• 更新日 : 2025年11月13日

発注業務を効率化するには?課題の洗い出しからシステム導入まで解説

発注業務の効率化は、業務プロセスの見直しとITツールの適切な活用によって実現しやすくなります。手作業によるプロセスや属人化したプロセスは、多くの時間的コストと人的ミスを招く要因となるため、現状の課題を「見える化」し、根本的な改善策を講じることが求められるでしょう。

FAXやメールでの発注、手作業によるシステム入力といった煩雑な業務に追われ、「受発注の事務作業が負担だ」と感じている担当者の方も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、発注業務の具体的な課題から、すぐに着手できる改善ステップ、さらにはシステム導入による自動化まで、わかりやすく解説します。

目次

発注業務にはどのような課題がある?

発注業務には、手作業による入力ミスや確認作業の多発、業務の属人化、関連部署との情報共有の遅れといった課題がみられることが少なくありません。このような課題は、非効率な業務フローや、紙やExcel中心の管理体制が原因となっている場合が多いと考えられます。

「受発注の事務がきつい」といった声が聞かれる背景には、こうした問題があるのかもしれません。まずは自社がどの課題に当てはまるかを確認してみましょう。

人的ミス(手入力、転記ミス)

FAXやメールで受け取った注文書を見ながら、基幹システムやExcel(エクセル)ファイルに手入力する作業は、人的ミスの温床となりやすい作業といえるでしょう。 品番や数量の入力間違い、転記漏れは、誤った発注につながり、納期遅れや過剰在庫、再発注のコストといった問題を引き起こす可能性を高めます。

時間的コスト(確認作業、やり取り)

発注業務には、入力作業以外にも多くの時間が割かれているケースがみられます。 例えば、取引先への納期確認、在庫状況の問い合わせ、発注内容のダブルチェック、電話やメールでの修正依頼など、多くのコミュニケーションコストが発生しがちです。これらの作業が積み重なり、担当者の業務時間を圧迫する大きな要因の一つとなるでしょう。

業務の属人化

「あの人でないと発注業務が進まない」といった状況は、業務が特定の担当者の経験や勘に依存しているといえるかもしれません。 発注の手順がマニュアル化されておらず、担当者独自のExcelファイルなどで管理されていると、その担当者が不在の際に業務が滞ってしまう恐れがあります。このような属人化は、組織として業務の継続性を脅かすリスクもはらんでいます。

情報共有の遅れ

発注業務は、営業部門、製造部門、倉庫(在庫管理)部門など、多くの関連部署と連携が必要です。 しかし、発注情報や在庫状況がリアルタイムで共有されていないと、「在庫があると思っていたのに欠品していた」「急な仕様変更が発注担当者に伝わっていなかった」といったトラブルが発生しやすくなるでしょう。

発注業務の効率化をするメリットは?

発注業務の効率化は、単なる作業時間の短縮だけではなく、コスト削減、生産性の向上、さらにはミスの削減による取引先との信頼関係構築につながるため、企業経営において重要になるといえるでしょう。 非効率な業務を放置することは、見えないコストを支払い続けることにもなりかねません。

コストの削減

発注業務の効率化によって、まず期待できるのがコストの削減ではないでしょうか。 手作業による入力ミスが減れば、誤発注による再配送コストや、過剰在庫を抱えるリスクを低減できる可能性があります。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や受発注システムの導入で定型業務を自動化できれば、その分の人件費を削減、あるいはより付加価値の高い業務へシフトさせられる可能性がでてきます。

生産性の向上(コア業務への集中)

発注書の入力や確認作業といった定型業務から解放されることで、担当者は本来注力すべきコア業務に時間を使えるようになるかもしれません。 例えば、新規取引先の開拓、価格交渉、仕入れ先の分析、需要予測といった、企業の競争力に直結する業務への集中が可能となり、組織全体の生産性向上が期待できるかもしれません。

