- 更新日 : 2024年10月21日
飲食店経営者が押さえるべきインボイス制度とは?レシートの扱い方も解説
インボイス制度の導入に際し、飲食店経営者はその業態によって対応を迫られるところもあります。飲食店は軽減税率と標準税率の2つの税率が入り交じりやすい業務であるため、インボイス制度における消費税の扱いや、レシートの発行方法について事前に知っておく必要があります。
当記事ではインボイス制度と飲食店の関係、飲食店のレシートの扱い方などを解説します。
目次
飲食店経営者が理解しておきたいインボイス制度とは
インボイス制度は、2023年10月1日よりスタートした「消費税の仕入税額控除」の仕組みです。飲食店経営ならびに軽減税率と大きく関係する制度であるため、事前に内容を確認しておきましょう。インボイス制度の概要と軽減税率との関係を解説します。
インボイス制度の概要
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、これまでの「区分記載請求書等保存方式」に代わる消費税の仕入税額控除方式です。
これまでは条件を満たした請求書や領収書があれば「売上に係る消費税額」から「仕入れ等に係る消費税額」を差し引けました。しかし、インボイス制度の適用後は、インボイスを発行できる事業者から交付されるインボイスが必要とされています。
事業者がインボイスを発行するには、所轄の税務署にて「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」として登録する必要があります。インボイス発行事業者への登録は、免税事業者でも課税事業者でもできます。
課税事業者および免税事業者は、消費税の申告義務との関係から次のようにまとめられます。
- 課税事業者:買手から預かった消費税額から支払った消費税額*を差し引いて税務署へ申告し納付を行う事業者(*要件あり)
- 免税事業者:買手から預かった消費税額の申告と納付の義務が免除された事業者
原則として課税事業者に該当するのは、基準期間または特定期間の間で「課税売上高1,000万円超」となった事業者です。基準期間と特定期間の基準を、個人事業主と法人に分けてみていきましょう。
- 個人事業主の基準期間:前々年の1月1日~12月31日
- 個人事業主の特定期間:前年の1月1日~6月30日
- 法人の基準期間:前々年の事業年度
- 法人の特定期間:前年の事業年度開始以後の6ヶ月間
インボイス制度についての詳しい内容は、以下の記事にて解説しています。
軽減税率とインボイス制度の関係性
もともとインボイス制度は、取引において正確な消費税額と消費税率を把握することを目的として導入される制度です。そのため、軽減税率とインボイス制度の関係性は非常に深いといえるでしょう。
まず、2019年10月に軽減税率制度が導入され、対象となった品目に限り消費税率8%が適用されました。その時点ではインボイス制度に先駆けて「区分記載請求書等保存方式」がスタートしています。その後の2023年10月にインボイス制度が導入されるという流れです。
軽減税率の対象となるのは、「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞(定期購読契約にもとづくもの)」の2種類です。具体的な品目をみていきます。
- テイクアウトや宅配の飲食料品
- 有料老人ホーム等で行う飲食料品の提供
- 飲食料品全般(外食は除く)
- おもちゃ付きのお菓子といった一体商品の一部および税抜価格が1万円以下・食品の価格の占める割合が3分の2以上のもの
など
インボイスとして認められる条件のうちに、「税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率」と「税率ごとに区分した消費税額等」の記載があります。
つまり、インボイスとして発行する限り、従来の請求書では足りず記載項目を追加しなければなりません。
例えば、店内提供とテイクアウトの2択がある飲食店の場合は、軽減税率8%と標準税率10%を明確に分ける仕組みが必要です。
インボイス制度と飲食店の関わり
飲食店の業務は軽減税率と標準税率の両方を扱うことが多いため、インボイス制度への対応が強く求められる点が特徴です。また、飲食店が免税事業者に当てはまるか、課税事業者に当てはまるかによっても、インボイス制度への対応が違ってきます。
免税事業者と課税事業者の2つの立場から、インボイス制度と飲食店の関わりを解説します。
免税事業者の場合
免税事業者とは、商品やサービスの買手から預かっている消費税について、その申告や納付を免除されている事業者のことです。課税事業者は商品やサービスを販売して得た消費税を税務署に申告して納付する必要がありますが、免税事業者は預かった消費税を益税として自分の利益にできるといえます。
しかし、インボイス制度が適用された場合は、顧客との取引が減ったり打ち切りになったりする免税事業者が増えるかもしれません。
