• 更新日 : 2025年11月13日

建設業で注文書ファクタリングを活用するには?仕組み・メリット・注意点を解説

建設業界では、案件の受注から入金までに時間がかかることが一般的です。その間にも、資材の仕入れや職人の手配など多額の費用が発生し、資金繰りに悩む事業者は少なくありません。こうした課題に対し、近年注目されているのが「注文書ファクタリング」です。

本記事では、注文書ファクタリングの仕組みや建設業におけるメリット、利用が適している業者の特徴、代表的なファクタリング会社の比較などを解説します。

注文書ファクタリングの仕組みは?

建設業では、工事開始前に材料費や外注費などが発生するため、手元資金が不足しやすい状況が生まれます。そうした課題を補う手段として注目されているのが「注文書ファクタリング」です。ここでは、その仕組みや背景、審査・費用面の特徴を整理します。

注文書ファクタリングとは、受注段階で資金を調達できる仕組み

注文書ファクタリングは、取引先から受け取った工事の注文書(発注書)をファクタリング会社に売却し、工事完了前に代金の一部を現金化する仕組みです。通常の請求書ファクタリングが納品後に債権を買い取るのに対し、受注直後に資金を得られる点が最大の違いです。これにより、工事着手時に必要となる資材購入費や人件費などを前倒しで支払えるようになり、資金繰りを安定させる効果があります。特に、下請けや個人事業主のように資金余力が少ない事業者にとって、受注段階での現金確保は大きな支えとなります。

従来の資金化の課題を解消するために誕生した

この仕組みが登場した背景には、従来のファクタリングの「資金化が遅い」という課題がありました。請求書ファクタリングは納品完了後でなければ利用できず、工事前の最も資金が必要な時期に対応できませんでした。そこで2021年ごろ、ビートレーディング社が業界に先駆けて「注文書ファクタリング」を開始し、日経新聞でも新サービスとして紹介されました。納品前の債権を対象にするためリスクは高いものの、発注先の信用力や取引実績を重視することで運用を可能にしています。この仕組みにより、建設業などの長期案件を抱える事業者が資金を早期に確保できるようになりました。

参考:日本経済新聞にビートレーディングが掲載されました|株式会社ビートレーディング

手数料が高く審査が厳格

便利な反面、注文書ファクタリングは請求書ファクタリングに比べて手数料や審査基準が厳しいという特徴があります。請求書ファクタリングの手数料が2〜20%程度であるのに対し、注文書ファクタリングは10〜30%前後と高めに設定されています。また、審査通過率は30〜50%ほどで、すべての注文書が資金化できるわけではありません。発注元が上場企業や大手企業など信用度の高い場合を除けば、注文書だけでの買取は難しいケースもあります。多くの審査では注文書に加え、契約書、過去の取引履歴、入金実績などの提出を求められ、不自然な金額や内容の書類は架空取引と見なされることもあります。利用にあたっては事前に取引の信頼性を示す資料を整えておくことが重要です。

建設業で注文書ファクタリングを利用するメリット

建設業では、案件の受注から入金までの期間が長く、材料費や人件費といった先行コストが早期に発生します。こうした資金繰りの問題を解消する手段として、注文書ファクタリングは有効です。ここでは、建設業における注文書ファクタリングの利点を解説します。

着工前に必要な資金をすばやく確保できる

注文書ファクタリングの最大のメリットは、工事開始前に必要な資金を受注時点で調達できる点です。建設業では通常、工事が完了し検収が終わるまで代金の支払いがなされません。しかし、受注直後から資材の仕入れや職人の手配などで多額の支出が発生します。注文書ファクタリングを活用すれば、注文書をもとに工事前のタイミングで現金を得ることができ、材料費や外注費、人件費をスムーズに支払うことが可能になります。この資金確保によって、着工の遅延を防ぎ、現場の進行に支障をきたすリスクを軽減できます。

