- 更新日 : 2025年11月13日
【2026年改正対応】下請法の注文書とは?記載項目・電子交付の注意点を解説
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、企業間取引における中小受託事業者の保護と、取引条件の明確化を目的とした法律です。発注時に交付する「注文書(3条書面)」は法的義務であり、その記載内容や交付のタイミングを誤ると法令違反に問われる可能性もあります。
本記事では、注文書の定義や記載項目、注意点などを解説します。
なお、2026年1月の改正下請法施行により法令上の用語が「親事業者」は「委託事業者」に「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。記事内では、施行後の名称を利用しています。
目次
注文書とは?請書・契約書との違いは?
取引に関連する文書には「注文書」「発注書」「請書」「契約書」など複数の種類がありますが、それぞれの意味や役割を混同して使用しているケースも少なくありません。それぞれの書類の役割を整理します。
書類ごとの役割の違い
- 注文書(および発注書)
発注側(委託事業者)が「何を、いつまでに、いくらで発注するか」を記載し、取引の申し込みを明示する文書です。実務では「発注書」と呼ばれることもありますが、下請法上の「注文書」とは、この発注者による通知文書を指します。 - 請書
受注側(中小受託事業者)が注文書を受け取り、その内容を承諾することを示す応答文書です。「注文請書」とも呼ばれ、注文書との一対で契約の成立を証明する役割を持ちます。 - 契約書
両者が合意の上で内容を定めた正式な契約文書であり、通常は双方の署名・押印が伴います。長期契約や包括契約で用いられることが多く、注文書や請書とは別に交わされる場合があります。
| 書類名 | 作成者 | 目的 | 下請法上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 注文書 | 委託事業者 | 発注内容の明示 | 交付義務あり(第3条) |
| 請書 | 中小受託事業者 | 発注内容の承諾 | 義務なし(任意) |
| 契約書 | 双方 | 取引条件の合意 | 契約自由だが3条書面とは別 |
発注時に注文書は必要?下請法に基づく義務?
下請法(2026年1月以降は中小受託取引適正化法)では、中小受託事業者への発注時に注文書(3条書面)の交付が義務付けられています。電子化が進んでも、この義務はなくなりません。ここでは、発注時に注文書が必要な理由とその内容を見ていきます。
発注時には注文書の交付が必須
委託事業者は中小受託事業者に発注する際、必ず注文書(書面)を交付しなければなりません。これは下請法第3条に定められた「3条書面交付義務」と呼ばれるもので、発注内容や支払条件などの基本事項を明示することを求めています。この義務は2026年改正後も継続し、違反した場合は公正取引委員会や中小企業庁からの指導・勧告、さらには50万円以下の罰金刑が科される可能性もあります。
注文書交付が求められる理由と背景
注文書交付が義務化されている理由は、取引条件の透明化と中小受託事業者の保護にあります。委託事業者が優越的な地位に立つ場合、口頭や曖昧な依頼では受託側が不利な条件を押し付けられるリスクが高まります。そのため、発注内容、数量、納期、支払期日、支払方法、原材料支給の有無など、法令で定められた事項をすべて書面に記載し、取引の証拠として残すことが求められています。
2026年の法改正後は電子交付も可能になる
2026年1月施行の改正法により、相手方の承諾がなくても電子メールやEDIなどで注文書を交付することが可能となりました。これまで必要だった事前承諾が不要になり、業務効率化が進む一方で、電子交付でも内容の網羅性や記録保存義務(2年間保存)は引き続き求められます。つまり、紙から電子に手段は変わっても、発注時に注文書を交付するという義務の本質は変わらないということです。
下請法はどんな業種にも適用される?
