- 更新日 : 2025年1月7日
インボイス制度による売上1,000万円を超える個人事業主への影響は?適格請求書発行事業者の登録についても解説
インボイス制度に関して、売上が1,000万円を超えたらどのような影響が出るのか、気になる方もいるでしょう。1,000万円を超えると2年後から課税事業者となり、経理処理などで注意が必要になります。
本記事では、売上高1,000万円を超えた個人事業主が受ける影響、適格請求発行事業者として登録するための手続きなどを解説します。
目次
インボイス制度が売上高1,000万円超の個人事業主に与える影響
ビジネスが順調に成長して、売上高が1,000万円超になると、課税事業者として扱われるようになります。経理業務が複雑になったり、仕入税額控除が適用できなくなったりするケースがあることに注意が必要です。
基準期間・特定期間の売上高等が1,000万円を超えると、課税事業者になる
課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は、課税事業者となります。このため、インボイス制度における適格請求書発行事業者の対象です。
インボイス制度によって、売上高1,000円を超える個人事業主には、以下のような影響が及ぶ可能性があります。
- 適格請求書発行事業者になるため、インボイス制度への申請登録が求められる
- 経理の処理の煩雑化により作業時間が増える可能性があり、解消するには業務フローや会計システムを見直す必要がある
- 売り手側のほとんどが免税事業者の場合、売上高が1,000万円を超える買い手側の事業者は、仕入税額控除を利用できなくなるため、納税額が増える可能性がある(ただし経過措置あり)
消費税の納税が最大2年免除されるケースもある
個人事業主が会社を設立し、これまで自身が行ってきた事業を法人に引き継ぐことを法人成り(法人化)と呼びます。法人化をするとメリットもあるため、目指している個人事業主の方もいるでしょう。
法人は消費税の納税義務がありますが、個人事業主としての売上が1,000万円を超えた2年後から法人化をすると、消費税の納税は最大2年間免除される特典があります。法人化による消費税の負担を心配する個人事業主も多いですが、最大2年間は負担しなくて済みます。
法人化をすると、社長の給与を会社の経費として扱えるため、法人税を下げることも可能です。役員報酬として受け取ることで社長の所得の計算において給与所得控除が適用され、さらに法人の税率を計算するベースの所得も下がります。
このように、法人化には大きなメリットもあるため、売上が1,000万円を超えた場合に法人化を検討する個人事業主の方もいるでしょう。
課税事業者は適格請求書発行事業者への申請が義務?
基準期間の売上が1,000万円を超えて課税事業者になると、必ず適格請求書発行事業者に申請しないといけないのでしょうか。結論からいうと、適格請求書発行事業者に登録するかは任意であり、義務ではありません。
適格請求書発行事業者への申請は任意
課税事業者であることと適格請求書発行事業者であることは、異なる概念です。課税事業者になったからといって、必ずしもインボイス制度に登録する義務があるわけではありません。
適格請求書発行事業者への登録は、個々の事業者が自身の状況に応じて判断すべき事項です。登録することによるメリットとデメリットを十分に検討し、慎重に決定することをおすすめします。
取引の継続が可能かは取引先次第
適格請求書発行事業者になるかどうかは任意であるものの、これまでどおりの取引ができるかは、取引先の判断にかかってきます。事業者側としてはこれまでどおり、発注した金額を節税できる個人事業主とは取引を続ける可能性が高いです。
適格請求書発行事業者として登録していない個人事業主は、契約額を下げられたり、取引を停止されたりする恐れがあります。
個人事業主が適格請求書発行事業者に登録しないとどうなる?
