- 更新日 : 2024年10月17日
インボイス制度が漫画家に及ぼす影響とは?対策も紹介
2023年10月1日からはじまるインボイス制度は、漫画家の取引に影響を与える可能性があります。
一定の要件を満たした適格請求書を発行しなければ、課税事業者である取引先が仕入税額控除を受けられなくなるため、注意が必要です。今回は漫画家が理解しておくべきインボイスの特徴について、分かりやすく解説します。
目次
漫画家が知っておきたいインボイス制度
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始によって、漫画家やイラストレーターの取引に影響が出る可能性があります。
具体的には発注者が課税事業者の場合、仕入税額控除の適用を受けるために、適格請求書の発行を求められる場合があるのです。
まずはインボイス制度の概要やメリット、課税事業者と免税事業者の違い、仕入税額控除などについて解説します。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、複数税率の併用による消費税の計算ミスを防ぐために、2023年10月1日から開始されるものです。
消費税については標準税率の10%と軽減税率の8%が混在する複数税率があり、取引内容により異なる税率を採用しています。したがって取引の透明性を高めるために正確な税率・税額を明らかにすることで、正しい納税額が算出できます。
インボイス制度で導入される適格請求書(インボイス)には消費税率や消費税額などが正確に記載されます。
インボイス制度の詳しい内容については下記記事をご覧ください。
参考:インボイス制度の概要|国税庁
参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A|公正取引委員会
参考:特集インボイス制度公表サイト|国税庁
インボイス制度導入前からの変更点
インボイス制度導入後は、仕入先からのインボイス(適格請求書)がなければ、仕入税額控除を受けられなくなります。
仕入税額控除とは、仕入時に支払った消費税額を売上で得た税額から控除できる仕組みです。
仕入税額控除を受ける場合の納税額は「売上に係る消費税-仕入時に支払った消費税」で算定します。
仕入税額控除は、結果的に納税額が減るためコスト削減につながる仕組みですが、インボイス導入後は適用条件が厳しくなります。
適格請求書(インボイス)を発行できるのは、インボイス発行事業者だけです。つまりインボイス発行事業者からの仕入でなければ、仕入税額控除の適用を受けられなくなります。
免税事業者と課税事業者とは
消費税の納税義務が免除されている事業者を免税事業者、反対に納税義務がある事業者を課税事業者と呼びます。
インボイス制度導入後は、課税事業者でもインボイス発行事業者とならないケースもあり得るため、次の3つのパターンが考えられます。
- 免税業者
- 課税業者であり、インボイス発行事業者である
- 課税事業者であるが、インボイス発行事業者ではない
事業者における課税売上高が1,000万円を超えて課税事業者となったとしても、取引先への影響はないため、インボイス発行事業者にならないという選択肢もあり得ます。
免税事業者がインボイスを発行するためには、インボイス発行事業者への切り替え手続きが必要です。免税事業者は消費税の納税は免除されますが、取引先に対して消費税を請求することは問題ありません。
課税事業者と免税事業者の詳しい違いや要件を知りたい方は下記記事をご覧ください。
インボイス制度の登録申請
課税事業者がインボイスを発行するには、所轄税務署に対して適格請求書発行事業者の申請手続きが必要です。申請は紙のほか、電子申請にも対応しています。申請書は以下のURLからダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
- 申請書の入手先:[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続|国税庁
- 電子申請の詳細:登録申請手続におけるe-Tax対応の概要|国税庁
2023年10月の制度開始から適用を受けるには、2023年9月30日までに申請が必要です。また、継続的に取引している相手方に対して、登録番号や登録通知の受領方法について連絡しましょう。
参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問7参照)
仕入税額控除は利用できる?
インボイス制度がはじまると、免税事業者からの仕入において支払った消費税を控除できなくなります。したがって、発注元は消費税を多く支払うこととなり、免税事業者の漫画家との取引に支障が出る可能性が高いと言えます。
ただしインボイス制度が開始した途端すべての仕入税額控除が適用できなくなるのではなく、経過措置が設けられています。
経過措置は導入後、一定期間は適格請求書発行事業者以外からの仕入でも、仕入税額相当額のうち一定割合を控除できるというものです。経過措置の期間と控除額については下記のとおりです。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日:50%
参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問110参照)
漫画家が受けるインボイス制度の影響
インボイス制度がはじまると、漫画家は発注元から適格請求書の発行を求められるかもしれません。免税事業者の漫画家の場合、取引先との関係に変化が生じる恐れがあります。インボイス制度で漫画家がどのような影響を受けるのか、具体的に解説します。
適格請求書を発行
インボイス発行事業者になる選択をする場合、従来の請求書からインボイス制度に対応した適格請求書に変更する必要が生じます。現行の区分記載請求書では、「発行者名」「取引年月日」「取引金額(税込)」「取引内容」「受領者名」を記載すれば問題ありませんでした。
適格請求書は、これに加えて「税率ごとの対価(税抜又は税込)」「税率ごとの消費税額」「事業者登録番号」の明記が必要になります。税率や税額、登録番号が記載された請求書でなければ、取引先が仕入税額控除の適用を受けられません。
免税事業者が不利になることも
