• 更新日 : 2023年8月4日

請求書での小数点以下の扱いは?消費税の端数処理を解説

請求書で小数点以下の端数が出たときの扱いに統一的なルールはなく、基本的には企業の判断に委ねられます。一般的には切り捨てとみなされるケースが多々見られます。

2023年10月1日施行のインボイス精度が始まると、請求書の端数処理に変更が生じるため注意が必要です。ここでは請求書の小数点以下の扱いや、適格請求書等保存方式による端数処理について解説します。

請求書に小数点以下の端数が発生するケース

消費税は消費全般にかかる税金で、商品の売買だけでなくサービスの対価も課税対象です。

消費税の計算方法には総額表示と呼ばれる内税方式と、本体価格と消費税を別々に表示する外税方式が存在します。

不特定多数を対象にした場合、価格表示は内税が義務付けられています。取引相手に見積書を発行する際は、上記の縛りはありません。内税方式で価格を一つにまとめて表示しても、別々に記載してもどちらの処理も認められます。

請求金額の計算過程で1円未満の端数を生じる場合があります。考えられるのは「消費税額による端数」および「売上額の端数」の2パターンです。それぞれの処理方法や具体例について解説します。

消費税額による端数

請求書の記載額では消費税の算出過程で端数が生じるケースもあります。商品やサービスの販売では、税抜価格に消費税率を乗じた消費税相当額を税込価格として定めるのが一般的です。この消費税率を乗じる際に1円未満の端数を伴う場合があります。

たとえば税抜価格が1,010円の商品を購入した場合、軽減税率の8%を適用すると1,090.8円です。小数点以下の0.8円を切り捨てて0とみなすか、切り上げて1円と処理するのとどちらが正しいのでしょうか。

消費税の端数処理に関しては法律上の明確なルールは存在しません。企業ごとにある程度柔軟な運用をしても差し支えはないでしょう。

売上額での端数

たとえば稼働時間に応じて報酬額が変動する報酬体系の契約では、売上額で端数を生じる場合があります。時給1,000円の業務で14分間のみ稼働したとき、小数点以下の端数が出ます。

【例】

1,000×14/60=233.33332円

このケースでも消費税額の端数処理と同様、統一的なルールは決まっていません。売上額の計算過程で生じた端数の処理で重要なのは、受注側の判断で勝手に処理方法を決めないことです。

切り上げで処理した場合、取引先が切り捨てを採用する企業だったとしたら請求書の差し戻しをはじめ、トラブルが生じる場合もあります。

消費税がかからないケース(非課税取引)

消費税がかからないケース(非課税取引)

すべての取引が消費税の対象となるわけではなく、なかには商品やサービスの対価を支払っても非課税の場合もあります。

課税要件は「国内において行う」「事業者が事業として行う」「対価を得て行う」「取引の内容が資産の譲渡・貸付、役務の提供である」のすべてを満たすことです。

上記の4つの要件を満たしても、消費税を課税することが適切ではないため非課税取引となるケースがあります。

非課税取引の具体例は、消費税の性格になじまないものです。消費税は消費が前提となる税金ですが、以下のように消費が伴わない取引は対象になりません。

  • 土地の譲渡や貸付
  • 有価証券等の譲渡
  • 預貯金・貸付金の利子
  • 信用保証料
  • 郵便切手類
  • 銀行券
  • 国等が行う事務にかかる手数料など

非課税取引の種類には、次のように政策上課税することが適当ではないとされる取引もあります。

  • 社会保険医療の給付
  • 介護保険サービス
  • 社会福祉事業等によるサービスの提供
  • 火葬料や埋葬料
  • 科用図書の譲渡
  • 賃貸アパートやマンションの家賃

消費税では非課税のほかに免税取引という種類もあります。輸出取引が対象で、国内の消費税を外国の消費者に負担させないために、特別に消費税を免除した取引です。

小数点以下の端数処理のルールは?

小数点以下の端数処理には、切り上げや切り捨て、四捨五入のいずれかが考えられます。基本的にはどの方法を採用するかは事業者の裁量で決めてかまいません。

ただ担当者や取引ごとに端数処理のルールが異なると、相手方との帳簿が一致せずトラブルの原因になります。社内だけでなく取引先とも基準の統一を図ることでスムーズかつ気持ちよい対応につながります。

一般的には、小数点以下は切り捨てとして扱うのが基本ルールです。ただし実際の運用方法は企業ごとに異なるため、思い込みで処理せず、事前の確認や相談の徹底をおすすめします。ここでは小数点以下の端数処理のルールについて、詳しく解説します。

基本的に小数点以下は切り捨て

消費税額の計算で生じた端数も、売上額の計算で生じた端数も小数点以下は切り捨てとして扱うのが一般的です。

小数点以下ではありませんが、1年間の課税標準額を計算する際も、1,000円未満の端数は切り捨てるのが原則です。

消費税の税率は10%と8%の2種類がありますが、国に納める消費税の額はこの率を根拠とするものではありません。10%の場合、国税の対象は7.8%です。つまり課税売上額に7.8%を乗じて、端数が生じた際は小数点以下を切り捨てるという対応をとります。

社内で端数処理のルールを決めておく

基本的には切り捨てと紹介しましたが、法律上のルールではないので、別の方法を取ってもかまいません。混乱を防ぐためには、社内で端数処理の基準を決めておくことが大切です。担当者ごとに処理の仕方が異なると取引先が困る可能性はあります。