ミスの削減と品質担保

発注業務の改善は、発注漏れや「言った言わない」のトラブルを防ぐことにもつながるでしょう。 システムを導入し、発注データを直接連携させれば、手入力によるミスは根本的に解消されやすくなります。発注プロセスが透明化・標準化されることで、業務品質が安定し、取引先からの信頼も高まることも期待できるのではないでしょうか。

内部統制とコンプライアンスの強化

発注業務をシステム化し、いつ・誰が・どのような発注を行ったかの履歴(ログ)を正確に残すことは、内部統制の強化に寄与すると考えられます。 紙やExcelでの管理では難しかった「発注プロセスの可視化」が実現しやすくなり、不正な発注の防止や、問題発生時の迅速な原因究明が可能になるでしょう。また、2024年1月から本格施行された電子帳簿保存法への対応という側面からも、発注書の電子化は重要性を増しています。

発注業務を効率化するステップとは?

発注業務の効率化は、やみくもにツールを導入するのではなく、現状の課題を正確に把握し、段階的に進めていきましょう。発注業務を効率化するには、業務の見える化や発注ルールの統一、スモールスタートを意識して進めてみましょう。

STEP1. 業務フローの「見える化」と課題特定

まずは、現在の発注業務の全工程を洗い出し、「業務フロー図」を作成してみましょう。 いつ、誰が、どの部署と、どのような情報(書類)をやり取りしているかを可視化することで、「どこに時間がかかっているか」「どこでミスが多いか」「どの作業がボトルネックになっているか」といった課題が明確になりやすくなります。

STEP2. 発注ルールの統一と見直し

課題が特定できたら、業務プロセスやルールを見直します。 例えば、担当者によって発注方法が異なっている場合は、ルールを統一し、属人化を排除することを検討します。また、発注ミスを減らすために、ダブルチェックの体制を強化したり、チェックリストを整備したりすることも有効な手段となり得ます。
この段階で職務の分掌も適切に対応するとよいでしょう。

STEP3. 効率化手法の検討(フローの改善か、ツール導入か)

次に、課題を解決するための具体的な手法を検討します。 課題によっては、ツールの導入までしなくても、ルールの見直しや運用改善(例:定期発注方式の導入)だけで解決できる場合があります。一方で、根本的な効率化(例:手入力の全廃)を目指すのであれば、ITツールの導入が必要となるでしょう。

STEP4. スモールスタートで導入・検証

ITツールを導入する場合、いきなり全部署で一斉に開始するのではなく、特定の部署や取引先から「スモールスタート」する方がリスクを抑えられる傾向にあります。 まずは小規模で導入し、運用上の問題点や効果を検証します。そこで得られた知見をふまえて、徐々に対象範囲を広げていくほうが確実といえるでしょう。

STEP5. 効果測定と継続的な改善

ITツール導入後も、定期的に効果を測定し、さらなる改善を繰り返すことが望まれます。 「KPI(重要業績評価指標)」として、例えば「発注業務にかかる時間」や「発注ミス件数」などを設定し、導入前後の数値を比較します。目標が達成できていなければ、運用の見直しやツールの設定変更などを検討しましょう。

発注業務を見直す方法は?

ITツール導入の前に、まずは現在の業務プロセス自体を見直すことで、大きな効率化が図れる場合があります。 手作業や非効率なルールが残っていないか、ゼロベースで点検してみることをお勧めします。

発注方式の見直し(定量発注方式・定期発注方式)

在庫管理と発注方式を見直すことは、効率化の基本の一つです。もし現在、「在庫が減ってきたら担当者の判断で都度発注する」という方法が中心であれば、方式を見直す価値は高いでしょう。

定量発注方式

在庫が一定の量(発注点)を下回ったら、あらかじめ決めておいた一定量を発注する方式です。消費量が比較的安定している品目に適しているとされます。

発注する量とタイミングが明確なため、担当者の判断が不要になり、発注作業が単純化されます。「発注点を下回ったら発注」というルールさえ守ればよいため、欠品リスクを減らしやすいです。ただし、需要が急に増減すると、欠品や過剰在庫を招く可能性があります。

