正によってこの経過措置の見直しが行われました。その結果、2024年10月1日以降、一免税事業者等からの年間仕入れが10億円を超える部分については、経過措置が適用されなくなったため、注意が必要です。
制度をよく理解し、この規定に触れる可能性がある場合は仕入れ先や仕入れ額などを十分に管理しておく必要があるといえるでしょう。
少額特例の注意点
少額特例を適用する際には、対象取引や条件を正確に把握する必要があります。誤った適用は後の税務処理で問題となる可能性が否定できません。
ここでは、少額特例についての注意点を解説します。
インボイス交付の義務は免除されない
少額特例が適用されている取引であっても、取引相手からインボイスの交付を求められた場合は発行する必要があります。少額特例は対象となるインボイスの保存が免除される制度であり、発行義務が免除される制度ではないためです。
適格請求書発行事業者は、インボイスの交付を求められた場合は拒否できません。この点には注意しましょう。
税込1万円未満の判定基準は取引ごとに適用される
少額特例の適用において、1万円未満かどうかの判定は商品の単価ではなく、取引ごとで判定されます。
たとえば、3,000円の商品を1度に4個に仕入れた場合、1度の取引における取引額は1万2,000円となり1万円を超えるため、少額特例の対象外です。ただし、この商品を2回に分けて2個ずつ購入した場合は1度の取引額は6,000円であるため、少額特例対象と判定されます。
少額特例と2割特例の違い
インボイス制度にまつわる特例措置には、2割特例というものもあります。少額特例と2割特例は異なる制度であり、目的や対象が異なります。
少額特例
先にも述べたとおり、少額特例の目的は主に小規模事業者の事務負担軽減です。対象となる事業者は基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下の小規模事業者に限られ、対象取引は税込1万円未満の課税仕入れです。
対象の仕入れにおいては、インボイス保存は必要ありません。簡易な帳簿管理で仕入税額控除が可能になる制度であり、適用期間は2023年10月1日~2029年9月30日までです。
2割特例
対して2割特例の目的は免税事業者から課税事業者への移行時の負担軽減であり、対象となるのはインボイス制度の導入をきっかけに免税事業者から課税事業者に転換した事業者です。それまで免税業者であったことが条件であるため、実質的には個人事業者や小規模事業者がほとんどではありますが、事業規模の適用条件はありません。
2割特例は、該当の事業者の消費税納税額が売上税額の2割に軽減されること、申告が簡素化されるものであり、主に税負担と事務作業の負担軽減がメリットです。適用期間は2023年10月1日~2026年9月30日までで、少額特例よりも短くなっています。
このように、目的や対象、内容が大きく異なり、インボイス関連の制度ということを除けばあまり共通点はありません。
少額特例と少額な返還インボイスの交付義務免除との違い
「少額な返還インボイスの交付義務免除」は、使用されている言葉が少額特例と似ているため混同されることが多いですが、別の制度です。
少額特例は、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者を対象とし、税込1万円未満の取引に対してインボイスの保存が不要となる制度です。
一方、返還インボイスの交付義務免除は、すべての事業者が対象で、期間の定めはありません。制度の内容は税込1万円未満の返品や値引き、割戻しなどに関連する取引について、返還インボイスの交付が免除されるというものです。
少額特例は特定の条件を満たす事業者に対する一時的な措置であるのに対し、返還インボイスの交付義務免除はすべての事業者に適用される、適用期間の定めがない制度であることが大きな違いといえるでしょう。
インボイス制度や少額特例について正しく理解しよう
インボイス制度に関する特例措置などは複数あり、似ている名称のケースもあるため混乱することもあるかもしれません。しかし、正しい理解が事務作業の負担や税負担を減らすことにつながるため、それぞれの内容を理解して適切に対応することが大切です。
また、インボイス制度関連の法律は今後も何らかの改正がある可能性が高いため、日ごろから動きを注視しておくべきといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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