• 更新日 : 2025年11月11日

自動発注とは?仕組みやメリット・デメリットを解説

自動発注とは、在庫データや販売実績にもとづき、システムが発注作業を自動化する仕組みのことです。これにより、発注精度の向上と在庫の最適化が実現します。

担当者の経験に依存した発注業務は、欠品や過剰在庫を招きやすいだけでなく、本来注力すべきコア業務を圧迫しかねません。

本記事では、自動発注の仕組みからメリット・デメリット、AI活用の特徴、そして人を介した部分自動や完全自動など、運用レベルに応じた中小企業が導入するための具体的なステップをわかりやすく解説します。

自動発注とは?

自動発注は、あらかじめ設定したルールや需要予測にもとづいて、システムが適切なタイミングと数量の発注を自動的に行う仕組みです。人の手による作業を介さずに発注処理を完結させることで、業務の効率化と在庫管理の精度向上を目指します。

発注のトリガーとなる「発注点」とは

自動発注システムで基準となるのが「発注点」です。発注点とは、「在庫がこの数量まで減ったら発注する」という基準値(トリガー)のことを指します。

この発注点を設定しておくことで、システムは常に在庫数を監視し、在庫が発注点を下回った瞬間に自動で発注処理を開始します。

この発注点は、一般的に以下の計算式で求められます。

発注点= (1日あたりの平均消費量×調達期間) + 安全在庫

  • 1日あたりの平均消費量:
    過去の販売実績データから算出される、1日あたりの平均的な販売数や使用量です。
  • 調達期間(リードタイム):
    発注してから商品が納品され、利用可能になるまでの日数を指します。
  • 安全在庫:
    需要の急な変動や納品の遅延といった不測の事態に備え、欠品を防ぐための最低限の在庫(バッファー)です。

この発注点方式(定量発注方式)は、特に需要が比較的安定している定番商品の管理に向いています。例えば、事務用品、ネジやボルトといった生産材、トイレットペーパーのような定番の日用雑貨など、年間を通じて安定した消費が見込める品目です。一方で、トレンド商品や季節商品のように需要変動が激しい品目には不向きな場合があります。

定期発注・定量発注・需要予測の仕組み

自動発注の仕組みは、大きく分けて3つのタイプがあります。それぞれの特徴をふまえて、自社の商材や状況にあった方式を選ぶことが大切です。

仕組みの種類特徴適した商材
定期発注型毎週月曜日など、決まった曜日に定期的に発注する方式。牛乳やパンなど、消費サイクルが安定している商品。
定量発注型在庫が設定した「発注点」を下回ったタイミングで、一定量を発注する方式。調味料や消耗品など、比較的需要が安定している商品。
需要予測型過去の販売データや天候、イベント情報などをAIが分析し、未来の需要を予測して発注量を算出する方式。弁当や生鮮食品など、需要変動が激しい商品。

自動発注システムの導入で得られるメリットは?

自動発注システムを導入することで、発注業務そのものの効率化だけでなく、キャッシュフローの改善やデータにもとづく経営判断ができるようになります。

加えて、在庫在庫最適化は在庫回転率の向上や運転資本の効率的な運用に直結し、資金効率も改善します。

ここでは、自動発注システムの導入で得られる代表的なメリットを解説します。

発注業務の効率化と人手不足の解消

発注業務を自動化することで、担当者が在庫数の確認や発注書の作成にかけていた時間を大幅に削減できます。創出された時間は、売場改善や顧客対応、販促企画といった、より付加価値の高い業務に充てられるようになり、組織全体の生産性向上につながるでしょう。

人手不足に悩む企業にとって、省人化を実現する有効な手段となります。

在庫の最適化によるキャッシュフローの改善

データにもとづいた客観的な発注は、過剰在庫や欠品のリスクを低減させます。過剰在庫は保管スペースの圧迫や管理コストの増加、廃棄ロスの原因となり、キャッシュフローを悪化させます。逆に欠品は、販売機会の損失に直結します。

在庫を常に適切な水準に保つことで、これらのリスクを回避し、資金繰りの改善にも貢献するでしょう。

属人化の解消とデータにもとづく経営の推進

担当者の経験や勘に頼った発注は、その担当者が不在の際に業務が滞る「属人化」のリスクを抱えています。自動発注システムは、誰がやっても一定の品質を保てる仕組みを提供し、この属人化を解消します。

また、システムに蓄積された販売データや在庫データを活用することで、より精度の高い需要予測や経営戦略の立案が可能になり、データドリブンな経営体制への移行を後押しします。

自動発注システムのデメリットと注意すべき点は?

