• 更新日 : 2024年10月21日

請求書の電子印鑑は法的に必要?種類や押印方法、注意点を解説

脱ハンコ社会が加速的に進む一方で、完全な「脱ハンコ」ではなく、従来との兼ね合いから「電子印鑑」を利用した書類をよく見かけます。

もともと、請求書には押印がなくても効力は変わらないものですが、従来の取引の慣習から引き続き「印影」を求める場合に使われるのが電子印鑑です。この記事では、請求書の電子印鑑について考えていきます。

請求書の電子印鑑は法的に必要?

電子印鑑を考える前に、そもそも請求書などの商取引の書類に印鑑は必要なのかどうかを考えてみましょう。

コロナ禍に内閣府、法務省、経済産業省が連名で出した「押印についてのQ&A」によると、「契約書に押印をしなくても法律違反にならないか」という問いに対し、次のような回答があります。

私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。

特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

引用:押印についてのQ&A|法務省、「押印についてのQ&A(問1ご参照)

したがって、請求書の大元となる契約書への押印がなくてもその契約の効力は変わらないとされます。さらに、請求書については次のような記載もあります。

請求書、納品書検収書等の法律行為が記載されていない文書については、文書の成立の真正が認められても、その文書が示す事実の基礎となる法律行為の存在や内容(例えば、請求書記載の請求額の基礎となった売買契約の成立や内容)については、その文書から直接に認められるわけではない。

引用:押印についてのQ&A|法務省、「押印についてのQ&A(問4ご参照)

請求書からは、その請求の元となった契約の存在や内容が直接認められるものではなく、請求行為は独立していると捉えられています。つまり、契約、そして請求には押印はなくてもその効果が変わらないとされています。

したがって、この項のテーマである「請求書の電子印鑑は法的に必要か?」という問いについては「そもそも印鑑は必要ない」と言えます。

次に電子印鑑について考えてみましょう。

一般に「電子印鑑」と言う場合には、次の2種類が考えられます。

    1. 電子印影
      印鑑印影の画像化や、アプリなどにより作成する電子印鑑
      (WordやExcelなどでも簡単に作成することができる)
    2. 電子印鑑
      印影データに押印時の識別情報(電子署名、タイムスタンプ情報等)を付与した電子印鑑(専用ツール等で作成する)

電子署名及び認証業務に関する法律においては、上記2の電子印鑑であれば、従来の記名・押印と同様の効力があるとされます。電子署名及び認証業務に関する法律第3条に定められていることがその根拠となります。

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

引用:電子署名及び認証業務に関する法律|e-Gov

参考:電子署名法と認定認証業務|電子認証局会議

以下では、特に2の電子印鑑について述べる際には「識別情報のある電子印鑑」と明記しています。

請求書に電子印鑑を押印する理由は?

請求書に電子印鑑を押印したものをよく見かけます。請求書には押印が必要ではないにもかかわらずなぜでしょうか?それには大きく分けて2つの理由があります。

請求書の信頼性を高めるため

請求書に電子印鑑を押印することより信頼性の向上に貢献できます。

  • 社会的信用度の向上

電子印鑑が押印された請求書は、押印されていないものと比較して社会的信用度が高くなります。

  • 正式な請求書

会社の正式な電子印鑑が押されていると、個人ではなく会社として発行された文書であることが明らかになります。

  • ビジネスマナーの遵守

古くからビジネス慣習として定着している押印を遵守することで取引先からの信頼を得やすくなります。

改ざんや偽造を防止するため

電子印鑑は改ざん防止や偽造防止にも効果があります。

  • 作成者の特定

電子印鑑により請求書の作成者が明らかになり、無断で請求書を作成することを防ぎます。

以下は、「識別情報のある電子印鑑」について述べています。

  • 有効な改ざん防止策になる

有料の電子印鑑システム等を利用することで、識別番号や本人証明、日時などの情報が付加できるため、改ざんや偽造を防ぐことができます。

  • 電子証明書の利用

電子印鑑に実印の印鑑証明書に相当する電子証明書を付加させることで、高度な改ざん防止が可能になります。

請求書に押印する電子印鑑の種類は?

