• 更新日 : 2025年11月11日

発注点とは?安全在庫との違いや計算方法、決め方、Excel管理を解説

発注点とは、欠品と過剰在庫を防ぎ、在庫を最適化するために「発注するタイミング」を明確にする基準点のことです。そのため、適切な発注点を設定することで、安定した商品供給とキャッシュフローの改善が両立できるでしょう。

しかし、在庫管理の現場では「担当者の経験と勘に頼っていて、欠品や過剰在庫が減らない」といった課題に直面することも少なくありません。

この記事では、発注点の基本的な考え方から、安全在庫との違い、具体的な計算方法、そしてExcelを使った管理手順までをわかりやすく解説します。

目次

発注点とは?

発注点とは、欠品や過剰在庫を防ぐために「商品を補充すべき在庫量」を定めた基準のことです。この基準を設定することで、担当者の経験に頼らない客観的で効率的な在庫管理が可能になります。

発注点は「在庫がこの量を下回ったら発注する」という基準点

発注点(Ordering Point)とは、在庫管理において、商品の補充(発注)が必要になる在庫数量の基準を指します。在庫数がこの点を下回ったタイミングで発注をかけることで、商品が納品されるまでの間に在庫がゼロになる(欠品する)のを防ぎます。

この基準をあらかじめ設定しておくことで、担当者の経験や勘に頼ることなく、誰でも同じ基準で発注業務を行えるようになり、業務の標準化と効率化につながります。

なぜ発注点の設定が求められるのか

発注点の設定が求められるのは、「欠品による販売機会の損失」と「過剰在庫によるコスト増加」という、相反する2つのリスクを回避するためです。

在庫が少なすぎると、顧客が欲しいと思ったときに商品がなく、売上を逃してしまいます。一方で、在庫が多すぎると、保管スペースの圧迫、品質劣化、管理コストの増大といった問題を引き起こし、企業のキャッシュフローを悪化させる原因になりかねません。

発注点は、これらの中間で最適なバランスを保つための羅針盤のようなものです。

発注点を設定する3つのメリット

発注点を正しく設定・運用することで、企業は主に3つのメリットを得られます。

  1. 欠品と過剰在庫の防止
    適切な発注点を設けることで、在庫がなくなる前に自動的に発注が行われる仕組みを構築できます。これにより、需要の急増や納期の遅れがあっても欠品するリスクを低減できるでしょう。同時に、必要以上の在庫を持たなくなるため、保管コストや廃棄ロスの削減にもつながります。
  2. 発注業務の効率化と標準化
    「在庫が〇個になったら発注する」という明確なルールができるため、発注業務が標準化されます。担当者のスキルや経験に依存しないため、業務の属人化を防ぎ、新人担当者でも迷わず作業を進められるようになります。
  3. キャッシュフローの改善
    過剰在庫が減ることで、在庫に投下されていた資金が解放され、他の投資や経費に回せるようになります。在庫は会計上「資産」ですが、現金化されるまでは企業の資金を拘束します。在庫の最適化は、経営の安定に直結するのです。

発注点の計算方法は?

発注点は「(1日の平均出荷量 × 調達期間) + 安全在庫」という計算式で求められます。この式は、商品が届くまでに消費される量と、不測の事態に備えるための在庫を足し合わせることで、最適な発注タイミングを算出する考え方に基づいています。

発注点の基本計算式

発注点は、以下の計算式で求められます。この式は、商品が届くまでに消費される在庫量に、不測の事態に備えるための安全在庫を加えるという考え方にもとづいています。

発注点 = (1日の平均出荷量×調達期間) + 安全在庫

この計算式を構成する3つの要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

1日の平均出荷量(平均需要)の求め方

1日の平均出荷量とは、文字どおり、1日あたりに平均してどれだけの数の商品が倉庫から出ていくか(売れるか)を示す数値です。過去の出荷実績データから算出するのが一般的です。

