• 更新日 : 2025年11月13日

注文書や発注書には角印と丸印どっちを押すべき?

注文書に押す印鑑は、一般的に「角印(かくいん)」を使います。角印は会社が発行した正式な書類であることを示す「認印」の役割を持ち、見積書請求書など日常的な取引で広く使われるためです。一方、「丸印(まるいん)」は会社の「実印」として重要な契約に使われます。

そのため、「注文書どっちを押すべきか」「法的な効力に違いはあるのか」「契約書ではどうなのか」と、実務で迷う場面は少なくないでしょう。

この記事では、角印と丸印の明確な違いと、書類別の適切な使い分けを解説します。

角印と丸印の違いは?

角印は会社の社印(認印)として見積書・注文書・請求書などの日常書類の発行主体を示すために用いられます。一方、実印(代表者印)は法務局に登録された印鑑で、印鑑証明書と併用されることで本人(会社)の意思に基づく作成が強く推定されるなど、高い証拠力を持ちます。

また「丸印」は形状の呼称であり、丸い印=必ず実印ではありません(銀行印など丸形でも実印と目的が異なります)。

角印は日常の商取引に

角印(かくいん)は、その名のとおり四角い形状の印鑑で、一般的に「会社名(例:〇〇株式会社之印)」のみが刻まれています。角印の役割は会社の「認印」としての位置づけです。

角印の主な用途として、日常の商取引で発行する書類に使われます。

商慣習上、会社が発行した正式な書類であることを示す法的効力がありますが、次に説明する丸印(実印)ほどの法的に強い証明力(本人の意思を法的に推定する力)は持ちません。

丸印は強い証明力に

丸印(まるいん)は、丸い形状の印鑑を指す通称です。会社で使う丸印には「実印(代表者印)」と「銀行印」の2種類があり、明確に区別されます。

1. 会社実印(代表者印)

一般的に「丸印」といえば、この「会社実印(代表者印)」を指すことが多いでしょう。

これは会社の「実印」としての役割を持ちます。刻印内容は二重の円になっており、外枠に会社名、内枠に役職名(例:代表取締役印、理事長印など)が刻まれるのが特徴です。法務局に印鑑登録を行うことで、法的効力を持ちます。印鑑登録証明書とセットで使うことで、その押印が会社の代表者本人の意思によるものであることを法的に証明できます。

丸印の主な用途は、会社の経営や財産に影響をおよぼす、重要な契約書の締結時に使われます。

  • 不動産取引
  • 会社の登記申請
  • 重要な金銭消費貸借契約(融資契約)

2. 銀行印

銀行印も丸い形状(丸印)であることが多いですが、実印とは異なります。

銀行印の役割は、銀行口座の開設や、預金の引き出し、手形・小切手の振り出しなど、銀行取引専用で使われることです。刻印内容は、実印と区別するため、内枠を「銀行之印」としたり、実印より一回り小さく作ったりするのが一般的です。

悪用を防ぐため、実印とは別の印鑑を用意し、経理担当者などが管理します。

3. 丸印と実印の違い

「丸印」は単に印鑑の形状が丸いことを指し、「実印」は法務局に印鑑登録を行った、法的な証明力を持つ印鑑(=会社実印、代表者印)を指します。

したがって、「銀行印」も形状は丸印ですが、実印ではありません。ビジネスシーンで「丸印を押してください」と言われた場合、文脈からそれが「実印(代表者印)」を指すのか、それとも単に「銀行印」を指すのかを確認する必要があるでしょう。

注文書や発注書には角印と丸印どっちを押すべき?

注文書や発注書への押印(角印)は、法律で義務付けられているわけではありませんが、一般的に「角印」を押します。

これらは日常的な取引で発行される書類であり、法的な権利義務を確定させる契約書とは異なるため、会社の「認印」である角印で十分とされています。

そのほかにも角印を押すことには、「この注文書は、確かに〇〇会社が発行したものである」ということを対外的に示す意味もあります。また、押印があることで、第三者による安易な偽造や改ざんを防ぐことにもつながります。

ただし、こうした対外的な書類には、インク浸透印(通称:シャチハタ)は不向きとされるため、朱肉をつけて押印する角印を使いましょう。

もし取引先から「丸印(実印)と印鑑証明書」を求められた場合、それは単なる注文書のやり取りではなく、別途「基本取引契約書」などの正式な契約書の締結を意図している可能性が高いといえるでしょう。

