- 更新日 : 2025年11月13日
契約書と注文書の違いとは?使い分け・保存・印紙税について解説
取引書類として頻繁に登場する「契約書」と「注文書」。どちらもビジネス上のやり取りで欠かせない存在ですが、その性質や法的効力、使いどころには明確な違いがあります。
また、口頭・メールでも契約は成立し得る可能性があります(書面は証拠)。
本記事では、両者の違いを正しく理解し、取引内容や業種に応じて適切に使い分けるための知識を解説します。
目次
契約書と注文書の違いは?
契約書と注文書はいずれも取引の証拠となる書類ですが、法的な意味や成立条件、記載内容には大きな違いがあります。それぞれの役割と効力を正しく理解することが、取引上のリスクを減らすために重要です。
契約書は、当事者間の合意内容を体系的に記載した証拠文書です。民法上の契約は書面や押印がなくても、申込みと承諾で成立しますが、後日の紛争予防のため、合意内容を明確化した契約書を相互署名で残すのが実務慣行です。
注文書は、発注者からの申込みの通知であり、通常は受注者の注文請書(承諾)と一対で契約成立を明確化します(黙示の承諾で成立する場合もありますが、証拠性に乏しいため推奨されません)。
契約書は双方の署名で法的効力を持つ正式な合意文書
契約書は、当事者双方が署名・押印することで成立し、法的拘束力を持ちます。契約の内容が詳細に書かれており、トラブル時には強い証拠となります。内容には、契約目的、代金、支払条件、納期、責任分担、解除条件、紛争解決の方法などが含まれます。こうした条項により、双方の義務と権利を明確に定め、合意の内容が後で問題にならないよう備えられています。
注文書は発注者の意思表示で、契約成立には注文請書が必要
注文書は、発注者が取引条件を提示する一方的な文書であり、契約書のように単独で契約を成立させる効力はありません。受注者が「注文請書」によって承諾を示すことで契約が成立します。注文書に記載されるのは品名や数量、単価、納期、支払条件など個別の発注内容が中心で、包括的な契約条項は通常含まれません。取引の証拠として有効ですが、契約書ほどの法的明確性は持たないため、重要な取引では契約書の併用が推奨されます。
契約書と注文書はどのように使い分けるべき?
契約書と注文書には明確な法的義務の区別はありませんが、実務では取引の重要度やリスクに応じて適切に使い分けるのが通例です。ここでは、判断基準と、継続取引における効果的な運用方法を解説します。
重要性・金額の高い取引には契約書を、それ以外は注文書で対応するのが一般的
契約書は、高額・高リスク・一度限りの取引で利用されることが多く、双方の責任や条件を詳細に取り決めて明文化します。後日の紛争時に備え、契約内容を証明する書類としての効力が高いため、慎重を要する場面で選ばれます。
一方、注文書は継続的で少額な取引や反復性の高い業務で用いられ、発注の迅速性と事務負担の軽減がメリットです。ただし、署名済みの原本が残らない場合もあるため、注文請書とのセットで証拠力を補完する必要があります。
また、契約書には印紙税が発生しますが、注文書・注文請書方式では原則として非課税扱いとなり、コスト面でも有利です。これらを踏まえ、取引の内容・頻度・リスクに応じて最適な書式を選ぶことが求められます。
注文書・請書方式でも、契約成立の証拠として作成した体裁だと印紙税課税に転じ得るため、表現と体裁の設計には注意が必要です。
継続取引には基本契約と注文書を併用する
反復取引においては、初回に基本契約書を締結し、その後は各案件ごとに注文書を発行する方式が有効です。基本契約で支払条件・納品基準・トラブル時の対応などを包括的に定めておくことで、都度の注文手続きが簡素化されつつ、法的なリスクも管理できます。
この形式なら、注文書で具体的な発注内容のみを明示すればよく、契約全体の整合性が保たれます。逆に、基本契約がないまま注文書だけで進めると、品質や責任範囲の認識違いが発生しやすく、トラブルの原因になりかねません。
そのため、取引の安定化と効率化を図るうえで、基本契約+注文書の組み合わせは非常に実用的な手法といえます。
業界・業種によって契約書と注文書の使い分けに違いはある?
