- 更新日 : 2024年11月7日
マイナス表記の請求書の書き方は?注意点や適格返還請求書について解説
企業間の売買取引で値引きや返品が生じた際には、マイナス請求書の発行が必要です。その際は、金額をマイナス表記するだけでなく、その理由を明記しなければなりません。さらにインボイス制度では、マイナス請求書に加えて適格返還請求書の発行を求められます。本記事では、マイナス請求書の正しい書き方や、適格返還請求書の作成方法を解説します。
目次
請求書にマイナス表記が発生するケース
請求書にマイナス表記が発生するケースとは、以下の4つのパターンに該当する場合です。
- 大量購入に伴う割引き
- クレームによる値引き
- 返金義務が残っている場合の相殺
- 端数調整
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
大量購入に伴う割引き
大量購入やセット購入の取引が発生した際、「売上割戻」が適用される場合があります。売上割戻とは、顧客が一定量以上の製品・サービスを購入した際に、売り手が契約時の販売価格に対し割引きを入れることです。
売上割戻は、リベートやボリュームディスカウントといった名称で表現されることもあります。売上割戻が生じた際の請求書は、当初の契約金額から割引金額をマイナス表記して差し引きます。
クレームによる値引き
製品やサービスに対するクレームが発生した場合、交渉による値引き対応で解決に導くケースがあります。
たとえば、提供したサービス品質に欠陥があった場合や、自社の不手際により取引先とトラブルに陥った際、その解決のために販売価格を引き下げるようなケースです。値引きの際も契約時の価格との差異を明らかにするために、請求書では値引き額をマイナス表記で記載します。
返金義務が残っている場合の相殺
たとえば、A社がB社に対して売掛金100万円と買掛金90万円を保有しているとします。この場合、売掛金と買掛金を相殺したうえで残った売上債権のみ請求されることがあります。請求書には仕入債務90万円分をマイナス表記し、残りの売上債権10万円のみ請求が可能です。
端数調整
請求書の合計金額が端数になる場合、売り手が端数調整を加えてマイナス表記を用いることがあります。
たとえば、税抜合計金額が9万9,550円で消費税が10%の場合、消費税は9,955円となり、最終的な請求額が10万9,505円となるようなケースです。この請求額に端数処理を加えて「端数調整 ▲5円」として請求書にマイナス表記することがあります。結果、最終的な請求金額は10万9,500円となるのです。
マイナス表記が発生した場合の請求書の書き方
請求書にマイナス表記が発生した場合、以下のいずれかの表記方法で作成・発行します。ポイントは、請求書の受領側がひと目でマイナス表記を理解できる書き方にする必要がある点です。
〈請求書におけるマイナス表記の方法〉
- マイナス記号(−)を用いる
- 三角形記号(△または▲)を使用する
- マイナス金額を赤字で表示する
以下に具体的な記載例を紹介しますので参考にしてください。
マイナス表記が発生する請求書の注意点
マイナス表記が生じる場合、請求書の発行にあたって注意すべきポイントがあります。以下で、詳しくみていきましょう。
誤読や改ざん防止にカンマを利用する
請求書の作成においては、すべての記載金額にカンマを付けることを忘れないようにしましょう。
会計や経理の分野では、金額にカンマを付けることが一般的です。金額の誤読を防げることに加え、書き換えによる金額の改ざん防止に有効なためです。加えて、金額の先頭に「¥」マークを付けたり、金額末尾に「-」記号を付けたりすれば、より改ざん防止効果が高まるでしょう。
消費税の計算タイミングを明確にする
値引きや返品等を理由に請求書へマイナス表記する場合、税込金額と税抜金額のどちらからマイナスするのか、消費税計算のタイミングが問題になるケースがあります。言い換えれば、売上に消費税を加える前にマイナスするのか、税込み後にマイナスするのかが問題となるのです。後々のトラブルを避けるために、消費税計算のタイミングは事前に決めたうえで、取引先と合意しておくと安心できるでしょう。
なお、発行側にとっては、消費税計算前にマイナスする方がメリットは大きいといえます。なぜなら、税込金額からマイナスすれば、税込金額の算出や端数計算の手間が大きいためです。
適格返還請求書(返還インボイス)とは
適格返還請求書とは、適格請求書発行事業者が値引きや返品などの理由で売上対価の返還を行う際に、発行が義務付けられる帳票です。適格返還請求書は、2023年10月に導入されたインボイス制度の一環として位置づけられるもので、別名「返還インボイス」とも呼ばれます。
発行側は、適格請求書を発行した後に、消費税法で規定される売上に対する対価の返還等が発生した際には、適格返還請求書を発行しなければなりません。適格請求書と同様、適格返還請求書の保存は仕入税額控除の適用要件とされています。
一方で、以下のような請求書発行業務の負担を緩和させる免除規定もあるため、ぜひ覚えておきましょう。
<適格返還請求書の交付が不要なケース>
- 請求額の税込価額が1万円未満の場合
- 発行側が仕入税額控除のために作成・保存した支払通知書が、適格返還請求書としての要件を満たしている場合
記載事項
適格請求書(インボイス)と同様、適格返還請求書(返還インボイス)にも記載要件が定められています。義務付けられている具体的な記載項目を、以下に紹介していきます。
<適格返還請求書の記載要件>
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号
- 対価の返還等を行う年月日
- 対価の返還等の基となった取引を行った年月日
- 対価の返還等の取引内容(軽減税率対象品目である旨も含む)
- 税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額(税抜きまたは税込み)
- 対価の返還等に係る消費税額または適用税率
記載例
ここでは、サンプルを用いて適格返還請求書の具体的な記載例を紹介します。必ず記載要件を満たした適格返還請求書のフォーマットを用意しましょう。
保存形式
適格返還請求書は紙による保存に加えて、電子データによる保存も認められています。
認められる保存方法は、以下の通りです。
- 紙面
- 電子メール
- インターネット上の電子データ
なお、適格返還請求書は、発行側(売り手)だけでなく受領側(買い手)においても保存が必要な点に注意しましょう。
保存期間
適格返還請求書は、法人の場合、交付日の属する課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日を起点に、7年間の保存が義務付けられています。ただし、2018年4月1日以降に発生した繰越欠損金の控除がある場合、保存期間は10年間とされます。
一方、個人事業主の場合は、以下の通りです。
- 消費税課税事業者:確定申告期限の翌日から7年間
- 免税事業者 :確定申告期限の翌日から5年間
マイナス請求書の正しい処理と業務負担軽減のためにはシステム導入が有効
本記事では、請求書にマイナス表記が生じる具体的事例と請求書の書き方、そしてマイナス表記時に必要な適格返還請求書について詳しく解説してきました。
2023年11月より開始されたインボイス制度によって、請求書の発行・受取りに関するルールが厳格化されました。これにより、請求書発行業務の負担も以前よりも大きくなっています。複雑な法要件に適切に対応しながら業務効率化を実現するには、請求書発行システムの導入が有効です。
ぜひ一度、システム化の検討をしてみることをオススメします。
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