自動発注システムの導入はメリットが多い一方で、事前に理解しておくべき課題や注意点もあります。導入後に後悔しないよう、デメリットもしっかりと把握しておきましょう。

初期コストと運用コストの発生

自動発注システムの導入には、システムの購入費用や開発費といった初期コストがかかります。また、導入後もサーバー利用料や保守費用などのランニングコストが継続的に発生します。これらの費用と、導入によって得られる業務効率化やコスト削減の効果を比較検討し、費用対効果を見極めることが不可欠です。

参照:自動発注システムとは?メリット・デメリット、選び方を解説|株式会社ビー・ラック

システムのロジックと柔軟性の課題

システムは、設定されたロジックやデータにもとづいて発注を行います。そのため、予期せぬ需要の急増やイレギュラーな状況が発生した場合、柔軟な対応が難しいことがあります。例えば、テレビ番組で特定の商品が紹介されて需要が急増した際など、システムのロジックだけでは対応しきれない可能性を考慮しておく必要があります。

突発的な需要変動への対応力

定期発注型や定量発注型の場合、過去のデータにもとづいているため、突発的な需要変動に対応しきれない可能性があります。例えば、急な天候の変化や近隣でのイベント開催など、予期せぬ要因による需要の増減を読み取ることが難しく、欠品や過剰在庫につながるリスクが残ります。AIを活用したシステムでも100%の予測は難しいため、最終的には人の判断が必要になる場面も想定しておきましょう。

どのような業界で自動発注は活用されている?

自動発注システムは、特に在庫管理が収益に直結する小売業や飲食業界を中心に導入が進んでいます。これらの業界では、欠品による機会損失や過剰在庫による廃棄ロスが経営に与えるインパクトが大きいためです。

【小売業・スーパー】AI需要予測によるDXの事例

スーパーのヤオコーでは、需要変動が激しく担当者の経験に頼りがちだった惣菜や生鮮品の発注に、日立と共同でAI需要予測システムを導入しました。POSデータや天気、特売情報などをAIが分析して発注を自動化。これによりフードロスや品切れを抑制しつつ発注業務の時間を大幅に削減し、従業員が売場づくりや接客といったコア業務に集中できる環境を実現しています。

参照:需要予測を活用した「自動発注システム」でスーパーをDX 業務効率化を実現|Hitachi Global

【飲食店・レストラン】大手チェーンの導入による属人化からの脱却

人手不足や発注業務の属人化が課題の飲食業界では、「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングスが300以上の店舗にAI自動発注システムを導入しました。AIが販売データから来店客数を予測し、数百品目に及ぶ食材の発注を自動化。店舗責任者は発注業務の負荷から解放され、人材育成や顧客満足度の向上といった付加価値の高い業務に注力できるようになりました。

参照:自動発注システムHANZO|株式会社Goals

AIを活用した自動発注は従来型と何が違うのか?

近年、AI(人工知能)を活用した自動発注システムが注目されています。従来のロジックにもとづくシステムと比較して、AI活用型にはどのような違いや優位性があるのでしょうか。

AIが実現する高精度な需要予測のロジック

AIを活用したシステムの最大の特徴は、高精度な需要予測にあります。過去の販売実績、曜日、時間帯、価格といった内部データだけでなく、天候、気温、周辺のイベント情報、SNSのトレンドといった多様な外部データを組みあわせて分析します。

これにより、人間では把握しきれない複雑な相関関係を見つけ出し、「雨の日は揚げ物の売上が伸びる」「給料日後の金曜日は高価格帯の商品が売れる」といった傾向を学習し、より精度の高い発注量を算出します。

天候やイベントなど多様な外部データの活用

AIは、気象庁が発表する天気予報データや、地域のイベントカレンダー、販促チラシの情報などを自動で取り込み、需要予測に反映させることが可能です。

例えば、週末に雨予報が出ていれば、客足が鈍ることを見越して生鮮食品の発注を抑える、あるいは近隣で大規模なイベントが開催される日には、弁当や飲料の発注を増やすといった判断を自動で行います。これにより、機会損失と廃棄ロスの双方を最小限に抑えることが期待できます。

自動発注は人事・会計業務にどう影響する?