定期発注方式

毎週月曜日など、定期的に発注する方式です。発注のタイミングが固定されるため、業務の平準化が図りやすくなります。比較的高価であったり、消費量の予測がある程度可能であったりする主要な原材料や商品に適しています。

発注業務のスケジュールが固定されるため、担当者はその作業時間をあらかじめ確保でき、業務の平準化が図りやすくなります。また、定期的に在庫を見直すため、需要の変動にもある程度対応しやすいです。

ただし、発注の都度、適切な発注量を計算(需要予測と在庫確認)する必要があります。

これらの方式を導入し、手動での細かな発注作業を減らすだけでも、業務は改善される可能性があります。

業務フロー図の作成とムダの排除

受発注業務のフロー図を作成し、不要な作業や重複している工程がないかを確認します。 例えば、「Excelに転記した後、さらに基幹システムにも入力している」といった二重作業があれば検討すべきムダといえるでしょう。承認プロセスが複雑すぎる場合は、簡素化できないか検討することも大切です。

チェック体制の強化とルールの統一

発注ミスを防ぐためには、チェック体制の強化が有効な場合があります。ただし、単にチェックの回数を増やすだけでは、かえって時間がかかってしまうことも考えられます。 「誰が、どのタイミングで、何を確認するか」というルールを明確にし、チェックリストを整備することで、抜け漏れを防ぎつつ効率的な確認作業が可能になるかもしれません。

情報共有体制の整備(関連部署との連携)

発注情報は、経理部門(支払処理)や製造部門(生産計画)、在庫管理部門と密接に関連します。 これらの部署間で情報がスムーズに共有される仕組みを整えることが求められます。例えば、共有のデータベースを設ける(インボイス制度関連の情報整理も含む)、定期的な情報共有ミーティングを行うといった対策が考えられるでしょう。

ITツールを活用した効率化とは?

業務プロセスの見直しだけでは限界がある場合、ITツールの活用が有力な解決策となるでしょう。 手作業による作業を自動化・デジタル化することで、人的ミスを減らし、業務時間を大幅に削減できる可能性があります。

受発注システム(Web発注システム)

受発注システムは、発注側と受注側の企業が、Web上で受発注のやり取りを完結できるシステムといえます。 発注側はWeb画面から簡単に入力・発注ができ、受注側はそのデータを直接システムに取り込めるため、双方の入力ミスや確認の手間をなくすことにつながります。在庫状況や納期をシステム上で一元管理できる点も大きなメリットといえるでしょう。

EDI(電子データ交換)

EDI (Electronic Data Interchange) は、企業間の取引(受発注、見積、請求など)に関する情報を、標準化された規約(プロトコル)に基づいて電子的に交換する仕組みのことです。 特に多くの取引先と定型的な取引を繰り返す場合に有効とされ、受発注プロセスを完全に自動化することも可能になります。近年は導入しやすくなったクラウド型のEDIシステムも増えています。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

RPAは、パソコン上で行う定型的な操作(データ入力、システム間の連携、自動発注など)をロボットが代行するツールです。 例えば、「メールで届いた発注データをExcelに転記し、基幹システムに入力する」といった一連の作業を自動化できる場合があります。既存のシステムを大きく変えずに導入できる可能性がある点が特徴です。

AI(人工知能)による需要予測

AIを活用することで、発注業務はさらに高度化する可能性を秘めています。 過去の販売データや季節変動、天候といった外部要因をAIが分析し、より正確な需要予測を行います。この予測に基づき、AIが適切な発注数量を算出することで、過剰在庫や欠品による廃棄ロスを最小限に抑えることが期待されます。

AI-OCR(FAXなどのデジタル化)

取引先によっては、依然としてFAXでの発注書送付が主流の場合もあるでしょう。 AI-OCRは、AI技術を用いてFAXや手書きの書類を読み取り、自動でテキストデータ化するツールです。高い認識精度を持つ製品もあり、手作業によるデータ入力の手間を削減し、入力ミスを防ぐ助けとなります。

エクセルで発注管理を効率化する工夫は?