ここでは、電子印鑑の種類として3つのものを挙げておきます。どれも取引において重要な役割を果たすため、作成時には管理も含めてよく検討する必要があります。

実印【識別情報のある電子印鑑】

電子実印は、会社の代表者印にあたる最も重要な電子印鑑です。重要な契約書、法的な手続き、登記関連書類などに用いられます。事前に取引相手が電子実印の使用について了承していることを確認した上、電子署名法に準拠した電子署名を付与する必要があります。押印時にはタイムスタンプを付与し、改ざん防止措置を講じます。

電子実印を法務局に届け出た実印と同等の効力を持たせるために、信頼性の高い電子契約サービスを利用する等の対策を講じることが必要です。

なお、識別情報のない電子印影の場合には、実務上は認め印と同等の扱いになります。

銀行印【識別情報のある電子印鑑】(銀行が対応している場合のみ)

銀行印を実印とは別に作成することで、リスク分散を図れます。高度なセキュリティ対策を施す必要があるため、銀行が指定する電子認証方式に対応しているかを確認しなければなりません。

例えば、みずほ銀行では、紙の契約書への押印に代わりPDFファイルに「電子署名」を行うことで取引が可能です。三菱UFJ銀行においても、取引における契約や申込手続きを「電子署名」を利用することによりオンラインで行うことができます。さらに、三井住友銀行も「電子契約サービス」における「電子署名」により各種の手続きが可能です。

したがって、現実的に重要なのは「電子署名」となります。

参考:

みずほ電子契約サービス|みずほ銀行

Biz SIGN | 三菱UFJ銀行

電子契約サービス|三井住友銀行

角印

電子角印は、日常的な業務文書に使用する電子印鑑です。会社名を明らかに表示するための書類として、見積書、請求書、領収書などへの用途が考えられます。角印は日常業務で広く活用されますが、悪用を防ぐためには識別情報のある電子印鑑を利用したほうがよいでしょう。

請求書に電子印鑑を押印する方法は?

印鑑の種類や取引内容により、押印する印鑑の種類も異なります。

電子署名が可能な電子印鑑を請求書に押印する手順は、利用する電子印鑑サービスやシステム等によって異なります。ここでは、重要な契約書に電子実印を押印するときの一般的な例を挙げておきます。

識別情報のある電子印鑑の押印について

識別情報のある電子印鑑の押印までの全体的な流れを示すと次のようになります。

手順主な作業
1電子印鑑の作成実際に押印する印影を作成し、電子証明書を取得して電子印鑑と紐づけます。
2請求書への挿入請求書の電子データを作成し、作成済みの電子印鑑を挿入します。押印する位置を決め、電子印鑑サービスの画面上にて署名を実行します。

利用するサービスによって認証方法は異なります。

3署名データの送信署名済請求書をPDF形式などに保存し、確認ののち相手方に送信します。送信した請求書は電子データのまま保管します。
4相手方による検証相手方にて、受信した請求書に含まれる電子署名を検証します。

紙と異なるため、相手方の受け入れ環境については予めよく確認する必要があります。

請求書に電子印鑑を押印する時の注意点は?

今まで物理的な存在であった印鑑が電子印鑑に置き換えられることにより、新たに確認する内容も増えます。識別情報のある電子印鑑における注意点として、「電子署名」と「タイムスタンプ」の違いについて解説します。

電子署名とタイムスタンプ【識別情報のある電子印鑑】

電子署名は、文書を作成した本人であることを証明し、データが改ざんされていないことを保証するために付与するもので、電子署名法などに定められています。

これに対し、タイムスタンプもデータの改ざんがないことを保証するものではありますが、その文書が作成された日時を証明するものとして総務大臣による認定を受けたものとされています。

すなわち、電子署名は「誰が」という本人証明をするものであり、タイムスタンプは「いつ」という作成日時を証明するためのものと言えます。

「電子データ」に、「電子署名」と「タイムスタンプ」を付与することにより、「誰が、いつ、なにを」作成したのかが明らかになるというわけです。

参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁、「電子帳簿保存法一問一答(問54ご参照)

請求書に画像データとして印鑑を貼り付けることは可能?

単に画像データとして、請求書に角印の印影を張り付けることは可能です。単なるデータとして、一般の画像データを張り付けるように請求書データ上に貼ることとなります。

しかし、識別情報のない電子印影(画像データ)を扱う際には注意が必要です。識別情報がないことにより改ざんリスクが高まり、第三者が不正に印影を使用する(なりすまし)の可能性もあるため、法的な証拠能力としては低下すると言えます。

このような不正使用を防ぐため、社内においても印影画像データの厳重な管理が必要です。さらにどの書類に使用するかの社内ルールを設定する必要があります。

識別情報のある電子印鑑は印鑑というより証明書!

最近は、社内において担当者印として利用してきた認印を電子印鑑に変更して、「誰がいつ確認したか」という証拠を残す会社もあります。識別情報のある電子印鑑は、もはや「印影」というよりも押印する書類の証明書としての役割を果たしています。

昔は「紙」に施せる証明の技術として優れた方法であった「押印」も、ペーパーレス化、脱ハンコ化により大きく姿を変えつつあると言えるでしょう。


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