• 更新日 : 2025年11月13日

注文書で融資は可能?POファイナンスの仕組みや活用法を解説

企業が資金調達を行う際、「売上は確定しているのに、現金が足りない」というジレンマに直面することは少なくありません。そんな中、近年注目を集めているのが注文書で融資を受けられる手法です。

本記事では、POファイナンスの仕組みや活用場面、利用手順、メリット・注意点などを解説します。

目次

注文書で融資を受けられる?POファイナンスの仕組み

POファイナンスとは、注文書(発注書)を担保または売却対象とし、納品や請求前に資金調達を可能にする金融手法です。従来の請求書ファクタリングよりも早期に資金化できるため、キャッシュフローを改善したい企業や、大型案件の対応力を高めたい事業者にとって有効です。以下では、2つの方式について仕組みを解説します。

注文書を担保に融資を受けるのが「注文書担保融資」

注文書担保融資とは、受注企業が発注企業から受け取った注文書を担保にして金融機関から融資を受ける仕組みです。注文書発行後、金融機関がその内容と発注企業の信用力を審査し、利息・手数料を差し引いた額を融資します。受注企業は、その資金で原材料の仕入れや人件費の支払いなど、納品に向けた準備を進めます。

納品完了後、発注企業から支払われる売上代金は、あらかじめ指定された返済口座へ振り込まれ、融資が自動的に回収されます。この仕組みにより、納品前に資金が手当てできるため、受注の段階で資金が足りない中小企業でも大口の商談に対応できるようになります。ここで近年、「電子記録債権(でんさい)」という債権があります。

電子記録債権(でんさい)は発生済みの金銭債権を電子記録したものであり、注文書段階(債権未発生)では通常でんさい化できないため混同しないよう留意が必要です。

注文書を売却して資金化するのが「注文書ファクタリング」

注文書ファクタリングとは、将来発生する売上債権(注文書)をファクタリング会社が買い取り、代金を先払いすることで資金調達を可能にする仕組みです。受注企業は注文書をファクタリング会社に譲渡し、その見返りとして売上予定額の一部を即時に受け取ります。

この方法の特徴として、リコース・ノンリコースという考え方があります。リコースの可否は契約形態・リスク配分で異なり、リコース条項や表明保証・違約条項が付くケースも多いです。発注企業が万が一代金を支払えなかった場合でも、受注企業は追加の返済義務を負いません。ファクタリング会社は発注企業の信用調査を実施したうえで、リスクを引き受けて買取を行うため、受注企業の資金繰りリスクが大幅に軽減されます。

どちらの方式も、発注書を金融価値ある債権として扱い、納品前に資金を確保できる点で共通しています。目的や取引先の性質に応じて、担保型か買取型を選択することが効果的です。

POファイナンスと請求書ファクタリングの違いは?

POファイナンスと請求書ファクタリングは、いずれも企業の資金繰りを改善するための手法ですが、資金化のタイミングや仕組みに明確な違いがあります。

POファイナンス(注文書ファイナンス)は、企業が受注した時点、すなわち注文書(Purchase Order)を受け取った段階で資金調達が可能になる仕組みです。これは、まだ納品や請求が行われていない「前払い型の資金調達」であり、発注先の信用力に基づいて金融機関やファクタリング会社が資金を提供します。

一方、請求書ファクタリングは、納品が完了し、売掛債権が発生した後に、その請求書をファクタリング会社が買い取ることで資金を得る方法です。つまり、納品後の「売掛金」を資金化する後払い型の手段であり、債権の回収リスクが比較的低いため、審査もPOファイナンスより緩やかです。
一般にPOファイナンスは前倒し資金化の分、審査は厳格であり費用は高め、請求書ファクタリングは後ろ倒し資金化の分、審査は相対的に緩やかであり費用は抑えめになる傾向にあります。

POファイナンスを利用すべきケースは?

