- 更新日 : 2025年1月7日
個人事業主が知っておきたい消費税とインボイス制度の11のポイント
インボイス制度のもとで、消費税の免税事業者である個人事業主は、取引先へ適格請求書(インボイス)を交付できません。そのため、インボイス発行事業者への登録をするべきか迷うこともあるでしょう。
本記事では、個人事業主が知っておきたい消費税のポイントや、免税事業者でもインボイス制度に登録すべきかについて解説します。
目次
インボイス制度で個人事業主が知っておきたい消費税の11のポイント
2023年10月に始まったインボイス制度のもとでは、免税事業者である個人事業主もインボイス書発行事業者への登録を検討する場面があるかもしれません。
インボイス制度について理解を深めるとともに、消費税の仕組みを把握しておく必要があります。
ここでは、インボイス制度で個人事業主が知っておきたい消費税のポイントを解説します。
①消費税の仕組みとは?
消費税は、商品の販売やサービスの提供に対して課税される間接税です。間接税は、税金を負担する人と税金を納める人が異なる税金を指します。
消費税は取引に対して広く公平に課税されますが、生産、流通などの各取引段階で余分な税がかからないよう、累積しない仕組みになっています。
価格に上乗せされた消費税は最終的に消費者が負担し、事業者が納付するという仕組みです。
②インボイス制度とは?
インボイス制度とは、複数税率に対応した仕入税額控除の方式のことです。2023年10月1日からスタートし、税率が複数あっても消費税を正確に納められるよう、消費税の金額等を書いた適格請求書(インボイス)をもとに計算します。
インボイス制度導入後に買主が仕入税額控除を受けるためには、一定の要件を満たした適格請求書の発行・保存が必要になります。
適格請求書を発行できるのは、インボイス発行事業者のみであり、登録申請を行わなければなりません。
登録できるのは消費税の課税事業者のみであり、免税事業者がインボイス発行事業者になるということは、課税事業者になるということでもあります。
③課税事業者と免税事業者の違い
消費税の課税対象となる事業者を「課税事業者」といい、課税対象とならない事業者を「免税事業者」といいます。
課税事業者に該当する条件は、次のとおりです。
- 課税期間より前々年の1月1日~12月31日(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超える
- 前年の1月1日~6月30日(特定期間)の課税売上高および給与支払額の両方が1,000万円を超える
これらに該当しない場合は免税事業者になり、消費税の納税義務はありません。
④免税事業者のままでの問題
個人事業主が免税事業者のままでいると、取引先を失ったり売上額が下がったりする可能性があるという問題があります。
免税事業者は消費税の納税義務はありませんが、適格請求書を発行できません。適格請求書を受け取れない取引先は仕入時に払った消費税の控除ができないため、取引を敬遠される可能性があるでしょう。控除できない消費税の分について、値下げの交渉をされるケースもあります。
⑤インボイス発行事業者に登録するとは?
インボイス発行事業者となるためには、登録申請手続きを行って登録を受ける必要があります。国税庁のサイトなどから「適格請求書発行事業者の登録申請書」を取得し、必要事項を記入して税務署に提出します。
提出方法は、郵送とe-Taxのいずれかで、e-Taxを利用すればインターネット上で入力と申請の完結が可能です。
⑥インボイス発行事業者になるとすべきこと
インボイス発行事業者に登録すると、適格請求書を交付できるようになります。発行した適格請求書の控えは、原則として7年間の保存が必要です。電子で発行した場合は電子データとして保存が必要であり、紙で発行した場合は適格請求書の写しを紙で保存もしくは電子データで保存します。
また、インボイス発行事業者は、受け取った消費税について翌年の3月31日まで(個人事業主の場合)に確定申告と納税が必要です。
⑦インボイス制度の経過措置とは?
インボイス制度のもとでは、インボイス発行事業者ではない事業者が発行する請求書では仕入税額控除を受けられません。
ただし、免税事業者との取引がある課税事業者の負担を軽減するため、免税事業者からの取引については6年間の経過措置が設けられています。
経過措置を受ける対象者は、インボイス発行事業者ではない免税事業者・課税事業者と取引をしている課税事業者です。
経過措置の内容は、次のとおりです。
- 2023年10月から3年間は免税事業者等からの課税仕入れにつき80%を控除できる
- 2026年10月1日から3年間は上記について50%控除できる
経過措置を受けるためには、帳簿および要件を満たした請求書の保存が必要です。
⑧消費税の簡易課税制度とは?
