• 更新日 : 2025年11月13日

金額なしの発注書が有効なケースと書き方は?請求時の注意点も解説

発注書に金額を記載しない(金額なし)対応は、原則として避けるべきですが、仕様が未定であるなど正当な理由がある場合に限り、特定の条件下で認められます。これは取引内容や金額を明確にし、後のトラブルを防ぐため、また下請法遵守の観点からも求められるためです。

しかし、ソフトウェア開発のように発注時点で金額を確定できない実務上の課題もあるでしょう。この記事では、金額なしの発注書が有効なケース、下請法や印紙税との関係、そして金額未定の際に記載すべき具体的な対応策について解説します。

発注書に金額の記載は必要?

発注書(注文書)には、取引の透明性を確保し将来的な紛争を防ぐため、原則として金額の記載が必要です。

取引内容や価格を明確に合意した証拠として、発注書は機能します。また、特定の取引、特に下請法が適用される場合には、下記の通り、親事業者に代金額等を記載した3条書面の即時交付が義務付けられており、金額未記載は形式不備は行政指導リスク等につながります。

取引内容を明確にするため

発注書に品目、数量、単価、そして合計金額を明記することで、発注側と受注側の双方で「いくらの取引なのか」という認識を一致させられます。もし金額なしで発注し、後に請求書が届いた際に金額が想定と異なれば、「言った」「言わない」の水掛け論になりかねません。金額を記載することは、こうした認識の齟齬(そご)によるトラブルを未然に防ぐ基本的な対策です。

下請法を遵守するため

親事業者が下請事業者に発注する場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が適用されることがあります。この法律では、親事業者は発注に際し、取引内容や下請代金(金額)などを明記した書面(通称「3条書面」)を交付する義務があります。

金額を記載しない発注書は、この3条書面の要件を満たさない可能性があり、法律違反と取り扱われるリスクを伴います。

参照:下請代金支払遅延等防止法 | e-Gov法令検索
参照:下請法の概要 | 公正取引委員会

金額なしの発注書が有効なケースとは?

金額が未確定な段階での発注や、下請法が適用されない取引、仮単価で合意している場合など、限定的な状況下では金額なしの発注書も実務上使われることがあります。

ただし、これらのケースでも、金額が未定である旨や、決定方法を明記するなど、後日のトラブルを避けるための配慮が求められます。

発注時点で金額が未定

発注時点で金額が定まっていないケースです。ソフトウェア開発やコンサルティング業務のように、発注時点では詳細な仕様や必要な工数が確定しておらず、最終的な金額を決定できない取引があります。このような場合、まずは発注の事実を確定させるために、金額欄を空欄や「別途協議」とした発注書を取り交わすことがあります。

そして後日、正式な金額が確定した時点で、改めて契約書や請書、あるいは金額を明記した覚書などを取り交わします。

なお、3条書面は電磁的方法でも交付可(出力可能性要件あり)。受領側で出力・保存できる方式を採用することが重要です。

  • ソフトウェア開発・Web制作:アジャイル開発のように、初期段階では詳細な仕様が固まっておらず、開発を進めながら機能を追加・変更していく場合。必要な工数が流動的であるため、総額の見積もりが困難です。
  • コンサルティング業務:プロジェクトの進行状況に応じて、必要な調査や分析の範囲が変わる可能性がある場合。
  • デザイン制作・広告運用:クライアントの要望による修正回数や、広告の運用実績によって最終的な費用が変動する場合。

下請法が適用されない取引

発注側(親事業者)と受注側(下請事業者)の資本金区分や取引内容が下請法の適用対象外である場合、法律による金額明記の義務はありません。この場合、発注書の主な目的は「発注内容の証明」となります。

ただし、法律上の義務がないからといって金額を記載しないでいると、取引の安全性が低下するおそれがあります。法律の適用有無にかかわらず、金額はできるだけ明記するほうが望ましいでしょう。

仮単価での発注

最終的な総額は未定でも、作業単価(例:エンジニア1人月あたり〇〇円、作業1時間あたり〇〇円、記事1文字あたり〇円)については合意できている場合があります。

このようなケースでは、見積書もその単価をベースに作成し、発注書にはその見積書番号と単価を明記した上で、「総額は作業実績に基づき確定」などと記載する方法がとられます。これにより、総額は未定でも「計算根拠」は合意したことになります。

下請法適用取引で金額未定の場合はどうすべき?

下請法が適用される取引で、やむを得ず金額を確定できない場合は、その「正当な理由」と「金額を決定する方法または算定方法、予定日」を発注書に具体的に記載しなければなりません。

下請法第3条では、親事業者が発注する際、受注側である下請事業者を不当な代金減額などから守るため、「下請代金の額」を明記した書面を交付することが原則として義務付けられています。

したがって、発注時点で金額が未定であることはあくまで例外的な扱いであり、上記の必須事項(理由・算定方法・予定日)を明記しなくてはなりません。

参照:下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のために | 公正取引委員会
参照:下請代金支払遅延等防止法 第三条(書面の交付等) | e-Gov法令検索

金額なしの場合の発注書の書き方は?