POファイナンスは、受注時点で資金調達ができるという特性から、従来の金融手段では対応が難しかったビジネスシーンで高い効果を発揮します。

大型案件を受注したが自己資金が足りないとき

POファイナンスは、大口の注文を受けた際に先行資金が必要なケースで活用できます。受注額が自社の資金力を上回るような大規模案件では、原材料や外注費、物流費など多額の支出が発生します。しかし、銀行融資では審査や実行まで時間がかかり、請求書ファクタリングは納品後でないと使えません。POファイナンスなら、受注と同時に注文書を資金化できるため、自己資金が少なくてもビジネスチャンスを逃さず対応可能です。

発注先が小規模でも大口注文できる体制を整えたいとき

発注企業にとっても、取引先の資金力に依存せず発注を行えるメリットがあります。たとえ納入先が中小企業やスタートアップであっても、POファイナンスを活用すれば大口発注への対応が可能になります。前払い金や分割支払いといった特別な対応をする必要もなく、通常通りの支払い条件で信頼できる納入企業に依頼できるのです。その結果、発注先の選択肢が広がり、優れた製品や技術を持つ企業が取引対象に加わることにもつながります。

事業拡大や販路開拓を加速させたいとき

POファイナンスは、成長戦略の一環として積極的に営業活動を展開する企業にも適しています。創業間もない企業や資金力に制限のある事業者が、大型案件を受けた場合でも、資金面の不安なく遂行できる点は大きな強みです。「資金がないから受けられない」という状況を回避し、技術力やアイディアを武器にしたチャレンジが可能になります。結果として、事業規模の拡大や新規マーケットへの参入など、企業成長のきっかけとなるシーンでの活用が期待されています。

POファイナンスのメリットは?

POファイナンスは、受注時点で資金を確保できる資金調達手段です。ここでは、主な4つのメリットを見ていきます。

①注文書で即時に資金を確保できるため、資金繰りが安定する

POファイナンスは、受注=即資金化を可能にし、キャッシュフローを大幅に改善します。通常、納品から入金までには数週間から数ヶ月かかり、その間は自己資金や融資でのやりくりが必要です。しかし、POファイナンスを活用すれば、注文書をもとに即座に資金を調達できるため、入金待ちによる資金不足のリスクが軽減されます。資金繰りに余裕が生まれれば、増産や新規受注にも迅速に対応可能となり、経営の安定性が高まります。

② 自己資金が乏しくても、大型案件を遂行できる

POファイナンスにより、手元資金がなくても大規模な受注に対応可能になります。通常、大口受注には先行投資が必要ですが、小規模企業やベンチャーにとってはそれがハードルとなっていました。POファイナンスを使えば、銀行融資に頼らずとも、受注内容そのものを信用力とすることで資金が得られます。これにより、資金力に関係なく成長機会をつかむことができ、中小企業にも公平な競争環境が生まれます。

③ 担保や保証人が不要なケースが多く、使いやすい

注文書自体が信用の裏付けとなるため、不動産担保や個人保証が不要な場合もあります。従来の融資では担保力が問われるため、小規模事業者にとって利用が難しい面がありました。POファイナンスでは、主に「発注企業の信用力」が評価の軸となるため、受注企業自身の資産背景に左右されにくいのが特徴です。

④ 手続きがシンプルで、スピーディーに資金調達できる

POファイナンスは、オンライン中心の申し込みと少ない書類で手続きが完了します。取扱企業によって差はあるものの、一般的には注文書と通帳コピーなどの基本資料のみで申し込みができ、最短で即日審査・即日資金化に対応するサービスもあります。従来の銀行融資に比べ、スピード感と手軽さの面で優れており、忙しい経営者や迅速な資金確保を求める現場で有効です。

POファイナンスの利用前に押さえたい注意点

POファイナンスは資金繰りを改善できる有効な手段ですが、すべての状況で使えるわけではありません。以下では、利用時に知っておくべき注意点・デメリットを解説します。

注文書がなければ利用そのものができない

POファイナンスは受注(=注文書)があることが前提であり、注文がなければ資金調達できません。

この仕組みは「受注済みの取引に対するつなぎ資金」を提供するものであり、売上が落ち込んでいる状況や固定費の補填といった目的では使えません。たとえば、不景気で新規案件が取れず、資金繰りに困っている場合に利用することはできず、あくまで「実在する注文書に基づく資金化」のみが対象です。したがって、汎用的な資金需要には対応できないという点を理解しておく必要があります。

