- 更新日 : 2025年1月7日
インボイス制度で個人事業主の廃業を防ぐには?売上シミュレーションや対策を解説
インボイス制度の導入によって、個人事業主の廃業が増えると言われています。免税事業者との取引ではインボイスが発行されず、仕入税額控除が使えないためです。
インボイス制度では経過措置や補助金を活用して、適切な対策をとることが重要です。今回の記事ではインボイス制度による影響や、対策方法などを詳しく紹介します。
目次
インボイス制度で個人事業主の廃業が増えると言われる理由
インボイス制度の導入によって個人事業主の廃業が増えると言われている理由や、対応方法などについて解説していきます。
売上が減少する恐れ
インボイス制度の導入開始以降、個人事業主は売上が減少する恐れがあります。インボイス制度の開始以降、インボイスと呼ばれる適格請求書がなければ、消費税の仕入税額控除を受けられなくなります。仕入税額控除とは消費税の計算を行う際、売上で預かった消費税から仕入で支払った消費税を差し引くことによって、納税負担を減らせる仕組みです。
そのため、インボイスの発行がない事業者との取引では、仕入税額控除が使えなくなってしまいます。しかし、年間の売上が1,000万円未満の個人事業主やフリーランスは消費税免税事業者である場合が多く、インボイスを発行できません。
個人事業主と取引している取引先は、制度の開始以降、仕入税額控除が利用できず、納税負担が増えてしまう可能性があります。取引先は余分な税金を払わなければならなくなるため、個人事業主に対して消費税分の値引きを請求する可能性があります。
取引を断られる可能性
前述の通りインボイスの発行できない個人事業主との取引は、取引先からすれば余分な税負担が増えることになります。そのため、インボイスを発行できない事業者との取引は避ける可能性があり、最悪の場合、取引そのものが無くなってしまう可能性もあるでしょう。
売上高1,000万円以下の中小企業は約4割
令和5年度の中小企業実態基本調査によると、売上高1,000万円未満の企業は全体の約36%を占めています。さらに2021年度の中小企業白書によると、売上高1,000万円未満の事業者の約7割を個人事業主が占めています。したがって、多くの事業者がインボイス制度に対応できていない可能性があるでしょう。
参考:e-Stat 政府統計の総合窓口 中小企業実態基本調査
インボイス発行事業者への登録への検討
売上や取引先を減らさないための対策として、インボイス発行事業者へ登録する方法があります。登録をすれば取引先に対してインボイスが発行できるようになるため、売上減少を防げます。
インボイス発行事業者へ登録する流れは、下記の通りです。
- 電子申告もしくは郵送で登録申請書を税務署へ提出する
- 税務署で審査が行われる
- 税務署から通知がくる
無事に登録が終わると、税務署から通知が届きます。税務署から届く通知に、インボイスに記載する登録番号が記載されています。またインボイス発行事業者に登録されると、インターネットにて確認が可能です。
インボイス発行事業者は売上に関係なく消費税を納める
インボイス発行業者に登録すると売上や取引先の減少は防げますが、売上規模に関係なく消費税を納めなければいけません。そのため免税事業者の頃と比べると、事業への影響は避けられないでしょう。
たとえば、税抜き100万円の商品を販売したとします。免税事業者であれば税込みの受取金額110万円を、そのまま売上として計上できます。しかし課税業者になった場合、110万円のうち10万円を消費税として納税しなければなりません。
インボイス制度で個人事業主の売上はどのくらい減るのか
ここからは、インボイス制度の開始によって個人事業主がどれくらい影響を受けるのかを、パターン別に紹介します。
免税事業者の場合
まずは、免税事業者のままでいた場合の影響を見てみましょう。免税事業者のままでいると、取引先が仕入税額控除を使えなくなり、その分だけ上乗せ請求されてしまう可能性があります。
仕入税額控除とは売上にかかる消費税から、仕入での消費税を控除する仕組みです。例えば、100万円(税抜)で仕入れた商品を200万円(税抜)で販売した場合を考えてみましょう。仕入税額控除が使える場合の消費税は、次の通りです。
