- 更新日 : 2025年11月13日
発注点管理とは?補充点との違いや適正在庫の計算を解説
発注点を管理することは、欠品による販売機会の損失を防ぎつつ、過剰在庫によるコスト増加を抑えるための在庫管理手法です。在庫が一定量(発注点)を下回ったタイミングで発注することで、キャッシュフローと顧客満足度を両立させます。
バックオフィス担当者や経営者にとって「急に在庫が切れて顧客を待たせてしまった」「逆に売れ残りが倉庫を圧迫し、資金繰りが苦しい」といった悩みもつきものです。
この記事では、発注点の基本的な計算方法、2つの主要な発注方式(定量・定期)の違い、エクセルや「かんばん方式」を使った具体的な管理手順、そして管理上の課題と解決策までをわかりやすく解説します。
目次
発注点管理とは?
発注点管理とは、あらかじめ設定した「発注点」という在庫量を基準に、在庫がその量を下回った時点で発注をかける在庫管理の手法です。これにより、勘や経験に頼らず、適切なタイミングで自動的に補充が行われる仕組みを作ります。
この管理手法の目的は、「在庫切れ(欠品)」と「過剰在庫」という相反する問題を同時に解決することにあります。棚卸や欠品アラートと連動させて定期的に見直すのが実務において重要となります。
発注点を管理する基本的な仕組み
発注点を管理する際は、まず、商品ごとに「在庫がこの数量になったら発注する」という基準値(=発注点)を決めます。そして、日々の出庫によって在庫がその基準値を下回ったことを検知したら、定められた量を発注します。
例えば、ある商品の発注点を「50個」と設定したとします。在庫が51個の時点では発注しませんが、1個売れて在庫が50個になった(または50個を下回った)瞬間に、発注作業を開始します。
なぜ発注点管理が重要なのか?
発注点管理が重視される理由は、企業の利益に直結する2つの大きなリスクを軽減できるためです。
欠品による機会損失の防止
在庫がゼロになれば、顧客が「欲しい」と思ったタイミングで商品を提供できません。これは単にその一度の売上を失うだけでなく、顧客満足度の低下や、競合他社への顧客流出につながるおそれがあります。発注点管理は、在庫がなくなる前に補充を行うことで、こうした販売機会の損失を防ぎます。
過剰在庫によるコスト削減
逆に、欠品を恐れるあまりに在庫を持ちすぎると、多くの問題が生じます。
- キャッシュフローの悪化:
在庫は「寝ているお金」です。過剰な在庫は資金繰りを圧迫します。 - 管理コストの増加:
広い倉庫スペースや、在庫を管理するための人件費、光熱費などが必要です。 - 品質劣化・陳腐化のリスク:
食品であれば賞味期限切れ、アパレルや電子機器であれば型落ち(陳腐化)により、商品の価値が下がる、あるいはゼロになるリスクがあります。
発注点管理は、この「欠品」と「過剰在庫」のバランスを取り、在庫を常に「適正在庫」の状態に保つための実務的な手法といえるでしょう。
発注点と安全在庫、補充点の違いは?
発注点を正しく設定するためには、「安全在庫」や「補充点」といった類似用語との違いを理解しておきましょう。これらはすべて適正在庫を維持するために使われる数値ですが、それぞれ役割が異なります。
発注点:発注をかける在庫量のライン
発注点は、「発注行動(アクション)を起こす基準点(トリガー)」となる在庫量です。
この数値には、「安全在庫」と、発注してから商品が届くまでの「調達リードタイム」中に消費されると見込まれる在庫量が含まれます。
安全在庫:欠品を防ぐための最低限のストック
安全在庫とは、需要の急増や納品の遅延といった不測の事態に備えて、最低限保持しておくべき在庫(バッファ)のことです。
例えば、「普段は1日に10個売れるが、急に15個売れる日がある」「いつもは3日で納品されるが、遅れて5日かかることがある」といった変動に対応するために設定します。
発注点が「発注するタイミング」を示すのに対し、安全在庫は「万が一のために確保しておく最低ライン」を示す数値になります。どちらも発注点を計算するための構成要素の一つです。
補充点:発注点とほぼ同じ意味
「補充点」と「発注点」は、実務上、ほぼ同じ意味の言葉として使われることが多いです。どちらも「在庫を補充するために発注をかける基準点」を指します。
ただし、企業や用いる管理手法によっては、以下のように使い分けるケースもまれにあります。
- 発注点:
定量発注方式(在庫が一定量を下回ったら、一定量を発注する)で使う基準値 - 補充点:
定期発注方式(毎週月曜日など、決まったサイクルで発注し、その時点の在庫量に応じて発注量を変える)で使う基準値
多くの場合、「発注点 補充点違い」を厳密に区別する必要はなく、「在庫がいくつになったら発注するか」を示す数値として「発注点」の用語で管理するのが一般的です。
発注点の計算方法とは?