採算度外視の受注が経営悪化を招く恐れがある

資金を得やすくなることで、採算の合わない受注を安易に受けてしまうリスクがあります。

POファイナンスがあると「受注すればお金が入る」と考えがちですが、利益の出ない案件まで引き受けてしまうと、資金は回っても収益が残らず、かえって経営を圧迫する結果になりかねません。黒字倒産の原因となる「キャッシュフロー先行の赤字体質」を避けるためにも、案件ごとの収益性を冷静に見極め、受注の選別と資金活用のバランスを取ることが不可欠です。

金利や手数料が割高になる可能性がある

POファイナンスは案件期間が数週間〜数ヶ月に及ぶことが多く、かつ履行、取消及び検収遅延リスクを織り込むため費用が相対的に高くなる傾向にあります。したがって、利息や手数料が高く設定されがちです。発注から納品、入金まで数ヶ月かかる場合、資金提供者側のリスクも高くなるため、金利にリスクプレミアムが加算されます。年利換算で10%以上に達するケースや、事務手数料が別途必要になるケースもあり、短期の資金調達であってもコストがかさむ可能性があります。利用前には必ず他の融資手段と比較し、費用対効果を検討することが重要です。

POファイナンスの利用方法は?申し込みから融資実行までの手順

POファイナンスを活用するには、対応企業への申込みから始まり、書類提出・審査・契約・資金受領・返済までの一連の流れがあります。事前準備をしておけばスムーズに進めることができます。

① 対応する金融機関やファクタリング会社へ相談・申し込みを行う

まずはPOファイナンスを取り扱っている会社に問い合わせ、利用可能か確認します。Webフォームや電話・メールで相談でき、注文書の写しや発注先の情報を提出して、申込み手続きへと進みます。利用対象となる業種・企業規模・必要書類は各社で異なるため、事前に条件をよく確認しておくと安心です。取扱企業が限られるため、複数社への相談を検討するのも有効です。

② 書類を提出し、発注先の信用情報を含む審査を受ける

申込み後は、指定された書類を提出して審査を受けます。一般的には、注文書、契約書、登記簿謄本、通帳コピー、本人確認書類、財務資料などが求められます。ファクタリング型の場合は、印鑑証明や納税証明も必要になる場合があります。審査では受注企業よりも発注企業の信用力が重視され、支払い能力や取引実績がチェックされます。ファクタリング会社であれば即日〜数日、銀行であっても比較的スピーディに審査が進む傾向にあります。

③ 審査通過後、契約を締結して資金を受け取る

審査に通れば、契約書を締結し資金が振り込まれます。注文書担保融資契約や債権譲渡契約を交わし、署名・押印を行います。契約時には印鑑証明や税務署発行の納税証明書などの追加書類が必要になる場合があります。契約完了後、注文書金額から利息や手数料を差し引いた金額が指定口座に入金されます。これにより、仕入れや製造に必要な運転資金を確保でき、納品準備を進めることができます。

④ 納品後、発注企業からの支払いで融資が精算される

納品完了後、発注企業からの代金支払いによって返済が完了します。注文書担保融資では、発注企業が金融機関指定の決済用口座に直接入金し、それにより融資が自動返済されます。注文書ファクタリングの場合は、発注企業から受注企業へ支払いが行われたのち、受注企業がファクタリング会社へ支払います。なお、電子記録債権(でんさい)を利用するケースでは、電子債権サービスへ登録が必要な場合があり、手続きが追加されることもあります。

注文書を活用した新たな資金調達策を正しく活用しよう

注文書で資金調達するPOファイナンスは、受注段階で現金を手当てできる革新的なスキームです。大口受注への対応や中小企業の成長促進に大きなメリットがある一方、提供先が限られ審査も厳格なため、利用には事前準備と十分な理解が必要です。ファクタリングとの違いや費用面の注意点を踏まえ、注文書ファイナンスを上手に活用すれば、手元資金に左右されずビジネスチャンスを掴むことができます。いざという時に資金繰りの幅を広げ、企業経営の強い味方とすることができるでしょう。


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