消費税は、受け取った消費税額から仕入等の際に支払った消費税の額を計算する一般課税の方法で計算します。一般課税では、課税取引と免税取引の区分や軽減税率の計算などが煩雑です。
そのため、中小規模事業者には、簡易な計算方法である簡易課税制度を選択できる措置が講じられています。簡易課税制度はみなし仕入率を用いて消費税額を計算する方法であり、受け取った消費税額に業種ごとの一定の割合(みなし仕入率)を乗じて計算することで、簡単に消費税を計算できます。
⑨インボイス発行事業者への消費税の軽減(2割特例)
インボイス制度への登録を機に免税事業者から課税事業者になったインボイス発行事業者は、これまでは義務のなかった消費税の納税を行わなければなりません。
負担を軽減する措置として、消費税の納付税額を売上にかかる消費税額の2割にする特例が設けられています。課税事業者の要件に該当していないことなどが、特例を受ける条件です。
⑩インボイス発行事業者への補助金
インボイス発行事業者は、次のような補助金を受けることも可能です。
- 持続化補助金
- IT導入補助金
持続化補助金は、小規模事業者等が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む「販路開拓」を支援する補助金です。 免税事業者がインボイス発行事業者に登録した場合、 上限額が一律50万円加算されます。
IT導入補助金は、経営課題を解決するためのITツール導入を支援する補助金です。インボイス関連として、インボイス制度に対応した会計ソフト、PC・ハードウェア等の導入を支援するインボイス枠が設けられています。
⑪白色申告・青色申告への影響
インボイス発行事業者になることで、確定申告の白色申告・青色申告への影響はありません。白色申告・青色申告は所得税の申告方法に関するもので、インボイス制度は消費税額や消費税率を正しく申告する仕組みです。
インボイス発行事業者であるか否かにかかわらず、白色申告・青色申告のどちらでも、これまでと同じく確定申告手続きができます。
売上高1,000万以下でもインボイス制度に登録するべき?
課税事業者の要件に該当していない免税事業者は、インボイス制度に登録すべきか迷うことがあるでしょう。
登録すべきかどうかの判断は、次の点が基準になります。
- 取引先が課税事業者か免税事業者か
- 取引先から要請があるか
- 免税事業者のままだとどうなるか
- インボイス制度の経過措置が終わるまで待つか
- 今後の事業拡大予定があるか
それぞれの判断基準について、詳しくみていきましょう。
取引先が課税事業者か免税事業者か
インボイス発行事業者になるかを検討するに際し、取引先が課税事業者か免税事業者かが判断基準になります。インボイス制度の影響があるのは、取引先が課税業者である場合に限られるためです。
取引先が課税事業者である場合、適格請求書を受け取れないと仕入税額控除を受けられません。そのまま取引を続けるとコストが増加することになるため、契約の継続が難しくなる可能性があります。
業務に特別なスキルや技術が必要であれば継続することも考えられますが、代替がきく業種の場合、同じ業務ができるインボイス登録事業者に乗り換えられる可能性もあるでしょう。
取引先から要請があるか
取引先と今後の取引について相談し、課税事業者になることを要請された場合は、登録について検討する必要があるでしょう。
要請をするということは、登録をしてほしいという意味合いが込められています。要請を受けない場合、取引が終わる可能性が高いでしょう。新しい取引先を探す場合にも、インボイス発行事業者でないと、課税事業者の取引先を見つけるのは難しくなります。
免税事業者のままだとどうなるか
現在の状況で免税事業者のままでいるとどうなるかを考えることも、登録するかどうかを決めるために必要です。免税事業者のままでインボイス発行事業者にならない場合、インボイスが発行されれば受けられるはずだった仕入税額控除の金額分について、取引先から値引きを要求される可能性があります。
「値引きに応じない場合は取引を継続できない」といった条件を提示されるかもしれません。取引を継続したい場合は、インボイス発行事業者に登録する必要があるでしょう。
インボイス制度の経過措置が終わるまで待つか
取引先は免税事業者との取引で、6年間は経過措置を受けることが可能です。全額ではないものの、インボイス制度から3年間は80%、その後も50%の控除を受けられます。
そのため、課税事業者である取引先がインボイス発行事業者への登録について言及してきたときは、経過措置が終了するまで待ってもらう交渉もできるでしょう。
今後の事業拡大予定があるか
