• 更新日 : 2023年7月18日

インボイス制度が学校法人に与える影響は?注意点まで解説

インボイス制度が学校法人に与える影響は?注意点まで解説

インボイス制度は自営業やフリーランスに影響が大きい制度というイメージがあるかもしれませんが、学校法人も例外ではありません。この記事では、インボイス制度の基本や学校法人とインボイス制度の関係、具体的な対応方法についてわかりやすく解説します。特に、現在免税事業者の学校法人はこの記事を参考にして対応を検討してください。

インボイス制度と学校法人の関係

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は学校法人にも無縁ではありません。個人事業主やフリーランスばかりが影響を受けると思われがちですが、学校法人は免税事業者であることが多く、インボイス制度の影響を受ける当事者となる可能性があります。この章ではインボイス制度の基本をまとめたので、全体像を把握することから始めましょう。

そもそもインボイス制度とは?

インボイス(適格請求書)という言葉を聞き慣れない人も多いと思いますが、そもそもインボイスとはどのような意味なのでしょうか。

インボイスとは、適用税率や税額の記載が義務付けられた請求書のことです。インボイス制度とは、この「記載義務を満たした請求書(=適格請求書)」を用いて消費税を正確に計算し、適切な納税を促す制度のことです。

インボイス制度が始まると、インボイスをもとにして消費税の仕入税額控除を計算することが求められます。インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日からの導入が決まっており、それまでに対応しようとする場合には準備しておかなければなりません。

また、インボイス制度が開始されると、課税事業者である取引の発注側は免税事業者からの仕入には仕入税額控除が適用できなくなります。そのため、制度開始後も免税事業者と同じ条件で取引を続けると、仕入税額控除ができないことにより消費税の納税額が増えてしまいます。

そのため、現在免税事業者である場合は発注側の課税事業者からインボイス制度開始後に仕入価格の値下げを求められたり、取引が打ち切られたりするなどの懸念があることは理解しておかなければなりません。

インボイス制度について詳しく知りたい人はこちらの記事も参考にしてください。


参考:インボイス制度の概要|国税庁

適格請求書の記載事項

適格請求書に必要な記載事項は以下の通りとなります。現在使われている区分記載請求書に追加で必要になるのは、「インボイス制度の登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの消費税額の合計」の3項目です。

  1. 発行者の氏名または名称
  2. 取引年月日
  3. 取引内容
  4. 受領者の氏名または名称
  5. 軽減税率の対象である旨の表記 (※マークなど、商品に軽減税率が適用されていることがわかる印を付けること)
  6. 適用税率ごとに区分した合計額(10%適用商品の合計額と8%適用商品の合計額を区分すること)
  7. インボイス発行事業者制度の登録番号
  8. 適用税率
  9. 適用税率ごとの消費税額の合計

区分記載請求書と適格請求書の違い

区分記載請求書は、軽減税率導入に合わせて発行が義務化された請求書です。2023年9月30日まで適用され、それ以降はインボイス制度の「適格請求書」に移行します。

従来の区分記載請求書に必要なのは、上記1~4に加えてその取引の内容が軽減税率の対象かどうかということと、8%及び10%それぞれの税込対価の額(上記5と6)です。なお、上記6については、税抜価額または税込価額を記載します。

これに加えて、インボイス制度開始後に適格請求書で必要になるのが「インボイス(適格請求書)発行事業者制度の登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの消費税額の合計」(上記7、8、9)です。

区分記載請求書に項目を追加する形で対応しましょう。

参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
   消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問1参照)

課税事業者と免税事業者の違い

すべての事業者は、消費税の課税事業者免税事業者の2つに分かれます。
そして、課税事業者においてもインボイス発行事業者とそうでない事業者に分かれます。

法人において、前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税が免除されています。このような事業者を免税事業者と言います。

一方、消費税の納税義務がある事業者のことを課税事業者と呼びます。免税事業者でない事業者はすべて課税事業者です。

免税事業者では「益税」が問題視されてきました。消費税の「益税」とは、免税事業者が取引先に消費税を請求すると、納税の必要がないため、消費税部分は免税事業者の利益になることを言います。これまでであれば、どちらか選べる場合には基本的に免税事業者のほうが金銭的メリットは大きくなっていました。ただし、インボイス制度導入後は実質的に益税が難しくなり、免税事業者であるメリットも少なくなります。

インボイス発行事業者は、課税売上高が1,000万円以下となっても、インボイスを発行する限りは課税事業者であり続けないとなりません。しかし、取引先にはインボイスが発行できるというメリットはあります。

これに対して課税事業者でもインボイス発行事業者を選択しないという方法もあります。この場合には、そもそもインボイスは発行しないけれども課税売上高が1,000万円以下になれば、原則として免税業者に戻ることが可能です。

免税事業者と課税事業者について詳しく知りたい人はこちらの記事も参考にしてください。

学校法人が受けるインボイス制度の影響

学校法人は消費税の免税事業者であることが多いため、インボイス制度が開始され、不利になることがないよう留意しなければなりません。ここでは、学校法人と消費税の関係、インボイス制度への対応方法を紹介します。学校法人が置かれた状況をまずは理解していきましょう。

