- 更新日 : 2023年7月3日
農業従事者が知っておきたいインボイス制度!特例も解説
2023年10月から施行されるインボイス制度は、農業従事者にも大きく関係する制度です。消費税の税率や消費税額を記載した適格請求書の発行が求められ、8%と10%の税率が混在する農家の取引においては影響する部分は大きいです。
本記事ではインボイス制度の特徴や概要、農業が受けられる特例などについて解説します。
目次
インボイス制度と農業従事者の関係
農業の場合、農産物の販売は軽減税率の8%、種苗・肥料の仕入や農業機械・設備など固定資産の購入は10%の消費税が適用されます。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は税率ごとの取引額や消費税額を記したインボイス(適格請求書)の発行を求める制度で、複数の税率で取引を行う農家や農業者にとって関係が深いものだといえるでしょう。まずはインボイス制度の概要について解説します。
なお、インボイス制度と農業従事者の関係などについては、下記動画でも解説しています。
そもそもインボイス制度とは?
インボイス制度とは、消費税の適用税率や税額等の記載が義務付けられたインボイスの発行を求める制度です。
インボイス制度導入の目的は、消費税額を正確に把握することにあります。軽減税率が導入されて以降、事業者は2種類の税率から消費税額を計算しなくてはならないため、手続きが煩雑になりがちです。
適格請求書には税率ごとの取引金額や消費税額が記載されるため、手続きの簡素化に役立つと期待されています。適格請求書は取引で必須のものではありませんが、消費税の本則課税事業者が仕入税額控除を受ける際には必要になる書類です。
消費税納税額の算出において仕入時に支払った消費税額を控除(仕入税額控除)するためには、仕入先からの適格請求書が必要です。適格請求書は誰でも発行できる書類ではなく、国から許可を受けた事業者しか発行が認められません。
管轄の税務署長に対して申請を行い、適格請求書発行事業者として登録し、登録番号を取得する必要があります。
インボイス制度の詳しい内容については下記記事をご覧ください。
参考:インボイス制度の概要|国税庁
参考:特集インボイス制度公表サイト|国税庁
課税事業者と免税事業者の違い
課税事業者は消費税の納税義務がある事業者を指し、免税事業者は消費税の納税義務が免除された事業者のことです。適格請求書は課税事業者ではないと発行できないことに注意してください。
インボイス制度では適格請求書が仕入税額控除の要件となっているため、免税事業者からの仕入では適用を受けられなくなります。
課税事業者と免税事業者について詳しい違いが知りたい方は下記記事をご覧ください。
農業従事者がインボイスを発行しなくても良いケース
インボイスを発行するには課税事業者になる必要があります。しかし、全ての取引に必ず適格請求書の発行が求められている訳ではありません。
また農業者の場合、インボイスが必要な取引でも自ら適格請求書を発行しなくても良いケースが存在します。
農協特例を利用する場合
委託販売では、適格請求書発行の特例(卸売市場特例)を受けられるケースがあります。理由として、委託販売という取引の特殊性から、購入者全員に対し請求書を交付するのが困難であるためです。
農業協同組合や農業組合法人等の組合員、その他の構成員が農協等に、無条件委託かつ共同計算方式にて販売を委託した場合、組合員等から購入者への適格請求書の交付義務が免除されます。
無条件委託方式と共同計算方式の概要については、以下の通りです。
- 無条件委託方式:売値や出荷時期、出荷先などの条件を設けずに、農産物等の販売を委託すること
- 共同計算方式:取引額の計算において、その農産物等の種類、品質、等級といった区分ごとの平均金額を根拠に算出すること
媒介者交付特例を利用する場合
売り手と買い手の間に第三者を介する取引の場合、媒介者が請求書を交付することが認められています。
これを媒介者交付特例といい、媒介者が売り手の代わりに自らの名称や登録番号を記載した請求書を交付することが可能です。売り手の名称や登録番号は記載しなくて構いません。
媒介者交付特例の適用を受けるには、売り手と媒介者の双方がインボイスの発行事業者となっている必要があります。また売り手は商品を販売するまでに、自分がインボイスの発行事業者であることを、媒介者に通知しなければなりません。