Excel(エクセル)が発注管理のツールとして使われている場合もあるでしょう。システム導入にはコストがかかりますが、Excelの機能を使いこなして、今よりもう少し効率化ができないか検討していきます。

マクロやVBAによる定型作業の自動化

Excelのマクロ(VBA)を活用すれば、日々繰り返される定型的な作業を自動化できる場合があります。 例えば、「指定のフォルダにある取引先からの注文CSVデータを読み込んで、自動で発注一覧表に転記する」「ボタン一つで入力内容を発注書PDFとして個別に保存・作成する」といった処理です。

さらに踏み込んで、「在庫一覧ファイルと照合して、発注点(あらかじめ決めた在庫数)を下回った品目リストを自動で抽出する」といった仕組みを構築することも可能かもしれません。これにより、作業時間を短縮し、転記ミスを減らせる可能性があります。

関数を使ったデータ参照の効率化

発注書の作成時に、商品マスタや取引先マスタから品番や単価、取引先情報を手入力していると、ミスが発生しやすくなります。 XLOOKUP関数やINDEX/MATCH関数などを使って、商品コードを入力するだけで関連情報(商品名、単価、単位など)が自動的に参照されるように組んでおけば、入力の手間と間違いが大幅に減るでしょう。

さらに、入力する商品コード自体を「入力規則」機能でドロップダウンリストから選択できるようにすれば、コードの入力間違いそのものを防ぐ工夫もできます。

ピボットテーブルでのデータ集計・分析

入力した発注実績データは、ピボットテーブル機能を使って集計・分析することで、発注業務の改善に役立つ気づきを得られるかもしれません。 単純な合計だけでなく、「どの商品の発注が月別に増減しているか」「どの取引先からの仕入れが変動しているか」「どのカテゴリの品目にコストがかかっているか」などを素早く可視化できます。 これらの分析結果をグラフにすることで、視覚的に傾向をつかみやすくなり、需要予測や在庫管理の精度向上に役立てることも期待できるでしょう。

エクセル管理から次のステップを検討するタイミング

Excelは手軽ですが、業務が拡大・高度化するにつれて、次のような状況が出てくるかもしれません。

  • 複数の担当者が、同時に最新の発注状況を確認・入力したい場面が増えてきた。
  • 取り扱うデータ件数が数年分蓄積され、ファイルの動作が遅く感じられるようになった。
  • 高度なマクロや関数を組んだ結果、作成した担当者以外には修正やメンテナンスが難しくなってきた(属人化)。
  • 過去の発注履歴を素早く検索したり、取引先別の履歴を一覧したりするのに時間がかかるようになった。

これらの状況が、「業務のスピードや精度をさらに上げるための課題」として認識され始めた時は、受発注システムやRPAといった、より専門的なツールの導入を検討する良いタイミングといえるかもしれません。

発注業務の効率化は現状分析から

発注業務の効率化は、まず現状の業務フローを「見える化」し、どこにムダや課題が潜んでいるかを特定することから始めるとよいでしょう。手作業によるミスや属人化、確認作業の多発といった課題をそのままにしていては、コスト削減や生産性の向上は望みにくいかもしれません。

業務プロセスの見直しや発注方式の最適化といった地道な改善とあわせて、ベンダーフォームの統一、受発注システムやRPA、AI-OCRといったITツールを適切に活用することで、業務は飛躍的に改善される可能性があります。 自社の課題解決に最適な手法を見極め、発注業務の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

ITツール導入の際には、国や自治体の補助金(例:IT導入補助金)が活用できる場合もあるため、情報収集もあわせて行うことをお勧めします。


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