例えば、過去30日間の合計出荷数が600個だった場合、1日の平均出荷量は以下のように計算できます。

600個 ÷ 30日= 20個/日

季節やセール期間などによって需要が変動する商品の場合は、算出期間を調整するなど、より実態に近い数値を把握する工夫が求められます。

調達期間(リードタイム)の考え方

調達期間(リードタイム)とは、商品を発注してから、実際に自社の倉庫に納品されるまでの時間(日数)のことです。リードタイムには、以下の要素が含まれます。

  • 発注リードタイム:発注データをサプライヤーに送信し、受注処理が完了するまでの時間
  • 製造リードタイム:サプライヤーが製品を製造するのにかかる時間
  • 輸送リードタイム:製品がサプライヤーから自社倉庫まで輸送される時間

これらの時間を合計したものが、計算に使う調達期間です。例えば、発注処理に1日、輸送に2日かかる場合、調達期間は3日となります。

安全在庫の計算方法

安全在庫とは、需要の急増や調達期間の遅延といった不測の事態に備えて、通常消費される在庫とは別に、最低限確保しておくべき在庫量のことです。

安全在庫の計算には統計的な手法が用いられることもありますが、一般的には以下の計算式がよく使われます。

安全在庫 = 安全係数 × (平均出荷量×調達期間) ​× 出荷量の標準偏差

より簡単な方法としては、過去の最大出荷量から安全在庫を決めるアプローチもあります。

例えば、「過去に1日の最大出荷数が50個で、平均は20個だった。その差の30個を数日分持っておこう」といった考え方です。自社のデータ量や管理レベルに合わせて、適切な方法を選びましょう。

発注点と安全在庫の違いは?

発注点と安全在庫の最も大きな違いは、発注点が「発注アクションを起こすタイミング」を示すのに対し、安全在庫は「万一に備えて最低限維持すべき在庫量」である点です。

つまり、発注点は行動のトリガー、安全在庫は欠品を防ぐ最後の砦という役割の違いがあります。両者の関係性を理解することで、より精度の高い在庫管理が実現します。

安全在庫は「最低限保つべき在庫量」

安全在庫は、あくまで不測の事態に備えるための「保険」であり、通常運用時には使われるべきではない在庫です。在庫量がこの水準を下回ると、欠品リスクが非常に高まっている状態を示します。安全在庫は、在庫管理における「守りの指標」といえるでしょう。

発注点は「行動を起こすタイミング」を示す指標

一方、発注点は「発注する」という具体的なアクションを起こすためのトリガー(引き金)となる在庫量です。発注点には、商品が届くまでの通常消費分に加えて、安全在庫が含まれています。つまり、発注点は安全在庫を下回る前の、より早い段階で設定される「攻めの指標」です。

両者の関係性を図で理解する

在庫量の推移をグラフで考えると、その関係はわかりやすくなります。

  • 在庫は日々消費され、徐々に減少していきます。
  • 在庫量が「発注点」に達した時点で、発注が行われます。
  • 発注後、調達期間を経て商品が納品され、在庫量が回復します。
  • もし需要の急増や納品の遅れがなければ、在庫は「安全在庫」のラインまで減ることなく補充されます。
  • 予期せぬ事態が起きた場合にのみ、安全在庫が消費され始めます。

このように、発注点は安全在庫を割り込む前に手を打つための、先行指標の役割を担っています。

発注点を活用した2つの管理方式とは?

発注点を活用した管理方式には、主に「定量発注方式」と「定期発注方式」の2種類があります。前者は発注点を下回ったら常に一定量を発注する方法で、後者は一定期間ごとに在庫を確認し不足分を発注する方法であり、扱う商品の特性によって使い分けます。それぞれの特徴と、自社に合った方式の選び方を見ていきましょう。

定量発注方式:毎回同じ量を発注する

定量発注方式は、在庫量があらかじめ定められた発注点を下回ったタイミングで、毎回一定量を発注する方式です。

  • 特徴:発注量は常に同じですが、発注するタイミングは在庫の消費スピードによって変動します。
  • メリット:発注量の計算が不要で、仕組みがシンプルなため管理がしやすいのが利点です。需要が比較的安定している商品に向いています。
  • デメリット:需要の急増に対応しきれず、欠品する可能性があります。