自動発注の導入は、発注担当者の役割をデータ分析等の高度な業務へシフトさせ、在庫最適化を通じて会計処理の効率化にも貢献します。現場の業務効率化にとどまらず、人事や会計といったバックオフィス業務にも影響があるでしょう。

発注担当者の業務内容の変化と求められるスキル

発注作業が自動化されることで、これまで発注業務を担ってきた担当者の役割は大きく変化します。単純な入力作業や数量確認から解放され、より分析的・戦略的な業務へとシフトしていくでしょう。

例えば、システムが算出した発注データを確認し、特売などの戦略的な意図をふまえて最終承認を行う「管理業務」や、販売データと在庫データを分析して売れ筋・死に筋商品を見極め、棚割りを改善する「分析業務」などが新たな役割となります。そのため、担当者にはデータリテラシーや分析能力といった新たなスキルが求められるようになります。

在庫資産の変動と会計処理の効率化

会計上、在庫は「棚卸資産」として扱われます。自動発注によって在庫が最適化されると、過剰在庫が減少し、企業の棚卸資産が圧縮されます。これは、保管コストの削減だけでなく、キャッシュフローの改善にも直接つながります。

また、システム上で在庫の動きがリアルタイムに把握できるようになるため、月次や期末に行う棚卸作業の負担が軽減されます。実地棚卸の手間が減り、帳簿上の在庫と実際の在庫の差異も少なくなるため、会計処理の迅速化と正確性の向上が期待できるでしょう。

中小企業が自動発注を実現するための3ステップとは?

「自動発注は大企業のもの」と考える必要はありません。中小企業が自動発注を実現するには、目的を明確にし、システム選定と費用対効果の検証をします。はじめるときは、スモールスタートがよいでしょう。近年では中小企業でも導入しやすいクラウド型のサービスが増えています。

ここでは、中小企業がスムーズに導入を進めるためのステップを紹介します。

STEP1:現状の課題と導入目的の明確化

最初に、「なぜ自動発注を導入したいのか」を明確にしましょう。「発注業務の負担を減らしたい」「欠品による機会損失を防ぎたい」「在庫を減らしてキャッシュフローを改善したい」など、具体的な課題を洗い出します。目的が明確になることで、自社に必要なシステムの機能や種類が見えてきます。

STEP2:システム選定と費用対効果の検証

目的が明確になったら、複数のシステムを比較検討します。自社の業種や規模、扱っている商材に合っているか、既存の販売管理システムやPOSレジと連携できるか、といった観点で選びましょう。

同時に、導入にかかる初期費用や月々の運用費用と、導入によって得られる効果(人件費削減、廃棄ロス削減など)を算出し、費用対効果を慎重に検証することが大切です。

STEP3:スモールスタートと効果測定

いきなり全店舗・全商品に導入するのではなく、まずは特定の商品カテゴリーや一部の店舗から試験的に導入する「スモールスタート」をおすすめします。小さな範囲で始めることで、トラブルが発生した際の影響を最小限に抑えられ、自社にあった運用方法を見つけやすくなります。そして、導入後は定期的に効果を測定し、課題を改善しながら徐々に適用範囲を広げていきましょう。

自動発注は在庫の最適化を実現するシステム

自動発注とは、販売データや在庫数にもとづき、システムが発注作業を代行する仕組みです。発注担当者が毎回在庫を確認しなくても、設定した基準在庫を下回った時点でシステムが発注を提案または実行します。

自動発注システムの導入メリットには、発注業務の負担軽減による生産性向上、データにもとづく在庫最適化、そして業務の属人化解消が挙げられます。一方で、導入・運用には相応のコストがかかる点や、突発的な需要変動には対応しきれない場合がある点がデメリットとなります。

そのため、導入を成功させるには、自社の課題を明確にした上での慎重なシステム選定が不可欠です。また、システムの基盤となるデータの正確性を確保し、導入後も人間の判断を適切に介在させることが重要と言えるでしょう。


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