- 更新日 : 2025年11月13日
精度を高める発注数の予測とは?エクセルでの計算方法やAI活用法を解説
発注数の予測は、過去のデータ分析や需要予測ツールの活用によって、精度を高めていくことが期待できます。予測精度が上がることで、欠品による機会損失や過剰在庫のリスクを最小限に抑えることにつながるでしょう。
発注管理には、「思ったより売れず在庫が余った」「急な注文で欠品してしまった」といった、悩みもつきものです。
この記事では、適切な発注数の予測をする方法やエクセルでの基本的な計算、AI需要予測ツールのメリット・注意点をわかりやすく説明します。
目次
発注数の予測は何のために行う?
発注数の予測は、将来の需要を見越して適切な量の商品や部品を発注するため、欠品や過剰在庫を防ぐ目的で行います。
予測が外れると、キャッシュフローの悪化(過剰在庫)や販売機会の損失(欠品)に直結するため、企業経営において安定した運営を支える活動といえます。
発注数を予測して適切な在庫管理を行う
在庫管理とは、必要なモノ(商品や部品)を、必要な時に、必要な量だけ、必要な場所へ供給できるように、在庫水準を維持するための活動全般を指します。
発注数を予測することは、この「必要な量」を科学的に算出するための作業です。勘や経験に頼った発注では、担当者のスキルに依存しやすく、過剰在庫や欠品のリスクを常にはらんでいます。
適切な予測に基づいた発注は、在庫管理全体の最適化につながります。
適切に発注数を予測する経営上のメリット
発注数の予測精度が高まると、まず、キャッシュフローの改善が期待できるでしょう。在庫が過剰になると「活用されていない資金」が増えてしまいます。適切な量だけを発注することで、不要な仕入れコストを削減し、資金を他の投資(新商品開発や人材採用など)に回せるようになります。
次に、機会損失の防止も大きなメリットです。欠品は「売れるはずだった利益」を逃すことにつながります。顧客が欲しいタイミングで商品を提供できれば、売上を確保できるだけでなく、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
また、管理コストの削減も見込めます。在庫を保管するには、倉庫の賃料、光熱費、管理する人件費など目に見えないコストがかかります。在庫が適正化されれば、これらの管理コストも圧縮できるのではないでしょうか。
発注数を予測する基本的な計算方法は?
基本的な発注数予測は、「安全在庫」と「需要予測(期間中の予測消費量)」をふまえて計算します。
欠品を防ぎつつ、在庫を最小限に保つためには、過去の実績データに基づいた定量的な計算が求められます。発注方式によって、どのタイミングでどれだけ発注するかの考え方が異なります。
1. 定期発注方式での計算
定期発注方式は、毎週月曜日や毎月1日など、あらかじめ決めた発注サイクル(間隔)で発注する方法です。発注量は毎回変動します。
定期発注方式での計算式(簡易版)
発注量 = (発注間隔 + 調達期間) × 1日平均使用量 + 安全在庫 - 現在在庫
【具体例】 例えば、毎週1回(発注間隔7日)発注する「ネジA」があるとします。
- 1日の平均使用量:10個
- 調達期間(発注~納品):3日
- 安全在庫:20個
- 発注日の現在在庫:40個
この場合、 発注量 = (7日 + 3日) × 10個 + 20個 - 40個 = 80個 となり、「80個を発注する」と算出できます。
定期発注方式は、発注業務をルーティン化しやすい一方、需要の変動に対応するため、在庫量を都度確認する必要があります。比較的単価が安く、需要が安定している商品に向いているでしょう。
2. 定量発注方式での計算
定量発注方式は、在庫があらかじめ決めた水準(発注点)を下回ったタイミングで、毎回決まった量(経済的発注量など)を発注する方法です。
定量発注方式での計算式(簡易版)
発注点 = 1日平均使用量 × 調達期間 + 安全在庫
【具体例】 例えば、在庫がなくなりかけたら都度発注する「インクカートリッジ」を考えます。
- 1日の平均使用量:2個
- 調達期間(発注~納品):5日
- 安全在庫:4個
この場合、 発注点 = (2個 × 5日) + 4個 = 14個 となります。 これは、「在庫が14個になった(または14個を下回った)タイミングで、あらかじめ決めておいた量(例:50個など)を発注する」という運用ルールになります。
定量発注方式は、発注のタイミングをシステム化しやすい(例:在庫が10個になったらアラート)のが特徴です。ただし、需要が急に増えた場合、次の発注までに欠品する恐れもあります。単価が高く、需要が比較的安定している商品に向いています。
安全在庫の基本的な計算と考え方
安全在庫とは、需要の変動や調達期間(リードタイム)の遅れなど、不確実な事態に備えて最低限保持しておくべき在庫量です。 安全在庫が少なすぎると欠品しやすく、多すぎると過剰在庫になります。
一般的には、過去の需要のバラツキ(標準偏差)などから統計的に計算しますが、中小企業ではまず「過去の最大使用量 - 平均使用量」といった簡易的な基準値から始めるのも一つの方法でしょう。
【具体例】 先ほどの「インクカートリッジ」の例で考えてみましょう。
- 1日の平均使用量:2個
- 調達期間:5日
- → 調達期間中の平均使用量:10個 (2個×5日)
ここで、過去の実績から「調達期間の5日間で最も多く使用した量(最大使用量)」が「14個」だったとします。 この場合、 安全在庫 = 14個(最大使用) - 10個(平均使用) = 4個 と計算できます。 この「4個」が、需要が上振れした時や納品が遅れた時に備えるための在庫となります。
エクセル(Excel)で発注予測を行うには?