20万円(売上の消費税)−10万円(仕入の消費税)=10万円
上記の例では10万円の消費税になりますが、仕入税額控除が使えない場合は仕入れの消費税を控除できません。そのため、納税する消費税は20万円になってしまいます。しかし、すぐに仕入税額控除が使えなくなるわけではありません。
インボイス制度導入後、免税事業者等からの課税仕入について、最初の3年間(令和5年10月1日から令和8年9月30日)は、消費税額の80%相当額について仕入税額控除の適用を受ける特例があります。さらに次の3年間(令和8年10月1日から令和11年9月30日)は、消費税額の50%相当額について仕入税額控除の適用を受けることができる特例もあります。
例として免税事業者である大家さんが、事務所を法人に賃貸している場合を見てみましょう。賃料が10万円だとすると消費税は1万円です。インボイス開始前は仕入税額控除が使えるため法人は支払った1万円の消費税を、全額控除ができました。
しかしインボイス開始後の経過措置の期間では、80%の8,000円しか控除できません。つまり事務所を借りている法人からすれば、2,000円の負担が増えたことになります。このように免税事業者のままでいると、消費税の2割相当分の金額について値引きを要求されてしまう可能性があります。
課税事業者の場合(2割特例を利用)
続いて、課税事業者が2割特例を利用した場合の例を見ていきましょう。2割特例とは、もともと免税事業者であった事業主が、インボイス制度を機にインボイス発行事業者として課税事業者になった場合に利用できる特例です。この特例を利用するためには、ほかにも課税売上が1,000万円以下などの要件を満たさなければなりません。
この制度はインボイス開始に伴う経過措置の1つで、適用できる期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までです。この特例を利用した場合は、名前の通り売上で預かった消費税の2割を納税すればよいことになります。
たとえば年間の売上が500万円であった場合、売上にかかる消費税は50万円です。2割特例を適用すると、50万円×2割=10万円を納税しなければなりません。免税事業者と比べると、10万円の納税負担が増えることになります。消費税が10%とだとすると、消費税の2割を負担することになるため売上に対しては2%の負担が発生することになります。
課税事業者の場合(2026年10月1日~)
2割特例が終了した後の、2026年10月1日以降を紹介します。2割特例が使えなくなった場合の消費税は、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を差し引いて計算します。この際の消費税の計算方法は、割戻し計算と積上げ計算の2つです。
割戻し計算は課税期間の合計売上高の合計から、税率をかけて消費税を計算する方法です。一方積上げ計算は、商品ごとの消費税を一つずつ足していって計算します。例として1個500円(税込、税率10%)の商品を10,000個販売した場合の計算例を見てみましょう。
■ 割戻し計算
- 税込みの売上を計算する 500円×10,000個=5,000,000円
- 税抜き計算をする 5,000,000×100/110=4,545,000円(千円未満切り捨て)
- 消費税を計算する 4,545,000円×10%=454,500円
■ 積上げ計算
- 1個あたりの消費税額を計算する 500円×100/110×10%=45円(小数点以下切り捨て)
- 販売個数を計算する 45円×10,000個=450,000円
以上が原則的な計算方法ですが、どちらの計算方法も計算に手間がかかります。そのため消費税の計算方法には計算を簡便にするための、簡易課税方式もあります。簡易課税方式での計算式は、次のとおりです。
消費税額=課税売上にかかる消費税額-課税売上売上にかかる消費税額×みなし仕入率
みなし仕入率とは業種ごとに定められている数値で、卸売業であれば90%・小売業は80%というように定められています。簡易課税方式を採用するためには、基準期間の課税売上が5,000万円以下などの条件を満たす必要があります。
インボイス制度の登録状況はどれくらい?