契約書と注文書の選択は、法律上の義務ではなく当事者の合意によりますが、業界・業種ごとの慣習やリスクの特性によって使い分けに違いがあります。ここでは、主要な業界ごとの傾向を解説します。
【製造業や建設業】契約書による明確な合意が重視される
製造業や建設業のように、納品物の品質・仕様が複雑で、工程の途中変更が生じやすい業界では、契約書を交わすのが一般的です。これらの業界では、納期の遅延や瑕疵、事故発生などが企業間トラブルに発展しやすく、責任の所在や損害賠償の範囲を契約書で明確にしておく必要があります。また、建設業法や下請法のような業界特有の法令による契約書面交付義務も、契約書利用の前提になっています。
なお、ソフトウェア開発やWeb制作等は下請法の「情報成果物作成委託」に該当し得るため、発注の都度3条書面の直ちに交付が必要です。
【小売・流通・IT業界】注文書ベースの取引が多くみられる
小売業やIT業界では、継続的かつ短期間での反復的な取引が多いため、注文書と注文請書による簡易契約方式が多く見られます。システム開発やパッケージ販売では、最初に「基本契約書」を交わし、その後の発注は注文書で行う「契約+オーダー型」が定着しています。一方、小売・卸売業では、仕入れや納品の頻度が高いため、取引のスピード感を重視し、都度の契約書作成は省略される傾向にあります。
【士業・コンサル業・クリエイティブ業】契約書の有無がトラブル回避につながる
法律・会計・コンサルティング・デザイン業務など、成果物が無形で評価基準が曖昧な業務委託契約では、注文書だけでは後日の認識齟齬を防ぎきれません。報酬の支払条件、成果物の定義、著作権の帰属、守秘義務、途中解約時の精算方法など、明文化すべき項目が多いため、契約書による合意が強く推奨されます。特にフリーランスとの取引では、トラブル予防のためにも契約書の整備が不可欠です。
注文書・契約書の保存期間と管理方法は?
契約書や注文書は、税務・法務・企業統治の観点から一定期間の保存義務が課されています。適切な保存と管理が行われていなければ、税務調査での指摘や訴訟リスクを高めることになります。以下では、保存期間の法的基準、管理方法、電子保存に関する要件を整理します。
保存期間は原則7年、重要書類は10年が目安
契約書・注文書の保存期間は、法人税法・所得税法により「7年間の保存」が義務付けられています。また、会社法では「重要な業務書類」は10年間の保存が求められており、実務上、重要性に応じて10年を基準に管理する企業も少なくありません。保存義務は紙書類だけでなく、電子取引データにも同様に適用されます。
起算日は申告期限の翌日から始まるのが基本
保存期間の起算点は、税法上では「対象年度の確定申告期限の翌日」からカウントされます。たとえば3月決算の企業であれば、申告期限は翌年5月末であり、その翌日から7年間保存することになります。一方で、契約の終了日や満了日を基準とする場合もあり、文書ごとに起算点を明確にしておく必要があります。
管理方法は紙と電子で異なり、それぞれの要件に応じた体制整備が必要
紙の契約書や注文書は、耐火性・湿度管理の整った場所に原本を保管し、分類番号や管理台帳で整理することが求められます。さらに、貸出・返却記録の管理や、検索性の確保も重要です。一方、電子保存を行う場合は、電子帳簿保存法に基づく「検索性」「改ざん防止」「履歴管理」などの技術的・運用的要件を満たす必要があります。電子契約の場合は印紙税も不要となるため、コスト面でも利点がありますが、システム導入と社内整備が不可欠です。
契約トラブルを防ぐために、契約書・注文書にどのような条項を盛り込むべき?