発注点は、データにもとづいて計算することで精度が上がります。勘や経験に頼らないようにしましょう。基本的な計算式と考え方を理解し、自社の運用に合わせた「決め方」を確立しましょう。
基本的な発注点の計算式
発注点を決めるための最も一般的な計算式は、以下のとおりです。
発注点 = (1日あたりの平均消費量 × 調達リードタイム) + 安全在庫
この式は、「商品が納品されるまでに消費される量」と「万が一のための安全在庫」を足し合わせることで、発注すべきタイミングを導き出しています。
発注点の計算に必要な数字
計算式を構成する3つの要素について解説します。
- 1日あたりの平均消費量(平均出庫数)
過去の実績データ(例:過去3ヶ月間など)から、その商品が1営業日あたり平均していくつ売れている(または使われている)かを算出します。 - 調達リードタイム
仕入先に商品を発注してから、自社の倉庫に納品され、実際に在庫として利用可能になるまでの日数です。単に「納品日数」だけでなく、社内での発注手続きにかかる時間や、入荷検収にかかる時間もふまえて設定する必要があります。 - 安全在庫
前述のとおり、需要の変動やリードタイムの遅延に備えるための在庫です。安全在庫の計算には統計的な手法(標準偏差など)が用いられることもありますが、まずは「過去最大の消費量」や「リードタイムが最大〇日遅れた」といった経験則から設定する中小企業も多いでしょう。
発注点の計算例
以下の条件で、発注点を計算してみましょう。
- 1日あたりの平均消費量:20個
- 調達リードタイム:5日
- 安全在庫:30個
この場合の計算式
発注点 = (20個 × 5日) + 30個 = 130個
つまり、この商品の在庫が「130個」を下回ったタイミングで発注をかければ、次の納品(5日後)までに平均100個が消費されたとしても、手元には安全在庫の30個が残る計算になり、欠品リスクを最小限に抑えられます。
発注点を管理する発注方式とは?
在庫を管理し発注する方式には、大きく分けて「定量発注方式」と「定期発注方式」の2種類があります。発注点管理は、主に「定量発注方式」で用いられる考え方です。
定量発注方式(発注点方式)
定量発注方式は、在庫があらかじめ決められた数量(=発注点)を下回ったタイミングで、毎回決まった量(経済的発注量など)を発注する方式です。
この方式の仕組みは、「いつ発注するか」は在庫量によって変動しますが、「どれだけ発注するか」は常に一定である点です。
メリットとして、発注量が固定されているため発注作業が単純化できます。在庫を監視し、発注点を下回ったかを確認するだけでよいため、管理が比較的容易です。
一方でデメリットは、需要が急激に増えた場合、次の発注点が来る前に在庫が尽きてしまう「欠品」のリスクがあることです。
適した商品
比較的安価で、需要が安定している消耗品や定番商品(例:事務用品、ネジなどの部品)
定期発注方式
定期発注方式は、「毎週金曜日」「毎月25日」のように、あらかじめ決められた発注サイクルで定期的に在庫量を確認し、その時点での必要量(目標在庫数と現在庫の差)を発注する方式です。
この方式の仕組みは、「いつ発注するか」は常に一定ですが、「どれだけ発注するか」は毎回変動する点にあります。
メリットは、定期的に在庫を棚卸しするため需要の変動に対応しやすいことです。また、複数の商品を同じ仕入先から購入する場合、発注タイミングをまとめることで輸送コストを削減できる場合があります。
しかしデメリットとして、発注量が毎回異なるため発注作業や計算が複雑になりがちです。発注サイクル(次の発注日)までの需要を見越して発注量を決める必要があり、多めに発注しすぎると過剰在庫になるリスクもあります。
適した商品
比較的高価で、需要の変動が大きい商品(例:季節商品、トレンド商品)や、重要な商品。
どちらの方式を選ぶべき?
どちらの方式が優れているというわけではなく、取り扱う商品の特性によって使い分けることが肝心です。
| 比較項目 | 定量発注方式(発注点方式) | 定期発注方式 |
|---|---|---|
| 発注タイミング | 在庫が発注点を下回った時(不定期) | 一定のサイクル(定期的) |
| 発注量 | 一定(毎回同じ量) | 不定(毎回計算) |
| 管理の手間 | 比較的少ない(在庫監視) | 比較的多い(棚卸・需要予測) |
| 適した商品 | 安価・需要安定(Cランク品) | 高価・需要変動(Aランク品) |
多くの企業では、商品の重要度や価格帯(ABC分析など)に応じて、両方の方式を組み合わせて運用しています。
発注点の管理方法には何がある?
