- 更新日 : 2024年9月6日
「インボイス残業」にどう対処する?経理の業務負担の増加の原因を解説
インボイス制度開始に伴い、経理担当者を中心に事務処理の業務負担が増え、残業の発生につながっています。業務量が増加する理由のひとつは、取引先がインボイス発行事業者の登録を受けているか確認しなければならないためです。
本記事では、インボイス開始で従業員の負担が増える理由や、残業を軽減する方法などについて解説します。
目次
インボイス制度による業務負担の増加が残業につながる
2023年10月1日よりインボイス制度がスタートしたことで、経理担当者を中心に業務量が増加しています。業務量の増加に伴い、従業員の残業を増やさざるをえないケースもあるでしょう。
そもそも、インボイスとは事業者が消費税を正確に納めるための制度です。
インボイス制度において、買い手は原則として仕入税額控除を適用するために売り手から受け取った「インボイス(適格請求書)」を保存しなければなりません。一方、売り手はインボイスを交付するために、インボイス発行事業者としての登録が必要です。今まで免税事業者だった場合でも、登録すると以降は課税事業者として消費税を申告・納付しなければなりません。
なお、仕入税額控除とは、納付する消費税額を計算する際に、売上税額から仕入税額(仕入や経費の消費税額)を引くことです。
なぜインボイス制度で業務の負担が増えているのか?
インボイス制度の開始に伴い業務負担が増えている主な要因は、以下のとおりです。
- 取引先がインボイス発行事業者の登録を受けているか確認が必要
- 書類が適格請求書の要件を満たすか詳細な確認が必要
- 税額と記帳を確認しなければならない
- 従業員へ制度の周知が必要
- 従業員への問い合わせ対応が増加
それぞれ解説します。
取引先がインボイス発行事業者の登録を受けているか確認が必要
取引先がインボイス発行事業者の登録を受けているのかを確認する必要があります。
取引先がインボイス発行事業者でない場合、買い手はインボイスを保存できず、原則として仕入税額控除の適用対象外です。仕入税額控除の適用可否によって経費の処理や消費税の計算が変わるため、担当者はあらかじめ取引先に確認しておかなければなりません。
書類が適格請求書の要件を満たすか詳細な確認が必要
取引先から受け取る書類が適格請求書としての要件を満たしているのか、確認しなければならない点も業務負担増につながる理由です。
たとえ取引先がインボイス発行事業者であっても、発行する適格請求書としての要件を満たしていなければ、仕入税額控除を適用できません。主な要件は、以下のとおりです。
- インボイス発行事業者の氏名または名称や登録番号
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分して合計した対価の額や適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
担当者は都度、受け取る請求書が上記の要件を満たしているかチェックしなければなりません。また、自社がインボイスを発行する場合も、要件を漏らさないよう確認が必要です。
税額と記帳を確認しなければならない
正しく税額の計算や記帳をできているかの確認が必要な点も、インボイスに伴い従業員の負担が増える理由の一つです。
たとえば、インボイスの発行にあたり、表示を税込・税抜どちらかに統一させなければなりません。また、今まで消費税を申告していなかった場合は、インボイス発行事業者・課税事業者としての登録に伴い、売上の帳簿を軽減税率(8%)と標準税率(10%)に区別することも求められます。
従業員へ制度の周知が必要
経理担当以外の従業員にインボイス制度の概要を伝えなければならない点も、経理担当者の業務負担が増える理由の一つです。
取引先に「インボイスを発行しているか」確認したり、取引先から自社が「インボイスを発行可能か」尋ねられたりすることがあるでしょう。また、インボイス制度は、出張旅費など従業員の立替えや経費精算にも影響することがあります。
そのため、営業担当者など経理を担う従業員以外も、ある程度インボイスの仕組みを把握しておかなければなりません。
従業員への問い合わせ対応が増加
従業員からの問い合わせに対応するために時間を割かなければならない点も、業務負担が増える理由の一つです。
インボイス制度は複雑なため、社内で一度研修会を実施しただけでは従業員が理解できない可能性があります。インボイスに伴う経費処理などをスムーズかつミスなく進めるためには、都度従業員からの問い合わせに対してわかりやすく、丁寧に説明することが大切です。
なお、小規模な事業者の場合、経営者自ら従業員に説明しなければならないこともあるでしょう。
インボイス制度の経過措置はいつまで?
