- 更新日 : 2024年10月21日
卸売業者が知っておきたいインボイス制度!卸売市場特例とは?
あらゆる業種が対象となるインボイス制度ですが、この記事では卸売業者にフォーカスしてポイントをまとめました。インボイス制度を理解するために必要な適格請求書発行事業者、免税事業者などの基本用語についても解説しています。また、条件を満たせば活用できる「卸売市場特例」の概要も紹介しています。ぜひ参考にしてください。
目次
卸売業者が知っておくべきインボイス制度
まずは、卸売業者が知っておくべきインボイス制度の基本を確認していきましょう。インボイス制度は免税事業者への影響がとても大きい制度です。免税事業者のインボイス制度対策が必要になる理由や、卸売業者が適格請求書発行事業者になるために取るべき手続きについて解説しますので、必ず理解しておくようにしてください。
そもそもインボイス制度とは
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。インボイス制度に適合した請求書でなければ従来の仕入税額控除が受けられなくなることから、事業者(特にインボイス制度への対応が難しい免税事業者など)の中で話題になっています。
インボイス制度では、規定の要件を満たした請求書や納品書を交付し、受領者側で証拠資料として保存することが求められます。このような請求書は「適格請求書(インボイス)」と呼ばれ、適用税率や税額の明細など所定の事項が記載されているものでなければなりません。
適格請求書を見れば税額の明細がひと目で分かるため、正確な消費税額を算出できるようになります。インボイス制度はこのように、正しい消費税の納税を促すための制度なのです。今後課税業者は、インボイス制度に準拠した請求書で仕入税額控除を受けるか、そうでない場合は仕入税額控除が受けられないということになります。
インボイス制度について詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
適格請求書発行事業者とは
インボイス制度に対応した「適格請求書」を発行できるのは、適格請求書発行事業者だけです。適格請求書発行事業者とは、税務署の審査を経てインボイス制度の要件を満たしていると判断された事業者のことをいいます。
適格請求書には以下の項目が必要です。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
- 税率ごとに合計した対価の額および適用税率
- 税率ことに区分した消費税額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
上記項目1つ目の「登録番号」とは、税務署の審査を通過した適格請求書発行事業者に付与されるものです。適格請求書発行事業者でない場合は、請求書に登録番号の記載ができません。そのため、インボイス制度に対応した適格請求書を発行できないのです。
税務署が認める適格請求書発行事業者になるためには、課税事業者であることが条件です。(ただし、インボイス制度開始後一定期間における免税事業者の適格請求書発行事業者登録には経過措置があります。)
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者については消費税の納税が免除されており、消費税の納税をしていない「免税事業者」に分類されます。免税事業者は消費税を納めていないため、インボイス制度の対象とならず、適格請求書も発行できないこととされています。
インボイス制度導入後は、免税事業者の場合、仕入税額控除ができないことを理由に取引について見直しを要求される可能性があります。これまで上乗せ請求していた消費税分を値引きして免税事業者のままでいるのか、課税事業者になるかなどの検討を求められます。
参考:[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)丨国税庁
インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問8参照)
卸売業者が適格請求書発行事業者になるには
卸売業者が適格請求書発行事業者になる場合には、適格請求書発行事業者登録手続きを行う必要があります。
具体的には、納税地を所轄する税務署に申請書を提出し、税務署の審査を通過しなければなりません。マネーフォワード クラウドの「インボイス制度の登録申請」なら、適格請求書発行事業者の登録申請書をフォームに沿って入力するだけで簡単に作成できます。
税務署の審査を経て適格請求書発行事業者となった場合には、税務署から登録番号の通知があります。
なお、卸売業者には一定の条件を満たせばインボイスの交付が免除される「卸売市場特例」というものがあります。詳細は後ほど解説しますので、インボイス制度対応の参考にしてください。
取引の際に注意しておきたいこと
ここでは、インボイス制度導入後、取引先が適格請求書発行事業者であるかそうでないかでどのような違いが出てくるのかを解説します。どのような取引がインボイスでは不利益を受ける可能性があるのかをよく確認しておいてください。
適格請求書発行事業者と取引する場合
支払先がインボイス制度に対応した課税事業者である場合は、その支払先との取引においては仕入税額控除が可能となります。これまでの取引と税務上の取扱いは変わりません。従来通りに仕入税額控除の対象として処理してください。
注意点をとしては、登録番号が正しいか、発行された請求書がインボイス制度に対応した様式になっているかどうか確認しましょう。
免税事業者と取引する場合
支払先が免税事業者である限り、原則的にその支払先は適格請求書発行事業者にはなれません。原則として仕入税額控除はできなくなってしまいます(ただし、インボイス制度開始後6年間の経過措置はあります)。
参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問110参照)
例えば、免税事業者とそうでない業者から同じ金額で商品を仕入れたと仮定します。免税事業者の場合は仕入税額控除の対象とならないため、仕入時に支払った消費税額の分だけコストが高くつくことになります。
このように、卸売業者にとって消費税額分の差は非常に大きなものです。インボイス制度の導入を機に、今後の取引方針についても考える必要が出てくるかもしれません。
インボイス制度と免税事業者の関係はやや複雑なため、詳しく知りたい人はこちらの記事も参考にしてください。
卸売市場特例とは?