免税事業者は適格請求書を発行できない

学校法人や公益法人は公益性の高い事業を行っているため、学校法人本来の所得については公共性の観点から原則として非課税とされています(ただし、教育ではない収益事業は課税対象)。したがって、学校法人で課税取引とされるものは一定の場合に限定されます。そのため、学校法人は免税事業者であるケースが比較的多いようです。

参考:No.6233 学校の授業料や入学検定料、教科用図書の譲渡など|国税庁

学校法人は、これまで免税事業者であることによってデメリットが発生することはありませんでした。しかし、インボイス制度開始後は、学校法人から外部に一定の販売を行うなどのことがあればインボイスを要求されるケースも出てきます。例えば、農業学校でできた野菜や特産品を地域のスーパーに販売しているケースなどです。

この場合、免税事業者である学校はそのスーパーには適格請求書を発行できません。そのスーパーは適格請求書を受領できないと仕入税額控除の対象外となるため、消費税の税負担がこれまでより増えてしまいます。

このように、学校法人が外部と継続的に取引をしている場合などはインボイス制度の導入について販売先と調整する必要がでてきます。

免税事業者のままでは不利になる場合も

免税事業者はインボイス制度の登録番号を取得できないため、適格請求書の発行ができません。また免税事業者との取引は、仕入税額控除の対象外となってしまいます(経過措置あり)。そのため、従来と同じ金額で仕入代金や委託料を支払えば、仕入側の消費税納税額が増えてしまうのです。

こうした背景から、免税事業者は今後の取引額の見直しをするか、インボイスを発行するように交渉を打診される可能性があります。今までと同じ取引が難しくなり、収入が目減りすることもあり得るでしょう。

学校法人がインボイス制度開始に向けて取るべき対応

学校法人がインボイス制度にスムーズに対応するためには、あらかじめ対応方針を決めておくことが大切です。ここでは、インボイス制度開始にあたって具体的に対応が必要になる内容をまとめました。学校法人だけでなく、公益法人ではおおむね同様の対応が求められます。税理士などの専門家にも相談しながら、対応方針を共有しておけるとよいでしょう。

免税事業者のままでよいか検討

免税事業者はインボイス制度が始まると不利になる可能性が高いので、これを機に免税事業者のままでよいか改めて検討したいところです。

教育事業だけを行っている場合は免税事業者でもさほど影響はないかもしれません。しかし、一般企業などを対象にした収益事業が大きい場合には状況が異なります。仕入税額控除の対象外となることによる影響は避けられないので、思い切って課税事業者になる選択肢も検討しましょう。

課税事業者は適格請求書発行事業者の登録

すでに課税事業者の場合は、適格請求書発行事業者の登録をして請求書の様式を対応させるだけで大きな問題はないでしょう。課税事業者の場合、インボイス制度が導入されても税制上大きな変化はありません。

ただし、仕入先や委託先に免税事業者がいる場合には、仕入側としての対応を考えなければなりません。仕入税額控除ができなくなることについて交渉をする、または課税事業者への切替を依頼するなどの検討が必要です。

適格簡易請求書の発行が認められているケース

販売先や依頼先が不特定多数の場合には、適格請求書に代えて「適格簡易請求書」を発行できます。

小売業者など、特定の業種では適格請求書の記載事項の1つである「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」を記載できないケースがあり、この問題を解消するために「適格簡易請求書」という方法が採用されています。

適格簡易請求書では、「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」を省略できます。購入者一人ひとりを把握できない場合といえば、スーパーやコンビニのレシートをイメージすると分かりやすいでしょう。教育事業の他に収益事業があり、なおかつそれが不特定多数に請求書や領収書を発行する業種の場合は利用を検討してもよいかもしれません(小売業・飲食業・タクシー業など)。

なお、適格簡易請求書の発行事業者になるには適格請求書発行事業者の登録が必要です。

仕入先が免税事業者か課税事業者か確認

自身が課税事業者であるときに仕入先が免税事業者の場合は、インボイス制度開始後に仕入税額控除ができなくなり、原則として消費税の納税額が増えます。取引についての交渉をするか、課税事業者になってもらうなどの方法を検討しましょう。

もちろん、納税額が増えたとしても同じ条件で取引を続けることは可能です。仕入税額控除についてはインボイス制度開始後6年間の経過措置があるので、余裕があれば情勢を見つつ対応を検討してもよいでしょう。

学校法人もインボイス制度対策が必要

学校法人をはじめとした公益法人は収益事業については免税事業者であるケースが多いと言えます。ただし、学校法人の中でも収益事業の割合が大きい場合には、インボイス対策を慎重に行う必要があることが分かったのではないでしょうか。インボイス発行事業者になれば事務手続きも煩雑になり、メリットばかりではありません。いつから、どのように対応するかは、税理士などの専門家にも相談することをおすすめします。

よくある質問

学校法人がインボイス制度によって受ける影響は?

学校法人は免税事業者であるケースも多いですが、免税事業者は適格請求書を発行できません。適格請求書を発行できないと仕入税額控除の対象外となるため、取引条件が不利になる可能性があります。詳しくはこちらをご覧ください。

学校法人はインボイス制度開始に向けてどのような対応をすべきですか?

収益モデルや事務負担を総合的に判断し、免税事業者のままか課税事業者になるかを検討する必要があります。課税事業者の場合は、適格請求書発行事業者の登録を行います。詳しくはこちらをご覧ください。


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