• 更新日 : 2024年10月1日

【令和5年度税制改正大綱】インボイス制度の変更点や影響まとめ

令和5年度税制改正大綱により、「2割特例」や「少額特例」などの制度が新設されました。これらは期間限定の制度であるため、インボイス制度への対応方法を十分に模索する必要があります。

ここでは、令和5年度税制改正大綱の内容やその影響、インボイス制度への対応方法について解説します。自社のインボイス対応を強化する際の参考にしてください。

【令和5年度税制改正大綱】インボイス制度の変更点

インボイス制度導入による事業者の負担を軽減するために、令和5年度税制改正大綱では、インボイス制度に関する手続きの見直しや特例制度がいくつか設けられました。

免税事業者だけでなく、課税事業者にとっても影響の大きな改正となるため、税制改正大綱の内容を理解し、適切な対応方法を検討しましょう。

2割特例:消費税の納税額を軽減する

2割特例とは、消費税の免税事業者が「インボイス発行事業者」として登録することで課税事業者となった場合において、一定期間にわたって消費税の税負担を軽減できるようにするための特例措置です。

2割特例を適用した場合には、業種にかかわらず、消費税の納税額を一律で「売上税額の2割」にできます。事前の届出などは不要であるため、簡便な計算方法や税務手続きを実現することが可能です。

なお、2割特例については、免税事業者であった個人事業主や法人が「インボイス発行事業者」として登録した場合に限って選択適用できる制度であるため、インボイス登録の有無にかかわらず、元々課税事業者に該当する事業者については適用できません。

また、この特例制度は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間で適用できます。たとえば、3月決算の法人であれば、令和9年3月期までの事業年度が対象となります。

少額特例:1万円未満の仕入れはインボイスの保存が不要

少額特例とは、税込み1万円未満の少額な課税仕入れであれば、インボイスを保存していなくても、一定の内容を記載した帳簿の保存によって仕入税額控除が認められる特例制度のことです。

インボイス制度では、本則課税を適用する事業者が正確に仕入税額控除の計算を行うためには、支払先から発行される請求書領収書を1枚ずつ確認しなければならず、事務負担の大幅な増加が見込まれていました。

インボイス対応による事務負担を軽減すべく、少額な取引に関しては、その都度インボイスに該当するかどうかを確認しなくても、仕入税額控除を適用できるようになりました。

少額特例については、「基準期間の課税売上高が1億円以下」または「特定期間の課税売上高が5,000万円以下」の法人や個人事業主が対象となります。

また、この特例制度は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が対象となり、たとえ課税期間の途中であっても、令和11年10月1日以降は少額特例を適用できないため、注意が必要です。

なお、税込み1万円未満かどうかの判定については、商品やサービスの単価ではなく、1回の取引における課税仕入れの合計金額で判断するため、金額の判定方法についても併せて押さえておきましょう。

1万円未満の値引きなどは返還インボイスの交付が不要

インボイス発行事業者が行った課税売上げについて、値引きや返品、割戻しなどが発生した場合には、返還インボイスの交付が義務付けられています。

しかし、令和5年度税制改正大綱では、その値引きなどの金額が税込みで1万円未満の場合には、返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。

たとえば、銀行振込を行う際の振込手数料を負担する場合において、売上値引きとして計上する場合には、振込手数料が1万円未満であれば、返還インボイスの交付は不要となります。

なお、この制度については、2割特例や少額特例のような適用対象者や対象期間に関する制限は設けられていないため、すべての事業者が対象となります。

インボイス制度の登録・解除の提出期限を緩和

令和5年度の税制改正大綱では、インボイス登録を行う場合や、登録を取りやめる場合の手続きについて、それぞれの提出期限が緩和されています。

具体的には、課税期間の初日からインボイス登録を受けようとする場合には、登録申請書の提出期限がその課税期間の初日から起算して「1ヶ月前の日」ではなく、「15日前の日」に変更されました。