エクセル(Microsoft Excel)を使った発注予測では、関数やグラフを活用して過去のデータ傾向を分析し、将来の需要量を算出します。多くの企業で導入されている表計算ソフトであり、特別なツールなしで手軽に始められます。
① 予測のもととなるデータを準備する
まずは予測のもととなるデータを用意します。
データの準備に当たっては外れ値、カレンダー要因等にも留意しましょう。
- 過去の売上実績(日別、週別、月別)
- 過去の在庫推移
- 調達期間(発注してから納品されるまでの日数)
- イベント情報(セール、特売日、天候など)
データは時系列に沿って整理し、「いつ」「何が」「いくつ」売れたのか(または使用されたのか)がわかるように一覧表にします。このデータの整理(データクレンジング)が予測精度に大きく影響します。
② 簡易予測(移動平均法など)
関数を使う前に、まずは簡単な手法で傾向をつかんでみましょう。
移動平均法は、過去の一定期間(例:直近3ヶ月)の平均値を、次の期間の予測値とする方法です。データが大きく変動する場合、その影響をならして傾向をみるのに役立ちます。
例:=AVERAGE(B2:B4) ※B2~B4に過去3ヶ月の実績が入っている場合
③ 予測関数の使い方(FORECAST関数)
エクセルには、統計的な予測を行うための関数が用意されています。
FORECAST.LINEAR関数 (線形予測)
過去のデータ(実績値と時期)から線形的な傾向(右肩上がりや右肩下がり)を読み取り、将来の値を予測します。
使い方:=FORECAST.LINEAR (予測したい時期, 過去の実績値の範囲, 過去の時期の範囲)
例:=FORECAST.LINEAR (A13, B2:B12, A2:A12)
- A13:予測したい未来の月(例:13ヶ月目)
- B2:B12:過去12ヶ月の実績売上数
- A2:A12:過去の月(1~12)
発注を予測したり、在庫予測をエクセルを使って自作する場合、これらの関数が基本となります。
エクセルでの予測は複雑な要因は扱いにくい
エクセルでの予測は手軽ですが、数値化できるデータに依存するため、天候や競合のキャンペーン、SNSでの話題性といった外部要因を柔軟に組み込むのは難しいという課題があります。
また、複雑な関数やマクロ(自動化機能)を多用すると、作成者しか内容を把握できず、属人化しやすくなります。さらに、商品数が多い場合や複数年のデータを扱う場合は、ファイルが重くなりやすく、分割管理が必要になることもあります。
AIによる需要予測ツールとはどのようなものか?
