- 更新日 : 2025年11月13日
注文書に押印は必要?電子契約や下請法との関係も解説
注文書に押印が本当に必要なのかは、紙から電子契約への移行が進む中で、多くの企業が直面する課題です。法的には必須なのか、それとも慣習に過ぎないのか、判断に迷う場面も少なくありません。
本記事では、注文書をはじめとする取引書類に押印が必要とされるケースや、電子契約との関係、下請法への対応などを解説しています。
目次
注文書に押印は必要?
注文書に押印するかどうかは多くの企業で迷われる点です。結論としては、注文書への押印は法律上必須ではなく、押印がなくても契約は成立します。
ただし証拠力としては相対的に弱くなります。従って、押印なしの場合、電子署名や社内承認ログ等をもって補完する運用を整備するとよいでしょう。
注文書への押印は法律上不要
注文書への押印は法律上義務づけられていません。 民法では契約は当事者の合意によって成立し、書面や印鑑がなくても口頭やメールで意思表示があれば有効です。そのため、押印が欠けていても発注意思と内容が明確であれば契約無効にはなりません。
注文書は発注意思を示す書面
注文書は本来、発注側の意思を伝える書面であり、押印が法的に要求される手続きではありません。会社の押印がなくても相手に発注内容を通知・確認する役割を果たせます。押印の有無で注文書の効力が失われることはありません。
押印がない場合には証跡不足のリスクが残る
押印がない場合は後日の紛争リスクが高まります。 発注者が内容を確認・承認した証跡が残らないため、「発注していない」「受注していない」といったトラブルが起きやすくなります。このため多くの企業では注文書発行時に社印などで押印し、正式な発注書面であることを明確にする運用をとっています。
注文書に押印する習慣がある理由は?
法律上は押印が不要とされているにもかかわらず、多くの企業が今も注文書に押印しています。ここでは、注文書への押印が続いている理由を解説します。
発注内容への同意を示す証拠になる
注文書への押印は、発注内容に会社として同意した証拠になります。注文書に社印が押されていれば、「この注文は社内決裁を経た正式な依頼である」と第三者にも明示できます。例えば、担当者が独断で発注した場合でも、会社としての押印がなければ「正式な発注ではない」と主張する余地があります。一方で、社印があれば「企業として承認した意思」が証明され、受注側にとっても安心材料になります。
社内の不正発注やミスの抑止につながる
押印手続きは社内統制と不正防止の機能を果たします。注文書に押印するには、多くの企業で上長や管理部門の承認が必要となるフローが組まれています。このプロセスを通じて、担当者のミスや不正な発注をチェックする機会が設けられるため、内部統制上のメリットがあるのです。押印を経ることで、「誰が、どの段階で、どの内容を承認したのか」が明確になり、組織としての透明性が保たれます。
押印が取引先への信頼感につながる
日本の商習慣では、押印は信頼の表現とされています。新規取引先とのやり取りや、契約書を交わさない簡易取引の場合には、押印された注文書が「きちんとした企業である」という印象を与えることがあります。反対に、無印の注文書では「本当に正式な依頼か」と疑念を抱かれることもあり、実務上は押印することで信頼性や誠実さを示す意味合いもあるのです。
押印を省略するメリットは?
ここでは、押印を省略する場合の利点を整理します。
業務効率が向上する
押印を省略すれば、発注業務がスピードアップします。注文書への押印は、上司の承認や印鑑の管理、紙の印刷・押印・郵送といった作業を伴います。これらを省略すれば、注文書の作成から送付までをすべて電子的に完結でき、担当者の業務負担を軽減できます。テレワーク環境や支社間のやり取りでは、物理的な印鑑が障害となるケースがあるため、電子化と押印省略は合理的な選択肢です。
業務フローの簡素化によりコスト削減が可能になる
押印作業を削減すれば、人的・物的コストの圧縮にもつながります。印刷用紙や印鑑の管理コストに加え、押印を待つ時間や郵送費などの間接コストも削減できます。また、電子ファイルとして一元管理がしやすくなり、文書保管や検索にかかる工数の削減も期待されます。業務全体のスリム化が実現し、他の業務への時間投資も可能になります。また、電子契約は印紙税が不要となる点も利点となります。
押印を省略する際の注意点は?
注文書の押印を省略することで業務効率が高まる一方、運用変更には一定の注意が必要です。押印廃止に移行する際の注意点を確認しておきましょう。
押印廃止の前に取引先と認識をすり合わせる
一方的に押印を省略すると、相手の不信感を招く可能性があります。取引先によっては、注文書に押印があることを「正式な依頼」と見なす商習慣が根強く残っている場合もあります。こうした相手に対して無断で押印を省略すると、「発注として受け取れない」「軽視されている」と感じさせてしまうこともあります。そのため、押印を省略する方針に切り替える際には、あらかじめ取引先に説明し、同意を得ておくことが重要です。
社内の承認フローと責任体制を明確にしておくべきです
押印をなくすなら、代わりに承認の記録を明確に残す必要があります。これまで押印によって担保されていた「決裁の証跡」は、押印をやめた場合、別の方法で補う必要があります。発注承認をワークフローシステムやメール履歴、ログ管理で証明できるようにしておかないと、「誰の指示で発注されたのか」が曖昧になります。文書管理ルールや責任者の承認方法を文書化し、全社的に共有することが不可欠です。
電子ファイルでの発注時は保存と履歴管理が必要
押印がない分、文書の真正性と保存性を担保する運用が必要です。PDFやExcelで作成した注文書をメールで送る場合、そのファイルが正しく送付され、相手に届いた証拠を残すために、送信ログや受領確認の記録を保存しておくことが求められます。また、誤送信や改ざんの防止のために、アクセス制限や版管理の導入も検討すべきです。電子発注では「誰が、いつ、どの内容で発注したか」が後から検証できる状態であることが重要です。
注文に関連する書類で、押印が必須となるケースは?