押印は必須ではない(電子印鑑・電子契約の普及)

注文書への押印は法的な必須要件ではありません。この場合は「発注します」「受注します」という双方の合意があれば成立するためです。

そのため、PDFやEDI(電子データ交換)システムで注文書を送付する「電子取引」の場合や、取引先との間で「注文書への押印は省略する」という取り決めが既にある場合、また、少額で単発の取引など「軽微な取引」では、角印が省略されることもあります。

見積書、請求書、契約書など、他の書類との使い分けは?

書類の使い分けは、「日常的な確認書類は角印」、「法的な権利義務を伴う重要書類は丸印(実印)」と覚えるのがわかりやすいでしょう。これは、書類の重要度と、印鑑が持つ法的な証明力の強さに応じて使い分けるという考え方に基づいています。

以下の表に、代表的なビジネス書類と、そこで主に使われる印鑑をまとめました。

書類の種類主に使う印鑑理由・注意点
見積書角印会社発行の証明。必須ではない場合も多い。
注文書・発注書角印発注の意思表示の証明。
注文請書角印受注の意思表示の証明。(※注文書と対になる)

※注文書(申込み)と注文請書(承諾)のセットで契約成立と位置づける業界慣行が一般的です。

納品書角印納品の事実の証明。受領印をもらうことも。
請求書角印請求の事実の証明。
領収書角印代金受領の証明。
契約書丸印 (実印)法的な権利義務の確定。印鑑証明書を求められることも。
契約書 (軽微)角印覚書や軽微な業務委託など、場合によっては角印も使う。

契約書は角印ではダメ?

原則として、法的な拘束力を強く持たせたい重要な契約書(不動産売買、高額な融資、M&A関連など)には、丸印(実印)と印鑑証明書が必要です。

ただし、すべての契約書に実印が必須というわけではありません。

例えば、秘密保持契約(NDA)や、金額が比較的小さな業務委託契約、覚書など、日常的な取引の範囲内とみなされる契約書や合意書については、双方の合意のうえで「角印」が使われることもあります。

とはいえ、契約書に「角印」を使うか「丸印」を使うかは、取引の重要性や相手先との関係性によります。迷ったら、法務担当者や専門家に確認するのが安全です。

角印と丸印を両方押す意味は?

書類に角印と丸印の両方を押すことは、一般的な商慣習ではありませんが、特に建設工事の請負契約などでは、「注文請書」に押す印鑑を、相手から送られてきた「注文書」の押印方法に合わせる、という慣習があります。

  • 注文書に「角印のみ」 → 注文請書も「角印のみ」
  • 注文書に「代表者印(丸印)のみ」 → 注文請書も「代表者印(丸印)のみ」
  • 注文書に「角印と丸印の両方」 → 注文請書も「角印と丸印の両方」

これは、注文書と注文請書を一体のものとして扱い、双方の押印形式を揃えることで契約の成立を明確にするための慣習的な対応といえるでしょう。

もし両方押す場合の位置

角印と丸印を両方押す位置についても明確なルールはありませんが、両方押すのであれば、以下のような押し方が考えられます。

  • 丸印(実印):記名押印欄(会社名・代表者名が記載された末尾)の、代表者名の右横(印)の場所に押します。
  • 角印:書類の発行者欄(冒頭や末尾の会社名・住所が記載された部分)の中央や右肩に、文字と少し重なるように押します。

これは、丸印が「代表者個人の意思」を示し、角印が「会社としての発行」を示すという、それぞれの印鑑の押し方ルールに従った結果です。

印鑑(ハンコ)に法的な効力はある?

