• 更新日 : 2025年11月11日

発注者とは?注文者との違いや建設業法上の役割をわかりやすく解説

発注者とは、工事や物品の製作、サービスの提供などを他者に依頼する個人や組織のことを指します。そのため、契約内容の決定や代金の支払いなどは、発注者の責任範囲となります。

特に建設業界やシステム開発においては、プロジェクト全体の方向性を決定づける重要な立場です。企業の担当者として、「注文者」や「施主」といった類義語との違いがわからなかったり、法的な責務について不安を感じたりする場面も少なくないでしょう。

この記事では、発注者の定義から具体的な役割、法律上の責任までをわかりやすく解説します。

発注者とは?

発注者とは、仕事や業務を依頼する側、つまり「注文を出す者」を指す言葉です。製品の製造、建物の建築、コンサルティング業務など、さまざまなビジネスシーンで使われます。

例えば、以下のようなケースでは、依頼した側が「発注者」にあたります。

  • 自社のホームページ制作をWeb制作会社に依頼するA社 → A社が発注者
  • マイホームの建築を工務店に依頼する個人Bさん → Bさんが発注者
  • 会社の税務申告業務を税理士法人に委託するC社 → C社が発注者

このように、契約を結ぶ主体として、プロジェクトの全体像を決定し、その実現に向けて責任を持つ立場が発注者です。

発注者と受注者の関係性

発注者と対になるのが受注者です。受注者は、発注者から依頼を受けて、実際に業務を遂行し、成果物を納品する側の個人や組織を指します。

立場役割具体例
発注者仕事を依頼し、対価を支払う側建設工事を依頼する施主、システム開発を依頼する企業、税務申告業務を依頼する事業者
受注者仕事を請負い、成果物を納品する側工事を請負う建設会社、開発を請負うITベンダー、税務申告業務を行う税理士法人

この両者は、業務委託契約や請負契約といった契約関係にもとづいて成り立ちます。発注者が明確な仕様や要件を提示し、受注者がそれに応えることで、ビジネス上の取引が成立します。

ビジネス全般における「発注者」の立場

建設業界以外でも、「発注者」という言葉は広く使われます。その際は、より一般的な「クライアント」や「依頼主」といった言葉で言い換えられることも多いでしょう。

例えば、ウェブサイト制作を依頼する企業は「発注者(クライアント)」であり、制作を請け負うウェブ制作会社は「受注者」です。同様に、コンサルティングを依頼する経営者は「発注者(依頼主)」、業務を担うコンサルタントは「受注者」となります。

このように、特定の業務を外部に委託する際には、必ず発注者と受注者という関係性が生まれるのです。

発注者と注文者、施主の違いは?

発注者、注文者、施主は立場としては 仕事を依頼する側という基本的な立場は同じですが、使われる文脈や業界、法律上の定義に違いがあります。

建設業界における用語の使い分け

建設業界では、仕事を依頼する個人や組織を指す言葉として、複数の用語が状況に応じて使われます。

  • 発注者:建設業法で用いられる最も広義の用語です。元請負人に対して工事を注文する者を指し、個人・法人を問いません。
  • 注文者:民法や下請法で使われることが多い用語です。請負契約において仕事の完成を依頼する側を指します。
  • 施主(せしゅ):主に住宅建築などの場面で、建築を依頼する個人のクライアントを指す慣習的な呼び方です。「建築主」とも呼ばれます。

実務上、「発注者」と「施主」はほぼ同義で使われる場面も多いですが、法律の文脈では明確に区別される点を押さえておきましょう。

法律(建設業法など)上の定義の違い

法律によって「仕事を依頼する側」の定義は微妙に異なります。これは、各法律が保護しようとする対象や目的が違うためです。

法律用語定義のポイント
建設業法発注者建設工事の最初の注文者。元請負人に対して工事を発注する者。
民法注文者請負契約において、仕事の完成を目的として契約を締結する当事者。
下請法親事業者資本金区分にもとづき、下請事業者に対して製造委託等を行う事業者。

