• 更新日 : 2025年11月13日

発注者が下請に直接指示するのは違法?偽装請負のリスクや対策を解説

発注者が下請企業の従業員に直接業務指示を出す行為は、見過ごされがちな重大リスクをはらんでいます。契約上は請負であっても、実際の運用が労働者派遣に近い場合、「偽装請負」として法律違反に問われる可能性があります。

この記事では、偽装請負の定義や違法行為の例、発注者が取るべき対応などを解説します。

目次

発注者が下請に直接指示を出すとどうなる?

発注者が中小受託事業者(下請企業)の従業員に業務の指示を直接行うと、請負契約の体裁があっても、実態が労働者派遣と見なされる可能性があります。これは「偽装請負」と呼ばれ、複数の法律に違反する違法行為となるおそれがあります。適切な契約形態と実態の整合性がなければ、企業は大きな法的・社会的リスクを負うことになります。

発注者が直接指示を出すと偽装請負と見なされる

請負契約では、受託企業が自社の従業員を管理・指揮することが前提です。発注者が現場の作業者に直接的に業務内容や手順を指示した場合、その契約形態が形式的に請負であっても、実態が労働者派遣に近くなります。厚生労働省のガイドラインでは、発注者による作業工程の指示や欠陥対応の命令は「直接の指揮命令」に該当するとされており、このような行為が確認された場合、偽装請負と判断される可能性があります。

参考:労働者派遣・請負を適正 に行うためのガイド|厚生労働省

偽装請負が発覚すると発注者に法的リスクが及ぶ

偽装請負が明らかになると、発注者は労働者派遣法違反(無許可派遣)、職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)、および労働基準法違反(中間搾取の禁止)といった複数の法令に抵触します。これらの違反には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金などの刑事罰が科される可能性があり、あわせて行政処分としての改善命令や企業名の公表といった社会的制裁も考えられます。こうした違法状態を回避するためには、業務の指示系統を明確にし、発注者が直接現場の従業員を指揮しない体制を整える必要があります。

偽装請負とはどういう状態?

偽装請負とは、表向きは請負契約を装っていても、実際には労働者派遣と同じように発注者が従業員に直接指示している状態を指します。契約書の形態ではなく、実態としての業務運用が判断基準となるため、安易な外注化は重大な法違反につながります。

契約が請負でも発注者が直接指示していれば偽装請負に該当する

請負契約では、業務の実施主体である受託企業が従業員を指揮・管理し、発注者はあくまで成果物に対して責任を求める関係です。しかし、現場で発注者が中小受託事業者の従業員に対して「この作業はこうやって」「この工程は明日までにやって」などと直接的に業務を指示した場合、それは指揮命令関係が発注者側にあることを意味し、実質的に派遣契約と変わらなくなります。このように、契約と実態が乖離している状態が偽装請負です。

偽装請負は労働関係法に複数違反する違法状態

偽装請負が行われている場合、発注者・受注者の双方に法的責任が問われます。労働者派遣法に基づく無許可派遣事業の禁止、職業安定法における労働者供給の原則禁止、さらに労働基準法に定める中間搾取の禁止に違反する可能性があります。それぞれに対し刑事罰が科されるおそれがあり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が想定されます。行政指導や企業名の公表、信用低下といった影響も深刻です。

偽装請負かどうかの判断は「誰が指示しているか」

厚生労働省が定める「請負・派遣の区分基準」では、請負契約が適正であるかどうかは次の4つの独立性によって判断されます。

  • 指示・評価の独立性:受託企業が自社従業員に業務指示や評価をしていること。
  • 勤務管理の独立性:勤務時間や休憩・休日の管理が受託企業側にあること。
  • 企業秩序の独立性:服務規律、服装、報告体制などのルールを自社が決めていること。
  • 業務遂行の独立性:業務を自社の責任で遂行しており、単なる人材提供になっていないこと。

これらが発注者側に取り込まれている場合、契約名が請負であっても偽装請負と判断される可能性が高くなります。

適切な契約運用により偽装請負は防げる

偽装請負を避けるには、発注者が業務指示を出すのではなく、受託企業の責任者に業務連絡を通じて伝える体制をとることが基本です。指揮命令権を明確に分けたうえで、業務内容・成果物の仕様・納期などを詳細に定めた契約書・仕様書を作成し、現場でもその通りに運用されるようにする必要があります。また、契約形態に合った業務分担がなされているかを事前に確認し、「細かく指示を出したい業務」であれば請負ではなく派遣契約を検討すべきです。