下請法は、業種を問わず幅広い企業間取引に適用される法律です。法律の適用は「業種」そのものではなく、「どのような内容の取引を、どのような立場の企業同士が行っているか」という点によって判断されます。
取引の類型と企業間の力関係が判断基準
下請法の適用対象となるかどうかは、まず取引の「類型」が以下のいずれかに該当する必要があります。
- 製造委託
製品や部品の製造を依頼する取引(例:OEM、自社ブランド商品の製造委託など) - 修理委託
機械や設備、製品の修理・保守などの業務 - 情報成果物作成委託
ソフトウェアの開発、ウェブサイト制作、グラフィックデザインなど - 役務提供委託
清掃、配送、警備、設備管理、加工業務などのサービス提供
これらの取引のいずれかに該当し、かつ委託事業者が中小受託事業者よりも「企業規模が大きい(資本金または従業員数で判断)」場合には、下請法の適用対象となります。したがって、業種が何であるかにかかわらず、上記の条件を満たす限り、法律の規制が及ぶことになります。
幅広い業種が事実上の対象となる
業種で言えば、製造業、建設業、IT・システム開発業、Web制作、広告・デザイン業、物流業、修理・整備、清掃業など、多様な業界が下請法の対象となります。発注側が大手メーカーで、受注側が中小の金属加工業者であれば製造委託に該当しますし、大手小売業が外部のデザイン事務所にPOPやチラシの制作を依頼した場合は情報成果物作成委託に該当します。
また、最近ではITやクリエイティブ領域など、非製造系の業種でも、業務委託契約を結ぶ形での外注が一般化しています。その結果、下請法の適用対象となるケースも増加傾向にあります。
さらに、2026年1月施行の改正法では「特定運送委託」も新たに追加され、物流業界における委託契約(たとえば荷主企業が運送事業者に委託する取引)も明確に下請法の規制対象とされました。
注文書に記載すべき項目は?
注文書には、あらかじめ法律で定められた特定の項目をすべて記載しなければなりません。記載漏れがあれば、書面交付義務を果たしたとは見なされず、下請法違反となる可能性があります。ここでは、注文書に必要な記載項目と背景について解説します。
注文書には取引内容の要点11項目以上を記載する
注文書に記載すべき項目は、下請法の施行規則および運用基準で細かく定められており、委託事業者はそれらを確実に書面に記載して交付する必要があります。以下が主な11項目です。
- 委託・受託の両者の名称(企業名・屋号・法人番号など)
- 委託する内容(品名、仕様、数量などの詳細)
- 発注日(注文書を発行した日)
- 納期(物品の受領日、役務の完了日)
- 納品場所(受け渡しを行う場所)
- 支払金額または算定方法(固定金額または歩合制等)
- 支払期日(いつまでに支払うか)
- 支払方法(振込・手形・でんさいなど)
- 原材料や型などの有償支給がある場合の明細(品目、数量、支給額)
- 手形・でんさいを使用する場合の金額・満期日
- 一括決済方式(ファクタリング等)を使用する場合の金融機関名・支払期日
記載漏れや不明確な内容は違反につながる可能性がある
これらの項目のいずれかが抜けていたり、曖昧に書かれていた場合は、「下請法上の書面交付義務を履行した」とは認められない可能性があります。また、注文書を交付していても必要な情報が欠落していたことで、公正取引委員会の指導や是正勧告の対象となった事例も存在します。
「支払期日を記載しなかった」「金額が未定だった」といった事案では、委託事業者側が優越的地位を濫用しているとみなされ、行政対応の対象となるリスクがあります。
さらに、2026年の改正により支払手段としての手形・でんさいの使用が原則禁止方向で見直されるため、それらを用いた支払いを行う場合は、例外的な正当性が問われる可能性もあります。
継続的な取引や包括契約でも、注文書は毎回発行すべき?