通常の注文書や発注書では押印は法的に義務づけられていませんが、すべての書類がそれに該当するわけではありません。取引内容や書類の性質によっては、押印が法的・実務的に必須とされるケースも存在します。ここでは、押印が必要とされる代表的な場面を紹介します。
書類が契約書に該当し印紙税の課税対象となる場合
注文書や注文請書が実質的に契約書とみなされる場合、押印が必要です。注文書と注文請書をそれぞれ発注者・受注者が押印して取り交わすことで、契約書としての効力を持つ文書と見なされます。この場合、印紙税法上の「課税文書」に該当し、押印した上で収入印紙を貼付・消印しなければなりません。押印のないまま印紙を貼ると無効とされるおそれもあるため、押印は印紙税の適用上の必須条件となります。
公印や実印が必要とされる官公庁向け発注書類の場合
官公庁や自治体などが発行・受領する注文関連書類では、押印が義務付けられていることがあります。入札関連の発注書や契約書においては、契約相手方に対して「代表者印の押印」「印鑑証明書の添付」を求めることが一般的です。こうした公的手続きでは、契約の正式性を確認する手段として押印が制度上組み込まれており、省略が認められないケースが多いです。
電子契約では注文書に押印は必要?
紙の注文書に代えて、電子契約やクラウドサービスで取引を進める企業が増えています。では、電子契約で発行する注文書に押印は必要なのでしょうか。電子契約の法的効力や、押印の代替手段について解説します。
電子契約では原則として押印は不要
電子契約では、押印がなくても法的効力は認められます。電子署名法により、本人性と非改ざん性が確保されていれば、書面に印鑑を押すのと同等の効果があるとされます。クラウド型の電子契約サービスを使い、注文書に電子署名を施せば、それが発注者の意思を示す証拠になります。このため、紙の注文書における押印のような「印影」をデジタル上で求める必要は基本的にありません。
単なる印影画像には法的な効力はない
電子ファイルに押印画像を貼り付けただけでは、法的には押印の効力を持ちません。PDFやWordファイルに社判の画像データを挿入しても、それが誰によって、いつ、どのような手続きで作成されたかが証明できなければ、契約上の証拠力は乏しいままです。電子署名を伴った送信ログや履歴管理によって、契約当事者の合意や真正性を担保する運用が推奨されます。
電子契約では印紙税も課税されない
電子契約で作成された注文書や契約書は、印紙税の対象外です。印紙税法上、課税対象は「紙により作成された文書」とされており、電子データのみで契約を締結した場合は印紙税がかかりません。これにより、発注金額が高額となる契約でも印紙税コストを削減でき、企業の経費削減にも寄与します。
下請法では注文書の押印が必要?
下請取引においては、発注時の書面の交付義務が「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」により定められています。ただし、書面の要件や交付方法について、必ずしも「押印」が義務とされているわけではありません。以下では、下請法における押印の位置づけについて解説します。
下請法は義務とされているのは押印ではなく書面交付
下請法(2026年1月からは中小受託取引適正化法)では、押印ではなく発注内容の書面交付が義務づけられています。下請法第3条では、委託事業者(旧:親事業者)は中小受託事業者(旧:下請事業者)に対し、発注内容を記載した書面(3条書面)を契約と遅くとも発注と同時に交付することが求められています。これは書面または電磁的記録による交付であればよく、押印の有無は法律上の要件とはされていません。つまり、注文書に会社印が押されていなくても、記載事項が適正に整っていれば、下請法違反にはあたりません。
実際の運用においては施行規則・ガイドラインで詳細を確認することをお勧めします。
参考:下請代金支払遅延等防止法 第三条(書面の交付等)|e-GOV法令検索
押印付き注文書が「正式な書面」として扱われることが多い
前述のとおり、押印は法的義務ではないものの、信用確保のために行われています。企業の実務では、下請法に対応する「正式な発注書」として、発注日・支払期日・取引内容などを明記した注文書に社印を押し、受託側へ交付する運用が一般的です。これは書面の真正性を担保し、委託側・受託側双方でトラブルを防ぐ目的があります。押印があれば、後日「発注していない」と否認されるリスクも軽減されます。
注文書の電子交付も認められるが保存と同意が必要
電磁的記録での交付も認められますが、相手の同意と適切な保存が必要です。法改正により、PDFやメールなどの電子形式で3条書面を交付することも可能となりました。ただし、電子交付には事前の相手方の承諾が必要であり、発注内容が確実に相手のコンピュータに記録される状態でなければなりません。また、交付した証拠となる記録を2年間保存することも求められます。これらの運用上の要件を満たしていれば、押印の有無に関わらず適法な発注とされます。
押印の必要性は取引や書類の性質に応じて判断を
注文書への押印は法律上の義務ではなく、合意があれば押印がなくても契約は成立します。ただし、注文請書や契約書では押印が証拠力を高め、紛争防止に役立つため、押印されることが一般的です。電子契約では押印は不要ですが、真正性の確保と記録管理が重要です。また、下請法では押印ではなく書面交付が義務とされており、押印の有無は書類の性質や運用体制に応じて判断することが求められます。
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