長期の支払いサイトでもキャッシュフローを維持できる

建設業における取引は、支払いサイトが数ヶ月から半年に及ぶケースも珍しくありません。公共工事などでは、入金までに180日以上かかることもあり、資金繰りへの圧迫は深刻です。こうした場合でも、注文書ファクタリングを利用すれば、入金を待たずに即日資金化が可能となります。

発注元に知られずに資金調達ができる

注文書ファクタリングでは、多くのファクタリング会社が「2社間契約」に対応しています。これは、取引先に通知することなく資金化ができる形式で、元請け企業に知られずに資金繰りを改善できるという安心感があります。元請けとの信頼関係を保ちつつ、必要な資金を確保できる点は、実務上とても重要な利点です。また、契約内容によっては「ノンリコース型(償還請求権なし)」の買取にも対応しており、発注元が万が一支払不能となった場合でも、利用企業に返済義務が生じない構造となっています。このように、万一のリスクからも事業者を守る役割を果たします。

小規模業者や一人親方でも活用できる

注文書ファクタリングは、法人だけでなく、個人事業主や一人親方でも利用可能なサービスが増えています。これにより、資金調達の選択肢が限られる小規模な事業者であっても、信用力の高い発注元からの注文書をもとに資金を得ることが可能です。金融機関からの融資に頼らずとも、スピーディに必要資金を確保できるという点で、経営基盤が脆弱な中小建設業者にとっては大きな恩恵があります。

注文書ファクタリングの利用がおすすめな建設業者とは?

すべての建設業者にとって注文書ファクタリングが最適というわけではありませんが、向いているケースや経営状況があります。ここでは、どのような建設業者がこのサービスを活用しやすいかを解説します。

銀行融資が通りにくい事業者

注文書ファクタリングは、銀行融資を受けにくい中小建設業者にとって有効な選択肢です。たとえば、設立間もない企業や赤字決算が続いている企業の場合、金融機関からの借入はハードルが高く、審査結果が出るまでにも時間がかかります。一方、注文書ファクタリングは担保や保証人が不要であり、資金化までのスピードも早いため、急ぎで現金が必要な場面で頼りになります。審査の際には、発注元となる取引先の信用力が重視されるため、自社の業績が不安定であっても、発注元が大手や上場企業であれば資金調達の可能性が高まります。

大型工事の受注時に着手資金を確保したい事業者

注文書ファクタリングは、規模の大きな工事案件を受注した際にも有効に機能します。大きな案件ほど、工事前に支払う材料費や外注費、人件費が膨らみますが、手元資金だけでは賄えないというケースも珍しくありません。こうした場合でも、注文書に基づいて前倒しで資金を調達できるため、資金不足によって受注を諦めるリスクを軽減できます。また、複数の現場を同時に進行させるようなケースでも、キャッシュフローの断絶を防ぎ、スムーズな業務遂行を可能にします。成長過程にある建設会社にとって、案件の規模拡大に伴う資金負担を吸収する手段として有効です。

支払いサイトが長く資金繰りが逼迫しやすい事業者

建設業では、支払いサイトが60日〜180日と長期化することが珍しくありません。しかも、下請け構造が多層にわたることもあり、資金の流れが複雑で遅れやすい業界構造です。このような環境においては、たとえ将来の入金が約束されていても、当面の資金が枯渇してしまうことがあります。注文書ファクタリングを利用することで、入金を待たずに将来の売上を現金化でき、次の仕入れや職人の確保を滞りなく進めることが可能です。資金ショートによる施工中断を防ぎ、元請け企業との信頼関係を損なわないためにも、有効な資金戦略といえるでしょう。

建設業で利用できる注文書ファクタリング会社5選

注文書ファクタリングに対応する会社はまだ多くありませんが、建設業者が利用しやすい代表的なサービスを5社紹介します。 下表に、主な対応会社の入金スピードや手数料の目安、利用可能金額帯などをまとめました。

会社名(サービス名)入金スピード手数料目安買取可能額対応対象
ビートレーディング最短即日2%~10万円~3億円法人/個人事業主
トップ・マネジメント最短即日3.8%~~1億円法人のみ
BestPay(ベストペイ)最短翌日5%~100万円~3億円法人のみ
ファクタリングのTRY最短即日3%~30万円~5,000万円法人/個人事業主
けんせつくん最短即日5%~50万円~2億円程度※法人/個人事業主

※けんせつくんの買取可能額は公開情報が限られており、目安値です。詳細条件は都度確認が必要です。

注文書ファクタリングを利用する際の注意点とは?