法律(民法)では、契約は当事者双方の「申し込み」と「承諾」という意思の合致があれば成立します。そのため、印鑑(押印)自体が契約成立の必須要件ではありません。極端にいえば、口約束でも契約は成立します。

しかし、ビジネスにおいて押印が重視されるのは、それが「証拠力」を持つためです。

押印は「その書類の内容を確認し、同意した」という意思表示を推定させる証拠となります。特に丸印(実印)は、印鑑証明書と組み合わさることで、裁判などにおいて極めて高い証拠力を持ちます。

押印の法的な位置づけ(二段の推定)

法務省の見解でも示されているとおり、民事訴訟法(第228条第4項)では、文書の押印が本人の印鑑(実印など)によるものであれば、その文書は本人の意思に基づいて作成されたものと法的に推定されます。これを「二段の推定」と呼びます。

  1. 一段目:印影が本人の印鑑のものである(印鑑証明書で確認)
  2. 二段目:したがって、本人の意思で押印されたものであろう(=書類全体が本人の意思で作成された)

角印(認印)には印鑑証明書がないため、実印ほどの強い推定は働きません。しかし、角印であっても、その会社が継続的に使用している印鑑であることが証明されれば、注文書などの発行の意思を裏付ける証拠力が強い証明にはなります。

参照:押印に関するQ&A|経済産業省

電子契約と押印(電子署名)

近年、「脱ハンコ」の流れとともに、紙の書類と物理的な押印の代わりに「電子契約」が急速に普及しています。電子契約では、物理的な印鑑の代わりに「電子署名」が使われます。

電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)に基づき、本人だけが行える適切な電子署名(例:認証局による本人確認を経たもの)は、手書きの署名や物理的な押印と同等の法的効力を持つとされています。

注文書や請求書のやり取りも、電子帳簿保存法の改正などと相まって、電子データ(電子印鑑や電子署名が付与されたPDFなど)で行うケースが増えています。

参照:電子署名及び認証業務に関する法律|e-Gov法令検索

角印や丸印の押し方で注意すべきビジネスマナーは?

印鑑は、印影がかすれたり、欠けたり、二重になったりしないよう、鮮明に押しましょう。特に丸印(実印)は契約書などの記名押印欄の右横に、角印は発行者名の真ん中あたりに文字と重なるように押すのが一般的です。

不鮮明な印影は、証拠力を弱めるだけでなく、取引先に対して「雑な仕事をする会社だ」という印象を与えかねません。

印鑑を鮮明に押すためのコツ

少しの手間で印影は見違えるほどきれいになります。

  • 捺印マットを使う:
    必ず専用の捺印マット(押印マット)を下に敷きましょう。机の上で直接押すと、硬すぎて印影が欠けやすくなります。
  • 朱肉の手入れ:
    朱肉が乾燥していたり、逆にインクが付きすぎたりしないよう、適度に手入れをします。朱肉は印面に均等につけましょう。
  • 押し方:
    印鑑の真上から、均等に圧力をかけます。このとき、軽く「の」の字を書くように重心を移動させると、印面全体に圧力がかかり、きれいな印影が得られます。

角印を押す位置

角印は、見積書、請求書、注文書などで共通の押し方があります。

一般的に、書類の発行者欄(会社名、住所、電話番号などが記載されている箇所)の中央、または右側の余白に、会社名の文字に少し重なるように押します。

これは、単なる見栄えだけでなく、「会社名と印鑑が一体である」ことを示し、印鑑だけを切り貼りされるような偽造を防ぐ意味合いもあります。

丸印(実印)を押す位置

丸印(実印)は、契約書などの記名押印欄に押します。

「代表取締役 〇〇 〇〇 [印]」と記載されている場合、この「〇〇 〇〇(代表者名)」の文字と「[印]」の記号の両方に重ならないよう、[印]の場所(または代表者名の右横)に鮮明に押します。

丸印(実印)は印影そのものが鑑定対象になることもあるため、文字と重なって不鮮明にならないよう、細心の注意を払いましょう。

注文書には角印が適切。丸印との使い分けで取引を円滑に

注文書や請求書など、日常の商取引で発行する書類には、会社の認印である「角印」を押すのが一般的です。一方で、「丸印」は法務局に登録する「実印(代表者印)」として、法的な権利義務が発生する重要な契約書に使います。

注文書にどっちの印鑑を使うか迷う必要はなく、角印で問題ありません。印鑑(押印)そのものは法律で必須とされていませんが、取引の証拠力や相手方への信頼性を高める日本の商慣習として定着しています。

近年は、物理的な押印を「電子署名」や「電子印鑑」で代用するケースも増えています。これらの印鑑や署名が持つ役割(法的効力や商慣習)を正しく理解し、書類の重要性に応じて適切に使い分けていきましょう。


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