個人事業主がインボイス制度に登録しないことには、明確なデメリットがあります。登録しないでいるけれど、このままでいいのか気になっている個人事業主の方もいるでしょう。
インボイス制度に登録するメリットもあわせて考慮し、どうするか検討することが必要です。
適格請求書発行事業者に登録しないことのデメリット
インボイス制度に登録しない場合、以下のようなデメリットがあります。
- 取引を失ったり減少したりする恐れがある
- 仕入税額控除不能分の値下げを要求される可能性がある
売り手側の個人事業主が適格請求書発行事業者に登録しないと、買い手側である取引先は、仕入税額控除の適用を受けられません。取引先の納税額が増えるため、取引を減らしたり、新規の取引を停止したりする恐れがあります。売り手側にとっては大きなデメリットです。
取引の停止にまでは至らないとしても、売り手側は税負担を減らすため、消費税分の値下げを要請してくる可能性はあります。大幅な値下げの要求は独占禁止法で禁じられていますが、仕入税額控除不能分の値下げであれば違法ではありません。
消費税分の値下げを受け入れると、売り手側は収入のダウンにつながります。
適格請求書発行事業者に登録するメリット
インボイス制度に登録することで、以下のメリットを享受できます。
- 取引継続が期待できる
- 新規顧客の獲得につながる
- 電子インボイスにより業務効率化を図れる
売り手側が適格請求書発行事業者に登録すれば、買い手側は引き続き仕入税額控除を適用できます。納税負担は大きくならないため、他で大きなトラブルがなければ取引の継続を期待できるでしょう。
新規営業をする場合も、インボイス制度に登録していると伝えることで、相手は仕入税額控除が適用可能と判断します。案件の獲得において、インボイス制度に登録していない個人事業主よりも有利になるでしょう。
また、インボイス制度ではデータによる電子インボイスの送付・保管が可能です。請求書をデータで保管できることで、業務の効率化を図れることも、適格請求書発行事業者に登録するメリットです。
個人事業主が適格請求書発行事業者に登録する方法
インボイス制度に登録しないデメリットより、登録するメリットが大きいと判断した場合、さっそく登録をしようと思うでしょう。この章では、適格請求書発行事業者に登録する具体的な方法を解説します。
登録申請書の作成
まずは国税庁のホームページにアクセスし、「適格請求書発行事業者の登録申請書」のファイルをダウンロードしましょう。印刷した紙に必要事項を記入していきます。
登録申請書は2枚で構成されており、下記の内容を記載することが必要です。
- 提出日
- 所轄の税務署
- 申請者の住所
- 納税地
- 事業者名
- 代表者の氏名
- 法人番号
- 事業者区分
個人事業主の場合は、マイナンバーの記載も求められます。マイナンバーカードや個人番号の通知書を手元に用意しておきましょう。
税務署への提出
記入した登録申請書を提出する方法には、下記の3つがあります。
- 管轄地域の税務署を訪れて窓口で提出する
- 管轄地域のインボイス登録センターへ郵送する
- e-Tax(電子申告システム)で申請する
窓口または郵送で提出する場合、本人確認書類として、マイナンバーがわかる資料が必要です。マイナンバーカード、または番号を確認可能な資料(通知カードなど)と身元確認書類(運転免許証など)を持参しましょう。写しを提出することも可能です。
e-Taxで提出する場合、e-Taxのシステムにマイナンバーカードでログインしましょう。利用者識別番号を取得してから、登録申請データを送信します。
審査および登録
申請書の提出が完了すると、税務署あるいはインボイス登録センターで登録の審査が行われます。審査で許可されると登録が完了し、「適格請求書発行事業者」として登録簿に記録されます。
また、国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」にも公表されるので確認しましょう。以下の情報が公表されます。
- 適格請求者発行事業者の氏名もしくは名称・登録番号
- 登録した年月日
- 法人の場合は本店あるいは主たる事務所の所在地
- 特定の国外事業者以外の国外事業者の場合、国内で行う資産譲渡などに関する事務所、事業所などの所在地
個人事業主が適格請求書発行事業者となった際に注意すべきポイント
インボイス制度に登録することで、取引継続が期待でき、新規顧客の獲得で有利になるなどのメリットがあります。しかし、注意しなくてはならないポイントも3つあります。
売上1,000万円以下の個人事業主でも消費税を納税しなくてはならない
売上1,000万円以下の個人事業主は、本来は免税事業者で、消費税の納付義務はありません。しかし、インボイス制度に登録することで、課税事業者に移行することになるため、これまで免除されていた消費税を納付しなくてはなりません。
経過措置はあるものの、納税額が増えることは、個人事業主にとって大きなダメージとなります。消費税を納税しても事業を維持できるか、あらかじめ計算をして判断しましょう。
経理業務が煩雑になる
適格請求書発行事業者に登録すると、それまで使用していた請求書の書式が使えなくなります。制度で定められた書式のインボイス(適格請求書)を新たに使わなければなりません。
そのため、新たな書式での運用に変更したり、「登録番号」「適用税率」「消費税額」といった項目を記載する必要があったりするなど、経理処理の手間が増えます。
新たな経理システムの導入を検討する必要がある
適格請求書発行事業者に登録することで、一部の経理業務が複雑になる恐れがあるため、インボイス制度に対応したシステムも開発されています。経理業務が煩雑になった場合、新たにインボイスに対応した経理システムの導入を検討することが必要です。
システムを導入するには費用が発生し、どのシステムを導入するかを検討する手間も増えます。
売上1,000万円を超える個人事業主はインボイス制度への登録を検討しよう
個人事業主が売上1,000万円を超えて課税事業者になっても、インボイス制度への登録は義務ではありません。登録する場合、登録しない場合のメリット・デメリットを比較して、どちらを選ぶかを検討しましょう。
1つの考え方として、インボイス制度に登録するよう要求してくる取引先が多い場合、登録したほうが取引を継続でき、事業を維持できる可能性が高いでしょう。一方、消費税を納税すると事業が苦しくなる場合、インボイス制度に登録しないで事業を継続する方法を模索する必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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