金額なしで発注書を作成する場合、トラブルを避けるため、「なぜ金額が未定なのか」と「いつ、どのように金額を決めるのか」を備考欄に明確に記載する必要があります。単に金額欄を空欄にするだけでは、受注側が不安を感じたり、後日の認識違いにつながったりする可能性があります。

特に下請法が適用される取引では、記載すべき事項が法律で定められています。

下請法が適用されない場合の記載方法

下請法が適用されない取引では、まず金額欄を空欄、「※」、「-(ハイフン)」などとし、備考欄に金額が未定である旨を明記するのが簡単な方法でしょう。

備考欄で金額未定の旨を明記する

発注書の備考欄に金額が未定である理由や、今後の決定方法を簡潔に記載します。これにより、発注時点では金額が未定であることを双方が合意している証拠になります。

  • 「金額は別途協議のうえ決定する」
  • 「金額は見積もりによる」
  • 「概算金額 〇〇円(金額は仕様確定後に正式決定)」

すでに見積書(単価や概算など)を提示している場合は、その見積書番号を紐づけます。

見積書とセットで発行する

すでに単価や概算金額を記載した見積書を取り交わしている場合は、その見積書番号を紐づける方法です。この方法は、金額の算定根拠を別紙(見積書)に委ねる形です。

  • 「金額:見積書No.〇〇のとおり」
  • 「詳細は見積書(No.XXX)を参照」

下請法が適用される場合の必須事項

下請法が適用される取引では、金額の記載が原則であり、金額未定はあくまで例外的な扱いです。この例外を適用するには、以下の3点すべてを発注書面(3条書面)に具体的に記載しなければなりません。

  1. 金額を記載できない正当な理由
    例:仕様が未確定であり、現時点での工数算定が困難なため
  2. 金額を決定する具体的な算定方法
    例:仕様確定後、別途合意する単価(〇円/人月)に基づき算定する
  3. 金額を決定する予定日
    例:仕様確定日(〇月〇日予定)から5営業日以内に決定する

単に「別途協議」と書くだけでは、算定方法や予定日が具体性に欠け、下請法違反と取り扱われるため注意が必要です。

参照:下請代金支払遅延等防止法 第三条(書面の交付等) | e-Gov法令検索
参照:下請法の概要 | 公正取引委員会

金額なしで発行した後の共通対応

下請法の適用の有無にかかわらず、金額なしの発注書を発行したままで取引を完了させてはなりません。金額なしの発注書は、あくまで「仮の発注」と位置づけましょう。

発注書に記載した「決定予定日」までに必ず金額を定め、決定後は「速やかに」受注側へ通知します。

通知方法としては、金額を記載した正式な注文請書や契約書を改めて発行するのが一般的です。

金額なしの発注書は印紙税(収入印紙)に影響する?

金額が記載されていなくても、その発注書が契約の成立を証明する文書(契約書)とみなされた場合、印紙税(一律200円)の対象となることがあります。

発注書は通常、印紙税の課税対象外(不課税文書)ですが、特定の条件下では課税文書として扱われるため注意が必要です。

印紙税が必要になるケース

印紙税法上、発注書(注文書)自体は通常、課税文書にあたりません。しかし、以下の条件を満たすと、実質的な「契約書」とみなされ、印紙税(第2号文書または第7号文書)の対象となります。

  1. 発注書に受注側の署名または押印欄がある
  2. 発注書とは別に、契約書や請書が作成されない
  3. 双方がその発注書をもって契約成立の証拠としている

参照:注文請書の記載金額|国税庁

金額未記載の場合の印紙税額

もし発注書が上記の理由で課税文書(契約書)とみなされた場合、金額が記載されていなければ「記載金額のない契約書」として扱われます。この場合の印紙税額は、一律で200円です。

ただし、備考欄などに「単価〇〇円」「概算〇〇円」といった記載があり、それが契約金額と読み取れる場合は、その金額に応じた印紙税額が必要になることもあります。

参照:No.7117 契約書の意義|国税庁

電子データで「金額0円」と記載する対応は有効ですか?

電子帳簿保存法への対応として、システム上、金額欄を空欄で保存できない場合などに「0円」と入力する方法がとられることがあります。

ただし、「0円」と記載することが取引の実態(金額未定)と合致しているか、また、電子データとして保存する際の要件を満たしているか、という点に留意が必要です。

「0円」と記載する理由

多くの会計システムや販売管理システムでは、金額欄が入力必須項目になっていることがあります。電子データで発注書をやり取りする際、空欄のままではデータとして保存・処理できないため、便宜的に「0円」と入力するケースです。

電子帳簿保存法との関連

2024年1月から、電子データで受け取った取引書類(電子取引)は、電子データのまま保存することが義務化されました。

金額なし(または0円)の発注書も電子データでやり取りした場合、電子帳簿保存法の保存要件を満たす必要があります。具体的には、後で検索できるように「取引年月日」「取引先」「取引金額」をデータとして保持しなければなりません。

金額が「0円」や「未定」の場合、どのように検索要件を満たすか(例:0円で検索可能にする、備考欄に「金額未定」と入れて検索対象にするなど)を、利用するシステムで確認しておくべきでしょう。

参照:電子帳簿保存法の概要|国税庁

金額なしの発注書を受け取った受注側の注意点は?