特に建設業法では、発注者から直接工事を請け負った建設業者を「元請負人」と呼びます。そして、元請負人からさらに仕事の一部を請け負う業者を「下請負人」と定義しています。

この構造において、元請負人は下請負人に対して仕事を注文するため、この二者の関係性における「発注者」は元請負人となります。

同様に、下請負人が孫請負人に業務を委託する場合、下請負人が孫請負人にとっての「発注者」となります。このように、契約関係の階層ごとに「発注者」と「受注者」の立場が生まれるのがポイントです。これは大規模なシステム開発を行うIT業界などでも見られる構造です。

発注者の主な役割と責任とは?

発注者の役割は、単に仕事を依頼するだけではなく、プロジェクトの企画段階から完了後の支払いまで、一連のプロセスにおいて重要な責任を担います。円滑な取引のためには、発注者が自身の役割を正しく理解し、適切に実行することが必要となります。

企画から支払いまでの具体的な業務フロー

発注者が担う業務は、プロジェクトの性質によって異なりますが、一般的には以下の流れで進みます。

  1. 企画・要件定義:
    プロジェクトの目的を定め、どのような成果物が必要か(仕様、機能、規模、納期など)を具体的に決定します。
  2. 業者選定・見積もり:
    複数の受注候補者から見積もりを取得し、実績や技術力、費用を比較検討して契約先を選定します。
  3. 契約締結:
    選定した受注者と、業務内容、納期、金額、支払い条件などを明記した請負契約や業務委託契約を締結します。
  4. 進捗管理・コミュニケーション:
    業務が計画どおりに進んでいるかを確認し、必要に応じて受注者と協議や調整を行います。
  5. 検収・受領:
    納品された成果物が、契約内容や仕様を満たしているかを確認(検収)し、問題がなければ受領します。
  6. 支払い:
    検収完了後、契約にもとづいて受注者に対価を支払います。

プロジェクト成功に導くための重要なポイント

プロジェクトを成功させるためには、発注者が主体的に関与することが求められます。

  • 明確な仕様の提示:
    受注者が何をすべきか迷わないよう、要求事項を具体的かつ明確に伝えることが重要です。曖昧な指示は、手戻りやトラブルの原因になりかねません。
  • 円滑なコミュニケーション:
    定期的な進捗確認や迅速なフィードバックは、認識の齟齬を防ぎ、品質向上につながります。
  • 迅速な意思決定:
    受注者からの確認事項や仕様変更の提案に対して、速やかに判断を下すことで、プロジェクトの遅延を防ぎます。

発注者と受注者はビジネスパートナーです。対等な立場で協力し合う姿勢が、プロジェクトを成功に導くでしょう。

建設業法における発注者の責務とは?

建設工事の発注者は、建設業法によってさまざまな責務が課せられています。これらは、建設工事の適正な施工を確保し、建設業界の健全な発達を促進することを目的としています。知らなかったでは済まされない重要な義務もあるため、必ず理解しておきましょう。

参照:建設業法令遵守ガイドライン|国土交通省

元請負人への通知義務

建設工事の発注者は、その工事に下請負人が関わる可能性がある場合、契約を締結した元請負人に対して、都道府県知事への届出事項を通知する義務があります。

これは、工事現場における施工体制を明確にし、責任の所在を明らかにするための措置です。具体的には、監理技術者の配置に関する事項や、その他国土交通省令で定める事項が含まれます。

適正な工期設定と請負代金の支払い義務

発注者は、工事を施工するために通常必要と認められる期間に比べて、著しく短い工期を設定してはならないと定められています(建設業法第19条の5)。不当に短い工期は、労働災害や手抜き工事の原因となるためです。