定期発注方式:決まった周期で発注する

定期発注方式は、毎週月曜日や毎月1日など、あらかじめ決められた周期で定期的に在庫量を確認し、その時点での必要量を発注する方式です。

  • 特徴:発注するタイミングは一定ですが、発注量は毎回変動します。発注量の計算には、「目標在庫数」から現在の在庫数を差し引く方法がとられます。
  • メリット:定期的に在庫状況をチェックするため、需要変動に対応しやすいのが利点です。複数の商品を同じタイミングでまとめて発注できるため、輸送コストを抑えられる場合もあります。
  • デメリット:毎回発注量を計算する必要があり、管理がやや煩雑になります。

自社に合った方式の選び方【比較表】

どちらの方式が適しているかは、取り扱う商品の特性や管理体制によって異なります。以下の比較表を参考に、自社に合った方式を選びましょう。

比較項目定量発注方式定期発注方式
発注タイミング不定期(発注点を下回った時)定期(毎週、毎月など)
発注量一定不定(毎回計算)
管理の手間少ない多い
向いている商品安価で需要が安定した商品(例:事務用品)高価で需要変動が大きい商品(例:季節商品)

発注点管理はバックオフィス業務をどう変えるか?

発注点を管理できると、キャッシュフローの改善、会計処理の精度向上、そして発注業務の標準化を通じて、バックオフィス業務全体の効率化につながります。在庫という資産を最適化することで、資金繰りの安定や属人化の解消といった経営課題の解決に直接つながるためです。

キャッシュフローの改善につながる

在庫は企業の資産ですが、売れるまでは現金化されない「眠っているお金」です。発注点管理によって過剰在庫が削減されると、その分の資金が解放され、運転資金として有効活用できるようになります。

これにより、資金繰りが安定し、金融機関からの借入を減らしたり、新たな設備投資に資金を振り向けたりすることが可能になります。経理担当者にとっては、日々の資金管理がしやすくなるという直接的なメリットがあるでしょう。

在庫評価と会計処理の精度向上

期末の棚卸資産の評価は、企業の利益を確定させるうえで欠かせない会計処理です。在庫管理が適切に行われていないと、在庫の数量や状態を正確に把握できず、評価額に誤差が生じやすくなります。

発注点にもとづく管理体制が整っていれば、在庫データが常に正確に保たれるため、棚卸業務がスムーズに進み、決算書の信頼性も向上します。これは、監査対応などにおいても有利に働くでしょう。

発注業務の標準化による人事・労務管理の効率化

発注業務が特定の個人の経験や勘に依存している状態は、「属人化」と呼ばれ、その担当者が退職したり、異動したりすると業務が滞るリスクをはらんでいます。

発注点を設定し、誰でも同じ基準で発注できる仕組みを整えることは、この属人化を解消する有効な手立てです。業務が標準化されれば、新人教育のコストを削減でき、人員の柔軟な配置も可能になります。人事・労務管理の観点から見ても、組織の安定性と持続性を高めることにつながるのです。

発注点を設定・管理する具体的な手順とは?

発注点を設定・管理するには、①対象品目の選定、②データ収集と算出、③安全在庫の設定、④管理表への落とし込み、⑤定期的見直し、という5つのステップを踏むのが一般的です。

この手順に沿って進めることで、データに基づいた客観的で継続可能な在庫管理体制を構築できます。

STEP1:管理対象の品目を選定する

すべての在庫品目に対して厳密な発注点管理を行うのは、現実的ではありません。まずは、ABC分析などを用いて、重点的に管理すべき品目を絞り込みましょう。

  • Aグループ:売上への貢献度が最も高い重要品目。優先して発注点管理を導入する。
  • Bグループ:中程度の重要品目。
  • Cグループ:重要度が低い品目。簡易的な管理にとどめる。

STEP2:過去のデータから平均出荷量と調達期間を算出する

選定した品目について、過去の出荷実績(販売データ)や発注履歴を収集します。販売管理システムや会計ソフトのデータが活用できるでしょう。これらのデータから、「1日の平均出荷量」と、発注から納品までにかかる「調達期間」を算出します。

STEP3:需要変動をふまえて安全在庫を設定する

次に、需要の変動や納期の遅延リスクを考慮して「安全在庫」を設定します。過去の最大出荷数と平均出荷数の差を参考にしたり、欠品が許されない重要度に応じて日数を設定したり(例:平均出荷量の3日分など)、自社のリスク許容度に合わせて決定します。