発注点を計算したら、どのツールを使い管理方法を行えばよいのでしょうか。企業の規模や取り扱う品目数に応じて、エクセルやスプレッドシート、ツールまで、さまざまな選択肢があります。
Excel(エクセル)を使った管理方法
中小企業や個人事業主にとって、最も手軽に始められるのがExcel(Microsoft Excel、マイクロソフト・エクセル)やGoogleスプレッドシートなど、表計算ソフトを使った管理です。
在庫管理表に「発注点」の列を設け、日々の在庫数を入力していきます。その際、在庫数が発注点を下回った場合にセルに色をつけたり、「発注要」といった「発注点 表示」をしたりするよう、IF関数や条件付き書式を設定しておくと便利です。
メリットとして、低コスト(すでにあるソフト)で始められ、関数を使えばある程度の自動化が可能なことです。一方、手入力によるミスや更新漏れが起きやすい。リアルタイムでの在庫把握が難しいのがデメリットになります。
「発注点カード」や「かんばん方式」による管理
製造業や実店舗のバックヤードなど、現場でのモノの動きが中心となる場合、物理的な「モノ」を使ったアナログ管理も有効です。
発注点カード(二棚法)
在庫を2つの棚(または箱)に分けて管理する方法です。1つ目の棚(A)を先に使い、Aが空になったら2つ目の棚(B)を使い始めると同時に、Aに補充するための発注を行います。この場合、Bの棚に入っている在庫量が「発注点」の役割を果たします。
かんばん方式
トヨタ自動車が開発したことで知られる生産管理方式ですが、発注点管理にも応用されます。「かんばん」と呼ばれるカード(作業指示書や発注書を兼ねる)をモノ(部品や商品)に付けておき、そのモノが使われた(=在庫が一定量減った)時点で「かんばん」が回収され、それが発注の合図となります。
かんばん方式は、モノの動きと情報(発注指示)が直結するため、わかりやすい管理方法です。
在庫管理システムやツールの活用
取り扱う品目数が多い場合や、複数の拠点(倉庫や店舗)で在庫を共有している場合は、専用の在庫管理システムの導入が適しています。
システムを導入するメリットは、リアルタイムな在庫把握が可能になる点です。バーコードやRFIDなどで入出庫を読み取るため、在庫数が即座に更新されます。また、アラート機能も利点の一つでしょう。在庫が発注点を下回ると、自動でアラート(警告)が担当者に通知されたり、「発注点 表示」がリストアップされたりします。システムによっては、発注点をトリガーに仕入先へ自動で発注書を作成・送信する発注の自動化機能も備わっています。
一方で、導入コストや月額の運用コストがかかる点がデメリットとしてあげられます。
発注点を管理する上での課題や注意点は?
発注点を一度計算して設定すれば終わりではありません。市場や環境の変化に合わせて運用を見直さなければ、かえって在庫問題を悪化させる可能性もあります。ここでは、実務における注意点を解説します。
リードタイムの変動を考慮する
発注点の計算に使う「調達リードタイム」は、常に一定とは限りません。
仕入先の繁忙期、物流の混乱(悪天候や事故)、国際輸送であれば通関の遅れなど、さまざまな要因で変動します。リードタイムが延びる傾向にある場合は、それに合わせて発注点を早めに(多めに)設定し直すか、安全在庫を厚めに積むといった調整が必要です。
需要の季節変動やトレンドをふまえる
「1日あたりの平均消費量」も変動要素です。
例えば、エアコンは夏場に需要が集中し、冬場はほとんど売れません。このような季節商品は、時期によって発注点を大胆に変更する必要があります。
また、メディアで取り上げられたりSNSで話題になったりして、一時的に需要が急増することもあるでしょう。過去の平均データだけを信じていると、大きな販売機会を逃すことになります。
定期的に発注点を見直す
上記2点(リードタイムと需要の変動)をふまえ、発注点は定期的に見直しましょう。
最低でも四半期に一度、できれば月次で、発注点の計算根拠となった「平均消費量」や「リードタイム」の実績値を確認します。
特に、欠品が頻発した商品や、逆に長期間在庫が動いていない商品は、発注点の「決め方」が現状と合っていない可能性が高いです。
発注点管理とは、静的な数値を設定することではなく、変化する状況に合わせて数値を最適化し続ける「動的な活動」といえるでしょう。
発注点管理を最適化し、効率的な在庫管理を実現する
発注点管理は、欠品と過剰在庫を防ぐための実践的な手法です。まず、自社の商品の「1日あたりの平均消費量」「調達リードタイム」「安全在庫」を把握し、基本的な計算式にあてはめて発注点を算出することから始めましょう。
算出後は、エクセルや在庫管理システム、あるいは「かんばん」のような方法を用いて、その発注点を下回ったタイミングを確実に捉える「表示」と「共有」の仕組みを整える必要があります_また内部統制の観点からは、職務の分掌、金額に応じたしきい値による承認者の段階化も重要です。需要やリードタイムは常に変動します。発注点は一度決めたら終わりではなく、定期的に見直しをかけて数値を最適化し続けることが、適正在庫を維持し、会社のキャッシュフローを健全化することにつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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