エクセルや会計システムを駆使し、自動で端数処理ができる仕組みを導入するのもおすすめです。社内で共通認識を図り、取引先に迷惑をかけないだけでなく、業務効率化にもつなげましょう。

事前に取引先と端数処理方法を決める

社内統一を図るのはもちろん、取引先との間でも認識やルールの擦り合わせを行うことが必要です。計算が合わないとトラブルや業務負担の増加につながりかねません。

「一般的には切り捨てだから問題ないだろう」と甘く捉えていると、後に金額が合わずにトラブルが生じ、痛い目を被るリスクも考えられます。

端数処理の方法が取引先と異なる場合

端数処理の内容が取引先と異なる場合、月締め請求と個別請求によって対応方法が異なります。

月間の総取引額によって請求が行われる場合、月間売上額に対して消費税率を乗じるため、企業ごとに消費税の取扱いが異なると差額が生じやすくなります。

一件ごとにチェックするなら誤差の範囲で済みやすいですが、何十件・何百件単位だと塵も積もれば山となります。

具体的な不都合として、売掛金消込作業時に金額が一致しないリスクがあります。消込作業とは売掛金や買掛金など企業活動で生じた債権・債務の金額を清算する作業です。税込金額、税抜金額、消費税額のすべてが一致しているか確認が必要です。

一つの注文や契約に対して複数回に分けて請求する場合、注文書の税抜金額と複数の請求書を合算した累計税抜金額が一致しない場合もあります。

何枚も請求書を発行するため、端数処理に違いがあると税抜金額にずれが生じます。

発注書の税抜金額と、請求書において逆算して算出できる税抜金額の合計が異なる場合も端数調整が必要です。

いずれにせよ、事前に端数処理のルールや方針を取引先との間で確認しておくのが肝心です。請求の過程で手戻りが生じるのは、双方にとって良いことではありません。

インボイス制度における端数処理

インボイス制度の施行に伴い、端数処理のルールにも変更があります。重要なのは「1つの請求書内で」「税率ごとに端数処理を行う」ことです。今まで商品ごとに端数処理を行っていた企業はとくに注意が必要です。

インボイスの仕組みや導入方法などについて詳しく知りたい人は次のページをご覧ください。

インボイス制度とは?

インボイス制度は別名「適格請求書等保存方式」とも呼ばれ、2023年10月1日から運用がスタートします。

仕入先に支払った消費税額を税額控除として処理するために、以下の記載項目を追加した適格請求書が必要になります。

  • 適格請求書発行事業者の登録番号
  • 軽減税率の対象品目である旨
  • 税率ごとに区分して表示した対価の合計額(税込、税抜)
  • 税率ごとに区分して表示した消費税の合計額(税込、税抜)

適格請求書発行事業者になるには税務署に届け出が必要です。適格請求書発行事業者になると、今まで消費税の免税事業者だった者も消費税の納税義務が発生します。

取引先が適格請求書発行事業者でないと仕入税額控除ができなくなるため、インボイスを発行可能な業者との取引を望む事業者が増える可能性もあります。

インボイス制度の下では請求書に、適用税率ごとの対価や消費税額を記載しなければなりません。一つの請求書にすべての情報を一元的に扱う必要はなく、納品書に明細をまとめて請求書に納品書番号を記載するような運用も認められます。

適格請求書での小数点以下の端数処理

国税庁の「的確請求書等保存方法の概要」によると、1請求書あたり区分された税率ごとに1回ずつ端数処理を行うのが適切とされています。逆にいうと個々の商品ごとに端数処理を行うのは認められていません。

1つの請求書内で標準税率10%と軽減税率8%が混在する場合、それぞれの税率で端数処理を行い、合計額を記載する必要があります。小数点以下の端数処理を切り捨て・切り上げ・四捨五入のいずれかの方法で任意に行うのは問題ありません。

適格請求書の発行事業者になると消費税の算出方法において、割り戻し計算と積み上げ計算のどちらかを選択できます。

積み上げ計算は適格請求書に記載された税額の積み上げ金額を、納税額として捉える方法です。割り戻し計算(合計額から割り戻す)では課税期間の税込売上額の合計額から税抜金額に割り戻して、納税額を出します。

積み上げ計算の場合、個別の請求書ごとに端数が切り捨てられるため、割り戻し計算と比較して消費税額が小さくなる傾向があります。ただし、納税額の大小はケースバイケースです。また、売上額の消費税を積み上げ計算で算出した場合、仕入れでも積み上げ計算を行う必要があります。

請求書の小数点以下の端数処理では「統一」が重要!インボイスの施行に伴う変更点も把握しよう

消費税額を単価に乗じたときや、工数に応じて売上額が変動するケースなど請求書に小数点以下の端数が生じる場合は少なくありません。

請求書の端数処理は切り捨て・切り上げ・四捨五入のいずれかです。基本的には企業ごとに任意の方法で決めても良いものです。ただしトラブルを防ぐ為に、社内ルールを統一し、取引先とも対応方法について話し合うことをおすすめします。

インボイス施行後は、一つの請求書内で税率ごとに端数処理を行うことになるので注意が必要です。今まで商品ごとに消費税を切り捨て・切り上げていた企業は、運用方法の変更が求められます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事