免税事業者の場合、インボイスが発行できないことから、取引の見直しなどの交渉がなされる可能性があります。
これは、課税業者である発注元にとってはインボイスではない請求書は経費の増加を意味します。発注元としては免税事業者ではなくインボイス発行事業者が都合がよく、そのための交渉をもちかけるといった対応に出る可能性があります。
ただし、その技術力を評価されて取引をしている漫画家やイラストレーターの仕事内容を考えると「免税事業者のAさんとの契約は打ち切って、課税事業者のBさんに変更しよう」という対応を取る可能性は低いかもしれません。発注元から見れば、税制改正という理由のみで唯一無二の存在である漫画家やイラストレーターの取引を見直すことは少ないとも言えます。
漫画家などスキルや才能を価値にするクリエイティブな仕事においては、免税事業者へのインボイスの影響がどこまで大きいのか読みづらい側面があります。
インボイス制度開始に向けての対策
インボイス制度に向けて、免税事業者でいるべきか課税事業者になるべきか迷っている方はいるかもしれません。ここでは、免税事業者・課税事業者(インボイス発行事業者の可否も含めて)でいたほうが良いシチュエーションを紹介します。
また個人事業主が法人化するべきか、アシスタントがいる場合の対応なども合わせて紹介します。
免税事業者でいるべき漫画家
基準期間の課税売上高が1,000万円以下のフリーランスの漫画家は基本的には免税事業者です。免税事業者がインボイス発行事業者になったときに生じる消費税納税額の負担が厳しいと感じる場合には、対策として免税事業者のままでいるという選択肢もあり得ます。その才能などが高く評価され、他の人では代替できないようなケースでは免税事業者継続もあり得ると言えます。
免税事業者の方は、予め発注元とインボイス、今後の取引について相談しておきましょう。
免税事業者として事業を続けたときの懸念点は、契約の見直しなどが行われないかということです。ただし取引先が消費税の負担を自ら引き受ける判断を取るのであれば、現在と同じ条件で取引を継続できます。
取引先との関係や交渉にもよりますが、発注元との関係性においては免税事業者のままで問題ない場合もありえることは知っておきましょう。
課税事業者になるべき漫画家
課税事業者になったほうがよいのは、その漫画家などが他の人でも代替できる作業を請け負っている場合や、発注元である課税事業者が多くの漫画家などと取引している場合などです。または、その発注元との取引が主要な収入源であって、漫画家が継続的な取引を続けたい場合も当てはまります。
このような場合には、取引を継続するためにはインボイス発行事業者となる選択をすることが考えられます。発注側は従来どおり仕入税額控除ができるインボイス発行業者との取引を継続したいと思うでしょう。
また、インボイス発行事業者は、取引先の新規開拓をする場合でも免税事業者との比較では有利になると考えられます。依頼を受ける側からすると、インボイス発行事業者になり消費税を支払えば手取りの悪化につながる恐れもありますが、長期的には売上が増加して利益アップをもたらすかもしれません。
ただし、新たに消費税の計算や申告手続きの手間が増えることには注意が必要です。
個人事業主は法人成りすべきか
インボイス制度開始に向けて個人事業主が法人成りを検討するかもしれませんが、タイミングとしては適切とは言い切れません。
個人事業主が法人成りした場合、一定の条件を満たせば最大2年まで消費税の免税事業者になることが可能です。しかしインボイス制度では、上述の通り、免税事業者のままでいることはデメリットにもなります。
法人の免税事業者も適格請求書(インボイス)の発行が認められないので、取引に影響が生じるといえます。インボイス制度がはじまる前においては免税期間を享受できてメリットではあったのですが、もうすでに消費税のために法人成りするメリットは少ないです。
アシスタントがいる場合の注意点
漫画家自身が課税事業者なら、アシスタントから適格請求書を発行してもらう必要が出てきます。これは、アシスタントが雇用ではなく、業務委託など外注先として依頼している場合に限ります。
業務委託しているアシスタントからインボイスを発行してもらえなければ、課税事業者である漫画家はアシスタントへ支払う消費税分を自身で負担することになるかもしれません。
しかし、これはアシスタントと雇用契約を結ぶことによって解決できます。アシスタントの源泉税や年末調整、さらには社会保険のことについて新たな手続きが増えることにはなりますが、給与や賞与は不課税取引であり、消費税の対象にはならないからです。
また、漫画家が消費税の簡易課税制度を採用している場合には、インボイスの保存は必要ないため免税事業者のアシスタントと委託契約であっても特に問題ありません。
さらに、免税事業者からインボイス発行事業者になった場合には、インボイス制度開始後の3年間は仕入れに関係のない経過措置が受けられます。消費税の納税額を売上税額の2割とすることができる制度です。詳しくは下記を参考にしてください。
参考:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
インボイス制度は漫画家の取引に影響を与える制度
インボイス制度が開始すると、仕入税額の控除を受けるために取引先が適格請求書の発行を求めてくる可能性があります。
適格請求書を発行するためにはインボイス発行事業者にならなくてはいけません。適格請求書(インボイス)を発行できない免税事業者の漫画家の場合、今後の取引において影響を受ける可能性があります。
また、たとえ漫画家がインボイス発行事業者になったとしても、業務委託のアシスタントを従業員にしたり、特例の適用を受けたりすることを検討しましょう。
よくある質問
インボイス制度によって漫画家を取り巻く環境はどう変わる?
課税事業者から適格請求書の発行が求められるため、免税事業者の漫画家は取引の成立や報酬に影響が出る可能性があります。詳しくはこちらをご覧ください。
免税事業者と課税事業者の違いは?
消費税の納税をしなくてよいと認められているのが免税事業者、消費税の納税義務があるのが課税事業者です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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