請負で契約を進める場合には、受託者が自社責任で業務を完遂できる体制があるか、また発注者と受託者の役割が明確に分かれているかを双方で十分に確認し、契約書にもその旨を明記しましょう。社内でも労働者派遣法や職業安定法の基本的な知識を共有し、コンプライアンス意識を高めることが、将来的なリスクの予防につながります。

下請取引で発注者が守るべきルールは?

中小受託事業者(下請企業)への発注において、委託事業者(発注者)は法律上の明確な義務と禁止行為の規定に従わなければなりません。従来「下請法」として知られていたこのルールは、2026年1月より「中小受託取引適正化法」に名称が変更され、取引の透明性と中小企業の保護を目的に内容も強化される予定です。

発注者には発注書面や代金支払に関する明確な義務がある

委託事業者は、中小受託事業者に業務を発注する際、まず「発注内容を記載した書面(発注書)」をできる限り速やかに交付する必要があります。この書面には、契約の内容、納期、代金額など、取引に関わる重要事項が明記されていなければなりません。

また、代金の支払期日は、物品納入または役務提供を受けた日から60日以内に設定する必要があり、遅延なく支払う義務があります。さらに、発注書や納品書などの取引記録は、少なくとも2年間保存しなければなりません。これらの義務に違反した場合、発注者には最大で50万円以下の罰金が科される可能性があり、公正取引委員会の調査対象となります。調査の結果、重大な違反が確認されれば、是正勧告や企業名の公表といった行政的措置が取られることもあります。

価格の据え置きや支払遅延などの不公正な取引行為は禁止されている

2026年からの法改正では、発注者による一方的な不利益取引を防ぐための禁止行為もより明確に定められています。中小受託事業者に対して本来の価格よりも著しく低い金額で発注する「買いたたき」や、契約後に一方的に代金を減額する行為、代金支払いの遅延などは、すべて違法行為とされています。

このほかにも、成果物の受け取り拒否、不当な返品、発注キャンセルの強要なども禁止事項に含まれており、発注者はこうした不当な行為を一切行わないことが求められます。公正で透明な取引関係を築くためにも、契約条件の明確化と法令遵守が不可欠です。特に物価や人件費の高騰が続くなかでは、価格交渉の機会を正当に設ける姿勢も、発注者に強く求められるようになっています。

業種・業務別に見た偽装請負の発生例と対応策は?

偽装請負の問題は、多くの業種で現場実務と契約形態が一致していないことから発生しています。IT・物流・製造分野では構造的な誤解が多く、法令違反とされやすい場面も少なくありません。以下では各業種でのリスクと、それぞれの対応策を解説します。

【IT業界】「成果物契約」の形を取りつつ指揮命令が日常的に行われている

IT業界における偽装請負の典型例は、発注者側のプロジェクトマネージャーやSEが、委託契約で常駐している開発者に対し、作業順序や納期、設計変更などを直接指示するケースです。こうした行為は、派遣契約でなければ認められない「指揮命令権の行使」にあたります。

【対応策】
  • 請負契約の場合は、受託企業に責任者(リーダー)を設けるようにし、発注者からの連絡はその責任者を通じて行う体制を整える。
  • 作業手順や成果物仕様を詳細に記した仕様書・受発注書類を整備し、追加修正の指示が必要な場合は成果物の再定義と合意形成を行う。
  • 発注者側の担当者には、「直接の作業指示はNG」であることを明文化し、社内ルールとして周知徹底する。

【物流業界】委託ドライバーへの「現場での指示」が偽装請負に発展しやすい

物流業界では、仕分け業務や配送業務を業務委託として外注しているケースが多く見られます。しかし、現場で荷主の社員が「このルートで回って」「この便は遅らせて」などと直接命じた場合、それは実質的に派遣行為となり違法性が生じます。

