- 更新日 : 2025年11月11日
発注ミスや誤発注の責任はどこまで?原因と再発防止策を徹底解説
誤発注や発注漏れなどの発注ミスは、個人の注意不足だけでなく組織の仕組みに起因することもあり、その責任を従業員個人に負わせることには法的な限度が設けられています。そのため、従業員のミスによる損害賠償にも明確なルールがあります。
発注ミスが取引先に与える影響やミスをした従業員への対応、そして繰り返される誤発注の根本対策は、多くの企業担当者にとって悩みの種でしょう。
この記事では、発注ミスの原因から法的な責任範囲、そして具体的な予防策までをわかりやすく解説していきます。
目次
発注ミスとは?誤発注や発注漏れの主な種類
発注業務におけるミスは、主に「誤発注」「発注漏れ」「納期や納品場所の指定ミス」の3種類に分けられます。これらは、企業の信用や利益に直接的な影響をおよぼすことがあります。
品名や数量を間違える「誤発注」
誤発注は、発注する商品の種類、品番、数量、金額などを間違えて注文してしまうケースです。例えば、「商品Aを10個頼むつもりが、0を一つ多く入力して100個注文してしまった」「類似品のコードを入力してしまい、違う商品が届いた」といった事例が当てはまります。特に手作業での入力や転記の際に発生しやすいミスといえるでしょう。
注文自体を忘れる「発注漏れ」
発注漏れは、発注すべき商品の注文を忘れてしまうミスを指します。これにより、必要な時に在庫がなくなり、生産の遅延や販売機会の損失につながってしまいます。
また、一度発注したにもかかわらず、再度注文してしまう「二重発注」もこの一種であり、過剰な在庫を抱える原因になります。
納期や納品場所の指定ミス
商品や数量は正しくても、納品日や納品場所を間違えてしまうケースも見られます。「来週必要な商品を、誤って来月の日付で発注してしまった」「本社の住所に送るべきところを、支店の住所に指定してしまった」などがこれにあたります。
顧客への納期遅延や、社内での余計な移送コストを発生させる要因になってしまいます。
なぜ発注ミスは繰り返される?5つの根本原因
発注ミスや誤発注が繰り返される背景には、単なる個人の不注意だけではなく、業務プロセスや組織体制に潜む構造的な問題も見られます。
確認不足や思い込みといったヒューマンエラー
発注ミスの最も直接的な原因は、ヒューマンエラーにあるといえるでしょう。急いでいる時の確認不足、慣れによる思い込み、単純な入力ミスなどが挙げられます。
「いつもこの商品だから大丈夫だろう」という慢心や、疲労による集中力の低下が引き金になることも少なくありません。
特定の担当者に依存する業務の属人化
発注業務を特定の担当者一人が長年担当している場合、その業務プロセスがブラックボックス化しがちです。その担当者が不在の際に他の従業員が対応しようとしても、手順がわからずミスが起きやすくなります。
業務の属人化は、組織としてのリスク管理の観点からも大きな課題といえます。
紙やExcel(エクセル)での管理によるアナログな業務体制
紙の注文書やExcel(エクセル)での手入力による管理は、多くの企業で採用されています。しかし、これらのアナログな手法は、転記ミスや入力漏れ、バージョン管理の失敗といったヒューマンエラーを誘発しやすい環境です。手作業が多くなるほど、ミスの発生確率は高まっていくでしょう。
情報共有の不足とコミュニケーションエラー
営業部門と購買部門、あるいは本社と支店の間での情報共有が不十分な場合、発注ミスにつながることがあります。「営業担当者が受けた注文内容が、発注担当者に正確に伝わっていなかった」といったコミュニケーションエラーは、部門間の連携不足が原因で起こります。
不正確な在庫管理
リアルタイムでの正確な在庫数が把握できていないと、誤った需要予測にもとづいて発注してしまうことになります。現物の在庫とデータ上の在庫に差異があると、「まだ在庫があると思っていたら欠品していた(発注漏れ)」「在庫が少ないと思い込んで過剰に発注してしまった(誤発注)」といった事態を招いてしまいます。
発注ミスが会社や取引先に与える影響とは?