STEP4:発注点を計算し、管理表に落とし込む(Excel例)

算出した数値を使い、発注点を計算します。

発注点 = (1日の平均出荷量 × 調達期間) + 安全在庫

計算した発注点は、Excel(エクセル)やGoogleスプレッドシート(グーグルスプレッドシート)などで管理表を作成すると便利です。より具体的な作成方法は、次の章で詳しく解説します。

STEP5:定期的に発注点を見直す

市場のトレンドや季節変動、サプライヤーの変更などによって、需要や調達期間は変化します。一度設定した発注点が、未来永劫最適とは限りません。

四半期に一度、あるいは半年に一度など、定期的に実績データを見直し、発注点の数値を更新していくことが、在庫管理の精度を維持するうえで不可欠です。

Excel(エクセル)での発注点管理表の作り方とは?

Excelでの発注点管理表は、①基本項目の作成、②計算式の入力、③IF関数による自動判定、④条件付き書式による視覚化、という4ステップで作成できます。これらの機能を組み合わせることで、発注タイミングを知らせる管理ツールを自作することができます。

具体的な手順を解説します。

STEP1:管理表の基本項目を作成する

まず、管理に必要な項目を1行目に見出しとして入力し、表のフォーマットを整えます。最低限、以下の項目を用意しましょう。

  • A列:商品コード
  • B列:商品名
  • C列:1日の平均出荷量
  • D列:調達期間(日)
  • E列:安全在庫
  • F列発注点(自動計算)
  • G列現在の在庫数(日々更新)
  • H列発注要否(自動判定)

STEP2:関数で発注点を自動計算させる

次に、F列の「発注点」を数式で自動計算させます。F2のセルに、以下の計算式を入力しましょう。

=(C2*D2) + E2

この数式は、「(1日の平均出荷量 × 調達期間) + 安全在庫」という発注点の計算式をそのまま反映したものです。入力後、セルの右下隅(フィルハンドル)をダブルクリックまたはドラッグすれば、すべての商品に計算式をコピーできます。

STEP3:IF関数で発注タイミングを自動判定する

ここがこの管理表の核となる部分です。H列にIF関数を使い、「現在の在庫数が発注点を下回ったら、発注が必要なことを知らせる」仕組みを作ります。H2のセルに、以下の関数を入力してください。

=IF (G2 < =F2, “★発注要★”, “”)

この関数は、「もし現在の在庫数(G2)が発注点(F2)以下になったら、『★発注要★』と表示し、そうでなければ空白(””)にする」という意味です。これで、在庫を確認してG列の数値を更新するだけで、発注が必要な商品が一目でわかります。

STEP4:条件付き書式でアラートを視覚化する

さらに視覚的にわかりやすくするため、「条件付き書式」機能を活用しましょう。「★発注要★」と表示された行全体に色を付けることで、見落としを防ぎます。

  1. 色を付けたい範囲(例:A2からH100まで)を選択します。
  2. Excelのリボンから「ホーム」→「条件付き書式」→「新しいルール」を選びます。
  3. 「数式を使用して、書式設定するセルを決定」を選択します。
  4. 「次の数式を満たす場合に値を書式設定」の欄に、以下の数式を入力します。 =$H2=”★発注要★” ※$H2のように、列(H)を固定($を付ける)するのがポイントです。
  5. 「書式」ボタンをクリックし、塗りつぶしの色(例:薄い赤色)を設定して「OK」を押します。

この設定により、発注が必要な商品の行が自動的にハイライトされ、日々の管理業務が大幅に効率化されるでしょう。

勘や経験に頼らず発注点の設定を適切に行おう

適切な発注点を設定・運用することは、単なる在庫管理業務の効率化にとどまらず、企業の収益性や経営の安定性を向上させるための重要な取り組みです。

本記事で解説した計算方法やExcelでの管理手順を参考に、まずは主要な商品から発注点の設定を始めてみてはいかがでしょうか。

経験や勘に頼る「どんぶり勘定」の在庫管理ではなく、データにもとづく最適な発注管理体制を構築することで、欠品による機会損失と過剰在庫によるコスト増のリスクを効果的に低減できるでしょう。


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