また、工事が完成し、引き渡しを受けた際には、定められた期日内に請負代金を支払わなければなりません(建設業法第24条の3)。支払い遅延は受注者(建設業者)の経営を圧迫するため、厳しく規制されています。

安全配慮義務と労働安全衛生法との関連

発注者は、工事現場の安全衛生に関しても一定の責任を負います。労働安全衛生法では、特定の発注者(注文者)に対して、工事の安全な遂行のために必要な措置を講じることを求めています。

例えば、複数の下請負人が混在して作業を行う現場では、作業間の連絡調整や安全衛生教育に関する指導など、統括的な安全管理体制を構築する責任があります。発注者は、単に工事を依頼するだけでなく、現場で働く人々の安全にも配慮する義務があるのです。

参照:注文者等による安全上の指示について|厚生労働省

【会計・法務】発注者が知るべき注意点

発注業務は、単に取引先とやり取りするだけでなく、会計処理や法務対応といったバックオフィス業務と密接に関連します。特に、契約書の管理や支払い実務においては、専門的な知識が求められる場面が少なくありません。

契約書と収入印紙の基本ルール

発注者として受注者と契約を締結する際、契約書は法的な効力を持つ重要な証拠書類となります。契約内容を明確に定め、双方の合意のもとで保管することが不可欠です。

また、請負に関する契約書は、紙で作成した場合、印紙税法上の課税文書に該当します。契約金額に応じて定められた金額の収入印紙を貼り付け、消印を押さなければなりません。

ただし、電子契約(PDF、電子メールやクラウドサービス)の場合は、印紙税はかかりません。

印紙の貼り忘れは過怠税の対象となるため、経理担当者は注意が必要です。

参照:No.7102 請負に関する契約書|国税庁

下請法で定められた発注者の義務

資本金1,000万円超の法人が、資本金1,000万円以下の法人または個人事業主に業務を委託する場合など、一定の条件下では下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用される可能性があります。

下請法が適用される取引において、発注者(親事業者)は以下の義務を負います。

  • 書面の交付義務:
    発注内容、下請代金の額、支払期日などを記載した書面を交付する。
  • 支払期日を定める義務:
    成果物を受領した日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に支払期日を定める。
  • 遅延利息の支払い義務:
    支払期日までに代金を支払わなかった場合、遅延利息を支払う。

不当な代金の減額や返品、買いたたきなども禁止されています。下請法の対象となるか否かを正しく判断し、法令を遵守した支払い実務を行いましょう。

参照:下請法|公正取引委員会

個人事業主への支払いで必要な源泉徴収

発注先が法人の場合だけでなく、フリーランスなどの個人事業主であるケースも多いでしょう。このとき、報酬の内容によっては、発注者側に源泉徴収の義務が発生します。

例えば、原稿料、デザイン料、講演料、弁護士や税理士などの士業への報酬などを支払う際には、あらかじめ定められた税率で所得税を天引きし、国に納付しなければなりません。

源泉徴収の対象となる報酬の範囲や税率は細かく定められているため、支払いの前に必ず確認が必要です。徴収漏れがあると、不納付加算税などのペナルティが課される可能性があります。

参照:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁

発注者の役割を理解し、円滑な取引を実現するために

この記事では、発注者の定義から、注文者や施主との違い、具体的な役割、そして建設業法や下請法が定める法的な責務までを解説しました。発注者とは、単に仕事を依頼するだけでなく、プロジェクトの方向性を定め、受注者と協力しながら成果物の完成に責任を負う重要な存在です。

特に、契約内容の明確化、適正な工期と代金の設定、そして安全への配慮は、発注者が果たすべき重要な責任といえるでしょう。また、経理や法務の観点からは、印紙税や源泉徴収といった実務知識も不可欠です。

発注者と受注者がそれぞれの役割と責任を正しく理解し、対等なパートナーとして良好な関係を築くことが、プロジェクトを成功に導き、ひいては健全な経済活動の発展につながるのではないでしょうか。


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