今後、事業が拡大して課税売上高が1,000万円を超え、課税事業者に該当する可能性がある場合は、登録しておくことをおすすめします。課税事業者になれば、消費税の納税義務が発生し、いずれはインボイス発行事業者に登録することになるでしょう。
早めに登録しておけば、取引が終了するというリスクを避けられます。取引を有利に進めることもでき、事業の拡大をさらに加速できるかもしれません。
個人事業主がインボイスに登録する方法
個人事業主がインボイス発行事業者に登録する手続きは、次のとおりです。
- 申請書をダウンロードして必要事項を記載する
- 国税庁に提出する
- 取引先に登録番号を連絡する
申請書の提出は、e-Taxでも可能です。
適格請求書発行事業者の登録について通知を受けたら、請求書を発行している取引先にインボイス発行事業者になったことを報告し、登録番号を伝えます。
消費税申告は「免税事業者から課税事業者へなった日(インボイス発行事業者への登録日)」が属する事業年度から必要になるため、期限内の申告・納付を忘れないようにしましょう。
個人事業主がインボイス制度に登録した際の支援や補助金
個人事業主はインボイス発行事業者になると、次のような支援や補助金を受けることが可能です。
- 簡易課税制度
- 消費税が軽減される2割特例
- 持続化補助金が50万円上乗せ
- 会計ソフトへの補助金
それぞれの内容について、詳しく解説します。
簡易課税制度
簡易課税制度とは、消費税の申告を行う際に簡単な方法で計算できる制度です。前々年の課税売上高が5,000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出した個人事業主が利用できます。
簡易課税制度では、次のような業種ごとに設定されたみなし仕入率を用いて計算します。
- 第1種事業(卸売業):90%
- 第2種事業(小売業):80%
- 第3種事業(農業、林業、漁業、建設業、鉱業、製造業など): 70%
- 第4種事業 (いずれにもあてはまらない事業・飲食店業など): 60%
- 第5種事業 (金融・保険業、運輸・通信業、飲食店業以外のサービス業): 50%
- 第6種事業 (不動産業):40%
計算式は、次のとおりです。
売上にかかる消費税額 – 売上にかかる消費税額 × みなし仕入率
簡易課税制度の選択により、消費税の計算を容易にして、事務処理にかかる負担を軽減できます。
消費税が軽減される2割特例
2割特例とは、インボイス制度の施行をきっかけに免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合に、税負担を売上税額の2割に軽減する特例です。
個人事業主が特例を受ける場合、2割軽減の対象となるのは2023年10月1日〜2026年9月30日を含む課税期間(4回の確定申告)です。この期間に新たにインボイス発行事業者になった事業者で、前々年度の課税売上が1,000万円以下であれば、特例を受けられます。
事前の届出は不要で、消費税の確定申告時、2割特例を適用することを記載します。
持続化補助金が50万円上乗せ
持続化補助金とは、小規模事業者が直面する働き方改革や賃金引上げ、インボイス導入といった制度変更に対応するために行う、販路開拓の取組み等を支援する制度です。販路開拓のためのチラシ・パンフレット、ホームページの制作や、店舗の改装などの用途に使えます。
補助金には、インボイス特例が設けられています。補助の上限額は50〜200万円であるところ、免税事業者がインボイス発行事業者に登録した場合、 補助上限額が一律50万円加算されるという特例です。
会計ソフトへの補助金
IT導入補助金とは、さまざまな経営課題を解決するためのITツール導入を支援するための補助金です。
5つの枠があり、インボイス関連は次の2つが用意されています。
- インボイス対応類型
- 電子取引類型
このうち、個人事業主にも適用されるのはインボイス対応類型です。導入する会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト、PC・ハードウェア等の経費の一部が補助されます。安価な会計ソフトも対象となるよう、 補助下限額が撤廃されています。
個人事業主はインボイス制度の理解を深めよう
インボイス制度がスタートしてから、免税事業者の個人事業主にもインボイス発行事業者への登録について判断が迫られています。登録するかどうかは、取引の相手方が課税事業者か、登録の要請があるかといった観点から判断が必要です。
登録した場合、2割特例や補助金などの利用もできます。制度について理解を深め、適切な判断を行いましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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