例えば、取引先が課税事業者だった場合を考えてみましょう。取引先から見ると免税事業者との取引ではインボイスの交付が受けられないため、仕入税額控除を行えません。つまり「課税仕入れが控除できないから、インボイスを発行できるほかの取引先を探そう」と判断されるリスクがあるのです。
とはいえ、飲食店が免税事業者だった場合は、インボイス制度の影響がほかの業種と比べて少ないでしょう。なぜなら、一般に飲食店などは得意先が消費者である場合が多いため、得意先がインボイスを必要としないケースが多いからです。
しかし、影響がゼロではありません。もし飲食を会社の会議費や交際費として経費にしたい場合には、飲食店のレシートを支出根拠として利用します。そのレシートがインボイスでなければその接待費用については、原則として仕入税額控除ができません。
以上の点から、場合によっては、課税事業者になることも視野に入れた経営も考えておきましょう。免税事業者が課税事業者になるには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し登録を受けてください。
参考:適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁
免税事業者がインボイス登録事業者になる場合には、経過措置が設けられ、2029年9月30日までは課税事業者選択届出書の提出は不要となっています。
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(問8)
課税事業者の場合
課税事業者とは、買手から預かった消費税を税務署に申告し、納める義務を負った事業者です。もともと課税事業者だった飲食店の場合も「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署へ提出すればインボイスを発行できます。
インボイス制度が適用された後に自社が免税事業者と取引する場合は、インボイスの交付がない取引先からの仕入分だけ消費税の負担増となります。もし取引先が免税事業者だった場合は、長年の信頼から取引を続けるのか、取引を見直すのかといった選択が必要です。
インボイス制度におけるレシート
飲食店が発行するレシートは、必要な事項を記載して発行することで簡易インボイス(適格簡易請求書)の扱いになります。簡易インボイスとは「不特定多数に対して営業を行う一定の業種」が発行できる、インボイスの内容を簡略化したものです。飲食店はその業種に当てはまります。
以下で、さらに詳細をみていきましょう。
軽減税率対応のレシートとは
現行では多くの飲食店で発行するのは軽減税率に対応したレシートであり、軽減税率8%・標準税率10%それぞれの商品・サービスが明確に区分されたものです。
レシートがインボイスならびに簡易インボイスとして認められる条件として、適用税率や適用税率ごとの消費税額などの記載が必要になります。
レシートを簡易インボイスとして発行する具体的な記載内容は以下のとおりです。
- インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号(T+13桁の法人番号または13桁の数字)
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 「税率ごとに区分した適用税率」または「税率ごとに区分した消費税額等」
上記はあくまで簡易インボイスの記載事項になります。通常のインボイスの場合は「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」と「区分した適用税率と消費税額」の両方の記載が必要です。
以下ではレシートを用いた簡易インボイスの記載例を紹介します。(図中の①~⑤は上の1~5に対応)
引用:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(問56)
なお、インボイスの記載条件さえ満たせば、レシートも簡易インボイスではなくインボイスとして発行可能です。しかし、インボイスの条件には「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」が含まれているため、大人数の消費者を相手にする飲食店が1人ひとりに発行するのは現実的ではありません。
飲食店を貸し切ってパーティーなどのイベントを開催したりする場合には、顧客の求めに応じて簡易インボイスではなく、顧客名の入ったインボイスの形式にするなど使い分けてもよいでしょう。
レシートと領収書の違い
飲食店ではレシートのほかにも手書きの領収書を渡すことがあります。たとえ手書きであっても、記載事項を満たしていればインボイス、または簡易インボイスとして利用できます。ただし、インボイス発行側での控えの保管も必要なので、コピーを取るなどの手間もかかります。
手書きの領収書の場合、レジを利用して機械的に発行したレシートと比べると以下のリスクが存在します。
- 数値や氏名を書き間違える可能性がある
- 不正や改ざんが疑われる
- 一度に多くの発行ができない
など
特別な場合を除き、基本的には手書き以外での対応をおすすめします。
飲食店がインボイス制度に対応するために必要な準備