同様に、インボイス登録を取りやめる場合の取消届出書についても、登録を取りやめる課税期間の初日から起算して「15日前の日」までに提出すればよいこととされています。

補助金などの変更

インボイス制度への対応に取り組む企業を支援するために、各種補助金制度の特別枠が設けられています。

たとえば、IT導入補助金では、インボイス制度への対応の一環として、制度に対応した会計ソフトや受発注システムなどを導入する事業者を支援するために「インボイス枠」が新設され、通常枠とは異なる手厚いサポートが用意されています。

また、小規模事業者持続化補助金では、免税事業者がインボイス発行事業者として登録した場合には、補助金額に一律50万円が加算される「インボイス特例」が設けられています。

なお、補助金制度については、申請するタイミングによって制度内容が異なる場合もあるため、申請時には必ず最新の公募要領を確認しましょう。

令和5年度税制改正大綱に伴うインボイス発行事業者への影響

令和5年度税制改正大綱では、インボイス制度に関する内容が一部見直され、ルールの変更や特例制度の新設が行われました。

今回の税制改正が実施されたことで、免税事業者だけでなく、課税事業者であるインボイス発行事業者にもいくつかの影響が及ぶものと予想されます。

以下のようなポイントを踏まえ、インボイス制度への対応方法について改めて検討しましょう。

事務負担の軽減

令和5年度税制改正大綱によって「2割特例」や「少額特例」のような特例制度が新設されたことで、インボイス制度による事務負担増加の懸念が多少なりとも緩和されることが予測されます。

たとえば、2割特例によって、免税事業者がインボイス登録した場合には、業種にかかわらず、「売上税額×20%」で納税額を計算できるため、支払先がインボイス登録しているかどうかをその都度確認する必要がありません。

また、本則課税を適用する企業にとっても、少額特例を適用することで、支払先のインボイス登録の状況を確認する頻度を減らすことができるため、経理担当者の事務負担をある程度抑制できるでしょう。

ただし、いずれの特例制度も適用対象者や対象期間が限定されているため、それらの恩恵を受けられるのは一部の事業者に限られます。

特例を適用できない企業については、インボイス対応に優れたシステムを導入するなど、事務負担を軽減するための効果的な対応策を検討することが重要です。

特例制度による複雑化

特例制度によって一部の事業者における事務負担の軽減効果が期待されるものの、これらの制度が乱立することで消費税計算の複雑さが増し、ミスや勘違いを生むリスクも高まっていると考えられます。

たとえば、「2割特例」や「少額特例」については、基準期間や特定期間における課税売上高が適用要件のひとつとされています。そのため、事業年度によってこれらの基準を超過したり、下回ったりする場合には、年度ごとに特例の適用可否が頻繁に入れ替わるケースもあるでしょう。

そのような場合には、「今年度はどの特例制度を適用できるのか」を正しく理解する必要があります。それらの判定を間違えてしまうと、消費税計算にも誤りが生じるリスクも高まるため、特例の適用可否については慎重かつ正確な判断が求められます。

インボイス登録を行わないとどうなる?

インボイス登録はあくまで任意であり、登録の必要性は業種や事業内容によって大きく異なります。

たとえば、飲食店や美容院など、一般消費者を顧客とするようなBtoCの商売であれば、インボイス登録を行わなかったとしても、さほど影響がないケースも少なくありません。それに対し、企業などを顧客とするBtoBの事業を営む場合には、インボイス登録を行わないことで、以下のような影響を受けるリスクが高まります。

登録の有無によって生じるさまざまな影響を考慮し、自らにとって最善の方法を選択しましょう。

値下げ要請

消費税の課税事業者にとっては、インボイス未登録の事業者と取引を行い、対価を支払う場合には、仕入税額控除が制限されてしまうため、自らの消費税納税額が増加します。

そのため、インボイス制度開始後に免税事業者などと取引する場合には、買い手側は自らの税負担が増加することから、その分の値下げを求めるケースが多いです。

売り手であるインボイス未登録の事業者にとっては、取引先からの値下げ要請に応じることで収入が減少するため、「インボイス登録せずに値下げを受け入れる場合」と「インボイス登録して消費税を納める場合」を比較し、自らにとって有利な方を選択することが重要です。