インボイス制度には、開始(2023年10月1日)から6年間は、免税事業者からの課税仕入れであっても仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
主なポイントは、以下のとおりです。
- 免税事業者からの仕入れにかかる消費税の80%を控除可能(〜2026年9月)
- 免税事業者からの仕入れにかかる消費税の50%を控除可能(〜2029年9月)
- 2029年10月以降は控除不可に
各ポイントについて、簡単に紹介します。
免税事業者からの仕入れにかかる消費税の80%を控除可能(2026年9月まで)
インボイス制度開始から3年間(2023年10月〜2026年9月)は、免税事業者から仕入れにかかる消費税額のうち、80%を売上にかかる消費税額から差し引いて納付税額を計算できます。
ただし、適用するためには区分記載請求書と同じような事柄が記載された請求書を保存することや、「8割控除の特例を受ける課税仕入れである」旨を記載した帳簿を保存することが必要です。
なお、区分記載請求書とは、軽減税率と標準税率を区別して記載した請求書を指します。インボイス制度が始まる前(2019年10月1日〜2023年9月30日)の4年間は、「区分記載請求書保存方式」が採用されていました。
免税事業者からの仕入れにかかる消費税の50%を控除可能(2029年9月まで)
2026年10月から2029年9月までの3年間は、免税事業者からの仕入れにかかる消費税額のうち、50%を売上にかかる消費税額から差し引いて納付税額を計算できます。
ただし、8割控除の特例を適用する場合と同様に区分記載請求書と同様の請求書を保存することや、「5割控除の特例を受ける課税仕入れである」旨を記載した帳簿を保存することが条件です。
2029年10月以降は控除不可に
5割控除の特例が終了してから(2029年10月以降)は、経過措置による仕入税額控除を適用できません。そのため、免税事業者から仕入れる際は、控除せずにそのまま消費税額を計算することになります。
なお、「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」以外に、「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)」も存在します。2割特例とは、インボイス制度をきっかけに免税事業者がインボイス発行事業者として登録して課税事業者になった場合に、売上にかかる消費税額から売上税額の8割を引いて納付税額を計算できる制度です。
経理担当だけでなく全従業員の負担が増加し続ける可能性も
すでに説明したとおり、インボイス制度は経費精算や取引先とのやり取りに関連するため、経理担当に限らず全従業員にかかわります。そのため、知識を身につける、受け取ったインボイスの内容を確認するなど、全従業員の負担が増加し続ける可能性があるでしょう。
残業増によるコストや従業員の精神的・身体的負担を軽減するためには、あらかじめ対策を考えておかなければなりません。
インボイス制度に対応するシステム導入で対策をしよう
インボイス制度開始後増え続ける従業員の負担を軽減する方法のひとつが、システムの導入です。
新たに請求書発行システムや会計システムなどを導入すれば、業務効率化につなげられます。たとえば、請求書発行システムを導入すれば、インボイスの要件で悩まずに必要事項を記載した請求書を発行できる点がメリットです。
また、限られた時間の中で慣れない作業を続けると、従業員がミスする可能性が高まるでしょう。その点、システムを導入すれば正確な作業を続けられるため、ヒューマンエラーのリスクを軽減できます。
システム導入にあたっては、クラウドサービスを検討することもポイントです。一般的に、クラウドサービスを導入していれば常に最新の制度を踏まえて作業できるため、自社で法律や制度の変更に対応する手間を省けます。
インボイス開始後の残業量増加に注意しよう
インボイス制度が始まったことにより、従業員の業務負担が増加する傾向にあります。インボイスが業務負担の増加につながる主な理由は、インボイス発行事業者の登録を受けているか確認が必要な点、適格請求書の要件を満たすか詳細な確認が必要な点などです。
経費精算や取引先とのやり取りにも関連するため、経理担当者以外の従業員もインボイス制度開始に伴い負担が増加するケースもあります。インボイス開始に伴い従業員の負担が増えている場合、残業量が増加している場合は、システム導入などの対策を検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
適格請求書発行事業者に登録しないとどうなる?取引先への影響や登録方法も解説
適格請求書等保存方式(インボイス制度)が始まっていますが、適格請求書発行事業者に登録していないけど問題ないのかな?と不安に思っている事業者もいるでしょう。では、適格請求書発行事業者に登録しないとどのような影響があるのでしょうか? 本記事では…
詳しくみる取引ごとに請求書を発行しないケースではインボイス制度にどう対応すべき?
インボイス制度導入では、定められた項目が記載された「適格請求書」が必要になります。しかし、中には取引ごとに請求書や領収書が発行されないケースもあるのではないでしょうか。 請求書や領収書が発行されない取引とはどのようなものか、発行されない取引…
詳しくみるインボイス制度による水道料金の仕入税額控除の要件は?適格請求書が必要?
2023年10月1日から、インボイス制度が始まります。インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために一定の条件を満たした帳簿や請求書である「適格請求書」の保存が必要です。インボイス制度では、免税事業者との取引における消費税が税額控除の対象に…
詳しくみるインボイス制度において控除対象外となる消費税は?
インボイス制度が始まったことにより、消費税申告手続きが煩雑になるという懸念が世間に広まっています。特に仕入れについては、仕入税額控除にて控除できるものとできないものに分かれるため、どうすればいいか迷う法人も多いのではないでしょうか。 今回は…
詳しくみるリバースチャージ方式とは?消費税法改正で課税方式が変わった!
平成27年(2015年)4月の消費税法改正では新しく「リバースチャージ方式」という課税方式が一部の取引に適用されることになりました。 ここではこのリバースチャージ方式の仕組みを解説するとともに、消費税法改正などの他の内容についても簡単に説明…
詳しくみるインボイス制度がフリーランスライターに与える影響まとめ
新たに導入される消費税のインボイス制度は、フリーランスや個人事業主のライターで影響を受ける人もいます。免税事業者のままだとインボイスを発行できず、取引相手は消費税の仕入れ額控除を受けることができません。そのため免税事業者は、課税事業者になる…
詳しくみる