飲食店がインボイス制度に対応するために必要な準備は、次のとおりです。
- インボイス制度に対応するレジ機や会計システムの導入
- 小規模事業者持続化補助金といった補助金制度が利用できないか検討する
- インボイス対応のレシート・領収書の書式を決める
- インボイスや消費税の基本的な事項を理解する
など
インボイス導入の検討時間や新たな経費が必要となりますが、上記の内容についてはコストをかけてでも一度検討しておくことをおすすめします。
インボイス制度に対応するならマネーフォワード クラウド
店内提供とテイクアウトの両方の選択肢がある飲食店の場合、インボイス制度は経営に大きな影響を与えます。インボイス制度の導入に向けて理解しておくべき点は、以下のとおりです。
- インボイス制度の概要を理解する
- インボイス発行事業者になるための方法を確認する
- 課税事業者・免税事業者それぞれの対応の違いを理解する
- レシートで簡易インボイスを発行できるよう準備する
マネーフォワード クラウドの「インボイス制度の登録申請」なら、適格請求書発行事業者の登録申請書をフォームに沿って入力するだけで簡単に作成できます。
また、紙で受け取った領収書をスキャンまたはスマホで撮影し、「マネーフォワード クラウド経費」にアップロードすると、電子帳簿保存法のスキャナ保存要件に必要な「支払先」「支払期日」「請求金額」がAI-OCRを介して自動で入力されます。
さらにインボイス制度導入後は、受け取った請求書や領収書・レシートに記載されている登録事業者番号が実在しているか都度確認する必要がありますが、「マネーフォワード クラウド経費」「マネーフォワード クラウド債務支払」なら、申請時に登録事業者番号を確認できるようになる予定です。
インボイス制度に対応するためには、制度の施行スケジュールを確認し、早めに準備を進めていくことが大切です。この機会に、マネーフォワード クラウドの導入を検討してみませんか?
よくある質問
インボイス制度とは?
これまでの「区分記載請求書等保存方式」に代わる消費税の仕入税額控除方式です。詳しくはこちらをご覧ください。
インボイス制度と飲食店の関わりは?
飲食店の客層がほとんど消費者なのか、業務で利用する客が多いのかによってインボイス制度への対応が違ってきます。詳しくはこちらをご覧ください。
インボイス制度におけるレシートの取り扱いは?
一般に飲食店が発行するレシートは、必要な事項を記載して発行することで簡易インボイス(適格簡易請求書)の扱いになります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
インボイス制度の関連記事
新着記事
請求書発行システムとは?主な機能やメリット、選び方まで徹底解説
企業の経理業務において、請求書の作成や管理は欠かせない業務の一つです。しかし、手作業による請求書の作成や管理には、多くの手間がかかるだけでなく、ミスのリスクも伴います。特に、取引件数が多い企業では、請求業務にかかる時間とコストが大きくなり、…
詳しくみる個人事業主におすすめの請求書買取サービスは?デメリットや選び方も解説
個人事業主が事業を続けていく上でネックになりやすいのが、資金調達です。売掛金のある個人事業主には、金融機関からの融資以外に請求書買取サービスを利用する方法があります。今回は、請求書買取サービスの特徴や利用の流れ、おすすめのサービスについて紹…
詳しくみる雇用契約書・労働条件通知書の送付状とは?テンプレートと郵送の注意点ガイド
雇用契約書や労働条件通知書を郵送する際、送付状(添え状)も一緒に送ることは、ビジネスマナーとして大切です。しかし、「送付状はどう書けばいいの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。送付状は、同封した書類の内容や部数を伝える役割があり、誤送…
詳しくみる退職者に離職票を郵送するには?送付状の書き方や文例(テンプレート付き)
退職後に会社から離職票を受け取る際、「無事に届くだろうか」「どんな手続きが必要なのか」と不安を抱く方も多いでしょう。離職票は失業給付を受けるために欠かせない書類ですが、その受け取り方や送付状の役割はあまり知られていません。この記事では、退職…
詳しくみる休職中の社員へ送る書類のマナーは?送付状の例文とテンプレート
休職中の社員に会社から書類を送る際「送付状は必要なのか」と迷うこともあるでしょう。 送付状(添え状)は、何の書類を送ったのかを明確に伝えるだけでなく、受け取った社員がスムーズに対応できるようにするためのものです。特に、休職中の社員は体調不良…
詳しくみる傷病手当金申請書の送付状の書き方は? 会社宛や個人宛の例文、テンプレート
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けない場合に、健康保険から一定の給付を受けられる制度です。申請には「傷病手当金申請書」を提出する必要がありますが、その際に送付状があると受け取る側もスムーズに対応できます。 この記事では、会社から従業員宛…
詳しくみる