インボイス制度の開始によって事業環境が変わってしまった個人事業主の中には、インボイスへの登録を悩んでいる方も多いでしょう。国税庁が令和6年に発表した資料ではインボイスへの登録は年々増えており、令和6年3月末で約445万件となっています。
インボイス制度の導入決定から年々増えており、インボイス開始の令和5年10月の1年前頃から登録件数が急増し、令和5年10月が登録件数のピークです。インボイスへ登録する事業者は増えているものの、内訳を見てみると法人に集中していることがわかります。
2022年12月末の法人登録数は151万7,844件で登録率は80.8%に達する一方で、個人事業主は23.7%と伸びていません。インボイスへの登録はさまざまな手続きの負担増加や煩雑さなどを嫌い、登録に慎重な姿勢を続ける個人事業主が多いことがわかります。
参考:国税庁 適格請求書発行事業者の登録通知時期の目安について
インボイス制度で個人事業主の廃業を防ぐには?
インボイス制度の導入による個人事業主の廃業を防ぐための、対応策を紹介していきます。
免税事業者の場合は免税事業者と取引する
そもそもインボイス制度の開始によって影響を受けるのは、課税事業者との取引です。取引相手が一般消費者や免税事業者であれば、インボイスは関係ありません。そのため取引相手を免税事業者中心にすることで、売上の減少をふせげます。
また簡易課税業者も同様に、消費税の計算にインボイスを必要としません。簡易課税とは先ほど紹介したようにみなし仕入率を使用して、消費税を計算します。このように取引相手を選別することで、売上減少を防げます。
免税事業者も消費税を上乗せ請求する
免税事業者であっても、取引先への請求に消費税を請求することは問題ありません。なんとなく後ろめたさを感じるかもしれませんが、取引先は消費税を支払うことで納税額を減らせるので損失はありません。
インボイス制度導入後も同様に、免税事業者であっても税込で請求することで売上の減少を防げるでしょう。
新規営業や販路拡大し売上を伸ばす
新規営業や販路拡大で売上を伸ばすことも、廃業を防ぐには重要です。インボイス制度開始によって免税事業者は売上が落ちてしまうリスクがあります。売上の落ち込みをカバーするには、新しい取引先を見つけることが一番です。
消費税が軽減される2割特例を利用する
免税事業者のままでは売上維持が難しい場合は、インボイス制度に登録して2割特例を利用する選択肢もあります。2割特例を利用することで、課税業者になった場合でも税負担を最大限抑えられます。しかし2割特例は、令和8年9月30日までの時限措置である点には注意しましょう。
課税事業者になり支援措置を利用する
免税業者のままでは売上の減少などが想定されるのであれば、課税事業者になって経過措置を活用するという方法もあります。インボイス制度の開始に伴い、事業者の急激な負担を避けるためにさまざまな経過措置が準備されています。
先ほど紹介した2割特例のほか、課税事業者になれば1万円未満の少額特例も利用可能です。1万未満の取引であればインボイスがなくても仕入税額控除が使える特例で、少額の取引が多い事業者に向いています。
課税事業者になり補助金を利用する
課税事業者になって、補助金を活用する方法もあります。免税事業者がインボイス発行事業者に登録すると、小規模事業者を対象とした持続化補助金の上限が「通常枠」と「特別枠」ともに50万円上乗せされます。
通常枠とは常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業(宿泊業、娯楽業以外)の場合5人以下)の事業者が対象の制度で、通常50万円の上限が100万円まで利用可能です。特別枠とは、商工会議所の支援を受けながら事業に取り組むなどの要件を満たした場合に利用でき、最大250万円まで補助が受けられます。
会計ソフトにも補助金がでる
中小企業向けのIT導入補助金(インボイス枠)を活用する方法もあります。こちらの制度では安価な会計ソフトも対象となるように、下限額が撤廃されました。そのため小規模な事業主でも利用しやすく、インボイス制度に伴う煩雑な事務を会計ソフトの導入によって解決できるでしょう。
インボイスで廃業しないために、適切な対策をとろう!
インボイス制度の開始に伴い、免税事業者は売上や取引先の減少が懸念されています。売上1,000万円未満の小規模事業者は消費税の免税事業者であることが多くインボイスが発行できないことから、取引先の納税負担が増えてしまう可能性があります。
そのため免税事業者は取引の見直しなどが行われる可能性があり、廃業が増えてしまう可能性があるでしょう。しかしインボイス制度の開始に伴い、経過措置や補助金なども改正されています。これらの制度などを活用して適正な対策をとることで、インボイスの影響を抑えられるでしょう。
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