AI需要予測ツールは、人工知能が過去の膨大なデータ(売上、天候、イベントなど)を分析し、人間では見つけにくいパターンを学習して高精度な発注数予測を行うシステムです。
季節変動やトレンド、外部要因など複雑な要素を考慮できるため、エクセルなどの手動計算よりも予測精度が向上するケースがみられます。
AIによる需要予測が注目される背景
近年、AIによる予測が注目される背景には、コンピューターの処理能力向上や、多様なデータを安価に収集できるようになったこと(IoT機器の普及など)があります。
また、消費者ニーズが多様化し、商品のライフサイクルも短くなっているため、勘や経験だけに頼る従来型の予測では対応が難しくなっていることも理由の一つでしょう。
AIが考慮できるデータの種類
AI予測の強みは、エクセルでは扱いきれない多様なデータを同時に分析できる点にあるかもしれません。
例えば、POSデータ(売上実績)や在庫データといった内部データに加え、天候情報、カレンダー情報(祝日、連休)、イベント情報、SNSのトレンドといった外部データも分析対象にできます。
これらのデータを組み合わせることで、「雨の日はこの商品が売れにくく、連休前はこの商品が売れやすい」といった複雑なパターンをAIが学習します。
AI需要予測のアルゴリズム
「需要予測AI アルゴリズム」にはいくつかの種類があります。代表的なものに「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」があります。
機械学習は、過去のデータからパターンを学習し、未来を予測する技術の総称です。需要予測では、時系列データ(時間の経過とともに変化するデータ)の予測を得意とするアルゴリズムが使われることがあります。
深層学習 (ディープラーニング)は、人間の脳の神経回路を模した技術で、より複雑なパターン認識が可能です。需要予測においても、売上の変動に影響する様々な要因を自動で学習するのに用いられる場合があります。
AI需要予測ツールの注意点は?
AI需要予測ツールは高精度な予測が期待できますが、「導入・運用コスト」「データ準備の手間」「判断プロセスの見えにくさ」といった点には注意が必要です。
万能ではなく、ツールの特性を理解せずに導入すると、かえって業務が非効率になったり、コストに見合わない結果になったりする恐れがあります。
コスト面での課題
高機能なAI需要予測ツールは、導入時に初期費用がかかったり、毎月の利用料(サブスクリプション費用)が発生したりするのが一般的です。
予測精度の向上によって得られる利益(欠品防止による売上増や、在庫削減によるコストカット)が、ツールの利用料を上回るかどうか、慎重な費用対効果の検証が求められます。
適切なデータがなければAIも予測できない
AIはデータがなければ学習できません。まずデータの「質」が問われます。入力するデータ(売上実績など)に間違いが多かったり、欠損していたりすると、AIは誤った学習をしてしまい、予測精度がかえって悪化することもあります。
また、データの「量」も必要です。特に季節変動などを学習させるには、最低でも1~2年分の時系列データが必要になることが多いでしょう。新商品など、過去データが全くないものの予測はAIでも困難です。
AIの判断プロセスが見えにくい点
AI、特に深層学習を用いたモデルは、なぜその予測値を出したのか、その算出プロセスを人間が理解するのが難しい場合があります。
予測結果だけを提示されても、現場の担当者が「なぜこの数なのか」と納得できなければ、その予測を信頼して発注業務に活かすことが難しくなるかもしれません。
発注数予測の精度を高めるためのコツは?
予測精度を高めるには、データの質を向上し、予測モデルの定期的な見直し、外部要因(セール、季節)の反映がカギとなるでしょう。予測は一度行ったら終わりではなく、実績との差異(予実管理)を分析し、継続的に改善していく活動が求められます。
データの質を向上させる
予測のもととなるデータが不正確では、どんなに高度な手法を用いても正しい予測はできません。
例えば、「表記ゆれの統一」(「リンゴ」「りんご」「林檎」などを統一する)、「欠損値の補完」(データが抜けている箇所を特定し、平均値などで補うか分析対象から除外する)、「異常値の処理」(突発的な特需など、通常とは異なる動きをしたデータを特定し、予測の際にどう扱うかを決める)といった作業です。
地道な作業ですが、データ表記が揺れないよう修正することが精度向上につながります。
予実管理のサイクル(PDCA)
予測は外れることもあります。大切なのは、なぜ外れたのかを分析し、次回の予測に活かすことです。
計画(Plan)を立て、実行(Do)し、結果を評価(Check)し、改善(Act)につなげる。このサイクルを回し続けることで、予測のクセをつかみ、精度を徐々に高めていくことができます。
適切な発注数を予測するにはデータ精度の向上が大切
発注数の予測は、一度の計算で終わるものではなく、実績とのズレを分析しながら精度を高めていく継続的な取り組みです。予測が正確になるほど、過剰在庫や欠品を防ぎ、キャッシュフローの健全化や販売機会の最大化につながります。
中小企業であれば、まずはエクセルを活用して、過去データに基づく基本的な予測から始めるのが現実的です。そのうえで、扱う商品数が増えたり、季節要因やトレンド変動が大きい業種であれば、AI需要予測ツールの導入も検討するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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