注文書ファクタリングは、建設業の資金繰りに有効な手段ですが、請求書ファクタリングよりも制約やリスクが大きく、注意すべき点も多くあります。

手数料が高くコスト負担が大きい

注文書ファクタリングの最も大きな注意点は、請求書ファクタリングに比べて手数料が高めに設定されている点です。資金化のスピードや柔軟性のメリットはあるものの、調達コストが高くなれば利益を圧迫する可能性もあります。利益率の低い案件では、手数料を差し引いた後に利益が残らないといったケースも考えられるため、あらかじめ収支のシミュレーションを行い、金額と費用のバランスをよく検討することが重要です。

建設業の下請け構造では審査が厳格になる傾向がある

ファクタリング会社にとって、注文書ファクタリングは未納品の債権を買い取ることになり、リスクが高い取引です。建設業界は多重下請け構造が一般的で、元請け→一次→二次と受注が階層化されており、発注元の信用力や発注内容の透明性が確保されていないケースもあります。そのため、ファクタリング会社は発注元の企業格付けや支払実績、取引履歴、契約書の内容などを細かく審査します。

発注元が中小企業や初めて取引する企業の場合、審査を通過しにくい傾向があります。また、注文書の内容や金額が不自然だったり、契約書と整合性が取れない場合には、架空取引の疑いを持たれ、追加調査や審査否決となることもあります。こうしたリスクを避けるためには、書類の整合性や取引実績をあらかじめ整理し、裏付け資料(契約書、入金実績、請求履歴など)を提出できるようにしておく必要があります。

信頼できるファクタリング会社を選定する必要がある

注文書ファクタリングを提供している事業者は、まだ業界全体でそれほど多くはありません。また、法的な整備が遅れている領域であるため、なかには手数料や契約条件が不透明な業者や、過度な返済義務を課すような悪質な会社が存在する可能性もあります。契約前には、会社の設立年数、金融庁への登録状況、口コミや評判、取引実績などをよく確認しましょう。建設業に特化していると謳う業者であっても、審査内容や契約形態が明確でない場合は注意が必要です。必ず契約書を細かく読み込み、「償還請求権(リコース)」「途中解約時の条件」「通知義務の有無」など、リスク負担に直結する条項は見逃さないようにしましょう。

個人事業主は利用可能なサービスが限られる

建設業には一人親方や個人事業主として活動している事業者も多く存在しますが、注文書ファクタリングは法人向けを中心に提供されており、個人が利用できるサービスは限定的です。申込条件や審査基準も法人に比べて厳しい場合があります。また、個人向けは買取上限額が低く設定される傾向があり、大型案件には対応できないこともあります。したがって、個人事業主として利用を検討する場合は、対応可能な業者を事前に調査し、各社の公式サイトで申込条件や対象範囲をよく確認してから申し込むことが大切です。

注文書ファクタリングは建設業の資金繰り改善に有効

長期の掛け取引が当たり前の建設業において、受注段階で現金を調達できる注文書ファクタリング(発注書ファクタリング)は、資金繰り改善に役立ちます。銀行融資と異なり担保も不要で審査も迅速なため、必要な運転資金をスピーディに確保できます。下請け企業や創業間もない建設業者にとっては、資金不足でビジネスチャンスを逃さないための心強い手段となるでしょう。

ただし、本記事で述べたように手数料負担や審査基準などのデメリットや注意点もあります。注文書ファクタリングを賢く活用するには、各サービスの条件をよく比較検討し、適切な業者選びと計画的な資金活用を心がけることが大切です。注文書ファクタリングを上手に取り入れて建設事業の安定した資金繰りと更なる発展につなげていきましょう。


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