契約トラブルの多くは、「想定していなかった事態」への備えが不十分だったことに起因します。以下では、トラブルを未然に防ぐために、契約書や注文書に盛り込むべき基本的な条項を解説します。
契約書には権利・義務・責任範囲を明確に記す
契約書には、当事者間の合意内容を体系的に示すことが求められます。重要なのは、「業務の範囲」「納期」「報酬・支払条件」「瑕疵対応」「損害賠償の上限」「秘密保持」「契約解除要件」「準拠法・裁判管轄」といった条項です。これらを明記しておくことで、万が一のトラブル時に、責任の所在を明確にし、紛争の長期化を防げます。また、曖昧な表現を避け、客観的に確認可能な記述(数量、期日、定義語の統一など)にすることもポイントです。
注文書には取引条件の明細と、合意を裏付ける記録が必要
注文書は契約の申込書として機能するため、記載内容はできるだけ具体的かつ詳細である必要があります。「発注日」「発注者・受注者の名称」「商品・サービス名」「仕様・数量」「単価」「納品場所・方法」「支払条件」などが欠かせません。さらに、注文書に対して受注側から返送される「注文請書」によって、当該内容についての合意を文書で残すことが重要です。注文書単体では契約成立とはみなされないため、請書とのセット管理が有効なリスク回避策となります。
不測の事態に備える条項を設けておくことが後の紛争予防につながる
契約書や注文書の中には、通常の取引条件だけでなく、万一の事態を想定した「免責事項」「不可抗力条項」「協議解決条項」などを盛り込んでおくことが重要です。天災・感染症・資材不足といった予見不可能な事象により、納期遅延や契約履行不能となった場合でも、こうした条項があることで過失責任の有無が明確になり、法的な争いに発展するのを防ぎやすくなります。
契約書と注文書に関わる印紙税の基本と節税のポイントは?
契約書や注文書の作成にあたっては、見落としがちな「印紙税」の課税対象か否かが大きなコスト差につながります。
契約書は印紙税法上の「課税文書」に該当することがある
印紙税法では、契約書のうち「金銭の授受」や「役務提供」に関わる特定の文書を「課税文書」として定めており、契約金額に応じた印紙税を納付する義務があります。「請負契約書」や「売買契約書」は典型的な課税対象です。契約金額1,000万円の請負契約書であれば、印紙税額は1万円になります。印紙税は「原本ごと」に課されるため、2通作成する場合は2枚分の印紙が必要となる点にも注意が必要です。
注文書と注文請書は原則として非課税だが条件次第で課税されることがある
注文書および注文請書は、通常は「契約の申込み」「承諾」にすぎない文書として扱われ、印紙税法上の課税文書には該当しません。ただし、注文請書などに署名・押印を行い、金額・支払条件等を記載したうえで「契約の成立を証する文書」として作成した場合には、契約書として課税されるおそれがあります。したがって、実務上は注文書等に契約成立を証する文言を記載せず、署名押印も省略することで非課税扱いとする対応が行われています。
電子契約を活用することで印紙税そのものを回避できる
印紙税は「紙の文書に対して」課税される税であり、PDFやクラウド上で締結された電子契約には一切課税されません。これにより、年間に多数の契約書を作成する企業では、電子契約への移行だけで大きなコスト削減が可能です。国税庁も、電子契約に対しては印紙税が不要であることを公式に認めており、テレワーク・DXの推進とも相性のよい手段となっています。クラウド契約サービスを使えば、署名から保存まで一元管理できるだけでなく、印紙税の課税対象外として処理できます。
参考:取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い|国税庁
契約書と注文書を正しく使い分けることが、取引リスクの最小化につながる
契約書と注文書は似ているようで、その目的や法的効力には明確な違いがあります。正しく理解し、取引の重要度・内容に応じて適切に使い分けることで、不要なトラブルやコストの発生を防ぐことができます。継続取引には「基本契約+注文書」、高額取引には「契約書」、簡易取引には「注文書+請書」といった形式が有効です。保存義務や印紙税、電子契約といった制度面も踏まえ、自社にとって最適な契約運用体制を整えることが、円滑なビジネスと法的安全性の確保につながります。
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