一つの発注ミスが、企業の信頼性や収益性に深刻なダメージを与えかねません。その影響は社内にとどまらず、顧客や取引先にもおよんでしまいます。
顧客からの信用失墜と販売機会の損失
発注漏れによる欠品や納期遅延は、顧客満足度の低下に直結します。約束どおりに商品を提供できない事態が続けば、顧客からの信用を失い、長期的な取引関係に悪影響をおよぼすでしょう。結果として、貴重な販売機会を逃すことにもつながりかねません。
過剰在庫や返品・再手配で発生する余分なコスト
誤発注によって過剰な在庫を抱えてしまうと、保管コストや管理コストが増大します。また、不要な在庫はキャッシュフローを悪化させる一因です。商品を返品する際の送料や、正しい商品を再手配するための費用など、直接的な金銭コストも発生するのです。
社内の業務混乱と従業員の精神的負担
ミスへの対応には、多くの時間と労力が割かれます。原因調査、取引先への謝罪、返品処理、再発注といった追加業務が発生し、本来の業務が滞ってしまいます。また、ミスをした従業員は精神的なプレッシャーを感じ、他の従業員の業務負担も増えることで、社内の雰囲気が悪化してしまうこともあるでしょう。
発注ミスはどこまで従業員の責任?
従業員が発注ミスで会社に損害を与えた場合、その責任はどこまで問われるのでしょうか。法律にもとづく正しい知識を持つことが、従業員と会社の双方を守ることにつながります。
原則として従業員に全額賠償の義務はない
従業員のミスによって会社が損害を被ったとしても、会社がその従業員に損害の全額を賠償させることは、原則として認められていません。これは、会社が従業員を使って利益を上げている以上、業務にともなうリスク(危険)も会社が負うべきであるという「報償責任の原理」にもとづいています。
判例では、損害の公平な分担という観点から、従業員の責任を一定の範囲に制限しています。
損害賠償が認められる「重過失」とは?
従業員に「故意」または「重過失」があった場合には、損害賠償責任が認められることがあります。故意とは、わざとミスをすることです。重過失とは、通常求められる注意を著しく怠った場合のことです。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 不正な目的:
個人的な利益のために、意図的に不正な発注を行った。 - 無断での逸脱行為:
会社のルールを無視し、独断で通常では考えられないような大量の発注を行った。 - 繰り返される警告の無視:
同じミスを何度も繰り返し、その都度上司から具体的な改善指示を受けていたにもかかわらず、それを無視し続けた。
単純な確認ミスや入力間違いが、直ちに重過失と判断されることはまれといえるでしょう。
パートやアルバイトの責任範囲
パートタイマーやアルバイトであっても、ミスによって会社に損害を与えれば、理論上は損害賠償責任を負うことも考えられます。しかし、その責任範囲は、正社員以上に限定的に解釈される傾向にあります。
業務内容や権限、賃金水準などが総合的に考慮され、全額の賠償を求められることはまずないでしょう。
発注ミスを理由に従業員へ賠償請求や解雇は可能か?
会社が従業員のミスに対して、ペナルティを科す際には、労働基準法で定められたルールを厳守しなくてはなりません。誤った対応は、法的なトラブルに発展しかねません。
「罰金」として給与から天引きするのは違法
発注ミスの損害を「罰金」として、一方的に従業員の給与から天引き(相殺)することは、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に反します。たとえ就業規則に「罰金」の定めがあったとしても、それは無効です。
ただし、従業員が賠償に自由な意思で同意した場合は、相殺が認められる余地もありますが、極めて慎重な判断が求められます。
参照:労働基準法 第二十四条(賃金の支払) | e-Gov法令検索
懲戒処分としての「減給」にも上限がある
就業規則にもとづく懲戒処分として「減給」を行うこともできます。しかし、その金額には上限が定められています。
労働基準法第91条により、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、一賃金支払期における減給総額が、その期間の賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。
(制裁規定の制限)第九十一条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
一度のミスを理由にした解雇は「不当解雇」のおそれ
発注ミスは、会社にとって大きな損害につながることがありますが、通常、一度の過失を理由に従業員を解雇することはできません。解雇が有効と認められるには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなくてはなりません(労働契約法第16条)。
複数回の指導や教育、配置転換など、会社側が解雇を回避するための努力を尽くしたうえで、それでも改善が見られないといった事情がなければ、不当解雇と判断される可能性が高いといえます。
発注ミスを防ぐための再発防止策とは?