取引の縮小や停止

課税事業者にとっては、支払先にインボイス登録事業者と未登録事業者が混在する場合には、それらを区分して仕入税額控除を計算しなければならないため、事務負担の増加につながりかねません。

課税事業者のなかには、これらの事務負担を軽減するために、インボイス未登録の事業者との取引を縮小したり、取引自体を停止したりするケースもあります。

したがって、免税事業者がインボイス登録の要否を検討する場合には、「免税事業者を継続した場合の影響」について自らの取引先にヒアリングし、値下げ要請や取引縮小などの意向があるかどうかを直接確認しましょう。

顧客開拓への懸念

インボイス登録の有無については、既存顧客だけでなく、新規顧客を開拓する場合にも影響する可能性があります。

継続的な取引がある得意先であれば、すでに関係性が作られているため、インボイス登録しなかったとしても、取引を継続してもらえるケースが少なくありません。

それに対して、新規顧客を開拓する場合には、見込み客との間に十分な信頼関係が構築されていないため、インボイス未登録のままでは門前払いされてしまう可能性もあるでしょう。

したがって、インボイス登録の要否を検討する際には、インボイス登録をしなかった場合における既存顧客への影響だけでなく、新規顧客を開拓する際に足かせとならないかどうかについても、慎重に検討することが大切です。

クラウドサービスで制度変更に対応する負担を軽減しよう

インボイス制度による事務負担増加を抑制するためには、専用システムの活用が効果的です。

特にインボイス対応に優れたクラウドサービスを導入することで、インボイス制度にも無理なく対応でき、社内の生産性向上にも貢献します。

インボイス対応でクラウドサービスの導入を検討する場合には、以下のような機能を重視することをおすすめします。

インボイスの発行

自社がインボイス発行事業者に該当する場合には、インボイス番号や消費税額の表記など、記載要件を満たした「インボイス(適格請求書)」を発行しなければなりません。

インボイス制度に対応した請求システムを活用することで、インボイス様式の請求書フォーマットを使用できるため、簡単にインボイスを発行することが可能です。

また、クラウドサービスは社内でのデータ共有も容易であるうえ、PDFデータへの変換やメールによる一括送信機能を利用すれば、請求書の郵送コスト削減につながり、社内の業務効率化やペーパーレス化にも役立ちます。

領収書の自動読み取り機能

手作業でインボイス対応する場合には、支払先から受領する領収書がインボイスに該当するかどうかを識別する作業に多くの時間が費やされます。

インボイス制度に対応した会計システムや経費精算システムのなかには、AI-OCR機能を活用した領収書の自動読み取り機能が備わっているサービスもあります。

それらの機能を利用することで、インボイス番号の読み取りや国税庁データベースとの照合作業、仕訳処理を行う際の消費税区分などを自動化でき、経理担当者の負担を大幅に削減することが可能です。

税制改正の内容を理解してインボイス制度に対応しよう

令和5年度税制改正大綱により、いくつかの特例制度が新設されるなど、インボイス制度の内容が一部見直されました。

2割特例や少額特例を適用することで、事務負担や税負担の軽減につながる可能性もあるため、適用要件を満たす事業者については、これらの制度を有効に活用するとよいでしょう。

ただし、これらの特例制度については、対象者だけでなく、適用できる期間にも制限があるため、インボイス制度への対応を検討する際には、特例制度が廃止されたあとのことも考慮しなければなりません。

クラウドサービスを活用するなど、自社の業務フローに合った方法を検討し、インボイス制度への対応を進めましょう。


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