- 更新日 : 2024年11月7日
インボイス制度で買い手側の対応事項は?受領後の流れや注意点を解説
インボイス制度のもとで買い手側が仕入税額控除を受けるためには、まず売り手側が登録を受けた適格請求書発行事業者であることのチェックが必要です。さらに、受け取った請求書等を保存しなければなりません。
本記事では、買い手側が確認しなければならない事項や、請求書を受領したあとに行うこと、注意すべき点などを解説します。
目次
インボイス制度とは
インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式のことです。正式名称は「適格請求書等保存方式」と呼ばれます。
税率が複数あっても消費税を正しく納められるよう、消費税の金額等を書いた請求書(インボイス)をもとに計算する仕組みです。2023年10月のインボイス制度導入後、仕入税額控除を受けるためには、一定の要件を満たしたインボイスが必要になりました。
インボイスは売り手側から買い手側に発行するものであり、売り手は、買い手から求められたときには、インボイスの交付が必要です。買い手はインボイスを保存することで、消費税の仕入税額控除を受けられます。売り手が適格請求書発行事業者でない場合は仕入税額控除が適用されないため、請求書等を受け取る際は確認が必要です。
インボイス制度で買い手側が確認する事項は?
インボイス制度においてトラブルなく取引を進めるため、買い手側には確認すべき事項があります。ここでは、取引に際して買い手側が確認すべき内容を詳しくみていきましょう。
取引先が適格請求書発行事業者であるか確認する
インボイス制度で買い手が仕入額控除の適用を受けるためには、適格請求書発行事業者が発行するインボイスが必要です。適格請求書発行事業者に登録できるのは消費税の課税事業者であり、免税事業者が適格請求書発行事業者になる場合は、課税売上が1,000万円以下でも消費税の課税事業者に登録しなければなりません。
適格請求書発行事業者ではない売り手から受領した請求書では仕入税額控除ができないため、まず相手が適格請求書発行事業者であるかを確認する必要があります。
免税事業者だけでなく、課税事業者であっても登録を受けていない売り手が発行した請求書等はインボイスとはならないため、登録をしているかどうかの確認が重要です。
売り手が登録を受けている事業者かを確認する場合、法人であれば国税庁の「法人番号公表サイト」で調べられます。法人の名称・事業者名から登録番号がわかる仕組みです。
また、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトでも確認できます。受け取った請求書に記載されている登録番号を入力して検索すると、登録を行っている事業者の情報が表示されます。登録番号は、アルファベットのTと13桁の数字です。検索する際は、Tを除いた数字を半角で入力してください。一度に10件までの検索が可能です。
サイトでは、次のような事項を確認できます。
- インボイス発行事業者の氏名または名称
- 法人は本店または主たる事務所の所在地
- 登録番号
- 登録年月日
情報が出ない場合や、出てきた内容が請求書と異なる場合は、相手に問い合わせましょう。売り手が請求書等を発行したのが登録を申請したあとであっても、通知を受ける前である場合は、番号を検索しても情報が出ないことがあります。
そのような場合は、通知を受け取ったあとの日付でインボイスを再発行してもらわなければなりません。
参考:国税庁 インボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイト
買い手側がインボイスを受領した後の対応
買い手は請求書等を受領したあと、仕入税額控除を受けるために、2つの対応が必要です。インボイス受領後の流れをみていきましょう。
記載されている登録番号や内容を確認する
売り手から請求書を受け取ったら、登録番号の有無と登録内容を確認し、適格請求書発行事業者が発行した請求書であるかをチェックします。
売り手が未登録でインボイスを発行できない事業者の場合、買い手側は仕入税額控除が受けられません。消費税の納付額が増えてしまうため、請求書の内容や登録番号は必ずチェックしておきましょう。
インボイスを適正に保存する
買い手が仕入税額控除を受けるためには、法定事項が記載された帳簿と、適格請求書発行事業者が発行したインボイス(写し)の保存が必要です。
帳簿では、税率ごとに区分する処理を行い、次の事項を記載します。
- 相手の氏名または名称
- 仕入れを行った年月日
- 仕入れにかかる資産または役務の内容
- 仕入れにかかる支払対価の額(消費税額の相当額を含む)
インボイスの写しは、交付日の属する課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から、7年間の保存が必要です。また、保管地は「納税地またはその取引にかかる事務所、事業所」に限定されています。
買い手側がインボイスの内容に誤りを見つけた場合の対応
受け取ったインボイスに誤りがあった場合、原則として、買い手側は自ら追記や修正を行うことはできません。売り手側に再発行を求める必要があり、売り手側は再発行を求められた場合は応じる義務があります。
ただし、例外があり、買い手が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売り手である適格請求書発行事業者の確認を受けた場合には、仕入税額控除の適用のために保存が必要な請求書等に該当します。
そのため、インボイスの記載に誤りがある場合、買い手は修正した仕入明細書等を作成し、売り手に確認を求めるとよいでしょう。
インボイス制度で買い手側が注意する点
インボイス制度における買い手側には、いくつか注意すべき点があります。ここでは、安全に取引をするために買い手側が知っておきたい注意点を解説します。
仕入税額控除には経過措置がある
インボイスがない取引でも、2029年9月30日までは一定の割合まで仕入税額控除ができる経過措置が設けられています。これにより、2026年9月30日までは80%の控除、2029年9月30日までは50%の控除が可能です。
ただし、経過措置で仕入額控除の適用を受けるためには、次の要件が必要です。
- 区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存
- 経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存
2029年10月以降は経過措置がなくなるため、取引先が免税事業者の場合は、早めに登録をしてもらうなどの対応が必要になるでしょう。
簡易課税制度を選択している場合
消費税申告で簡易課税制度を選択している場合、買い手側はインボイスを保存しなくても仕入税額控除が可能です。簡易課税制度とは、仕入税額控除の計算を簡素化して事務負担を軽減する制度です。消費税の納税額の計算を、業種ごとの一定の割合(みなし仕入率)を使って算出します。
簡易課税制度を選択するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることと、簡易課税制度選択届出書を提出していることが必要です。
インボイス制度には罰則がある
インボイス制度には罰則があるため、注意が必要です。罰則が適用されるのは、次のようなケースです。
- 適格請求書発行事業者以外が「適格請求書と誤認されるおそれのある書類」を発行した場合
- 適格請求書発行事業者が、偽りの内容で適格請求書を発行および交付した場合
違反した事業者には、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金が課されると定められています。売り手と買い手が共謀して虚偽のインボイスを交付した場合は、どちらも処罰の対象になります。
買い手が虚偽の内容のインボイスを受領して仕入税額控除を適用すれば、過少申告加算税や延滞税なども発生する可能性があるでしょう。インボイスが虚偽である可能性も考慮し、請求書をしっかり確認しなければなりません。
買い手側は請求書等がインボイスであるかの確認が大切
インボイス制度のもとで、買い手側が仕入額控除の適用を受けるためには、売り手側が適格請求書発行事業者であることを確認しなければなりません。
登録しているかを確認するとともに、請求書等を受領したあとは記載された登録番号も国税庁のサイトで確認しておきましょう。さらに、一定事項を記載した帳簿とインボイスの保存も必要です。
買い手側が確認すべきことを把握し、正しくインボイス制度に対応しましょう。
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