発注ミスは個人の責任を追及するのではなく、組織全体の仕組みとして予防することが欠かせません。ここでは、すぐに取り組める具体的な対策を3つのステップで紹介します。
STEP1:業務フローの可視化とマニュアル整備
まず、誰が、いつ、何を、どのように行っているのか、現在の発注業務フローをすべて書き出して可視化しましょう。業務の流れが明確になることで、どこにミスのリスクが潜んでいるかが見えやすくなります。
そのうえで、誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できるよう、具体的でわかりやすい業務マニュアルを作成・整備することが第一歩になります。
STEP2:複数人によるダブルチェック・トリプルチェック体制の構築
ヒューマンエラーを完全になくすことは困難です。そこで、一人の担当者のチェックだけでなく、必ず別の担当者が内容を確認するダブルチェック体制を導入しましょう。特に金額の大きい発注や、新規の取引先への発注など、リスクの高い業務については、三人で確認するトリプルチェックも有効です。
チェックリストを用いて、確認項目を明確にすることもミスの発見に役立ちます。
STEP3:発注管理・在庫管理システムの導入検討
アナログな管理方法に限界を感じている場合は、発注管理システムや在庫管理システムの導入が根本的な解決策になるでしょう。システムを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
| 機能 | メリット |
|---|---|
| 発注データの自動作成 | 手入力が不要になり、入力ミスや転記ミスを削減できる。 |
| 承認フローの電子化 | スマートフォンなどからでも承認が可能になり、業務が迅速化する。 |
| 在庫のリアルタイム管理 | 正確な在庫数にもとづいた適切な発注が可能になる。 |
初期コストはかかりますが、長期的に見れば業務効率化とミスの削減によって、費用対効果は大きいといえるでしょう。
もし発注ミスが起きてしまったら?
どれだけ対策を講じても、ミスが起きてしまう可能性はゼロではありません。万が一、発注ミスが発生してしまった場合は、その後の対応が極めて大切になります。
STEP1:迅速な上司への報告と状況の正確な共有
ミスに気づいた時点で、速やかに上司に報告することが何よりも大切です。隠したり、自分一人で解決しようとしたりすると、かえって事態を悪化させかねません。
報告する際は、「いつ」「誰が」「何を」「どのように」間違えたのか、そして「現在の状況」を客観的かつ正確に伝えましょう。
STEP2:取引先への誠実な連絡とお詫び
会社としての方針が決まったら、速やかに取引先に連絡し、状況を説明したうえで誠実にお詫びをします。納期への影響や代替案など、こちらができる限りの対応策を正直に伝えることが、信頼関係の維持につながります。
隠蔽やごまかしは、さらなる信用失墜を招いてしまいます。
STEP3:原因究明とチームでの再発防止策の策定
事態が収束したら、必ず「なぜそのミスが起きたのか」という根本原因を究明しなくてはなりません。個人を責めるのではなく、「チェック体制に不備はなかったか」「マニュアルはわかりにくくなかったか」など、仕組みやプロセスの問題として捉える視点が大切になります。
そして、同じミスを繰り返さないために、チーム全員で具体的な再発防止策を考え、実行に移しましょう。
発注ミスの責任と対策を理解し、組織的な改善へつなげよう
発注ミスは、その原因がヒューマンエラーから業務の属人化、アナログな管理体制まで多岐にわたります。ミスをした従業員に対して、会社が一方的に全額の損害賠償を請求したり、給与から天引きしたりすることは法律で厳しく制限されており、安易な責任追及は労務トラブルの原因になりかねません。
大切なのは、ミスを個人の問題として終わらせず、業務フローの見直し、チェック体制の強化、そして必要に応じたシステムの導入といった、組織全体での仕組みによる再発防止策を講じることにあります。
もしミスが発生してしまった場合は、迅速な報告と誠実な対応を心がけ、それを教訓としてより良い業務プロセスの構築につなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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