参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A|公正取引委員会
簡易課税で仕入額控除を受ける場合
委託販売の特例等を利用しなくても、適格請求書を発行せずに済む場合があります。具体的には、簡易課税制度を導入している取引先の企業に対してはインボイスを発行しなくても問題ありません。
簡易課税は消費税の納税額の計算を簡易的な方法で行うことができる制度です。仕入税額控除(支払った消費税の計算)において、事業の区分に応じたみなし仕入率を使用します。
厳密に支払った消費税額を把握しなくても良いので、適格請求書の発行が求められないというロジックです。ただし、簡易課税制度を選択するかどうかは取引先が決めることであり生産者サイドからは選択できないことに注意しましょう。
参考:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A|国税庁
免税事業者と課税事業者のどちらを選ぶべきか
免税事業者と課税事業者のどちらを選ぶべきかですが、取引先に消費税の負担をさせないようにしたければ、自身が課税事業者になることを選択した方がよいでしょう。
ただし「特例が利用できる」「既存の取引先が全て免税事業者である」など一定の条件に該当すれば、免税事業者でも問題ない場合があります。農家や農業者が免税事業者でいた方が良いケースとそうでないケースを紹介します。
免税事業者でいる方が良い農業従事者
免税事業者のままでいた方が良いのは、以下のようなケースです。
- 取引先が全て個人、もしくは免税事業者や簡易課税事業者の場合
- 農業特例・媒介者交付特例を利用できる場合
- 消費税やインボイスに関する事務的な処理を行うことが難しい場合
商品を販売する取引先が個人であれば、仕入税額控除の問題は生じないため、インボイスの発行を求められないでしょう。販売先が免税事業者や簡易課税事業者の場合も同様です。
ただし販売先が本則課税事業者の場合、適格請求書がなければ仕入税額控除を受けられません。結果として販売先が消費税で損失を被ることになります。この損失部分の値下げ交渉を持ちかけられたり、委託費用がカットされたりする可能性もあるでしょう。
また仕入税額控除ができない免税事業者との取引を排除し、課税事業者だけと取引する方向にシフトしたり、新規開拓で断られたりすることが想定されます。しかし農業従事者の場合、先に述べた「農業特例」「媒介者交付特例」があるので、免税事業者のままで問題ないケースもあります。
課税事業者になった方が良い農業従事者
課税事業者になった方が良いのは、以下のようなケースです。
- 本則課税事業者である既存の取引先との取引を継続したい場合
- 取引先の新規開拓などで、免税事業者と差別化を図りたい場合
課税事業者になり、適格請求書発行事業者の登録をすれば取引先は継続して仕入税額控除を受けられるため、今後の取引に影響は生じません。
また、新規開拓でも免税事業者との比較では有利に立つと考えられます。ただし、消費税の申告が必要になるため、消費税額の計算や申告書作成の手続き等が増えますので注意が必要です。
農業従事者はインボイス制度や請求書の記載内容を正確に把握しよう
農業従事者はインボイス制度の開始によって、適格請求書の発行が求められる可能性が高いです。制度の特徴や請求書の記載内容を把握して、スムーズに適用できるように準備しましょう。
免税事業者の場合、適格請求書の発行は必要ではありませんが、取引先が仕入税額控除の適用を受けられないため、取引に影響が出る場合があります。委託販売時の農協特例、媒介者交付特例の適用を受ければ、自らインボイスを発行する手間を省くことが可能です。
よくある質問
農業従事者が受けるインボイス制度の影響は?
課税事業者になって適格請求書を発行しなければ、取引先が仕入税額控除を受けられなくなります。詳しくはこちらをご覧ください。
農業従事者のインボイス発行義務が免除されるケースはありますか?
「農業特例を利用する場合」「媒介者交付特例を利用する場合」「簡易課税で仕入税額控除を受ける場合」などのケースです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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