インボイス制度においては、事業の性質によってはインボイスの交付が困難であることから、インボイスの交付義務が免除されているものがあります。卸売市場において行う生鮮食料品等の販売などについてはインボイス交付が免除される「卸売市場特例」があります。
したがって卸売業に関わる業態の場合、インボイス制度の「卸売市場特例」が使える場合もあります。
この卸売市場特例とは、次の要件を満たす取引についてはインボイスの発行を免除し、その卸売市場にて作成・発行する書類の保存で仕入税額控除が可能となるものです。
- 卸売市場において
- 卸売の業務として行われる
- 生鮮食料品等の取引
卸売市場特例の対象となるのは生鮮食品、日常的に食べられる加工食品、花き、野菜や野菜の苗などのうち卸売市場や農協などに委託することを通じて取引される商品です。
卸売市場や農協を通じて販売される商品は、流通上の特性からどの生産者の農産物かを判断するのが困難です。そのため、課税事業者から出荷された商品かどうかを見分けることができません。
こうした状況を受けて、卸売市場や農協を通じて売買される生鮮食品や農産品については、生産者が適格請求書発行事業者でなくても卸売市場や農協が発行した書類で仕入税額控除が可能とされました。日頃から卸売市場や農協を中心に農作物を卸している生産者は、インボイス制度への対応が免除された形です。
卸売市場特例の適用可否は市場ごとに判断され、農林水産省のHPにて確認することができます。卸売市場特例の条件を満たした市場で対象商品を出荷すれば、適格請求書の交付義務が免除され、免税事業者であっても不利益を受けることがなくなります。
参考:適格請求書等保存方式(インボイス制度)における卸売市場特例の対象となる卸売市場について|農林水産省
卸売市場特例の適用範囲は限定的
卸売業者で免税事業者の場合、多くのケースでインボイス制度の検討が必要なことが分かったかと思います。
一部、卸売市場特例が使える場合もありますが、範囲が限られます。また、条件を満たした卸売市場や農協を通した取引でないと対象となりませんので、適用も限られます。
マネーフォワード クラウドなら、適格請求書発行事業者の登録が簡単にできるうえ、インボイス制度に対応した請求書も発行可能となる予定です。さらに、発行した請求書は電子帳簿保存法の要件に則して「マネーフォワード クラウドBox」に自動で保存されます。
特例の対象外である卸売業者がインボイス制度に対応するためには、施行スケジュールを確認し、準備を進めていくことが大切です。この機会に、マネーフォワード クラウドの導入を検討してみませんか?
よくある質問
卸売業者もインボイス制度への対応が求められますか?
生鮮食品、野菜、花き、政令で認められるもの以外の卸売業者は特例が受けられないため、これら以外についてはインボイス制度への対応が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
卸売市場特例とは?
卸売市場、農協等に販売委託する農林水産品の取引は、生産者が適格請求書等を発行することなく仕入税額控除を可能にする特例です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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