下請法における注文書の交付義務は、単発の取引だけでなく、継続的な取引や包括契約が存在する場合でも適用されます。契約書を締結しているからといって、注文書の交付を省略できるわけではありません。すべての個別の注文ごとに、正確な内容を記載した書面を交付する必要があります。
包括契約があっても注文書の交付は必須
下請法第3条では、発注のたびに取引条件を記載した書面(いわゆる「3条書面」)を交付することが義務付けられています。これにより、個々の発注の都度、取引条件が明確にされ、後々のトラブルを防ぐ効果が期待されます。
「包括契約書(基本契約書)」は、取引全体の基本的な枠組み(例:支払条件や検収基準など)を定めたものであり、日々の個別発注の詳細までは網羅しきれません。納品日、納品数量、品目、単価、支払日といった条件は個別に異なることが多いため、各発注のたびにこれらを明示した注文書の交付が必要とされているのです。
そのため、たとえ1年間の包括契約を結んでいたとしても、都度発注が発生する場合は、発注のたびに注文書を交付する義務があります。これは発注者の義務であり、怠ると下請法違反として扱われる可能性があります。
書面を省略して口頭・メールのみで発注した場合のリスク
注文内容を口頭や簡単なメールで伝えただけでは、下請法に定められた「必要記載事項」を網羅した書面交付には該当しません。形式にかかわらず、委託内容・支払条件・納期などを明確に記載した文書である必要があります。電子メール本文であっても、それ自体が注文書として機能するには、下請法で定められた11項目すべてを満たしている必要があるのです。
仮にこれを怠ると、公正取引委員会による調査対象となり、是正勧告や社名の公表、場合によっては罰金刑(50万円以下)といった行政処分の対象になるリスクもあります。
注文書を電子交付する際の注意点は?
2026年1月に施行される改正下請法(中小受託取引適正化法)では、注文書の「電子交付」がより柔軟に認められるようになります。ただし、電子で交付する場合にも、いくつか注意点があります。
改正後は承諾が不要、ただし交付義務は存続
改正取適法では、注文書の交付手段として電子メールやEDI(電子データ交換)が広く認められるようになります。これにより、書面(紙)での交付に限らず、電子ファイル(PDFやWordなど)をメール添付する形式でも、下請法に基づく注文書の交付義務を果たせるようになります。
従来は、メールやクラウドで注文書を送る場合、中小受託事業者の事前承諾が必須とされていましたが、改正後はこの承諾が不要になります。つまり、相手が特段同意していなくても、一定の要件を満たす形で注文書を電子交付すれば、法的には「交付済み」として取り扱われます。
ただし、交付義務そのものがなくなるわけではない点は重要です。紙からデジタルに手段が変わるだけで、記載すべき項目やタイミングのルールは従来通り維持されます。
電子メールで送る際の注意点
電子交付を行う場合、以下の3つの条件を満たすことが求められます。
- 記載事項がすべて含まれていること
注文書として機能するには、委託内容、納期、支払額、期日など、下請法で定められた11項目以上の必要記載事項をすべて含んでいる必要があります。本文に断片的に記すのではなく、PDFなどの添付ファイル形式でまとめておくと確実です。 - 受託者が内容を読める形式であること
特殊なファイル形式や文字化けの可能性があるデータでは、実質的に「交付した」と認められません。汎用的な形式(PDFやWord)を用い、相手方が容易に開けるようにしておきましょう。 - 交付記録を2年間保存すること
下請法では、交付した注文書の控えを委託事業者が少なくとも2年間保存する義務があります。メールで送った場合でも、送信履歴や送信内容(本文・添付ファイル)を確実に保存しておく必要があります。メールソフトの自動削除設定や、添付ファイルの消失には注意が必要です。
加えて、交付タイミングも重要です。注文書は発注後すぐ、遅くとも発注と同時に送信する必要があります。納品後や請求段階で送った場合、形式的に交付していても下請法違反に問われる可能性があります。
注文書を正しく扱うことがトラブル回避につながる
注文書は、下請法において委託事業者が果たすべき法的義務の要となる書面です。発注のたびに正確な注文書を交付することは、中小受託事業者との公正な取引関係を築く基本であり、請書や契約書と混同せず、それぞれの役割を正しく理解することが求められます。2026年以降は電子交付も可能となりますが、内容や交付タイミングの厳守は引き続き重要です。下請法に沿った注文書の整備と運用を徹底し、トラブルの未然防止と法令順守の実現を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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