もしあなたが受注側で、取引先から「金額なし」の発注書を受け取った場合は、記載内容を慎重に確認し、不安な点は必ず発注元に問い合わせましょう。

安易に作業を開始すると、後で不利な条件を提示されたり、代金が支払われなかったりするリスクがあります。

記載内容の確認

まずは発注書全体を確認し、特に以下の点に注目してください。

  • 金額が未定である「正当な理由」は記載されているか
  • 金額の「算定方法」(単価や計算根拠)は明記されているか
  • 金額の「決定予定日」は記載されているか
  • (下請法対象の場合)上記の記載が法律の要件を満たしているか

これらの記載が曖昧な場合、なぜ金額が記載されていないのかを明確にするよう発注元に求めましょう。なぜなら、受注側には以下のようなリスクが生じるからです。

  • リスク1:作業完了後、発注元から想定より著しく低い金額を提示される。
  • リスク2:仕様変更や追加作業が発生しても、「当初の業務の範囲内」として追加費用が認められない。
  • リスク3:金額の合意が遅れ、支払いが大幅に遅延する。

決定予定日を過ぎても金額の連絡がない場合は催促する

発注書に記載された「決定予定日」を過ぎても金額の連絡がない場合は、速やかに発注元に催促しましょう。金額が確定しないまま作業を進めるのは、受注側にとって大きなリスクとなります。

信頼関係がある取引先であっても、口約束ではなく、必ずメールなどの文面で合意を得てから作業に着手するのが、ビジネスにおいての最善策です。

金額なしで発注した場合の請求時の注意点は?

発注時に金額が未定だった取引は、請求時に発注側も受注側も、金額の合意をしましょう。請求段階でのトラブルを防ぐために金額を確定させるプロセスが必要です。

受注側:請求書発行前の「金額合意」

金額なしで作業を進めた場合、作業が完了したら、請求書を発行する前に、必ず発注元と最終的な金額について合意を得てください。

  1. 実績の報告:作業実績(例:〇〇時間、〇〇人月)や納品物を提示します。
  2. 金額の算出:発注書で取り決めた「算定方法」(例:単価〇円 × 〇〇時間)に基づき、請求金額を算出します。
  3. 金額の合意:算出した金額を発注元に提示し、「この金額で請求します」という合意をメールなどの書面で取り付けます。

この「合意」のプロセスを飛ばして、いきなり請求書を送付すると、「そんな金額は聞いていない」と差し戻しや減額の交渉をされる原因になります。

請求書には、どの発注に基づくものか(発注書No.など)に加え、「〇月〇日合意分」といった合意の証拠を併記しておくと、より丁寧でしょう。

発注側:請求書の「根拠」の確認

発注側は、金額が未定だった案件の請求書を受け取ったら、それが事前に合意した内容に基づいているかを厳密に確認します。

  • 請求書の金額は、発注書に記載した「算定方法」と一致しているか?
  • (受注側から実績報告や金額提示を受け)事前にその金額で合意しているか?

もし認識と異なる金額であれば、すぐに受注側に確認し、算出根拠の提示を求めましょう。

インボイス制度と請求書

発注時に金額が未定であっても、最終的に発行する請求書(適格請求書)には、取引金額(税抜または税込)と、それに対応する消費税額等の記載が必須です(インボイス制度)。

金額未定のままでは、インボイスの要件を満たす請求書を発行できません。発注側が仕入税額控除を受けるためにも、請求段階までに必ず双方が合意した金額を確定させる必要があります。

金額なしの発注書が使われるケースと必須対応まとめ

「金額なし」で発注書を発行するのは、取引の安全性を確保するため、原則として避けるべきです。ただし、ソフトウェア開発のように仕様が未定で、発注時に金額を確定できない「正当な理由」がある場合に限り、例外的に用いられます。

この場合、単に金額を空欄にするのではなく、必ず「なぜ金額が未定か」「どうやって決めるか」「いつ決めるか」を明記しなくてはなりません。

特に下請法が適用される取引では、「正当な理由」「金額の算定方法」「決定予定日」の3点を具体的に記載しないと、法律違反となるおそれがあります。下請法対象外の取引でも、「別途協議」や「見積書No.XXXのとおり」と記載し、金額の根拠を明確にしましょう。

いずれの場合も、金額が確定したら速やかに相手方へ通知し、正式な金額を記載した契約書や請書を取り交わすことが、後のトラブルを防ぎます。

不明な点があれば、弁護士や税理士などの専門家に事前に相談することをおすすめします。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事