【対応策】
  • 委託契約で業務を発注する場合、配送ルートやスケジュールは受託側で決定・管理させるよう契約書に明記する。
  • 発注者は現場で委託ドライバーに直接指示するのではなく、受託会社の管理担当者に依頼・調整するフローを必ず挟む。
  • ドライバーへのルール(休憩時間、待機指示など)も業務仕様書に明記し、荷主社員はその範囲内でしか接触しない体制を作る。

【製造業】現場のライン管理と作業者への細かい指示が違法判断の焦点

製造業の下請では、発注元の工場や構内に常駐する形で受託企業の作業員が作業することが多く、その現場で発注側の管理者が直接ラインのスピード調整や作業切り替えを指示してしまうと、偽装請負と見なされやすくなります。

【対応策】
  • 作業の管理者(ラインリーダー)を受託企業側に必ず配置し、発注者の指示はすべてその責任者を経由させる。
  • 工場内で発注者社員が頻繁に巡回する場合は、あらかじめ巡回の目的・内容(品質検査、報告受領のみ等)を明確にし、指示権は持たせない運用にする。
  • 請負契約の妥当性を裏付けるため、作業内容・範囲・責任分担を仕様書や契約書に明示し、作業者の勤怠管理・評価も受託側が行う体制を徹底する。

発注者の指示についてよくあるQ&A

発注者が下請の従業員に「軽く声をかける」程度でも偽装請負になる?

形式的なコミュニケーションでも、内容によっては違法と判断される可能性があります。

「軽く声をかける程度であれば大丈夫」と考えがちですが、その声かけが「指示」や「評価」に該当する内容であれば、形式的な請負契約であっても偽装請負と見なされることがあります。「今日はこの作業を優先してね」や「もっと早く仕上げてほしい」といった発言は、労働者に対する業務命令と受け取られるおそれがあります。コミュニケーションのつもりでも、業務の内容や優先順位に影響を与える発言は、原則として受託事業者の管理者を通じて行うべきです。

下請企業の従業員が自発的に相談してきた場合、発注者が指示しても問題ない?

相談に応じること自体は問題ありませんが、内容が「業務の進め方」に及ぶ場合は注意が必要です。

たとえ中小受託事業者の従業員から自主的に話しかけられたとしても、発注者がその場で業務の指示を行えば、形式上の契約内容と矛盾し、実態として指揮命令関係が発生してしまいます。相談を受けた場合でも、「その内容については、御社の現場責任者に確認してください」と返し、必ず受託側の指揮系統を尊重する対応が望まれます。現場の円滑な対応と法令順守の両立が重要です。

発注者が現場に常駐している場合、偽装請負と見なされやすくなる?

発注者が現場に常駐していても、管理内容によっては適法です。ただし指揮命令があれば違法になります。

発注者が品質管理や工程管理の目的で現場に常駐すること自体は、必ずしも違法ではありません。しかし、その常駐者が中小受託事業者の作業者に対して直接業務命令を出すような行為をしていれば、偽装請負に該当します。つまり、重要なのは「常駐の有無」ではなく、「誰が指示を出しているか」です。業務の進め方や工程の調整は受託企業の責任者を通じて行う必要があります。

契約書に請負と書いてあれば、偽装請負にはならない?

契約書の文言よりも実態が重視されます。契約名だけでは違法性を免れません。

「業務委託契約書」「請負契約書」といった名称があっても、実際の業務運用が労働者派遣と変わらない状態であれば、偽装請負と判断されます。厚生労働省のガイドラインでも、「契約の形式ではなく、業務の遂行状況を総合的に判断する」とされています。発注者が労働者に直接指揮命令を行っているかどうか、勤務管理をどちらがしているかなど、業務の実態が法的評価の基準となります。

発注者は適正な契約管理で公正な取引関係を

発注者が下請企業(中小受託事業者)の従業員に直接指示を出してしまうと、偽装請負とみなされ違法となるリスクが高まります。実態に合った契約形態を選び、発注者自身が現場労働者を指揮しないよう注意することが重要です。発注段階での書面交付や適正な代金支払、価格交渉への対応など、コンプライアンス意識を持って取引管理を行う必要があります。ルールを正しく理解し実践することで、発注者と下請企業の双方にとって安全かつ公正な取引関係を築くことができるでしょう。


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